天皇の国事行為をわかりやすく:6条・7条の一覧と、内閣の助言と承認

ひとことで言うと、天皇は、憲法が定める「国事に関する行為」(国事行為=こくじこうい)だけを行い、国政に関する権能を持たないとされています(日本国憲法4条1項)。国事行為には、すべて内閣の助言と承認が必要で、その責任は内閣が負います(3条)。国事行為は、6条の任命2つと、7条に並ぶ10の行為です。

覚えるときの分かれ目は、「天皇が形式的に行う行為」と「中身を決める機関(国会・内閣・内閣総理大臣)」の組み合わせです。この記事では、一覧を「中身を決めるのはだれか」と並べて覚えます。三権がおたがいをどうチェックするかの全体図は三権分立の記事にあります。

身近な例で考えると

登場するのは、中学3年生のはるとさんと、社会科のみさき先生です。授業で、ニュースの場面(架空の話)を使って考えます。

場面1:新しい内閣総理大臣の任命式

  1. 国会が、国会議員の中から、議決で内閣総理大臣を指名した(67条1項)。
  2. 天皇が、国会の指名に基づいて、内閣総理大臣を任命した(6条1項)。
  3. はるとさん「じゃあ、首相を選んだのは天皇なの?」
  4. みさき先生「選んだのは国会。天皇は、決まった人を形式的に任命するの。これが国事行為よ」

場面2:大臣の「認証式」

次の日のニュースは、国務大臣の認証式でした。国務大臣を任命するのは内閣総理大臣です(68条1項)。天皇は、その任免を認証(にんしょう=正しく行われたことを公に証明すること)します(7条5号)。首相は天皇が「任命」、大臣は首相が任命して天皇が「認証」。3つの言葉の違いは、あとの「指名・任命・認証」の表で整理します。

場面3:天皇が病気で、一時的に国事行為ができない

天皇が、病気のためしばらく国事行為を自分でできなくなったとします。摂政(せっしょう=天皇に代わって国事行為を行う役)を置くべき場合でなければ、天皇は、内閣の助言と承認により、国事行為を皇族(摂政となる順位にあたる皇族)に委任して臨時に代行させることができます(国事行為の臨時代行に関する法律2条1項)。憲法4条2項の「法律の定めるところにより、その国事に関する行為を委任することができる」を受けた法律です。

たとえ話と、本物との違い

卒業式で校長先生が卒業証書を渡しても、だれが卒業するかは学校の会議で先に決まっています。国事行為も、中身は国会や内閣が決め、天皇が形式的に行います。ただし本物の憲法では、国事行為の一つ一つに内閣の「助言と承認」が要り、その責任は天皇ではなく内閣が負います(3条)。学校の例よりも、責任の置き場所がはっきり決められています。

条文ではこう決まっている

天皇の地位と国事行為のルール(1条〜5条)

  • 1条:天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴。この地位は、主権の存する日本国民の総意に基づく。
  • 2条:皇位は世襲で、国会の議決した皇室典範の定めにより継承する。
  • 3条:天皇の国事に関するすべての行為には、内閣の助言と承認が必要で、内閣がその責任を負う。
  • 4条1項:天皇は、この憲法の定める国事行為のみを行い、国政に関する権能を有しない。
  • 4条2項:天皇は、法律の定めるところにより、国事行為を委任できる。
  • 5条:皇室典範の定めで摂政を置くときは、摂政は天皇の名で国事行為を行う。この場合、4条1項を準用する(摂政も国政に関する権能を持たない)。

国事行為の一覧(6条・7条)

7条の柱書きは「天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行ふ」です。右の列は、その行為の中身をどこが決めるかの手がかりです。

条国事行為中身を決めるのは
6条1項内閣総理大臣の任命国会の指名(67条1項)
6条2項最高裁判所長官の任命内閣の指名
7条1号憲法改正・法律・政令・条約の公布国民の承認(96条)、国会、内閣など
7条2号国会の召集内閣の助言と承認(臨時会は53条)
7条3号衆議院の解散内閣の助言と承認
7条4号国会議員の総選挙の施行の公示内閣の助言と承認
7条5号国務大臣などの任免、全権委任状・大使と公使の信任状の認証国務大臣の任免は内閣総理大臣(68条)
7条6号大赦・特赦・減刑・刑の執行の免除・復権の認証決定は内閣(73条7号)
7条7号栄典の授与内閣の助言と承認
7条8号批准書などの外交文書の認証条約の締結は内閣(73条3号)
7条9号外国の大使・公使の接受内閣の助言と承認
7条10号儀式を行うこと内閣の助言と承認

7条には「認証」が3つあります(5号・6号・8号)。認証の対象は、ほかの機関がすでに決めた行為です。たとえば恩赦(おんしゃ=大赦・特赦など、刑を許したり軽くしたりすること)は、内閣が決定し(73条7号)、天皇が認証します(7条6号)。

皇室の財産(8条)

皇室に財産を譲り渡すことも、皇室が財産を譲り受けたり賜与(しよ=与えること)したりすることも、国会の議決に基づかなければなりません(8条)。向きは両方です。ただし皇室経済法2条は、ふだんの売買や外国との交際での儀礼上の贈答などについて、その度ごとに国会の議決を経なくてよい場合を定めています。

当てはまる例・当てはまらない例

  • 当てはまる例:国会が成立させた法律を、天皇が公布する(7条1号)。内閣の助言と承認によります。公布と、総選挙の施行の「公示」(7条4号)などの言葉の違いは公示・告示・公告・公布の違いの記事で扱っています。
  • 当てはまる例:内閣が指名した人を、天皇が最高裁判所長官に任命する(6条2項)。
  • 当てはまらない例:内閣総理大臣の「指名」。指名は国会の議決です(67条1項)。天皇が行うのは、その指名に基づく「任命」です。
  • 当てはまらない例:最高裁判所の長官以外の裁判官の任命。内閣が任命します(79条1項)。下級裁判所の裁判官も、最高裁判所が指名した者の名簿によって内閣が任命します(80条1項)。どちらも国事行為ではありません。
  • ひっかけやすい例:天皇を被告として訴えを起こす場合。最高裁判所第二小法廷平成元年11月20日判決(平成元年(行ツ)第126号)は、「天皇は日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であることにかんがみ、天皇には民事裁判権が及ばないものと解するのが相当である」としました。住民訴訟で天皇が被告とされた事件で、判決は、天皇を被告とする訴えは訴状を却下すべきものだとしています。
  • ひっかけやすい例:天皇や摂政の憲法を守る義務。99条は「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員」に、憲法を尊重し擁護する義務を負わせています。天皇・摂政は入っていますが、「国民」はこの条文に挙げられていません。

似ているルールとの違い

指名・任命・認証

言葉意味例
指名だれにするかを決める国会が首相を(67条)、内閣が最高裁長官を(6条2項)
任命その職につける天皇が首相・最高裁長官を(6条)、首相が国務大臣を(68条)、内閣が裁判官を(79条・80条)
認証決まった行為を公に証明する天皇が国務大臣の任免を(7条5号)

摂政と臨時代行

比べる点摂政臨時代行
根拠憲法5条・皇室典範16条憲法4条2項・臨時代行法
置く場面天皇が成年でないとき。重患・重大な事故で国事行為を自らできないとき(皇室会議の議)精神・身体の疾患または事故があるとき(摂政を置くべき場合を除く)
始め方皇室典範の定めで置く天皇が内閣の助言と承認で皇族に委任
行い方天皇の名で行う(5条)委任を受けた皇族が臨時に代行

摂政は、天皇が成年に達しないときにも置かれます(皇室典範16条1項)。天皇の成年は18年です(同22条)。病気や事故の場面では、国事行為を自らできないほどの「重患」「重大な事故」なら摂政、そこまでではない疾患や事故なら臨時代行、という分かれ方になります。臨時代行の委任を受けた皇族は、委任がされている間、訴追されません(臨時代行法6条)。

試験ではここをまちがえやすい

  • 指名と任命の主体:「内閣総理大臣は内閣が指名する」「最高裁判所長官は国会が指名する」とする形。首相は国会、最高裁長官は内閣が指名します(67条1項・6条2項)。
  • 任命と認証:「国務大臣は天皇が任命する」とする形。任命は内閣総理大臣で(68条1項)、天皇は任免を認証します(7条5号)。
  • 助言と承認の範囲:「7条の行為には内閣の助言と承認が要るが、6条の任命には要らない」とする形。3条は国事に関する「すべての行為」に助言と承認を求めています。
  • 責任の所在:国事行為の責任は内閣が負います(3条)。
  • 摂政と臨時代行:法律で国事行為を委任できるのは4条2項、摂政は5条。摂政は天皇の名で行います。
  • 決定と認証:恩赦を決定するのは内閣(73条7号)、天皇は認証(7条6号)。条約を締結するのは内閣(73条3号)、天皇は批准書などを認証(7条8号)。

内閣そのものの権能(73条の事務、衆議院の解散と総辞職)は内閣の権能と内閣総理大臣の権能で、天皇が公布する憲法改正の手続は憲法改正の手続で扱っています。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題)
天皇が病気のため、しばらくの間、国事行為を自ら行えなくなった。摂政を置くべき場合でなければ、天皇は、内閣の助言と承認により、国事行為を皇族に委任して臨時に代行させることができる。

答え:○ 分かれ目は、摂政を置く場面かどうかです。憲法4条2項は、法律の定めにより国事行為を委任できるとし、国事行為の臨時代行に関する法律2条1項が、精神・身体の疾患や事故があるとき、摂政を置くべき場合を除いて、内閣の助言と承認による皇族への委任を認めています。「天皇が国事行為をできないときは摂政」とだけ覚えていると✕に見えます。摂政は、重患や重大な事故で自らできないときなどに、皇室典範16条により置かれます。

問2(このサイトのオリジナル問題)
内閣総理大臣Aが、新たにBを国務大臣に選んだ。この場合、Bを国務大臣に任命するのは天皇であり、天皇は、内閣の助言と承認によってこれを行う。

答え:✕ 分かれ目は、国務大臣を「任命」する主体です。国務大臣を任命するのは内閣総理大臣です(68条1項)。正しくは、天皇は、その任免を「認証」します(7条5号)。内閣総理大臣と最高裁判所長官は天皇が任命する(6条)ので、それと取り違えると○に見えます。なお、国務大臣の過半数は国会議員の中から選ばなければなりません(68条1項ただし書)。

問3(このサイトのオリジナル問題)
天皇を被告とする訴えについて、判例は、天皇が日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であることにかんがみ、天皇には民事裁判権が及ばないとした。

答え:○ 分かれ目は、判例の結論と理由です。最高裁判所第二小法廷平成元年11月20日判決は、天皇が日本国と日本国民統合の象徴であること(1条)を理由に、天皇には民事裁判権が及ばないとしました。「法の下の平等があるから、天皇も訴えられる」と考えると✕に見えます。この判決が示したのは民事裁判権についての判断です。国事行為の責任が内閣にあるという3条の話とは別の論点です。

この分野の○✕は、行政書士の5分○✕ドリルの「憲法」で続けて解けます。

まとめ

  • 天皇は国事行為のみを行い、国政に関する権能を持たない(4条1項)。国事行為にはすべて内閣の助言と承認が要り、責任は内閣(3条)。
  • 国事行為は、6条の任命2つ(首相・最高裁長官)と、7条の10の行為。
  • 首相は国会が指名、最高裁長官は内閣が指名、国務大臣は首相が任命して天皇が認証。
  • 摂政は5条・皇室典範16条、法律による委任(臨時代行)は4条2項。
  • 天皇には民事裁判権が及ばない(最高裁判所第二小法廷平成元年11月20日判決)。

次に読むなら、憲法の勉強法の記事がおすすめです。統治の条文の数字を一覧にしていて、この記事の主体の組み合わせと一緒に覚えると、統治の条文問題をまとめて固められます。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 ※ が付いている欄は必須項目です