不在者の財産管理と失踪宣告をわかりやすく:7年・1年と、宣告が取り消されたとき

不在者(ふざいしゃ)とは、住んでいた所を出ていって、すぐには戻る見込みがない人のことです。その人の財産は、家庭裁判所が選ぶ管理人が守ります。管理人は、財産を守る・性質を変えない範囲で使う・良くすることはできますが、売るような行為には家庭裁判所の許可がいります(民法25条・28条)。

生きているか死んでいるかが分からない状態が続くと、家庭裁判所は失踪(しっそう)の宣告ができます。ふつうは7年、事故や災害などの危難にあった人は危難が去ってから1年です。宣告を受けると死亡したものとみなされ、相続が始まります。ただし、死亡とみなす時点は、7年のほうは「7年が満了した時」、1年のほうは「危難が去った時」で、同じではありません(30条・31条)。

宅建試験では新しめの論点です。当サイトが、不動産適正取引推進機構が公開している過去の試験(昭和63年度〜令和7年度の40回、2,000問)を1問ずつ読んで数えたところ、不在者・失踪宣告が主な論点の問題は2問で、どちらも直近10回(令和4年度と令和5年度)でした。それより前の30回には、主な論点としては出ていません(分け方は当サイトの判断で、公式の分類ではありません)。

身近な例で考えると

登場人物は4人です。行方が分からない父=たかしさん、娘=まいさん、家庭裁判所が選んだ管理人=弁護士の山田さん、土地を買いたい人=こうじさんです。

  1. たかしさんは、ある日「しばらく旅に出る」と書き置きをして家を出た。財産の管理を頼んだ人はいない。たかしさん名義の空き地と古い家が残った。
  2. まいさんは、家庭裁判所に、財産の管理に必要な処分を求めた。家庭裁判所は山田さんを管理人に選んだ(25条1項)。
  3. 山田さんは、財産の目録を作った(27条1項)。台風で家の屋根がこわれたので、修理を頼んだ。これは財産を守る行為なので、許可なくできる。
  4. 空き地を買いたいというこうじさんが現れた。山田さんは、家庭裁判所の許可を得てから、こうじさんに空き地を売った(28条)。
  5. たかしさんが家を出てから7年たっても、生死は分からないままだった。まいさんの請求で、家庭裁判所は失踪の宣告をした。たかしさんは、7年が満了した時に死亡したものとみなされ、相続が始まった。

たとえるなら、管理人は「留守番を頼まれた人」です。留守番なら、雨漏りを直したり、庭の手入れをしたりはしても、家を勝手に売ったりはしません。ただし本物のルールでは、家庭裁判所の許可があれば売ることもできます。そこが、ふつうの留守番とは違います。

条文ではこう決まっている

不在者の財産管理(25条〜29条)

  • 管理人を置く(25条1項):不在者が自分で管理人を置いていないときは、家庭裁判所は、利害関係人または検察官の請求により、財産の管理に必要な処分を命じることができます。本人が置いた管理人の権限が、不在中に消えたときも同じです。
  • 本人があとで管理人を置いたとき(25条2項):家庭裁判所は、その管理人や利害関係人、検察官の請求で、前の命令を取り消さなければなりません。
  • 本人が置いた管理人の改任(26条):不在者が自分で管理人を置いていても、不在者の生死が分からないときは、家庭裁判所は、利害関係人または検察官の請求で、管理人を改任(入れ替え)できます。
  • 管理人の仕事(27条):家庭裁判所が選んだ管理人は、財産の目録を作ります。費用は不在者の財産から出します。家庭裁判所は、財産を守るのに必要な処分を命じることもできます。
  • 管理人の権限(28条・103条):管理人が単独でできるのは、民法103条の範囲です。つまり、保存行為(財産を守る行為)と、性質を変えない範囲で利用・改良する行為です。これを超える行為(売却など)には、家庭裁判所の許可がいります。不在者の生死が分からず、管理人が、不在者が決めた権限を超える行為をするときも同じです。
  • 担保と報酬(29条):家庭裁判所は、管理人に担保を立てさせたり、不在者の財産から相当な報酬を与えたりできます。

失踪の宣告(30条・31条)

  • 普通失踪(30条1項):不在者の生死が7年間明らかでないときは、家庭裁判所は、利害関係人の請求により、失踪の宣告ができます。
  • 危難失踪(30条2項):戦地にいた人、沈没した船の中にいた人、そのほか死亡の原因となる危難にあった人の生死が、危難が去った後1年間明らかでないときも、宣告ができます。
  • 効力(31条):普通失踪は7年の期間が満了した時に、危難失踪は危難が去った時に、死亡したものとみなします。宣告の日ではありません。

失踪の宣告の取消し(32条)

  • 取消し(1項前段):本人が生きていること、または31条の時点と違う時に死亡したことの証明があったときは、家庭裁判所は、本人または利害関係人の請求で、宣告を取り消さなければなりません。
  • 善意でした行為(1項後段):取消しは、宣告のあと取消しの前に、善意(生きていることを知らずに)でした行為の効力に影響しません。
  • 財産を得た人(2項):宣告によって財産を得た人は、取消しで権利を失います。ただし、返すのは、現に利益を受けている限度(いま手元に残っている分)だけです。

当てはまる例・当てはまらない例

  • 当てはまる例:山田さんが、空き地の草を刈り、こわれたフェンスを直した。→ 保存行為や性質を変えない利用・改良なので、家庭裁判所の許可はいりません(28条・103条)。
  • 当てはまる例:宣告のあと、相続したまいさんが、家をこうじさんに売った。2人とも、たかしさんが生きているとは知らなかった。その後たかしさんが戻り、宣告が取り消された。→ この売買の効力は、取消しによって失われません(32条1項後段)。
  • 当てはまらない例:山田さんが、家庭裁判所の許可を得ないで空き地をこうじさんに売った。→ 売却は103条の範囲を超えるので、家庭裁判所の許可がいる行為です(28条)。許可を得ないまま売ることは、管理人の権限の外です。
  • 当てはまらない例:たかしさんが家を出て3年。まいさんが失踪の宣告を請求した。→ 普通失踪は、生死不明が7年間続くことが条件です。3年ではできません。財産を守るなら、管理人の選任(25条)を使います。
  • ひっかけやすい例:たかしさんが乗った船が沈み、1年たっても生死が分からないため、宣告がされた。→ 死亡とみなされるのは、1年が満了した時ではなく、船が沈んだ時(危難が去った時)です(31条)。
  • ひっかけやすい例:宣告のあと、まいさんは相続した預金の一部を生活費に使った。取消しのあと、まいさんは使った分も含めて全額を返すのか。→ 32条2項は「現に利益を受けている限度」で返すとしています。どこまでが残っている利益かは事情によるので、試験では「全額を返す」と言い切る形に注意します。

似ているルールとの違い

普通失踪と危難失踪

比べる点普通失踪危難失踪
生死不明の期間7年間危難が去った後1年間
死亡とみなす時点7年の期間が満了した時危難が去った時
請求できる人利害関係人利害関係人

7年・1年の数字は、ほかの期間と一緒に期間・数字の一覧でも見直せます。この記事では、数字よりも「死亡とみなす時点が違う」ことのほうを押さえてください。

不在者の財産管理人と、所有者不明土地管理人

令和5年4月1日から、所有者が分からない土地や、所有者の所在が分からない土地について、裁判所が管理人を選ぶしくみ(所有者不明土地管理命令)ができました(264条の2)。行方不明の人の土地なら、どちらも使える場面があります。

比べる点不在者の財産管理人所有者不明土地管理人
選ぶところ家庭裁判所(25条)裁判所(264条の2)
管理する物不在者の財産全体その土地と、土地の上の所有者の動産など
許可なくできること保存、性質を変えない利用・改良(103条)同じ範囲(264条の3第2項)
売るなど範囲を超える行為家庭裁判所の許可(28条)裁判所の許可(264条の3第2項)

所有者不明土地管理人については、許可がないことを善意の第三者に対抗できない、というただし書があります(264条の3第2項ただし書)。不在者の財産管理人の28条には、このただし書はありません。

請求できる人の違い

管理の処分(25条1項)と管理人の改任(26条)は「利害関係人又は検察官」が請求できます。失踪の宣告(30条)は「利害関係人」だけです。宣告の取消し(32条1項)は「本人又は利害関係人」です。財産を守る手続には検察官も関われますが、人を死亡したものとみなす手続には関われない、と理由をつけて覚えると区別しやすくなります。

試験ではここをまちがえやすい

まちがえやすいのは次の点です。

  • 死亡とみなす時点:普通失踪は「7年が満了した時」、危難失踪は「危難が去った時」。「宣告の時」や「危難が去ってから1年が満了した時」と入れ替えた肢に注意します。
  • 管理人の売却:家庭裁判所が選んだ管理人が不在者の不動産を売るには、家庭裁判所の許可がいる。保存行為(修理など)には許可はいらない。
  • 請求できる人:失踪の宣告を検察官が請求できる、とする肢は誤り。
  • 取消しと善意の行為:宣告のあと取消しの前に善意でした行為は、取消しの影響を受けない。宣告で財産を得た人は権利を失うが、返すのは現に利益を受けている限度。
  • 期間を満たさない宣告:7年(危難なら1年)がたっていなければ宣告はできない。その間の財産は、管理人の制度で守る。

相続が始まったあとの、だれが相続人になるか・相続分はどうなるかは、相続の記事で確かめてください。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題)
たかしさんが家を出て、生死が7年間明らかでない。この場合、家庭裁判所は、検察官の請求により、たかしさんについて失踪の宣告をすることができる。

答え:✕ 分かれ目は、失踪の宣告を請求できる人です。失踪の宣告は「利害関係人の請求により」行います(民法30条1項)。正しくは、検察官は失踪の宣告を請求できず、たかしさんの娘のような利害関係人が請求する、です。検察官が請求できるのは、不在者の財産の管理に必要な処分(25条1項)や管理人の改任(26条)のほうで、これと入れ替えた形です。

問2(このサイトのオリジナル問題)
たかしさんの生死が7年間明らかでないため、家庭裁判所は、普通失踪の宣告をした。この場合、たかしさんは、宣告の審判があった時ではなく、7年の期間が満了した時に死亡したものとみなされる。

答え:○ 分かれ目は、死亡とみなす時点です。普通失踪の宣告を受けた人は、30条1項の期間(7年)が満了した時に死亡したものとみなされます(31条)。宣告の手続には時間がかかるので「宣告の時」と思いやすく、✕にしてしまいがちです。危難失踪は、1年が満了した時ではなく「危難が去った時」に死亡したものとみなされます。この2つの時点の入れ替えが、まちがえやすい組み合わせです。

問3(このサイトのオリジナル問題)
家庭裁判所が選んだ管理人の山田さんは、不在者たかしさんの家の屋根が台風でこわれたため修理を頼んだ。この修理は家庭裁判所の許可なくできるが、たかしさんの空き地を売るには家庭裁判所の許可を得なければならない。

答え:○ 分かれ目は、103条の範囲の内か外かです。管理人は、保存行為と、性質を変えない範囲の利用・改良を単独でできます(28条・103条)。屋根の修理は財産を守る保存行為です。売却はこれを超えるので、家庭裁判所の許可がいります(28条)。「管理人なら何でもできる」「何をするにも許可がいる」のどちらと思っても誤ります。所有者不明土地管理人も同じ線引きですが、許可を出すのは家庭裁判所ではなく裁判所です(264条の3第2項)。

まとめ

  • 不在者の財産は、家庭裁判所が選ぶ管理人が守る。修理などの保存行為は許可なく、売却は家庭裁判所の許可を得てする。
  • 失踪の宣告は、生死不明が7年(普通失踪)、危難が去った後1年(危難失踪)。請求できるのは利害関係人だけ。
  • 死亡とみなす時点は、普通失踪は7年の満了時、危難失踪は危難が去った時。
  • 宣告の取消しは、宣告後・取消し前に善意でした行為に影響しない。宣告で財産を得た人は、現に利益を受けている限度で返す。

民法の○✕は、宅建の5分○✕ドリルの「権利関係」で続けて解けます。次に読むなら、第三者が守られる条件の記事がおすすめです。32条の「善意でした行為」は、取消しや解除で第三者が守られるかという大きな問題の1つで、ほかの制度と比べると違いが見えやすくなります。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)

条文は、令和8年4月1日時点で施行されている内容を、e-Gov法令検索(API。基準日2026-04-01)で確かめています。

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