日本銀行の役割:発券銀行・銀行の銀行・政府の銀行と、日本銀行法の目的、物価とインフレ・デフレ

ひとことで言うと、日本銀行は、お札(日本銀行券)を発行し、通貨と金融の調節(金融政策)を行い、金融機関どうしのお金の受け渡しを支える、日本の中央銀行です(日本銀行法1条)。調節の理念は「物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資すること」です(2条)。国のお金(国庫金)の取扱いも法令で日本銀行の仕事とされています(35条)。

この記事の位置づけ:基礎知識の4分野(一般知識・業務関連法令・情報通信と個人情報保護・文章理解)のうち、一般知識の経済の記事です。足切りを越える6問は、文章理解と、条文で答えが決まる法令から先に固める、というのが基礎知識の記事の考え方で、この記事も同じ立場です。その準備が進んでから、制度の骨組みを知るために読んでください。

今の金融政策の中身・金利・物価の数字と、その評価は書きません。年ごとに変わるからです。条文は令和8年4月1日時点の日本銀行法(平成9年法律第89号)を、2026年10月17日に e-Gov 法令検索で確かめました。

身近な例で考えると

会社員のこうたさんの1か月を、日本銀行との関わりで追ってみます。

  1. 給料日に、勤め先の取引銀行から、こうたさんの口座がある別の銀行へ給料が振り込まれた。銀行どうしのお金の受け渡しは、各銀行が日本銀行に持つ当座預金を使って済ませる(日本銀行の説明)。
  2. こうたさんはATMで1万円札を引き出した。1万円札は日本銀行が発行した日本銀行券で、法貨(ほうか=法律で支払いに使えると決まったお金)として無制限に通用する(46条)。
  3. 給料から引かれた所得税は、国の収入(国庫金)になる。日本銀行は、法令の定めにより国庫金を取り扱う(35条1項)。
  4. ニュースで「日本銀行の金融政策決定会合」と聞いた。日本銀行の説明では、金融政策の方針はこの会合で決める。法律では、金融市場調節の方針などは政策委員会の議決事項とされている(15条1項)。

たとえると、日本銀行は「銀行がお金を預ける銀行」です。こうたさんの口座は街の銀行にあり、その銀行が日本銀行に当座預金を持っています。ただし本物のルールでは、日本銀行は金融機関だけでなく、国(政府)とも取引をします(34条・35条)。

条文ではこう決まっている

目的と理念(1条・2条)

  • 1条1項:日本銀行は、我が国の中央銀行として、銀行券を発行するとともに、通貨及び金融の調節を行うことを目的とする。
  • 1条2項:そのほか、銀行その他の金融機関の間で行われる資金決済の円滑の確保を図り、信用秩序(金融のしくみへの信頼)の維持に資することを目的とする。
  • 2条:通貨及び金融の調節は、物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資することを理念とする。

自主性と政府との関係(3条・4条)

  • 3条1項:日本銀行の通貨及び金融の調節における自主性は、尊重されなければならない。
  • 3条2項:日本銀行は、通貨及び金融の調節に関する意思決定の内容と過程を、国民に明らかにするよう努めなければならない(透明性)。
  • 4条:日本銀行は、調節が経済政策の一環をなすことを踏まえ、政府の経済政策の基本方針と整合的になるよう、常に政府と連絡を密にし、十分な意思疎通を図らなければならない。

政策委員会(14条〜16条)

  • 設置(14条):日本銀行に政策委員会を置く。
  • 議決する事項(15条1項):手形の割引の割引率、貸付けの利率、準備率(準備預金制度に関する法律の率)、金融市場調節の方針などの決定・変更は、委員会の議決による。
  • 構成(16条):委員9人で組織する。委員は、審議委員6人と、総裁、副総裁2人。

銀行券・国との業務・国庫金(34条・35条・46条)

  • 46条:日本銀行は銀行券を発行する(1項)。日本銀行券は、法貨として無制限に通用する(2項)。前払式の電子マネー(前払式支払手段)や送金のサービスの決まりは資金決済法の記事で扱っています。
  • 34条:日本銀行は、国との間で、財政法5条ただし書による国会の議決を経た金額の範囲内での国債の引受けや担保なしの貸付け、財務省証券の引受けなどの業務ができる。
  • 35条1項:日本銀行は、我が国の中央銀行として、法令で定めるところにより、国庫金を取り扱わなければならない。

国が出す公債を日本銀行に引き受けさせることは、財政法5条本文で原則として禁じられています。日本銀行の説明でも、政府への貸出しや国債の引受けは財政法5条で原則禁止とされています。国の側の決まりは国の予算と国債の記事で扱っています。

「3つの役割」を条文に当てはめると

教科書では、日本銀行の役割を「発券銀行」「銀行の銀行」「政府の銀行」の3つにまとめることがあります。日本銀行自身の説明でも、「わが国唯一の『発券銀行』」「政府の銀行」という言葉が使われています。「銀行の銀行」に当たる中身は、日本銀行の説明では、当座預金による金融機関どうしの決済と、「最後の貸し手」としての資金の供給として書かれています。

役割中身条文
発券銀行日本銀行券を発行する。銀行券は法貨として無制限に通用する1条1項・46条
銀行の銀行手形の割引・貸付け・預り金などの業務をする。日本銀行の説明では、当座預金で金融機関どうしの決済を支える1条2項・33条1項
政府の銀行国庫金を取り扱う。国債に関する事務や、国との取引をする34条・35条

この3つと別に、通貨及び金融の調節(金融政策)があります。こちらは「役割」の表ではなく、1条1項の目的と2条の理念、15条の政策委員会の議決で押さえます。金融政策の手段(公開市場操作・基準貸付利率・預金準備率操作)は金融政策の手段の記事で扱っています。

物価の安定と、インフレ・デフレの意味

日本銀行は、物価の安定を「家計や企業等の様々な経済主体が、財・サービス全般の物価水準の変動に煩わされることなく、消費や投資などの経済活動にかかる意思決定を行うことができる状況」と説明しています。物価が上がり続けても下がり続けても、この状態からは外れます。物価の動きを表す消費者物価指数の読み方は景気循環の記事で扱っています。

言葉意味出どころ
デフレ(デフレーション)持続的な物価下落政府の答弁書の定義
インフレ(インフレーション)デフレと向きが逆で、物価が上がり続けること当サイトの言い方(下の注)
物価の安定物価の変動を気にせずに消費や投資を決められる状態日本銀行の説明

政府は、デフレを「持続的な物価下落」と定義しています(内閣が衆議院に出した答弁書。平成22年3月12日の内閣衆質174第204号など)。ポイントは「持続的」です。ある品物の値段が一度だけ下がることは、デフレとは言いません。物価全体が続けて下がっていく状態を指します。

注:インフレについては、答弁書のような政府や日本銀行の定義を確かめられなかったので、表では、デフレの定義の向きを逆にした当サイトの言い方にしています。押さえるのは、物価全体が上がり続けるのか下がり続けるのかという向きと、一時的ではなく続く状態を指すこと、の2点です。

金融政策と物価の関係について、日本銀行は、金利を下げると企業や家計がお金を借りやすくなり、経済活動が活発になって物価に押し上げ圧力が働き、金利を上げるとその逆になる、と説明しています。どの時期にどちらを選ぶべきかという評価は、この記事では扱いません。

当てはまる例・当てはまらない例

  1. 当てはまる例:日本銀行が、金融市場調節の方針を変えた。これは政策委員会の議決事項です(15条1項4号)。
  2. 当てはまる例:こうたさんが納めた所得税の受入れを、日本銀行が取り扱った。法令の定めによる国庫金の取扱いです(35条1項)。
  3. 当てはまらない例:「日本銀行は自主性が尊重されるので、政府と連絡を取る必要はない」。4条は、政府と常に連絡を密にし、十分な意思疎通を図ることを求めています。
  4. ひっかけやすい例:政策委員会の委員は、総裁・副総裁だけではありません。審議委員6人を含めて9人です(16条)。
  5. ひっかけやすい例:日本銀行法1条の目的は、銀行券と調節だけではありません。2項で、金融機関の間の資金決済の円滑の確保も目的にしています。

試験ではここをまちがえやすい

  • 目的の数:銀行券の発行、通貨及び金融の調節(1条1項)と、資金決済の円滑の確保(1条2項)。
  • 理念の言葉:「物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資する」(2条)。物価の安定は、国民経済の健全な発展につなげるものとして書かれている。
  • 自主性と連絡:自主性の尊重(3条1項)と、政府との連絡(4条)は両方ある。透明性(3条2項)は「努めなければならない」。
  • 政策委員会:9人(審議委員6人・総裁・副総裁2人)。金融市場調節の方針などは委員会の議決。
  • 国庫金:法令で定めるところにより「取り扱わなければならない」(35条1項)。任意の業務ではない。
  • デフレの定義:「持続的な」物価下落。一時的な値下がりではない。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題)
日本銀行の政策委員会は、総裁と副総裁2人の計3人で組織され、金融市場調節の方針などの通貨及び金融の調節に関する事項を議決する。

答え:✕ 分かれ目は、委員の人数と顔ぶれです。日本銀行法16条は、委員会は委員9人で組織し、委員は審議委員6人のほか、総裁と副総裁2人をもって充てるとしています。正しくは9人で、審議委員が含まれます。議決する事項(15条1項)の部分は正しく、構成だけが誤りです。総裁・副総裁だけで金融政策を決めると考えた誤りで、審議委員6人が加わる点が要点です。

問2(このサイトのオリジナル問題)
日本銀行法は、日本銀行の通貨及び金融の調節における自主性は尊重されなければならないと定める一方で、日本銀行に対し、その調節に関する意思決定の内容と過程を国民に明らかにするよう努めることも求めている。

答え:○ 日本銀行法3条は、1項で自主性の尊重を、2項で、通貨及び金融の調節に関する意思決定の内容及び過程を国民に明らかにするよう努めなければならないことを定めています。自主性が尊重されるなら外に説明する決まりはない、と考えると✕に見えます。2項は「努めなければならない」という形で、内容だけでなく「過程」も対象です。政府との関係は、別に4条が連絡と意思疎通を求めています。

問3(このサイトのオリジナル問題)
こうたさんが納めた税のような国庫金を日本銀行が扱うのは、政府との契約で引き受けている任意の業務であり、日本銀行法には国庫金の取扱いについての規定は置かれていない。

答え:✕ 分かれ目は、規定があるか、義務か任意かです。日本銀行法35条1項は、日本銀行は、我が国の中央銀行として、法令で定めるところにより、国庫金を取り扱わなければならないとしています。正しくは、国庫金の取扱いは法律に定めのある日本銀行の仕事です。34条の国との業務(国債の引受けなど)が「できる」と書かれているのと取り違えると誤ります。国庫金の取扱いが「政府の銀行」と呼ばれる理由の一つです。

この分野の○✕は、行政書士の5分○✕ドリルの「基礎知識」で続けて解けます。

まとめ

  • 目的は、銀行券の発行、通貨及び金融の調節、金融機関の間の資金決済の円滑の確保(1条)。理念は物価の安定を通じた国民経済の健全な発展(2条)。
  • 自主性の尊重(3条1項)、透明性の努力(3条2項)、政府との連絡(4条)はセットで覚える。
  • 政策委員会は9人(16条)。金融市場調節の方針などは委員会の議決(15条)。
  • 発券銀行=46条、銀行の銀行=33条・当座預金、政府の銀行=35条(国庫金)・34条。デフレは「持続的な物価下落」。

このサイトで次に読むなら、GDPとGNIの記事です。物価の変化を除いた「実質」の考え方を、小さな計算例で確かめられます。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)

条文は、e-Gov 法令検索で令和8年4月1日時点の法令を、2026年10月17日に確かめました。日本銀行の説明と政府の答弁書も同じ日に確かめています。

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