ひとことで言うと、内閣は、内閣総理大臣と国務大臣でつくる合議体(ごうぎたい=話し合って決める集まり)で、その職権は閣議で行います(日本国憲法66条1項、内閣法4条1項)。一方、内閣総理大臣には、ひとりで行える権能(けんのう=法律上できること)があります。国務大臣を任命し、任意に罷免(ひめん=やめさせること)できるのはその代表です(68条)。
まちがえやすいのは、「内閣が」と「内閣総理大臣が」の主語の入れ替えと、総辞職しなければならない場面の取り違えです。この記事は、内閣と内閣総理大臣の権能を分けた表と、解散・総辞職の流れに絞ります。三権の関係の全体図は三権分立の記事、天皇の国事行為への助言と承認は天皇の国事行為の記事にあります。
身近な例で考えると
登場するのは、高校2年生のゆいさんと、市役所で働く兄のしょうたさんです。2人で、架空の政治ドラマを見ています。
場面1:大臣が交代する
ドラマの首相が、失言をした大臣をやめさせました。ゆいさん「閣議で決めなくていいの?」。しょうたさん「国務大臣の罷免は、首相がひとりで決められるんだ。憲法68条2項に『任意に』と書いてある」。新しい大臣を任命するのも首相です(68条1項)。ただし、国務大臣の過半数は国会議員から選ばなければなりません(同項ただし書)。
場面2:首相が入院した場合と、辞職した場合
- ドラマの首相が急病で入院し、しばらく仕事ができなくなった。あらかじめ指定された国務大臣が、臨時に首相の職務を行う(内閣法9条)。内閣は総辞職しない。
- 別の回では、首相が辞職して職を離れた。内閣総理大臣が「欠けたとき」に当たり、内閣は総辞職しなければならない(憲法70条)。
- 総辞職した内閣は、新しい内閣総理大臣が任命されるまで、引き続き職務を行う(71条)。
しょうたさん「仕事ができない『事故』と、いなくなる『欠けた』は、条文の言葉が違う。総辞職になるのは『欠けた』ほうだけだよ」。
場面3:不信任決議が可決された
- 衆議院で、内閣不信任の決議案が可決された。
- 内閣は、10日以内に衆議院が解散されない限り、総辞職しなければならない(69条)。
- 内閣は解散を選んだ。解散は天皇の国事行為で、内閣の助言と承認による(7条3号)。参議院は同時に閉会になる(54条2項)。
- 解散の日から40日以内に総選挙、選挙の日から30日以内に国会を召集する(54条1項)。
- 総選挙の後に初めて国会の召集があったとき、内閣は総辞職する(70条)。解散を選んでも、内閣がそのまま続くわけではない。
たとえ話と、本物との違い
内閣は、学校の生徒会執行部に、内閣総理大臣は生徒会長に少し似ています。大事なことは執行部の会議(閣議)で決め、会長は会議を進め、役員を選びます。ただし本物の内閣総理大臣は、国務大臣を「任意に」やめさせることまでできます。生徒会長より強い権限が、条文で与えられています。
条文ではこう決まっている
内閣のしくみ(65条・66条、内閣法4条)
- 行政権は内閣に属する(65条)。
- 内閣は、首長である内閣総理大臣と、その他の国務大臣で組織する(66条1項)。全員が文民(ぶんみん=軍人ではない人)でなければならない(同条2項)。
- 内閣は、行政権の行使について、国会に対し連帯して責任を負う(66条3項)。このしくみ(議院内閣制)を、大統領制や地方の二元代表制と比べた表は議院内閣制と大統領制の違いの記事にあります。
- 内閣が職権を行うのは閣議による(内閣法4条1項)。閣議は内閣総理大臣が主宰し、重要政策の基本的な方針などを発議できる(同条2項)。各大臣も、案件を問わず閣議を求められる(同条3項)。
内閣の事務(73条)
73条は、「他の一般行政事務の外」に、内閣が行う事務を7つ挙げています。
- 法律を誠実に執行し、国務を総理(そうり=全体をまとめて扱うこと)すること。
- 外交関係を処理すること。
- 条約を締結すること。ただし、事前に、時宜(じぎ=そのときの事情)によっては事後に、国会の承認を経ることが必要。署名・批准・締結の言葉の違いは条約の署名・批准・締結の違いの記事にあります。
- 法律の定める基準に従い、官吏(かんり=国の公務員)に関する事務を掌理(しょうり=取りしきること)すること。
- 予算を作成して国会に提出すること。
- 憲法と法律の規定を実施するために、政令を制定すること。ただし、法律の委任がある場合を除いて、政令に罰則は設けられない。
- 大赦・特赦・減刑・刑の執行の免除・復権を決定すること。
73条以外の内閣の権能
- 天皇の国事行為への助言と承認(3条・7条)。衆議院の解散も、この形で行う(7条3号)。
- 最高裁判所長官の指名(6条2項)、その他の最高裁判所裁判官の任命(79条1項)、下級裁判所裁判官の任命(80条1項。最高裁判所が指名した者の名簿による)。
- 臨時会の召集の決定(53条)。いずれかの議院の総議員の4分の1以上の要求があれば、決定しなければならない。
- 衆議院の解散中、国に緊急の必要があるときの参議院の緊急集会の要求(54条2項ただし書)。
- 予算の作成・提出(86条)、予備費の支出と事後の国会の承諾(87条)、決算の国会への提出(90条1項)、財政状況の報告(91条)。
内閣総理大臣の権能(憲法と内閣法)
- 国務大臣の任命と、任意の罷免(68条)。
- 内閣を代表して議案を国会に提出し、一般国務と外交関係について国会に報告し、行政各部を指揮監督する(72条)。指揮監督は、閣議にかけて決定した方針に基づいて行う(内閣法6条)。
- 法律と政令に、主任の国務大臣の署名に続けて連署する(74条)。
- 国務大臣の訴追に同意する(75条)。在任中は同意がなければ訴追されないが、これで訴追の権利は害されない(同条ただし書)。
- 閣議の主宰(内閣法4条2項)、主任の大臣の間の権限の疑義を閣議にかけて裁定(内閣法7条)、行政各部の処分や命令を中止させて内閣の処置を待つこと(内閣法8条)。
総辞職しなければならない3つの場合(69条・70条)
| 場合 | 条文 | 注意 |
|---|---|---|
| 衆議院で不信任の決議案を可決、または信任の決議案を否決 | 69条 | 10日以内に解散されれば、この条の総辞職はない |
| 内閣総理大臣が欠けたとき | 70条 | 「事故」は内閣法9条の臨時代理 |
| 衆議院議員総選挙の後に初めて国会の召集があったとき | 70条 | 解散による総選挙に限らない |
どの場合も、新しい内閣総理大臣が任命されるまで、内閣は引き続き職務を行います(71条)。
当てはまる例・当てはまらない例
- 当てはまる例:内閣が、外国と結ぶ条約を締結する。国会の承認は原則として事前ですが、時宜によっては事後でもかまいません(73条3号)。
- 当てはまる例:衆議院議員の任期満了で総選挙が行われ、その後初めて国会が召集された。解散がなくても、70条により内閣は総辞職します。
- 当てはまらない例:参議院で内閣の問責決議が可決された。69条は衆議院での決議の定めなので、総辞職や解散を迫る効果は条文上ありません。
- 当てはまらない例:内閣総理大臣が急病で職務を行えない。「欠けたとき」ではなく「事故のあるとき」なので、内閣法9条により、あらかじめ指定された国務大臣が臨時に職務を行います。
- ひっかけやすい例:恩赦を「決定」するのは内閣です(73条7号)。天皇は、その恩赦を「認証」します(7条6号)。
- ひっかけやすい例:不信任決議がないときの衆議院の解散。憲法には、解散できる場面を69条の場合に限るという言葉はありません。最高裁判所大法廷昭和35年6月8日判決(苫米地〈とまべち〉事件)で争われた解散も、判決文では「憲法七条に依拠して行われた」ことに争いがないとされています。この判決が解散の効力をどう扱ったかは、司法権の限界の記事で説明しています。
似ているルールとの違い
「内閣」と「内閣総理大臣」の早見表
| すること | だれが | 条文 |
|---|---|---|
| 国務大臣の任命・罷免 | 内閣総理大臣 | 68条 |
| 議案の提出・国会への報告 | 内閣総理大臣(内閣を代表して) | 72条 |
| 法律・政令への連署 | 内閣総理大臣 | 74条 |
| 国務大臣の訴追への同意 | 内閣総理大臣 | 75条 |
| 条約の締結・政令の制定・予算の作成 | 内閣 | 73条 |
| 最高裁長官の指名・裁判官の任命 | 内閣 | 6条2項・79条・80条 |
| 臨時会の召集の決定 | 内閣 | 53条 |
| 参議院の緊急集会の要求 | 内閣 | 54条2項 |
閣議にかけるもの・かけないもの
| 首相の行為 | 閣議との関係 | 根拠 |
|---|---|---|
| 国務大臣の罷免 | 任意にできる | 憲法68条2項 |
| 行政各部の指揮監督 | 閣議にかけて決定した方針に基づく | 内閣法6条 |
| 大臣の間の権限の疑義の裁定 | 閣議にかけて行う | 内閣法7条 |
| 処分・命令の中止 | 中止させて内閣の処置を待つ | 内閣法8条 |
「閣議にかけて」という言葉は、内閣法6条と7条にあります。68条2項の罷免にはありません。国会議員の特権(不逮捕・免責)と比べたい人は、国会議員の特権と国会の種類で、議員の側の条文を確認できます。
試験ではここをまちがえやすい
- 主語の入れ替え:「内閣は、国務大臣を任命する」「内閣総理大臣は、条約を締結する」とする形。国務大臣の任命は首相(68条1項)、条約の締結は内閣(73条3号)です。
- 欠けたときと事故:「首相が病気で職務を行えないとき、内閣は総辞職する」とする形。総辞職は「欠けたとき」(70条)。事故のときは内閣法9条の臨時代理です。
- 総選挙の種類:「解散による総選挙の後に限り、内閣は総辞職する」とする形。70条は「衆議院議員総選挙の後に初めて国会の召集があつたとき」で、任期満了による総選挙も入ります。
- 罷免と閣議:「国務大臣の罷免には閣議が要る」とする形。68条2項は「任意に」です。
- 条約の承認の時期:「条約の承認は事前に限る」とする形。73条3号ただし書は「事前に、時宜によつては事後に」です。
- 政令の罰則:「政令には罰則を設けられない」と言い切る形。法律の委任があれば設けられます(73条6号ただし書)。
- 署名と連署:法律と政令の両方に、主任の国務大臣が署名し、首相が連署します(74条)。
○✕でたしかめよう
問1(このサイトのオリジナル問題)
内閣総理大臣Aが急病で入院し、しばらくの間、職務を行えなくなった。この場合、内閣総理大臣が欠けたときと同じく、内閣は総辞職しなければならない。
答え:✕ 分かれ目は、「欠けたとき」と「事故のあるとき」の違いです。70条が総辞職を求めるのは、内閣総理大臣が「欠けたとき」です。正しくは、職務を行えない「事故のあるとき」は、内閣法9条により、あらかじめ指定された国務大臣が臨時に職務を行い、内閣は総辞職しません。内閣法9条は、欠けたときにも臨時代理を定めていますが、欠けたときは70条の総辞職もあわせて働きます。
問2(このサイトのオリジナル問題)
衆議院議員の任期満了による総選挙が行われ、その後に初めて国会の召集があった。この総選挙が解散によるものでなくても、内閣は総辞職しなければならない。
答え:○ 分かれ目は、70条の「総選挙」の範囲です。70条は「衆議院議員総選挙の後に初めて国会の召集があつたとき」と定め、総選挙が解散によるものに限っていません。解散の流れ(54条1項の40日・30日)と結びつけて覚えていると、任期満了の総選挙は別だと考えて✕に見えます。総辞職した内閣は、新しい内閣総理大臣が任命されるまで職務を行います(71条)。
問3(このサイトのオリジナル問題)
内閣総理大臣Aは、国務大臣Bを罷免しようとしている。行政各部の指揮監督と同じく、この罷免も、閣議にかけて決定した方針に基づくことが要件となる。
答え:✕ 分かれ目は、閣議を要する行為かどうかです。68条2項は「内閣総理大臣は、任意に国務大臣を罷免することができる」と定めています。正しくは、罷免に閣議は要りません。「閣議にかけて決定した方針に基いて」行うのは行政各部の指揮監督(内閣法6条)で、権限の疑義の裁定(内閣法7条)も閣議にかけて行います。これらと取り違えると○に見えます。
この分野の○✕は、行政書士の5分○✕ドリルの「憲法」で続けて解けます。
まとめ
- 内閣は首相と国務大臣の合議体で、職権は閣議で行う(66条1項、内閣法4条1項)。
- 内閣:73条の7つの事務、助言と承認、最高裁長官の指名と裁判官の任命、臨時会の召集の決定、緊急集会の要求、予算と決算。
- 内閣総理大臣:国務大臣の任命と任意の罷免、議案提出と報告と指揮監督、連署、訴追の同意(68条・72条・74条・75条)。
- 総辞職は、不信任のあと10日以内に解散がないとき(69条)、首相が欠けたとき、総選挙後初めての国会召集のとき(70条)。
次に読むなら、国政調査権と議院の権能の記事がおすすめです。この記事の「内閣」の向かい側にいる国会と各議院が、何をできるかを表で整理しています。
参考にした公式の情報(2026年10月確認)
- e-Gov法令検索「日本国憲法」(第3条、第6条、第7条、第53条、第54条、第65条〜第75条、第79条、第80条、第86条、第87条、第90条、第91条)
- e-Gov法令検索「内閣法」(第4条〜第9条)
- 裁判所ウェブサイト 最高裁判所大法廷 昭和35年6月8日判決(昭和30年(オ)第96号)
働く人の法律試験ノート