ひとことで言うと、公布(こうふ)は「できた法律を国民に知らせること」、施行(しこう)は「法律が実際に効き始めること」です。その前に、法律が「法律になる」成立(せいりつ)があります。法律案は、両議院で可決したときに法律となります(憲法59条1項)。公布と、告示・公示・公告という似た言葉の違いは公示・告示・公告・公布の違いの記事で比べています。
施行の日は、ふつうはその法律の附則(ふそく=法律の最後にある、施行日や移り変わりの決まり)で決めます。決めていなければ、公布の日から起算して20日を経過した日から施行されます(法の適用に関する通則法2条)。条例なら、特別の定めがなければ公布の日から起算して10日を経過した日です(地方自治法16条3項)。
この記事では、成立・公布・施行の順番、施行日の決まり方、新しい法律を過去にさかのぼって当てはめる「遡及(そきゅう)」の限界、法律どうしがぶつかったときの優先の考え方を扱います。行政書士試験の出題範囲が「4月1日現在施行」で決まることは出題範囲の記事で扱っています。
身近な例で考えると
架空の「自転車の安全利用法」ができるまでを、会社員のみなとさんが新聞で追いかけます。
- 3月10日:衆議院と参議院の両方で可決された。この日に法律として成立する(59条1項)。
- 3月20日:天皇が公布した。官報に載り、だれでも内容を確かめられるようになる。
- 附則に「この法律は、令和○年10月1日から施行する。」とあった。10月1日から効き始める。
- 10月1日より前の行為には、原則としてこの法律は当てはまらない。
もし附則に施行日の定めがなかったら、3月20日の公布から数えて20日を経過した日から施行されます。みなとさんの住む市が同じ内容の条例を作ったなら、特別の定めがない限り、公布から10日を経過した日から施行されます。
たとえると、成立は「料理ができあがること」、公布は「メニューに載ること」、施行は「注文できるようになること」です。ただし本物のルールでは、公布から施行までの期間は法律ごとに違い、施行日を政令にまかせる書き方もあります。
条文ではこう決まっている
成立と公布
- 59条1項:法律案は、この憲法に特別の定めのある場合を除いては、「両議院で可決したとき法律となる」。
- 7条1号:天皇は、内閣の助言と承認により、国事に関する行為として「憲法改正、法律、政令及び条約を公布すること」を行います(3条)。
- 74条:法律と政令には、すべて主任の国務大臣が署名し、内閣総理大臣が連署します。
- 96条2項:憲法改正が国民に承認されたときは、天皇は、国民の名で、この憲法と一体を成すものとして「直ちにこれを公布する」。改正の手続は憲法改正の手続の記事で扱っています。
公布の方法(官報)
令和7年4月1日から施行された官報の発行に関する法律は、公布の方法を法律で定めました。
- 憲法改正、法律、政令、条約などの公布は「官報をもって行う」(3条1項)。官報は内閣総理大臣が発行します(2条)。
- 官報は、インターネットで公衆が閲覧できる状態に置く措置をとることにより発行します(5条2項)。
- 公布は、その措置がとられた時に行われたものとされます(6条1項)。
この法律ができる前は、公布の時期を定めた法律の規定がなく、最高裁判所大法廷昭和33年10月15日判決(昭和30年(あ)第871号)が、紙の官報が、一般の希望者が閲覧・購入できる場所(東京都官報販売所または印刷局官報課)のいずれかに最初に到達した時点で、公布されたものと解していました。令和7年4月1日以後の公布は、6条1項の定めによります。どちらの場合も、官報の印刷を終えた時や施行の日(通則法2条)と、公布の時期とは別のものです。
施行
- 法の適用に関する通則法2条:「法律は、公布の日から起算して二十日を経過した日から施行する。ただし、法律でこれと異なる施行期日を定めたときは、その定めによる。」
- 地方自治法16条:条例は、議長が議決の日から3日以内に長に送り(1項)、長は送られた日から20日以内に公布し(2項)、特別の定めがなければ公布の日から起算して10日を経過した日から施行されます(3項)。くわしくは条例と規則の記事にあります。
遡及の禁止
- 39条前段:何人も、「実行の時に適法であつた行為」または既に無罪とされた行為については、刑事上の責任を問われない。
- 刑罰の法律を、作る前の行為にさかのぼって当てはめて処罰することは、この条文で禁じられます(遡及処罰の禁止)。
施行日はどう決まるか
附則の書き方は、主に次の4つです。
| 附則の書き方 | 意味 | ポイント |
|---|---|---|
| 「○年○月○日から施行する」 | 日付を直接決める | いちばん分かりやすい形 |
| 「公布の日から施行する」 | 公布と同じ日に効く | 20日を待たない(通則法2条ただし書) |
| 「公布の日から起算して○年を超えない範囲内において政令で定める日」 | 上限だけ決め、日付は政令で | 準備が要る法律で使われる |
| 定めがない | 公布から20日を経過した日 | 通則法2条本文 |
3つめの形の例として、官報の発行に関する法律の附則1条は、本文の施行日を、公布の日から1年6月を超えない範囲内で政令で定める日としていました。同じ附則で、一部の規定は公布の日から施行するとしています。1つの法律の中で、規定ごとに施行日が違うこともあるわけです。
法律は過去にさかのぼるか
「法律不遡及の原則」とは、新しい法律は、原則として施行後の出来事に当てはめる、という考え方です。刑罰と民事で、強さが違います。
| 場面 | 原則 | 根拠・判例 |
|---|---|---|
| 刑罰 | さかのぼって処罰できない | 39条前段 |
| 判例の変更と刑罰 | 変更後の解釈で処罰しても39条違反ではない | 最判平成8年11月18日 |
| 民事・財産権 | 法律の定めで事後の変更もありうる | 最大判昭和53年7月12日 |
判例が変わった場合(最高裁判所第二小法廷平成8年11月18日判決)
地方公務員法の争議行為の禁止(37条1項)にかかわる罰則(61条4号)の罪が問われた事件で、行為の当時の最高裁判所の判例の示す法解釈に従えば無罪となるべき行為でも、これを処罰することは39条に違反しない、としました(平成5年(あ)第694号)。判決は、そのことは過去の大法廷判決の趣旨に照らして明らかだ、という短い理由を示しています。
財産権の内容を事後に変えた場合(最高裁判所大法廷昭和53年7月12日判決)
国が買収した農地を元の所有者に売り払う対価が、昭和46年施行の特別措置法で、買収の対価相当額から売払い時の時価の7割に改められました。施行の時点で売払いを受けていなかった元の所有者にも、新しい対価が当てはめられました(昭和48年(行ツ)第24号)。
判決は、「法律でいつたん定められた財産権の内容を事後の法律で変更しても、それが公共の福祉に適合するようにされたものである限り、これをもつて違憲の立法ということができない」としました。公共の福祉に適合するかは、財産権の性質、内容を変える程度、それで守られる公益の性質などを総合的に勘案し、合理的な制約として容認されるべきものかで判断する、としています。結論は29条・14条に違反しない、です。
民事の法律の改正では、附則に「なお従前の例による」と書いて、施行前に生じたことには改正前の規定を使い続ける、と決めることがあります。さかのぼるかどうかは、まず附則の経過措置(移り変わりの決まり)を読みます。
後法・特別法が優先する場面
法律どうしの中身がぶつかるときは、次の2つの考え方で、どちらを使うかを決めます。
- 後法は前法を破る:同じ立場の法律なら、新しい法律が古い法律より優先する。
- 特別法は一般法を破る:特定の場面を決めた法律が、広く当てはまる法律より優先する。
特別法優先の考え方が条文に表れた例が、商法1条2項です。商事について、商法に定めがない事項は商慣習に従い、商慣習がないときは民法の定めるところによる、としています。
2つがぶつかる場合、つまり一般法が新しく、特別法が古いときは、新しい一般法が当然に古い特別法を破るわけではない、と説明されます。実際の立法では、改正法の中で古い規定を直接書き換えたり削ったりするので、この原則に頼る場面は多くありません。法の分類(一般法と特別法など)は基礎法学の記事の表で整理しています。
当てはまる例・当てはまらない例
- 当てはまる例(20日):附則に施行日の定めがない法律が、ある月の1日に公布された。公布の日を1日目として数えて20日を経過した日、つまりその月の21日から施行されます。
- 当てはまらない例(成立と公布の取り違え):「天皇が公布した時に法律が成立する」。成立は両議院の可決のときで(59条1項)、公布は成立した法律を知らせる行為です。
- 当てはまる例(判例の変更):行為の当時の判例によれば犯罪にならなかった行為を、判例変更後の解釈で処罰する。39条には違反しないとされています(平成8年11月18日)。
- ひっかけやすい例(財産権):「財産権の内容を事後の法律で変えることは、29条1項により許されない」。昭和53年の大法廷判決は、公共の福祉に適合するようにされたものである限り、違憲の立法とはいえないとしました。
似ているルールとの違い
| 段階 | 何が起きるか | 根拠 |
|---|---|---|
| 成立 | 法律案が法律になる | 59条1項(両議院の可決) |
| 公布 | 国民に知らせる(官報) | 7条1号、官報の発行に関する法律 |
| 施行 | 効き始める | 附則、通則法2条(定めがなければ20日) |
| 適用 | 具体的な出来事に当てはめる | 附則の経過措置 |
法律と条例の違いも並べます。
| 比べる点 | 法律 | 条例 |
|---|---|---|
| 成立・議決 | 両議院の可決 | 議会の議決 |
| 公布する人 | 天皇(内閣の助言と承認) | 長(送られた日から20日以内) |
| 定めがないときの施行 | 公布の日から起算して20日を経過した日 | 公布の日から起算して10日を経過した日 |
試験ではここをまちがえやすい
- 成立・公布・施行の取り違え:成立は可決、公布は知らせる行為、施行は効き始めること。試験の範囲は「施行」で決まります。
- 公布の主体:法律・政令・条約・憲法改正の公布は天皇の国事行為で、内閣の助言と承認が要ります。条例の公布は長です。
- 20日の意味:20日は施行期日の定めがない法律の原則です。附則で別の日を決めればそれに従います。
- 遡及処罰の禁止の対象:39条前段が禁じるのは、実行の時に適法だった行為を、後の法律で処罰することです。判例の変更による処罰は、判例は39条違反ではないとしています。
- 民事の遡及:財産権の内容を事後の法律で変えることも、公共の福祉に適合するようにされたものである限り違憲ではない、というのが昭和53年の判決です。
- 優先の原則の組み合わせ:新しい一般法が、古い特別法を当然に破るわけではありません。
○✕でたしかめよう
問1(このサイトのオリジナル問題)
ある法律案が、3月10日に衆議院で、3月15日に参議院で可決され、3月25日に天皇が公布した。この法律案は、3月25日に法律として成立する。
答え:✕ 分かれ目は、成立の時点です。法律案は、憲法に特別の定めのある場合を除き、両議院で可決したとき法律となります(59条1項)。正しくは、後の議院が可決した3月15日に成立し、3月25日は成立した法律を国民に知らせる公布の日です。公布は天皇の国事行為で(7条1号)、施行の日(附則、定めがなければ通則法2条で公布から20日を経過した日)ともまた別の日です。
問2(このサイトのオリジナル問題)
国が買収した農地の売払いを元の所有者Bが求めていたが、売払いを受ける前に、対価を時価の7割に改める法律が施行され、Bにも適用された。判例によれば、法律で定めた財産権の内容を事後の法律で変えても、公共の福祉に適合するようにされたものである限り、違憲とはいえない。
答え:○ 分かれ目は、財産権の内容の事後の変更が許されるかです。最高裁判所大法廷昭和53年7月12日判決は、法律でいったん定められた財産権の内容を事後の法律で変更しても、公共の福祉に適合するようにされたものである限り違憲の立法とはいえないとし、この特別措置法は29条に違反しないとしました。「法律は過去にさかのぼらない」と考えると✕に見えます。後の法律でさかのぼって処罰することを禁じた39条前段は刑罰についての規定で、財産権の変更とは別の話です。
問3(このサイトのオリジナル問題)
Cがした行為は、行為の当時の最高裁判所の判例の示す法解釈によれば、犯罪に当たらないものだった。その後、判例が変更され、Cは変更後の解釈によって起訴された。判例によれば、Cを処罰しても、憲法39条に違反しない。
答え:○ 分かれ目は、39条が禁じる遡及の範囲です。最高裁判所第二小法廷平成8年11月18日判決は、行為当時の最高裁判所の判例の示す法解釈に従えば無罪となるべき行為であっても、これを処罰することは39条に違反しないとしました。「行為の時に罪にならなかった」とあるので✕に見えます。39条前段の文言は「実行の時に適法であつた行為」で、判例は、判例の解釈が変わった場合の処罰をこれに反するとはしませんでした。
この分野の○✕は、行政書士の5分○✕ドリルの「基礎知識」(法の施行期日の問題を含む)で続けて解けます。
まとめ
- 成立は両議院の可決(59条1項)、公布は天皇の国事行為で官報による(7条1号、官報の発行に関する法律)、施行は効き始めること。
- 施行日は附則で決める。定めがなければ法律は公布から20日を経過した日、条例は10日を経過した日。
- 公布は、官報をインターネットで閲覧できる状態に置く措置がとられた時に行われたものとされる(官報の発行に関する法律6条1項)。
- 刑罰はさかのぼって科せない(39条前段)。ただし判例の変更による処罰は39条違反ではない(平成8年)。財産権の事後の変更も、公共の福祉に適合する限り違憲ではない(昭和53年)。
- 後法優先・特別法優先。新しい一般法が古い特別法を当然には破らない。
次に読むなら、基礎法学の記事がおすすめです。法令用語・法の分類・期間の数え方をまとめていて、この記事の「20日を経過した日」の数え方ともつながります。
参考にした公式の情報(2026年10月確認)
条文は、令和8年4月1日時点で施行されている内容を、e-Gov法令検索で確かめています。判例は、裁判所ウェブサイトの裁判要旨と判決文で確かめています。
- e-Gov法令検索「日本国憲法」(3条、7条1号、29条、39条、59条1項、74条、96条2項)
- e-Gov法令検索「法の適用に関する通則法」(2条)
- e-Gov法令検索「官報の発行に関する法律」(2条、3条1項、5条2項、6条1項、附則1条。改正履歴で令和7年4月1日の施行を確認)
- e-Gov法令検索「地方自治法」(16条)
- e-Gov法令検索「商法」(1条2項)
- 裁判所ウェブサイト 最高裁判所大法廷 昭和33年10月15日判決(昭和30年(あ)第871号)
- 裁判所ウェブサイト 最高裁判所第二小法廷 平成8年11月18日判決(平成5年(あ)第694号)
- 裁判所ウェブサイト 最高裁判所大法廷 昭和53年7月12日判決(昭和48年(行ツ)第24号)
働く人の法律試験ノート