マンションのように、1つの建物を部屋ごとに別々の人が持つ建物(区分所有建物)を売買するときは、重要事項説明で説明する事項が増えます。宅建業法35条1項6号と、その中身を決めた施行規則16条の2に、10の事項が並んでいます。
売買・交換では、10の事項すべてを説明します。マンションの一室を貸すとき(建物の貸借)に説明するのは、そのうち2つだけです。「専有部分の用途その他の利用の制限に関する規約(ペット禁止・事務所使用禁止など)」と「管理を委託している先の名前と住所」です。
重要事項説明(35条書面)は、宅建業法の中でもいちばん多く出る論点です。当サイトが、不動産適正取引推進機構が公開している過去の試験(昭和63年度〜令和7年度の40回、2,000問)を1問ずつ読んで数えたところ、35条書面が主な論点の問題は81問で、全40回のすべてに出ていました。直近10回でも29問で、宅建業法の論点の中で最多です(分け方は当サイトの判断で、公式の分類ではありません。区分所有建物の事項など、個々の説明事項ごとの数は数えていません)。重要事項説明の全体(だれが・いつ・だれに・どうやって)は重要事項説明の記事で説明していて、この記事は区分所有建物で増える部分だけを掘り下げます。
身近な例で考えると
舞台は、築15年の分譲マンション「さくら坂マンション」です。登場人物は4人です。中古の一室を買う人=なつみさん、別の一室を借りる人=そうたさん、仲介する宅建業者=あおば不動産、あおば不動産の宅建士=森さんです。
- なつみさんが、さくら坂マンションの503号室を買うことになった。森さんは、ふつうの説明事項(登記された権利、法令上の制限など)に加えて、マンションならではの事項を説明する。
- 森さんは、管理組合から規約と資料を取り寄せた。「ペットは小型犬1匹まで」「1階の専用庭は101号室だけが使える」「修繕積立金を毎月積み立てる。いまの積立額は8,000万円」「管理費は月1万2,000円」「管理はみどり管理株式会社に委託」と分かった。
- 森さんは、これらを重要事項説明書に書き、なつみさんに説明した。
- 同じマンションの302号室では、そうたさんが部屋を借りることになった。森さんがそうたさんに説明するマンションならではの事項は、「ペットは小型犬1匹まで」のような専有部分の使い方の規約と、管理の委託先(みどり管理株式会社の名前と住所)の2つだけ。管理費や修繕積立金の額は、部屋の持ち主が払うお金なので、借りる人への説明事項には入っていない。
たとえるなら、マンションを買う人は「クラブの会員になる人」、借りる人は「会員の家に住む人」です。会員になるなら、会費(管理費)や積立金、会則(規約)を知る必要があります。住むだけの人に必要なのは、部屋の使い方の決まりと、困ったときの連絡先です。ただし本物のルールでは、説明する事項は施行規則の号で決まっていて、「必要そうなもの」を各自で選ぶわけではありません。
条文ではこう決まっている
35条1項6号
建物が区分所有権の目的であるときは、建物を所有するための一棟の建物の敷地に関する権利の種類と内容、共用部分に関する規約の定めなど、一棟の建物やその敷地に関する権利と、その管理・使用に関する事項のうち、契約の内容の別に応じて省令で定めるものを説明します。
施行規則16条の2の10の事項
柱書は、「建物の貸借の契約以外の契約にあつては」1号〜10号の全部、「建物の貸借の契約にあつては第三号及び第八号に掲げるもの」としています。
- 一棟の建物の敷地に関する権利の種類と内容(所有権か借地権か、共有の持分など)
- 共用部分に関する規約の定め(案を含む)があるときは、その内容
- 専有部分の用途その他の利用の制限に関する規約の定め(案を含む)があるときは、その内容
- 一棟の建物またはその敷地の一部を特定の者にのみ使わせる規約の定め(案を含む。専用使用権のこと)があるときは、その内容
- 修繕のための費用や管理費などを特定の者にのみ減免する規約の定めがあるときは、その内容
- 計画的な維持修繕のための費用(修繕積立金)の積立てをする規約の定めがあるときは、その内容と既に積み立てられている額
- 建物の所有者が負担しなければならない通常の管理費用の額
- 一棟の建物と敷地の管理が委託されているときは、委託先の氏名(法人は商号・名称)と住所(法人は主たる事務所の所在地)
- 管理者等が、管理組合から委託を受けて管理事務を行うマンション管理業者であるときは、その旨(令和8年4月1日施行の改正で加わった号)
- 一棟の建物の維持修繕の実施状況が記録されているときは、その内容
9号は、令和8年4月1日施行の施行規則の改正(令和7年内閣府・国土交通省令第2号)で加わりました。改正前は今の10号が9号でした。古い教材の「9号=修繕の記録」は、今は10号です。9号の「管理者等」は、区分所有法の管理者か管理組合法人の理事のことです(マンションの管理の適正化の推進に関する法律2条4号)。マンション管理業者がこの立場を兼ねて管理事務を行うときに、その旨を説明します。
売買と貸借で、要る・要らないの表
| 説明事項 | 売買・交換 | 建物の貸借 |
|---|---|---|
| 1 敷地の権利の種類・内容 | 説明する | しない |
| 2 共用部分の規約 | 説明する | しない |
| 3 専有部分の用途・利用の制限の規約 | 説明する | 説明する |
| 4 専用使用権の規約 | 説明する | しない |
| 5 費用を特定の者だけ減免する規約 | 説明する | しない |
| 6 修繕積立金の規約と積立額 | 説明する | しない |
| 7 通常の管理費用の額 | 説明する | しない |
| 8 管理の委託先の氏名・住所 | 説明する | 説明する |
| 9 管理業者が管理者等であること | 説明する | しない |
| 10 修繕の実施状況の記録 | 説明する | しない |
覚え方は、「借りる人は、部屋の使い方と連絡先だけ」です。お金(積立金・管理費・減免)と、建物全体や土地の権利の話は、持ち主になる人に関係するので、売買・交換だけで説明します。
区分所有法の言葉と結びつける
説明事項の言葉は、区分所有法の言葉とつながっています。区分所有法のしくみは区分所有法の記事で説明しています。
- 専有部分と共用部分:部屋の中が専有部分、廊下や外壁などが共用部分です(区分所有法2条3項・4項)。2号は共用部分の規約、3号は専有部分の使い方の規約です。
- 規約:建物の管理や使用について、区分所有者どうしで決めたルールです。規約は部屋を買った人(特定承継人)にも効く(区分所有法46条1項)ので、買う前に知っておく必要があります。新築の分譲で管理組合がまだ規約を決めていないときは、規約の「案」を説明します(2号〜6号の「その案を含む」)。
- 敷地利用権:部屋の持ち主が、土地を使う権利です。所有権の共有か、借地権の準共有かで、将来の負担が変わります。1号は、その種類と内容です。
- 専用使用権:1階の専用庭やバルコニー、駐車場のように、共用部分や敷地の一部を特定の人だけが使えるようにする規約の定めです。4号で説明します。
当てはまる例・当てはまらない例
- 当てはまる例:なつみさんへの売買の説明で、修繕積立金の規約の内容に加えて「いま8,000万円積み立てられている」と説明した。→ 6号は「その内容及び既に積み立てられている額」なので、額まで説明します。
- 当てはまる例:管理費について規約に定めはないが、毎月1万2,000円を払う決まりになっている。→ 7号は「通常の管理費用の額」で、6号のような「規約の定めがあるときは」という条件がありません。額を説明します。
- 当てはまらない例:そうたさんへの貸借の説明で、修繕積立金の額を説明しなかった。→ 建物の貸借で説明するのは3号と8号だけです。説明しなくても35条の違反にはなりません。
- 当てはまらない例:さくら坂マンションの管理を委託していない(管理組合の自主管理)。→ 8号は「管理が委託されているときは」なので、委託先として説明する者がいません。
- ひっかけやすい例:新築分譲マンションで、管理規約はまだ案の段階だった。→ 「規約がまだないので説明しない」は誤りです。2号〜6号の規約の定めは「その案を含む」ので、案の内容を説明します。
- ひっかけやすい例:そうたさんへの貸借の説明で、専有部分の使い方の規約(ペットの決まり)を説明しなかった。→ 3号は建物の貸借でも説明する事項です。説明しないと違反になります。
ふつうの貸借の説明事項とのつながり
貸借の重要事項説明には、区分所有建物に限らない事項(設備、契約期間、用途の制限、管理の委託先など)があります。そのうち「用途その他の利用の制限」と「管理の委託先」は、区分所有建物のときは施行規則16条の2の3号・8号で説明するので、貸借一般の号(16条の4の3第10号・12号)からは、区分所有建物の分が外されています。同じことを二重に書かせない作りです。貸借の説明事項の全体は貸借の重要事項説明の記事で確かめてください。
試験ではここをまちがえやすい
まちがえやすいのは次の点です。
- 貸借で残るのは2つ:専有部分の用途・利用の制限の規約(3号)と、管理の委託先(8号)。管理費・修繕積立金・専用使用権の規約は、貸借では説明しない。
- 修繕積立金は額まで:規約の内容だけでなく、既に積み立てられている額も説明する。
- 管理費は規約の条件なし:通常の管理費用の「額」を説明する。6号との条件の違いに注意。
- 案を含む:規約が案の段階でも、2号〜6号はその案の内容を説明する。
- 委託先は名前と住所:8号は氏名(商号・名称)と住所(主たる事務所の所在地)。委託契約の中身そのものではない。
- 号の番号のずれ:令和8年4月1日から9号が加わり、修繕の記録は10号になった。
○✕でたしかめよう
問1(このサイトのオリジナル問題)
宅建業者Aが、区分所有建物の一室の貸借の媒介をする場合、Aは、借主に対し、専有部分の用途その他の利用の制限に関する規約の定めの内容と、建物と敷地の管理の委託先の氏名・住所は説明しなければならないが、通常の管理費用の額は説明しなくてよい。
答え:○ 分かれ目は、建物の貸借で説明する区分所有建物の事項の範囲です。施行規則16条の2の柱書は、建物の貸借では3号(専有部分の利用の制限の規約)と8号(管理の委託先)だけを説明するとしています。管理費の額(7号)は売買・交換だけの事項です。マンションの説明だから管理費も説明するはず、と考えると✕にしてしまいます。修繕積立金の規約と積立額(6号)も、貸借では説明しません。
問2(このサイトのオリジナル問題)
宅建業者Aが、区分所有建物の一室の売買の媒介をする場合、通常の管理費用の額は、管理費用について規約の定めがあるときに限り、買主に説明しなければならない。
答え:✕ 分かれ目は、説明の条件に「規約の定めがあるとき」が付くかどうかです。施行規則16条の2第7号は「当該建物の所有者が負担しなければならない通常の管理費用の額」とだけ定め、規約の有無を条件にしていません。正しくは、規約の定めがなくても、通常の管理費用の額を説明します。「規約の定めがあるときは、その内容及び既に積み立てられている額」とする6号の修繕積立金と、条件を入れ替えた形です。
問3(このサイトのオリジナル問題)
宅建業者Aが自ら売主となって新築分譲マンションの一室を売る場合、一階の専用庭を特定の区分所有者にのみ使用させる旨の規約がまだ案の段階であっても、Aは、買主(宅建業者ではない)に、その案の内容を説明しなければならない。
答え:○ 分かれ目は、規約が案の段階でも説明の対象になるかどうかです。施行規則16条の2第4号は、一棟の建物や敷地の一部を特定の者にのみ使用させる規約の定めについて「その案を含む」としています。まだ決まっていない規約は説明できない、と考えると✕にしてしまいます。共用部分の規約(2号)、専有部分の利用の制限の規約(3号)、減免の規約(5号)、修繕積立金の規約(6号)も案を含みます。
まとめ
- 区分所有建物の売買・交換では、施行規則16条の2の10の事項をすべて説明する。
- 建物の貸借で説明するのは、専有部分の用途・利用の制限の規約(3号)と管理の委託先(8号)の2つだけ。
- 修繕積立金は規約の内容と既に積み立てられている額。管理費は規約の有無に関係なく額を説明する。
- 規約が案の段階でも、案の内容を説明する。
- 令和8年4月1日から、管理業者が管理者等の場合の号(9号)が加わり、修繕の記録は10号になった。
宅建業法の○✕は、宅建の5分○✕ドリルの「宅建業法」の重要事項説明の問題で続けて解けます。次に読むなら、37条書面の記事がおすすめです。重要事項説明で説明した事項のうち、契約の後の書面にも書くもの・書かないものを比べると、35条の事項の範囲がはっきりします。
参考にした公式の情報(2026年10月確認)
条文は、令和8年4月1日時点で施行されている内容を、e-Gov法令検索(API。基準日2026-04-01)で確かめています。
- e-Gov法令検索「宅地建物取引業法」(35条1項6号)
- e-Gov法令検索「宅地建物取引業法施行規則」(16条の2〔令和7年内閣府・国土交通省令第2号による改正、令和8年4月1日施行〕、16条の4の3第10号・12号)
- e-Gov法令検索「建物の区分所有等に関する法律」(2条、46条)
- e-Gov法令検索「マンションの管理の適正化の推進に関する法律」(2条4号)
- 不動産適正取引推進機構「宅建試験の問題及び正解番号表」(出題数を数えるのに使った過去の試験問題)
働く人の法律試験ノート