ひとことで言うと、子どもの権利条約は、正式な名前を「児童の権利に関する条約」という条約です。「子どもの権利条約」と「児童の権利条約」は、同じ条約の別の呼び方です。1989年の第44回国連総会で採択され、1990年に発効し、日本は1994年に批准しました(外務省の説明)。18歳未満を「児童」とし、差別の禁止・児童の最善の利益・生命、生存及び発達に対する権利・児童の意見の尊重の4つが、いわゆる4原則と呼ばれます。
この記事の位置づけ:基礎知識の4分野(一般知識・業務関連法令・情報通信と個人情報保護・文章理解)のうち、一般知識の記事です。足切り(令和7年度の合否判定基準では基礎知識24点=6問)を越えるための6問は、文章理解と、条文で答えが決まる法令から先に固める、という基礎知識の記事の順番は変わりません。
締約国の数、委員会の勧告の中身、日本の制度や施策の評価は扱いません。条約は外務省の訳文で、日本の批准・留保・選択議定書は外務省の説明と、外務省が掲載する政府の報告で確かめた事実だけを書きます(2026年10月17日確認)。条約の訳文の言葉は「児童」なので、条文を示すときは「児童」と書きます。
身近な例で考えると
行政書士試験の受験生のみおさんは、検索すると「子どもの権利条約」と「児童の権利条約」の両方が出てきて、別の条約なのかと迷いました。外務省のページを見ると、見出しは「児童の権利条約(児童の権利に関する条約)」で、同じ条約でした。みおさんは、外務省の説明にある日付を順に並べました。
- 1989年:第44回国連総会で条約が採択された。
- 1990年:条約が発効した。
- 1994年4月:日本が批准した(外務省が掲載する第2回政府報告)。
- 1995年12月21日:委員会の人数を10人から18人に改める改正が採択された(2002年11月18日に発効)。
- 2000年:武力紛争への児童の関与に関する選択議定書と、児童の売買等に関する選択議定書が採択された(どちらも2002年発効)。
- 2004年・2005年:日本が、武力紛争の議定書(2004年)、売買等の議定書(2005年)を批准した。
みおさんが分かったのは、条約の本体と、あとから作られた選択議定書(ぎていしょ=本体を補う別の条約)は、締結の手続が別だということです。批准・留保という言葉の意味は条約の署名・批准・締結の記事で扱っています。
条約ではこう決まっている
「児童」の定義(1条)
1条は、「児童とは、18歳未満のすべての者をいう」としています。ただし、その者に適用される法律によって、より早く成年に達した者は除かれます。年齢の線は18歳ですが、ただし書があることに注意します。
いわゆる4原則(2条・3条・6条・12条)
内閣官房(こども家庭庁設立準備室)の資料は、「児童の権利に関する条約」のいわゆる4原則として、次の4つを挙げ、それぞれ条約の条と結びつけています。
| 原則 | 条 | 訳文の言葉(要点) |
|---|---|---|
| 差別の禁止 | 2条 | 児童や父母の人種・性・宗教などにかかわらず、いかなる差別もなしに権利を尊重し、確保する |
| 児童の最善の利益 | 3条1 | 児童に関するすべての措置で、児童の最善の利益が主として考慮される |
| 生命、生存及び発達に対する権利 | 6条 | 生命に対する固有の権利を認め、生存と発達を可能な最大限の範囲で確保する |
| 児童の意見の尊重 | 12条 | 意見を形成する能力のある児童が、自分に影響を及ぼすすべての事項について自由に意見を表明する権利 |
12条1は続けて、「児童の意見は、その児童の年齢及び成熟度に従って相応に考慮される」としています。12条2は、そのために、自分に影響を及ぼす司法上・行政上の手続で、直接に、または代理人や適当な団体を通じて聴取される機会を児童に与える、としています。
同じ資料は、こども基本法3条の基本理念(1号〜4号)が、この4原則の趣旨を踏まえて規定されている、と説明しています。法律の側の定めはこども基本法の記事で扱っています。
委員会と報告(43条・44条)
- 委員会(43条):締約国の義務の履行の進み具合を審査するため、児童の権利に関する委員会を置く。人数は、1995年の改正(2002年発効)で10人から18人になった。
- 報告(44条1):締約国は、その国について条約が効力を生じた時から2年以内に、その後は5年ごとに、とった措置と進歩についての報告を、国連事務総長を通じて委員会に出すことを約束する。
日本の批准と、留保・解釈宣言
外務省が掲載する第2回政府報告は、日本が1994年4月に批准し、その際に37条(c)に関して留保を付け、9条1と10条1に関して解釈宣言を行った、と説明しています。それぞれの条の中身は次のとおりです。
- 37条(c):自由を奪われたすべての児童の取扱いの定め。日本の留保は、そのうち第2文の「自由を奪われたすべての児童は、成人とは分離されないことがその最善の利益であると認められない限り成人とは分離される」に拘束されない、というものです(外務省が掲載する第1回政府報告)。
- 9条1:児童が父母の意思に反して父母から分離されないことの確保。
- 10条1:家族の再統合を目的とする、児童や父母の入国・出国の申請の取扱い。
3つの選択議定書
| 選択議定書 | 採択・発効 | 日本 |
|---|---|---|
| 武力紛争における児童の関与 | 2000年採択・2002年発効 | 2004年に批准 |
| 児童の売買、児童買春及び児童ポルノ | 2000年採択・2002年発効 | 2005年に批准 |
| 通報手続 | — | 締結していない(2025年4月時点の政府の説明では検討中) |
通報手続の選択議定書について、外務省が掲載する政府の報告(2025年4月時点)は、締結について「引き続き、我が国として真剣に検討を進めているところ」としています。この記事では、通報手続の議定書の採択・発効の日は、外務省の説明で確かめられなかったので書いていません。
当てはまる例・当てはまらない例
- 当てはまる例:17歳の高校生のそうたさん。18歳未満なので、1条の「児童」に当たります。
- 当てはまらない例:その人に適用される法律で、18歳になる前に成年に達している人。1条のただし書で「児童」から除かれます。
- 当てはまる例:家庭裁判所の手続が、そうたさん自身に影響を及ぼす場合。12条2により、国内法の手続規則に合う方法で、直接に、または代理人などを通じて聴取される機会が与えられます。
- ひっかけやすい例:3条1の最善の利益を「唯一の考慮事項」とすること。訳文は「主として考慮されるものとする」です。
- ひっかけやすい例:「生きる・育つ・守られる・参加する」の4つの権利を、条約の条文の言葉とすること。この4つに分ける言い方は条約の条文にはありません。条文で確かめられるのは、上の4原則と条の対応です。
ほかの人権条約と、どこが違うか
人権の条約は、どれも委員会と報告の仕組みを持ちますが、人数や報告の間隔は条約ごとに違います。
| 条約 | 最初の報告 | その後の報告 |
|---|---|---|
| 児童の権利条約(44条1) | 効力を生じた時から2年以内 | 5年ごと |
| 女子差別撤廃条約(18条1) | 効力を生ずる時から1年以内 | 少なくとも4年ごと、委員会が要請するとき |
| 人種差別撤廃条約(9条1) | 効力を生ずる時から1年以内 | 2年ごと、委員会が要請するとき |
女子差別撤廃条約は女子差別撤廃条約の記事で扱っています。民法の未成年者の行為の決まりは制限行為能力者の記事で扱っています。条約の「児童」と国内の法律の言葉は、定義の条が別なので、混ぜないようにします。
試験ではここをまちがえやすい
- 名前:子どもの権利条約=児童の権利条約=児童の権利に関する条約。同じ条約。
- 年:採択1989年(第44回国連総会)、発効1990年、日本の批准1994年。
- 4原則と条:差別の禁止=2条、最善の利益=3条、生命・生存・発達=6条、意見の尊重=12条。
- 報告:2年以内・その後5年ごと(44条1)。女子差別撤廃条約の1年以内・4年ごとと入れ替えない。
- 日本の留保・解釈宣言:留保は37条(c)、解釈宣言は9条1と10条1。
- 選択議定書:武力紛争(2004年)と売買等(2005年)は批准。通報手続は締結していない。
○✕でたしかめよう
問1(このサイトのオリジナル問題)
A国の法律では、人は16歳で成年に達する。A国の17歳のBは、A国の法律によりすでに成年に達しているので、児童の権利に関する条約1条の「児童」には当たらない。
答え:○ 分かれ目は、1条のただし書です。1条は、児童を「18歳未満のすべての者」としつつ、「その者に適用される法律によりより早く成年に達したもの」を除いています。17歳なら18歳未満なので児童だ、と考えると✕に見えます。Bは、自分に適用されるA国の法律で成年に達しているので、ただし書で除かれます。18歳という数字だけで判断すると誤ります。
問2(このサイトのオリジナル問題)
児童の権利に関する条約の締約国は、その国について条約が効力を生じた時から1年以内に、その後は4年ごとに、とった措置についての報告を委員会に出すことを約束している。
答え:✕ 分かれ目は、報告の期間の数字です。児童の権利に関する条約44条1は、効力を生ずる時から「2年以内」に、その後は「5年ごと」に、国連事務総長を通じて委員会に報告を出すとしています。正しくは2年以内・5年ごとです。1年以内・少なくとも4年ごとは、女子差別撤廃条約18条1の報告の期間で、それと入れ替えた誤りです。
問3(このサイトのオリジナル問題)
日本は、児童の権利に関する条約の選択議定書のうち、武力紛争における児童の関与に関するものと、児童の売買等に関するものは批准しているが、通報手続に関するものは締結していない(2025年4月の政府の報告の時点)。
答え:○ 分かれ目は、3つの選択議定書で日本の扱いが分かれる点です。外務省の説明では、日本は武力紛争の議定書を2004年、売買等の議定書を2005年に批准しました。通報手続の議定書は、外務省が掲載する政府の報告(2025年4月時点)で、締結を検討中とされています。本体を批准したなら議定書も全部締結している、と考えると✕に見えます。個人通報の議定書を締結していないのは、自由権規約や女子差別撤廃条約の選択議定書でも同じです。
基礎知識の○✕は、行政書士の5分○✕ドリルの「基礎知識」で続けて解けます。
まとめ
- 子どもの権利条約の正式名は「児童の権利に関する条約」。1989年採択、1990年発効、日本は1994年に批准。
- 児童=18歳未満。ただし、適用される法律でより早く成年に達した者は除く(1条)。
- いわゆる4原則は、差別の禁止(2条)・最善の利益(3条)・生命、生存及び発達(6条)・意見の尊重(12条)。
- 報告は2年以内・その後5年ごと(44条1)。日本は37条(c)に留保、9条1・10条1に解釈宣言。
- 選択議定書は、武力紛争と売買等を批准。通報手続は締結していない(2025年4月の政府の報告の時点)。
このサイトで次に読むなら、こども基本法の記事です。条約の4原則が、国内の法律の基本理念にどう書かれているかを、条文で確かめられます。
参考にした公式の情報(2026年10月確認)
条約は外務省の訳文で確かめました(2026年10月17日確認)。
- 外務省「児童の権利条約(児童の権利に関する条約)」(1989年採択・1990年発効・日本の1994年の批准、18歳未満の定義、2つの選択議定書の採択・発効と日本の批准の年。令和8年1月23日の版)
- 外務省「児童の権利に関する条約」全文(訳文)(1条、2条1、3条1、6条、9条1、10条1、12条、37条(c)、43条1・2と人数の改正、44条1)
- 外務省「児童の権利条約 第1回政府報告」(37条(c)の第2文についての留保の中身)
- 外務省「児童の権利条約 第2回政府報告」(1994年4月の批准、37条(c)の留保、9条1・10条1の解釈宣言)
- 内閣官房こども家庭庁設立準備室「こども基本法説明資料」(児童の権利に関する条約のいわゆる4原則と条の対応)
- 外務省掲載「UPR第4回審査の中間報告」(2025年4月時点)(通報手続に関する選択議定書の締結についての政府の説明)
働く人の法律試験ノート