ひとことで言うと、標準媒介契約約款(ひょうじゅんばいかいけいやくやっかん)は、国土交通大臣が告示で定めた「媒介契約の標準の条項」です。法律ではないので、宅建業者に使う義務はありません。そのかわり、媒介契約の書面には、その契約が標準媒介契約約款に基づくものかどうかを書きます(宅建業法施行規則15条の9第4号)。
約款は、専任媒介・専属専任媒介・一般媒介の3つに分かれています。この記事では、約款が法令の中でどこに位置するか、3つの約款で「依頼者が約束に反したときにどうなるか」がどう違うかを扱います。有効期間3か月・報告の頻度・指定流通機構への登録の日数は媒介契約の記事に任せ、ここでは繰り返しません。契約書のひな形の書き方や配り方も扱いません。条文は令和8年4月1日時点の宅建業法と施行規則を e-Gov 法令検索で、約款は国土交通省の掲載している版で確かめています。
身近な例で考えると
| 人物 | 立場 | したこと |
|---|---|---|
| さとみさん | マンションを売りたい人(依頼者) | 買い手探しを頼んだ |
| あおば不動産 | 宅建業者 | 専任媒介契約を結んだ |
| みどり不動産 | 別の宅建業者 | 自社の様式で契約書を作っている |
- さとみさんは、あおば不動産と専任媒介契約を結んだ。あおば不動産が渡した書面には「この媒介契約は、国土交通省が定めた標準媒介契約約款に基づく契約です」という欄があった。
- さとみさんは、友人から「みどり不動産の契約書は、国の約款とは違う自社の条項だった」と聞いた。
- みどり不動産の書面にも、「この媒介契約は、標準媒介契約約款に基づかない契約です」と書いてあった。
どちらの会社も法令に沿っています。約款を使うかどうかは業者が決めてよく、決まっているのは「どちらなのかを書面に書くこと」です。書面を受け取った人は、この一行で、国の標準の条項どおりの契約か、会社独自の条項の契約かを知ることができます。
たとえるなら、約款は「国が用意した見本の契約条項」で、書面の一行は「見本どおりかどうかの表示」です。ただし本物のルールでは、見本どおりでも独自の条項でも、宅建業法34条の2の決まり(有効期間・報告・登録など)に反する条項は使えません。見本を使わないことで、法律の決まりが軽くなるわけではありません。
条文ではこう決まっている
書面に書く事項(34条の2第1項8号と施行規則15条の9)
宅建業法34条の2第1項は、売買・交換の媒介契約を結んだら、遅滞なく決まった事項を書いた書面を作り、業者が記名押印して依頼者に渡すとしています。書く事項は1号〜8号で、8号は「その他国土交通省令・内閣府令で定める事項」です。この8号を受けた施行規則15条の9が、次の4つを挙げています。
- 1号:専任媒介契約で、依頼者がほかの業者の媒介・代理で売買・交換の契約を成立させたときの措置。
- 2号:専属専任媒介契約で、依頼者が業者の探した相手以外の人と契約したときの措置。
- 3号:ほかの業者に重ねて頼むことを許し、しかもその業者を明かす義務がある媒介契約(明示型の一般媒介)で、依頼者が明かしていない業者の媒介・代理で契約を成立させたときの措置。
- 4号:「当該媒介契約が国土交通大臣が定める標準媒介契約約款に基づくものであるか否かの別」。
4号は「基づくものであるか否かの別」なので、約款を使わない契約でも「基づかない」と書きます。1号〜3号の措置も、約款を使うかどうかにかかわらず書面に書く事項です。
約款そのもの(告示)
約款の正式な題は「宅地建物取引業法施行規則の規定による標準媒介契約約款」で、もとは平成2年1月30日の建設省告示第115号です。その後、何度か改正され、国土交通省が掲載している現行の版では、最後の改正は令和6年1月24日の国土交通省告示第34号(令和6年4月1日施行)です。この改正は、既存の建物で建物状況調査を実施する者のあっせんを「無」とするときの理由を書く欄を設けるなど、建物状況調査に関するものでした。
約款は、標準専任媒介契約約款・標準専属専任媒介契約約款・標準一般媒介契約約款の3つでできています。それぞれ「契約書」の部分と「約款」の部分があります。たとえば専任媒介契約約款には、目的、業者の義務、媒介価額の変更の助言、建物状況調査を実施する者のあっせん、有効期間、報酬の請求と受領の時期、特別依頼に係る費用、直接取引、違約金の請求、自ら発見した相手方と契約しようとする場合の通知、費用償還の請求、更新、契約の解除、反社会的勢力の排除、特約の条があります。
3つの約款で、依頼者が約束に反したときはどうなるか
施行規則15条の9の1号〜3号が書かせる「措置」の中身を、標準の約款はこう決めています。専任・専属専任は約款の条文、一般は一般媒介契約書の通知義務の欄で確かめました。
| 場面 | 専任 | 専属専任 | 一般 |
|---|---|---|---|
| ほかの業者の媒介で契約 | 違約金(約定報酬額に相当する額) | 違約金(同じ) | 重ねて頼むことはできる |
| 自分で見つけた相手と契約 | 前もって通知。業者は費用の償還を請求できる(約定報酬額が上限) | 違約金(約定報酬額に相当する額) | 契約したら遅滞なく通知 |
| 措置を書く根拠 | 15条の9第1号 | 15条の9第2号 | 明示型は15条の9第3号 |
違約金の額からは、どちらも消費税と地方消費税に相当する額を除きます。一般媒介契約書では、依頼者がほかの業者に重ねて頼もうとするとき(明示型)と、ほかの業者の媒介や自分で見つけた相手と契約したときに通知する義務があり、その通知を怠ったときは、業者が約款の定めで費用の償還を請求できる、と書かれています。
読み方のこつは、「してはいけない約束を破ったら違約金、してよいことの後始末なら費用の償還」です。専任では、ほかの業者に頼むことは禁じられているので違約金です。自分で見つけた相手との契約は専任でも許されているので、業者がそれまでにかけた費用の精算になります。専属専任では自己発見の取引も禁じられているので、違約金になります。
もう一つ、専任媒介契約約款には「直接取引」の条があります。有効期間の間か、期間が終わってから2年以内に、依頼者が業者の紹介で知った相手と、業者を外して直接契約したときは、業者は、契約の成立に寄与した割合に応じた相当額の報酬を請求できます。
当てはまる例・当てはまらない例
当てはまる例:約款を使わない契約でも一行は書く
みどり不動産が自社の条項で専任媒介契約を結んだ場合も、書面には「標準媒介契約約款に基づかない」と書きます(15条の9第4号)。何も書かないのは足りません。
当てはまらない例:建物の賃貸の媒介
さとみさんがマンションを「貸したい」と頼んだ媒介契約は、34条の2の対象外です。対象は売買・交換の媒介(34条の3で代理にも準用)なので、約款に基づくか否かを書く書面そのものの決まりがかかりません。
ひっかけやすい例:約款どおりなら法律より優先する?
約款は告示で、法律の下にあります。約款の更新の条は、依頼者が有効期間の満了に際して文書等で申し出ることを前提にしています。法律の側でも、専任媒介契約の更新は依頼者の申出があるときに限られ(34条の2第4項)、これに反する特約は無効です(同条10項)。約款を使っても使わなくても、法律の決まりは同じようにかかります。
ひっかけやすい例:専任で自分で見つけた相手と契約した
専任媒介のさとみさんが、知り合いに直接売った場合です。専任でも自己発見の取引は禁じられていないので、約款では違約金ではなく、業者がかけた費用の償還(約定報酬額が上限)になります。違約金になるのは、専属専任で同じことをした場合です。
似ているルールとの違い
| 決まり | 何を定めるか | 使う義務 |
|---|---|---|
| 宅建業法34条の2 | 書面・有効期間・報告・登録などの最低限 | すべての売買・交換の媒介にかかる |
| 施行規則15条の9 | 書面に書く事項(3つの措置と約款に基づくか否か) | 書く義務あり |
| 標準媒介契約約款(告示) | 契約の条項の見本 | なし(使ったかどうかを書く) |
民法にも「定型約款」(548条の2以下)という言葉がありますが、これは不特定多数の人との取引で使う画一的な条項についての民法の決まりで、媒介契約の標準媒介契約約款とは別のものです。定型約款は定型約款の記事で扱っています。指定流通機構への登録や成約の通知は指定流通機構の記事、報酬の上限は報酬の記事です。
試験ではここをまちがえやすい
当サイトが数えた宅建試験の全40回(不動産適正取引推進機構が公開している昭和63年度〜令和7年度の問題、2,000問)では、媒介契約が主な論点の問題は42問、直近10回(令和7年度〜平成30年度。令和2・3年度は10月・12月の2回ずつ)では12問でした。ほかの論点が主な問題の中に副の論点として含むものは7問(直近10回で1問)です。標準媒介契約約款だけの問数は数えていません(分け方は当サイトの判断で、公式の分類ではありません。数え方は宅建の出題論点ランキング)。取り違えやすい形は次のとおりです。
- 義務の取り違え:「約款を使わなければならない」とする形。義務なのは、約款に基づくか否かを書くことです(15条の9第4号)。
- 書かなくてよいと考える形:「約款を使わないなら、約款のことは書かなくてよい」。使わないときも「基づかない」と書きます。
- 措置の号の入れ替え:専任は「ほかの業者で成立」(1号)、専属専任は「探した相手以外と契約」(2号)、明示型の一般は「明かしていない業者で成立」(3号)。
- 違約金と費用償還の入れ替え:専任の自己発見の取引を「違約金」とする形。約款では費用の償還(約定報酬額が上限)です。
- 定めた者の入れ替え:約款を定めるのは国土交通大臣です(15条の9第4号)。
○✕でたしかめよう
問1(このサイトのオリジナル問題)
宅建業者Aは、宅建業者でないBと専任媒介契約を結ぶにあたり、標準媒介契約約款を使わず、自社で作った条項で契約した。この場合、Aが交付する書面には、この契約が標準媒介契約約款に基づくものでないことを記載しなければならない。
答え:○ 分かれ目は、約款を使わないときにも記載が要るかです。施行規則15条の9第4号は、記載事項を「標準媒介契約約款に基づくものであるか否かの別」としているので、基づかない契約ではそのことを書きます。約款を使う義務はないのだから約款のことも書かなくてよい、と考えると✕にしてしまいます。取り違えの相手は「約款を使う義務」で、義務があるのは使ったかどうかを書くことのほうです。
問2(このサイトのオリジナル問題)
宅建業者Aは、Bが重ねて依頼するほかの業者を明示する義務を負う一般媒介契約を、標準媒介契約約款に基づかない自社の様式でBと結んだ。この場合、Bが明示していない業者の媒介で売買を成立させたときの措置は、Aが交付する書面の記載事項から外れる。
答え:✕ 分かれ目は、措置の記載が約款を使うかどうかで変わるかです。施行規則15条の9第3号は、明示する義務のある一般媒介契約について、依頼者が明示していない業者の媒介・代理で契約を成立させたときの措置を記載事項としており、約款を使うかどうかを条件にしていません。正しくは、自社の様式でもこの措置を書きます。取り違えの相手は、約款を使うかどうかで中身が変わる4号の「基づくか否かの別」です。
問3(このサイトのオリジナル問題)
標準媒介契約約款による専任媒介契約(専属専任媒介契約ではない)の有効期間内に、依頼者Bが自分で見つけた相手と売買契約を結んだ。宅建業者AがBに請求できるのは、この媒介契約の履行のために要した費用の償還で、その額は約定報酬額が上限である。
答え:○ 分かれ目は、専任と専属専任で自己発見の取引の扱いが違う点です。標準の専任媒介契約約款は、依頼者が自分で見つけた相手と契約するときは業者に通知するとし、業者は履行のために要した費用の償還を請求できるが、その額は約定報酬額を超えられないとしています。違約金だと覚えていると✕にしやすい肢ですが、違約金になるのは、専属専任で自己発見の取引をした場合と、専任でほかの業者の媒介で契約した場合です。法令の側では、この違いが施行規則15条の9の1号と2号の書き分けに表れています。
この分野の○✕は、宅建の5分○✕ドリルの「宅建業法」で続けて解けます。
まとめ
- 標準媒介契約約款は、国土交通大臣が定めた告示(平成2年建設省告示第115号。最後の改正は令和6年国土交通省告示第34号、令和6年4月1日施行)。
- 使う義務はない。媒介契約の書面には、約款に基づくか否かの別を書く(施行規則15条の9第4号)。
- 書面に書く3つの措置:専任=ほかの業者で成立(1号)、専属専任=探した相手以外と契約(2号)、明示型の一般=明かしていない業者で成立(3号)。
- 約款では、禁じられた取引は違約金、許された自己発見の取引(専任)は費用の償還(約定報酬額が上限)。
- 約款を使っても、34条の2の決まり(有効期間・更新・報告・登録)は変わらない。
参考にした公式の情報(2026年10月確認)
条文は、e-Gov法令検索で令和8年4月1日時点の宅建業法と施行規則を確かめました。約款は、国土交通省が掲載している現行の版で確かめました。
- e-Gov法令検索「宅地建物取引業法」(34条の2第1項・4項・10項、34条の3)
- e-Gov法令検索「宅地建物取引業法施行規則」(15条の9)
- 国土交通省「宅地建物取引業法関係」(標準媒介契約約款の掲載と、令和6年4月1日施行の改正の案内)
- 国土交通省「宅地建物取引業法施行規則の規定による標準媒介契約約款」(令和6年4月1日以降の版)
- 国土交通省「既存住宅流通・建物状況調査」のページ(令和6年1月24日の約款の改正の内容)
このサイトで次に読むなら、媒介契約の記事です。約款の下にある法律の決まり(有効期間3か月、報告の頻度、登録の日数)を、数字で確かめ直せます。
働く人の法律試験ノート