弁済による代位(だいい)とは、他人の借金を払った人が、債権者の立場に入れ替わり、債権者が持っていた債権や抵当権を代わりに使えるようにする仕組みです。民法499条は「債務者のために弁済をした者は、債権者に代位する」と定めています。
ひとことで言うと、払った人が使えるのは、債務者に求償(きゅうしょう=立て替えた分を返してと求めること)できる範囲までです(501条2項)。保証人と物上保証人の間では人数に応じて代位し、物上保証人どうしは不動産の価格に応じて代位します。抵当不動産を債務者から買った第三取得者は、保証人と物上保証人には代位できません(501条3項)。保証人の求償権そのもの(頼まれたかどうか、払う前の求償、通知を怠ったとき)は保証人の求償権の記事にあります。
物上保証人(ぶつじょうほしょうにん)とは、他人の借金のために、自分の土地や建物に抵当権を付けた人です。借金そのものは負いませんが、払われなければ担保の不動産を失います。この記事では、代位の要件・割合の計算・物上保証人と保証人の違いを扱います。共同抵当の後順位抵当権者の代位(392条2項)は別の制度で、共同抵当の記事で扱っています。条文は令和8年4月1日時点のものです。
身近な例で考えると
こうじさんは、店の改装のため、あおば銀行から1,200万円を借りました。担保は次の3つです。
| 人物 | 立場 | 担保の中身 |
|---|---|---|
| こうじさん | 債務者 | 自分の甲土地に抵当権 |
| まことさん | 保証人(こうじさんに頼まれた) | 全財産で払う責任 |
| なおみさん | 物上保証人(こうじさんの姉) | 自分の乙土地に抵当権 |
| さとるさん | 第三取得者 | 抵当権付きの甲土地を買った |
その後、こうじさんは甲土地をさとるさんに売りました。甲土地には抵当権が付いたままです。こうじさんの返済が止まったとき、だれが払うかで、使える権利が変わります。
- 保証人のまことさんが1,200万円を払った:まことさんは、こうじさんに1,200万円を求償できます(459条1項)。そのうえで、あおば銀行に代位して、さとるさんの甲土地の抵当権を使えます。なおみさんの乙土地の抵当権も使えますが、保証人と物上保証人は人数(2人)で分けるので、600万円までです(501条3項4号)。
- 物上保証人のなおみさんの乙土地が競売され、1,200万円が払われた:なおみさんは、保証債務の規定に従ってこうじさんに求償でき(372条・351条)、甲土地の抵当権を使えます。まことさんに対しては、人数で分けて600万円までです。
- 第三取得者のさとるさんが、競売を避けるため1,200万円を払った:さとるさんはこうじさんに求償できますが、まことさんにも、なおみさんにも代位できません(501条3項1号)。
さとるさんだけ扱いが違うのは、甲土地がもともと「こうじさんの借金の担保」だったからです。抵当権付きと知って買った人が、保証人や物上保証人に負担を回すのは筋が通りません。たとえるなら、借金の荷物をだれが最後に背負うかの順番です。ただし本物のルールでは、順番は条文の号ごとに決まっていて、気持ちで決まるわけではありません。
条文ではこう決まっている
- 474条1項・2項(第三者の弁済):弁済は第三者もできる。ただし「弁済をするについて正当な利益を有する者」でない第三者は、債務者の意思に反して弁済できない(債務者の意思に反することを債権者が知らなかったときは別)。
- 499条:債務者のために弁済をした者は、債権者に代位する。
- 500条:467条(債権譲渡の通知・承諾)は、正当な利益を有する者が代位する場合を除いて準用する。正当な利益がない人は、通知か承諾がないと代位を債務者や第三者に主張できません。
- 501条1項・2項:代位した者は、債権の効力と、担保として債権者が持っていた一切の権利を行使できる。ただし、自分の権利にもとづいて債務者に求償できる範囲内(保証人の一人が他の保証人に代位するときは、その保証人に求償できる範囲内)に限る。
- 501条3項:①第三取得者は、保証人と物上保証人に代位しない。②第三取得者どうしは、各財産の価格に応じて代位する。③物上保証人どうしも②と同じ。④保証人と物上保証人の間は、その数に応じて代位する。物上保証人が数人あるときは、保証人の負担部分を除いた残額を、各財産の価格に応じて代位する。⑤第三取得者・物上保証人から担保の財産を譲り受けた人は、それぞれ第三取得者・物上保証人とみなす。
- 502条(一部の弁済):債権の一部を代位弁済した人は、債権者の同意を得て、債権者とともに権利を行使できる。債権者は単独でも行使でき、売却代金などからは債権者が優先する。
- 504条(担保の喪失):正当な利益を有する代位権者がいるのに、債権者が故意又は過失で担保を失ったり減らしたりしたときは、代位権者は、そのために償還を受けられなくなる限度で責任を免れる。取引上の社会通念に照らして合理的な理由があるときは除く。
- 351条・372条(物上保証人の求償):他人の債務の担保に質権を設定した者が弁済し、又は実行で所有権を失ったときは、保証債務に関する規定に従い求償権を持つ。372条で抵当権にも準用する。
保証人・物上保証人・第三取得者は、払わなければ自分の財産を失う立場で、「弁済をするについて正当な利益を有する者」の典型です。だから500条の通知・承諾は要りません。これに対し、たとえば何の担保も出していない友人がこうじさんに頼まれて払った場合は、代位を主張するのに467条の通知か承諾が要ります。弁済と相殺の基本は弁済と相殺をわかりやすくにあります。
計算で確かめる:物上保証人が2人いるとき
今度は、借金が900万円で、担保が次の3つだったとします。保証人のまことさん、物上保証人のなおみさん(乙土地の価格800万円)、物上保証人のひできさん(丙土地の価格400万円)です。まことさんが900万円を全額払いました。
- 保証人の負担部分を出す:人数は3人なので、900万円÷3=300万円。まことさんの負担は300万円。
- 残りを物上保証人の価格で分ける:900万円−300万円=600万円を、800万円対400万円(2対1)で分ける。なおみさん400万円、ひできさん200万円。
- 検算:300万円+400万円+200万円=900万円で、借金の額と一致する。
| 人 | 負担の分け方 | 負担 |
|---|---|---|
| まことさん(保証人) | 人数で割る | 300万円 |
| なおみさん(800万円の土地) | 残り600万円を価格で按分 | 400万円 |
| ひできさん(400万円の土地) | 残り600万円を価格で按分 | 200万円 |
まことさんは、なおみさんの乙土地の抵当権を400万円まで、ひできさんの丙土地の抵当権を200万円まで使えます。自分の負担部分300万円は、こうじさんに求償するしかありません。人数だけで割って「なおみさんにも300万円」とすると誤りです。
物上保証人と保証人の違い
| 比べる点 | 保証人 | 物上保証人 |
|---|---|---|
| 何を負うか | 保証債務(全財産で払う責任) | 債務は負わず、担保の物を失う |
| 責任の範囲 | 保証した額まで | 担保の物の価値まで |
| 催告・検索の抗弁 | あり(連帯保証は除く。452条〜454条) | 条文上の定めなし |
| 求償 | 459条以下 | 保証債務の規定に従う(351条・372条) |
| 代位の割合 | 物上保証人との間は人数 | 物上保証人どうしは価格 |
催告の抗弁(452条)は「債権者が保証人に債務の履行を請求したとき」の保証人の言い分です。物上保証人は債務を負っていないので、抵当権の実行に対して「まず債務者に催告して」と求める定めはありません。保証の全体は保証と連帯保証、物上保証人が時効を援用できることは時効の援用権者で確かめられます。
当てはまる例・当てはまらない例
- 当てはまる:保証人のまことさんが全額を払い、第三取得者さとるさんの甲土地の抵当権を使う。501条3項には、保証人が第三取得者に代位する割合を限る定めがないので、人数で割る制限はかかりません(求償できる範囲の限度は残ります)。
- 当てはまらない:第三取得者のさとるさんが払い、なおみさんの乙土地の抵当権を使おうとした。→ できません(501条3項1号)。
- ひっかけやすい(一部弁済):まことさんが1,200万円のうち300万円だけ払った。まことさんは、あおば銀行の同意を得て、銀行とともに抵当権を使えますが、競売の代金からは銀行が優先して受け取ります(502条1項・3項)。
- ひっかけやすい(担保の放棄):あおば銀行が、理由もなく甲土地の抵当権を放棄した。代位できたはずのまことさんは、そのために償還を受けられなくなった限度で責任を免れます(504条1項)。
試験ではここをまちがえやすい
当サイトが、不動産適正取引推進機構が公開している宅建試験の問題(昭和63年度〜令和7年度の40回、2,000問)を1問ずつ読んで数えたところ、弁済が主な論点の問題は7問で、直近10回(平成30年度〜令和7年度)では1問、保証が主な論点の問題は12問で、直近10回では3問でした。弁済による代位だけの数は、分けて数えていません(分け方は当サイトの判断で、公式の分類ではありません)。取り違えやすい形は次のとおりです。
- 第三取得者の向き:第三取得者は、保証人・物上保証人に代位しない。逆に、保証人・物上保証人は第三取得者の不動産の抵当権を使える。
- 割合の基準:保証人と物上保証人の間は人数、物上保証人どうしは価格。物上保証人が数人なら、保証人の負担部分を先に人数で出し、残りを価格で分ける。
- 通知・承諾:正当な利益がある人の代位には、467条の通知・承諾は要らない。正当な利益がない人は要る(500条)。
- 使える範囲:代位で使えるのは求償できる範囲まで(501条2項)。払った額を超えて得をすることはない。
- 物上保証人の言い分:保証人の催告・検索の抗弁を物上保証人に広げない。
○✕でたしかめよう
問1(このサイトのオリジナル問題)
こうじさんのあおば銀行への借金1,200万円について、まことさんが保証人、なおみさんが物上保証人になっており、こうじさんから抵当権付きの甲土地を買ったさとるさんが全額を払った。さとるさんは、銀行に代位して、まことさんに600万円まで請求できる。
答え:✕ 分かれ目は、代位する人が第三取得者かどうかです。第三取得者(債務者から担保の目的となっている財産を譲り受けた者)は、保証人及び物上保証人に対して債権者に代位しません(民法501条3項1号)。正しくは、さとるさんはまことさんにもなおみさんにも代位できず、こうじさんに求償するだけです。600万円は、保証人と物上保証人の間を人数で分ける4号の計算で、それを第三取得者に当てはめた文です。
問2(このサイトのオリジナル問題)
こうじさんの借金900万円について、まことさんが保証人、なおみさん(乙土地の価格800万円)とひできさん(丙土地の価格400万円)が物上保証人になっている。まことさんが900万円を全額払ったとき、まことさんは、なおみさんの乙土地の抵当権を400万円の範囲で使える。
答え:○ 保証人と物上保証人の間は数に応じて代位しますが、物上保証人が数人あるときは、保証人の負担部分を除いた残額を各財産の価格に応じて代位します(民法501条3項4号)。まことさんの負担は900万円÷3=300万円、残り600万円を800万円対400万円で分けて、なおみさん400万円・ひできさん200万円です。3人の人数だけで割って300万円とすると✕にしてしまいます。人数で割るのは、保証人の負担部分を出す一段目だけです。
問3(このサイトのオリジナル問題)
なおみさんは、こうじさんの借金のため、自分の乙土地に抵当権を設定した物上保証人である。こうじさんに十分な財産があるのに、あおば銀行が乙土地の抵当権を実行しようとした場合、なおみさんは、まずこうじさんに催告するよう求めて競売を拒むことができる。
答え:✕ 分かれ目は、保証人の言い分が物上保証人にもあるかです。催告の抗弁は「債権者が保証人に債務の履行を請求したとき」の保証人の権利で(民法452条)、債務を負わない物上保証人について同じ定めはありません。正しくは、なおみさんはこの理由で競売を拒めません。物上保証人の求償が「保証債務に関する規定に従い」とされている(351条・372条)ことを、抗弁にまで広げた文です。
この分野の○✕は、宅建の5分○✕ドリルの「権利関係」で続けて解けます。
まとめ
- 債務者のために弁済した人は債権者に代位し、求償できる範囲で債権と担保を使える(499条・501条1項・2項)。
- 正当な利益がない人の代位は、467条の通知・承諾がないと主張できない(500条)。
- 第三取得者は保証人・物上保証人に代位しない。保証人と物上保証人は人数、物上保証人どうしは価格(501条3項)。
- 物上保証人は債務を負わず、担保の物を失う責任だけ。求償は保証債務の規定に従う(351条・372条)。催告・検索の抗弁の定めはない。
次に読むなら、共同抵当をわかりやすくがおすすめです。物上保証人の不動産と債務者の不動産に共同抵当があるとき、後順位抵当権者の代位と物上保証人の代位のどちらが勝つかを、判例で確かめられます。
参考にした公式の情報(2026年10月確認)
条文は、令和8年4月1日時点で施行されている内容を、e-Gov法令検索(法令API)で確かめています。
- e-Gov法令検索「民法」(351条、372条、446条、452条〜454条、459条、474条、499条〜504条)
- 不動産適正取引推進機構「宅建試験の問題及び正解番号表」(出題数は当サイトが数えたもので、公式の内訳ではありません)
働く人の法律試験ノート