契約の解除と取消しの違い:原因・だれができるか・期間・さかのぼるか・第三者、撤回とも比べる

ひとことで言うと、取消し(とりけし)は「契約を結んだ時の意思表示に傷がある」ことを理由に、解除(かいじょ)は「有効に成り立った契約を、その後の事情や約束にもとづいて終わらせる」ために使う仕組みです。取消しの原因は、詐欺・強迫・錯誤・制限行為能力で、取り消せる人は条文で決まっています(民法120条)。解除の原因は、相手の債務不履行(541条・542条)、手付(557条)、契約で決めた解除の約束などで、解除権を持つ当事者が相手方に意思表示をします(540条1項)。

効果も違います。取り消された行為は「初めから無効であったもの」とみなされます(121条)。解除では、各当事者が相手を元の状態に戻す義務を負い(545条1項本文)、賃貸借の解除は「将来に向かってのみ」効力を生じます(620条)。この記事では、この2つを「原因・だれが・期間・効果・第三者」の1枚の表にし、撤回・合意解除とも比べます。無効と取消しの違い、第三者と登記の関係は、それぞれの記事に任せます。条文は令和8年4月1日時点の民法を e-Gov 法令検索で確かめています。

身近な例で考えると:1つの売買が3つの形で終わる

人物立場したこと
みのるさん土地とアパートの持ち主土地を売る契約をした。アパートの一室を貸している
さきさん土地の買主手付300万円を渡して土地を買う契約をした
こうきさんアパートの借り手みのるさんから一室を借りている

みのるさんとさきさん(どちらも宅建業者ではありません)は、土地を3,000万円で売り買いする契約をしました。さきさんは手付300万円を渡し、残りは3か月後に払う約束です。この契約が終わる形を、3つ考えます。

  1. 契約の前に、さきさんが「この土地は近く値が下がる」とうそを言い、みのるさんはそれを信じて安い値で売っていた。→ 契約を結んだ時の意思表示に傷があります。みのるさんは詐欺を理由に取り消すことができます(96条1項)。
  2. うそはなかったが、さきさんが期日に残代金を払わない。みのるさんが相当の期間を決めて「払ってください」と催告しても、払わない。→ 契約は有効に成り立っていて、その後の約束の守り方に問題があります。みのるさんは解除できます(541条本文)。
  3. うそも不払いもないが、さきさんの気が変わった。みのるさんが履行に着手する前なら、さきさんは手付を放棄して解除できます(557条1項)。

1は「契約の生まれ方」の問題、2と3は「生まれた契約をどう終わらせるか」の問題です。たとえるなら、取消しは「サインした時にだまされていた書類を、さかのぼってなかったことにする」こと、解除は「有効な約束を、決まった理由で終わりにする」ことです。ただし本物のルールでは、解除でも元の状態に戻す義務が生じるので、たとえほど「さかのぼらない」とは言い切れません。違いは条文の言葉で確かめます。

条文ではこう決まっている

取消し(120条〜126条)

  • 原因:制限行為能力(未成年者・成年被後見人など)、錯誤(95条1項)、詐欺・強迫(96条1項)。どれも、意思表示をした時の事情です。
  • だれが:制限行為能力が原因なら、本人・その代理人・承継人・同意をすることができる者に限ります(120条1項)。錯誤・詐欺・強迫が原因なら、瑕疵(かし=傷)ある意思表示をした者・その代理人・承継人に限ります(120条2項)。
  • 方法:相手方が確定していれば、相手方に対する意思表示でします(123条)。
  • 効果:「取り消された行為は、初めから無効であったものとみなす」(121条)。受け取った物は返します(121条の2)。
  • 確定:120条の人が追認すると、以後は取り消せません(122条)。追認できる時以後に代金を請求するなどすると、追認したとみなされることもあります(125条)。
  • 期間:「追認をすることができる時から五年間」行使しないと時効で消え、「行為の時から二十年」を過ぎたときも同じです(126条)。

解除(540条〜548条)

  • 原因:「契約又は法律の規定」で解除権があるとき(540条1項)。法律の規定の代表は債務不履行で、催告による解除(541条)と、履行不能などで催告のいらない解除(542条)があります。手付による解除(557条1項)や、契約で決めた解除の約束もあります。
  • だれが:解除権を持つ当事者が、相手方に対する意思表示でします(540条1項)。当事者の一方が数人いるときは、全員から、または全員に対してします(544条1項)。
  • 撤回:解除の意思表示は撤回できません(540条2項)。
  • 効果:各当事者は、相手方を原状(元の状態)に復させる義務を負います。ただし、第三者の権利を害することはできません(545条1項)。お金を返すときは受け取った時からの利息を付け(同条2項)、損害賠償の請求もできます(同条4項)。
  • 消えるとき:期間の定めがなければ、相手方は相当の期間を定めて「解除するかどうか確答せよ」と催告でき、期間内に解除の通知がなければ解除権は消えます(547条)。解除権を持つ人が、故意・過失で目的物を著しく傷つけたときなども消えます(548条)。540条〜548条には、126条のような年数の定めはありません(解除権の時効の扱いは、この記事では扱いません)。

取消しと解除を1枚で比べると

項目取消し解除
原因契約の時の制限行為能力・錯誤・詐欺・強迫契約の後の不履行、手付、契約で決めた約束
だれが120条の人だけ(本人・代理人・承継人など)解除権を持つ当事者(数人なら全員から)
期間追認できる時から5年、行為の時から20年(126条)解除の条文に年数の定めはない。相手方の催告で消える(547条)
効果初めから無効とみなす(121条)原状回復(545条1項)。賃貸借は将来に向かってのみ(620条)
第三者詐欺・錯誤は善意無過失の第三者に対抗できない(96条3項・95条4項)第三者の権利を害せない(545条1項ただし書)

第三者の欄は、取消しや解除の「前」に買った人の扱いです。取消し・解除の「後」に買った人との関係は、登記の問題になります。場面ごとの見分けは取消し・解除と登記の記事の表で確かめてください。強迫と制限行為能力の取消しには、96条3項のような第三者を守る規定がありません。

当てはまる例・当てはまらない例

当てはまる例:だまされて売ったので取り消す

みのるさんは、さきさんのうそを信じて土地を売りました。詐欺による意思表示なので取り消せます(96条1項)。取り消せるのは、だまされたみのるさん(とその代理人・承継人)です(120条2項)。取り消すと売買は初めから無効とみなされ、お互いに受け取った物を返します。だまされたと気づき、取り消せると知った時から5年たつと、取消権は時効で消えます(124条1項・126条)。

当てはまる例:代金を払わないので解除する

さきさんが残代金を払わず、催告しても払いません。みのるさんは解除の意思表示をして、受け取っていた手付300万円を、受け取った時からの利息を付けて返します(545条2項)。損をした分は、損害賠償として請求できます(545条4項)。不履行のときに使える手段の全体は債務不履行と解除の記事で扱っています。

当てはまらない例:不払いを理由に「取り消す」

代金を払わないことは、契約を結んだ時の意思表示の傷ではありません。不払いを理由に契約を終わらせるのは解除で、取消しの原因(制限行為能力・錯誤・詐欺・強迫)には当たりません。日常の言葉で「契約を取り消す」と言っても、法律の上では解除の要件で考えます。

ひっかけやすい例:賃貸借を解除したら家賃を返すのか

みのるさんは、こうきさんが家賃を払わないので、アパートの賃貸借を解除しました。売買の解除と同じく「元の状態に戻す」と考えると、これまで受け取った家賃も返すように思えます。しかし賃貸借の解除は「将来に向かってのみその効力を生ずる」(620条)ので、解除までの賃貸借は有効だったままです。受け取った家賃は返さず、損害賠償の請求も妨げられません(同条後段)。

ひっかけやすい例:手付で解除したのに損害賠償を求める

さきさんの気が変わり、手付を放棄して解除しました。解除の一般の決まりでは「解除権の行使は、損害賠償の請求を妨げない」(545条4項)ですが、557条2項は、この545条4項を手付による解除には適用しないとしています。手付の放棄(売主からなら倍額の提供)のほかに、損害賠償を求めることはできません。手付の決まりの全体は手付の記事にあります。

似ているルールとの違い:撤回・合意解除・クーリング・オフ

民法で「撤回」と書くのは、主に、まだ相手との関係が固まっていない意思表示を、自分からやめる場面です。申込みは、承諾の期間を定めたなら原則として撤回できず(523条1項)、期間を定めなければ相当な期間がたつまでは撤回できません(525条1項。対話をしている相手への申込みは、対話が続く間はいつでも撤回できます=同条2項)。どちらも、撤回する権利を残しておいたときは別です。遺言は、遺言者が「いつでも」遺言の方式に従って撤回できます(1022条)。反対に、解除の意思表示は撤回できません(540条2項)。

言葉何をやめるか条文
取消し傷のある意思表示でした行為120条〜126条
解除有効に成り立った契約540条〜548条、557条
撤回申込み・遺言など、まだ固まっていない意思表示523条・525条・1022条
合意解除当事者が話し合って契約を終わらせる解除権の行使とは別の、当事者の合意

合意解除は、どちらかが解除権を持っていなくても、当事者が合意すれば契約を終わらせられる、というものです。540条の「解除権を有するとき」の解除とは入口が違います。宅建業法のクーリング・オフは、条文の見出しが「事務所等以外の場所においてした買受けの申込みの撤回等」で、買受けの申込みの撤回と売買契約の解除の両方を含みます(37条の2)。場所と8日の数え方はクーリング・オフの記事に任せます。無効と取消しの違いは無効と取消しの記事の表にあります。

試験ではここをまちがえやすい

当サイトが数えた宅建試験の全40回(不動産適正取引推進機構が公開している昭和63年度〜令和7年度の問題、2,000問)では、債務不履行・解除が主な論点の問題は19問、直近10回(令和7年度〜平成30年度。令和2・3年度は10月・12月の2回ずつ)では4問でした。意思表示が主な論点の問題は20問(直近10回で4問)です。解除と取消しを比べる問の数は数えていません(分け方は当サイトの判断で、公式の分類ではありません。数え方は宅建の出題論点ランキング)。取り違えやすい形は次のとおりです。

  • 原因の取り違え:代金の不払いを「取消し」の原因とする形。不払いは解除の原因です。
  • 催告の効果の取り違え:相手方の催告に期間内に通知がないと「解除したものとみなす」とする形。547条では解除権が消えます。確答がないと追認や取消しとみなすのは、制限行為能力者の相手方の催告(20条)です。
  • さかのぼりの広げすぎ:賃貸借の解除も初めからなかったことになるとする形。賃貸借の解除は将来に向かってのみです(620条)。
  • 損害賠償の流用:手付による解除でも545条4項で損害賠償を請求できるとする形。557条2項が545条4項を外しています。
  • 撤回の流用:解除の意思表示も、遺言のように撤回できるとする形。解除の意思表示は撤回できません(540条2項)。
  • 主体の広げすぎ:だまされた人の相手方も取り消せるとする形。取り消せるのは120条の人だけです。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題)
みのるさんはアパートの一室をこうきさんに貸していた。こうきさんが家賃を半年分払わず、催告しても払わなかったため、みのるさんは賃貸借を解除した(解除は有効なものとする)。この場合、みのるさんは、それまでに受け取っていた家賃をこうきさんに返す必要はない。

答え:○ 分かれ目は、解除がさかのぼるかどうかです。賃貸借の解除は「将来に向かってのみその効力を生ずる」ので(民法620条)、解除までの賃貸借は有効だったままで、受け取った家賃は返しません。解除なら元の状態に戻すはずだ、と考えると✕にしてしまいます。取り違えの相手は、売買などの解除の原状回復(545条1項)と、取消しの「初めから無効であったものとみなす」(121条)です。

問2(このサイトのオリジナル問題)
みのるさんとさきさん(どちらも宅建業者ではない)の土地の売買で、さきさんは手付を渡していた。みのるさんが履行に着手する前に、さきさんが手付を放棄して契約を解除した。この解除で手付の額を超える損害が出たときは、みのるさんは、その分の賠償をさきさんに請求できる。

答え:✕ 分かれ目は、手付による解除か、債務不履行による解除かです。557条2項は「第五百四十五条第四項の規定は、前項の場合には、適用しない」としています。正しくは、手付による解除では、手付の放棄(売主からなら倍額の現実の提供)のほかに損害賠償を請求できません。取り違えの相手は、債務不履行による解除で損害賠償の請求を妨げないとする545条4項です。

問3(このサイトのオリジナル問題)
さきさんが残代金を期日に払わず、みのるさんは541条の解除権を得た(解除の期間の約束はない)。さきさんが相当の期間を定めて、解除するかどうか確答するよう催告し、その期間内にみのるさんから解除の通知がなかった。この場合、みのるさんは、契約を解除したものとみなされる。

答え:✕ 分かれ目は、確答の催告に答えがないときの効果です。547条は、解除権の行使に期間の定めがないとき、相手方は相当の期間を定めて確答を催告でき、その期間内に解除の通知を受けないときは「解除権は、消滅する」としています。正しくは、解除したとはみなされず、解除権が消えて、契約は続きます(代金の請求や損害賠償の請求は別に考えます)。取り違えの相手は、確答がないと追認や取消しをしたとみなす制限行為能力者の相手方の催告(20条)です。

この分野の○✕は、宅建の5分○✕ドリルの「権利関係」で続けて解けます。

まとめ

  • 取消しは契約の時の傷(制限行為能力・錯誤・詐欺・強迫)、解除は有効な契約を不履行・手付・約束で終わらせる。
  • 取り消せるのは120条の人だけ。解除は解除権を持つ当事者が相手方にする(540条1項)。解除の意思表示は撤回できない(同条2項)。
  • 取消権は5年・20年(126条)。解除権は相手方の催告に期間内に通知しないと消える(547条)。
  • 取消しは初めから無効とみなす(121条)。解除は原状回復(545条1項)で、賃貸借は将来に向かってのみ(620条)。
  • 手付による解除では、545条4項の損害賠償の規定を使わない(557条2項)。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)

条文は、e-Gov法令検索で令和8年4月1日時点のものを確かめました(2026年10月17日確認)。出題数は、不動産適正取引推進機構が公開している過去の問題を当サイトが数えたもので、公式の分類ではありません。

このサイトで次に読むなら、取消し・解除と登記の記事です。取消しや解除の前と後に土地を買った人がいる場面で、どの条文を使うかを確かめられます。

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