ひとことで言うと、「地方分権一括法」は法律の題名ではなく通称で、正式な題名は「地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律」(平成11年7月16日公布、平成11年法律第87号)です。地方自治法を含む475本の法律をまとめて改正し、平成12年4月に施行されました(内閣府・総務省の説明)。
中身の柱は3つです。①知事や市町村長を国の下部機関として国の事務をさせる機関委任事務をなくし、地方公共団体の事務を自治事務と法定受託事務に分けた。②国の関与は法律またはこれに基づく政令の根拠がなければできない、というルールを地方自治法に置いた(245条の2)。③国の関与に不服があるときの国地方係争処理委員会を作った(250条の7)。
この記事の位置づけ:行政書士試験の基礎知識の4分野(一般知識・行政書士法等の業務関連法令・情報通信と個人情報保護・文章理解)のうち、一般知識の記事です。足切り(令和7年度の合否判定基準では基礎知識24点以上。6問分)を越えるには、文章理解と、条文で答えが決まる法令から先に固めるのが、基礎知識の記事で書いた当サイトの方針です。この記事は「何が変わった改正か」だけを扱い、改革の評価や今後の論点は書きません。自治事務・法定受託事務の定義の細かい点は自治事務と法定受託事務の記事、関与の種類と係争処理の流れは国の関与と係争処理の記事に任せます。条文は令和8年4月1日時点の地方自治法を e-Gov 法令検索で確かめました(2026年10月17日確認)。
身近な例で考えると
みどり市の市長が、国の法律で市が処理するとされている仕事をする場面を、改正の前と後で比べます(仕組みを示すための架空の話です)。
- 改正の前(機関委任事務):みどり市長は、この仕事について「国の下部機関」として扱われた。仕事は国の事務で、所管する大臣には包括的な指揮監督の権限があった(内閣府の資料は、その廃止を「通達行政の廃止」と説明しています)。
- 平成12年4月の施行:機関委任事務という仕組みがなくなった。この仕事は、みどり市の事務として、自治事務か法定受託事務のどちらかに整理された。
- 改正の後:大臣がみどり市に関与するには、法律またはこれに基づく政令の根拠が要る(地方自治法245条の2)。関与は必要最小限にし、市の自主性・自立性に配慮しなければならない(245条の3第1項)。
- 大臣の是正の要求などに市長が納得できないときは、総務省に置かれた国地方係争処理委員会に審査を申し出られる(250条の7、250条の13)。
たとえるなら、改正の前は「本社の仕事を、支店長が本社の部下として、本社の指示どおりにする」形でした。改正の後は「支店(自治体)の仕事として引き受け、本社が口を出すときは規程(法律・政令)の根拠が要り、もめたら第三者の委員会に持ち込める」形です。ただし本物のルールでは、法定受託事務については、自治事務より強い関与(代執行など)が法律で認められています。
条文ではこう決まっている
事務の区分(地方自治法2条2項・8項・9項)
- 普通地方公共団体は、地域における事務と、その他の事務で法律またはこれに基づく政令により処理することとされるものを処理する(2条2項)。
- 「自治事務」とは、地方公共団体が処理する事務のうち、法定受託事務以外のものをいう(2条8項)。
- 第一号法定受託事務は、法律またはこれに基づく政令により都道府県・市町村・特別区が処理することとされる事務のうち、国が本来果たすべき役割に係るもので、国が適正な処理を特に確保する必要があるとして法律・政令に特に定めるもの(2条9項1号)。
大事なのは、法定受託事務も「地方公共団体が処理する事務」の一つだという点です。2条8項は、地方公共団体の事務のうち法定受託事務でないものを自治事務と呼んでいます。国の事務を国の機関としてさせた機関委任事務とは、ここが違います。
関与のルール(地方自治法245条〜245条の3)
- 関与の種類(245条):助言・勧告、資料の提出の要求、是正の要求、同意、許可・認可・承認、指示、代執行(1号イ〜ト)、協議(2号)、その他の具体的・個別的に関わる行為(3号)。
- 関与の法定主義(245条の2):普通地方公共団体は、その事務の処理に関し、法律またはこれに基づく政令によらなければ、国または都道府県の関与を受け、または要することとされることはない。省令や通達だけでは根拠になりません。
- 関与の基本原則(245条の3第1項):国は、関与を定めるときは、目的を達成するために必要な最小限度のものとし、普通地方公共団体の自主性・自立性に配慮しなければならない。
- 事務の区分による違い(245条の3第2項):国は、できる限り、自治事務については代執行(245条1号ト)と3号の関与を、法定受託事務については3号の関与を、受け、または要することとすることのないようにしなければならない。
国地方係争処理委員会(地方自治法250条の7)
- 総務省に、国地方係争処理委員会を置く(1項)。
- 委員会は、国の行政機関がする関与(「国の関与」)に関する審査の申出について、地方自治法で定められた事項を処理する(2項)。
改正の前と後を表で比べる
| 比べる点 | 改正の前 | 改正の後(平成12年4月〜) |
|---|---|---|
| 事務の区分 | 機関委任事務(知事・市町村長を国の下部機関として国の事務をさせる)があった | 機関委任事務を廃止。自治体の事務は自治事務と法定受託事務(2条8項・9項) |
| 大臣の監督 | 機関委任事務について主務大臣の包括的な指揮監督権があった | 包括的な指揮監督権は廃止。関与は法律・政令の根拠が要る(245条の2) |
| 関与の考え方 | ― | 必要最小限・自主性と自立性への配慮(245条の3) |
| 争いの処理 | ― | 総務省に国地方係争処理委員会(250条の7) |
表の「改正の前」の欄は、内閣府の資料「第1次地方分権改革」の説明(知事や市町村長を国の下部機関と構成して国の事務を執行させる仕組み、主務大臣の包括的な指揮監督権の廃止=通達行政の廃止)によります。総務省の地方自治制度の歴史の説明も、平成11年の改正を「機関委任事務制度の廃止と自治事務及び法定受託事務の創設」とし、国地方係争処理制度の創設を同じ改正の中に挙げています。
その後も、地方分権の改革は「一括法」の形で続いています。内閣府の研修資料には、平成23年4月に成立した第1次一括法から、令和7年5月に成立した第15次一括法までが載っています。これらは義務付け・枠付けの見直しや権限の移譲を中身とする別の法律で、平成11年の地方分権一括法とは別物です。
当てはまる例・当てはまらない例
- 当てはまる例(関与の根拠):ある法律に、大臣が市に資料の提出を求められる規定がある。法律の根拠があるので、245条の2の要件を満たします。
- 当てはまらない例(省令だけの根拠):大臣が、法律や政令に根拠のない省令で、市の事務に許可を要する仕組みを作った。245条の2が認める根拠は「法律又はこれに基づく政令」なので、省令だけでは足りません。
- 当てはまらない例(法定受託事務を国の事務とする):「法定受託事務は国から預かった国の事務なので、市の事務ではない」と考える。2条8項・9項の定義では、法定受託事務も地方公共団体が処理する事務です。
- ひっかけやすい例(代執行):自治事務について、国はできる限り代執行の関与を定めないようにしなければなりません(245条の3第2項)。法定受託事務についての同じ項の定めは3号の関与だけで、代執行は挙がっていません。
試験ではここをまちがえやすい
- 通称と題名:「地方分権一括法」は通称。題名は「地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律」。
- 公布と施行の年:平成11年7月に成立・公布、施行は平成12年4月(内閣府・総務省の説明)。
- 機関委任事務と法定受託事務の取り違え:機関委任事務は廃止された仕組みで、国の事務を国の機関としてさせるもの。法定受託事務は今の地方公共団体の事務の区分の一つ。
- 関与の根拠の範囲:「法律又はこれに基づく政令」。省令・通達は入らない。
- 委員会の置き場所:国地方係争処理委員会は総務省に置かれる(250条の7第1項)。
○✕でたしかめよう
問1(このサイトのオリジナル問題)
ある大臣が、みどり市の自治事務の処理について、市が大臣の承認を受けなければならない仕組みを、法律や政令に根拠のない省令で定めた。地方自治法上、みどり市はこの承認を要することとされることはない。
答え:○ 分かれ目は、関与の根拠になる法令の種類です。普通地方公共団体は、その事務の処理に関し、法律またはこれに基づく政令によらなければ、国の関与を受け、または要することとされることはありません(地方自治法245条の2)。省令も国の法令なので根拠になりそうに見え、✕と迷います。認められている根拠は「法律又はこれに基づく政令」で、各省の大臣が定める省令だけでは足りません。
問2(このサイトのオリジナル問題)
地方分権一括法により機関委任事務が廃止された後も、法定受託事務は、国の事務を地方公共団体の長が国の機関として処理するものであり、地方公共団体の事務には当たらない。
答え:✕ 分かれ目は、法定受託事務がだれの事務かです。地方自治法2条8項は、自治事務を「地方公共団体が処理する事務のうち、法定受託事務以外のもの」と定め、法定受託事務も地方公共団体が処理する事務の区分の一つとしています(2条9項)。正しくは、法定受託事務は地方公共団体の事務です。「国の事務を国の機関として処理する」のは、廃止された機関委任事務の説明で、これと取り違えた形です。
問3(このサイトのオリジナル問題)
国は、できる限り、地方公共団体が自治事務の処理に関して代執行の関与を受けることとならないようにしなければならないが、地方自治法245条の3第2項は、法定受託事務については代執行をこの対象に挙げていない。
答え:○ 分かれ目は、事務の区分ごとに「避ける関与」が違う点です。245条の3第2項は、自治事務については245条1号ト(代執行)と3号の関与を、法定受託事務については3号の関与を、できる限り受けることのないようにしなければならないと定めています。つまり、代執行が挙がっているのは自治事務の側だけです。「関与はどちらの事務も同じだけ控える」と考えると✕に見えます。法定受託事務についての代執行などの手続は、245条の8(見出しは「代執行等」)にあります。
基礎知識の○✕は、行政書士の5分○✕ドリルの「基礎知識」で続けて解けます。
まとめ
- 地方分権一括法は通称。題名は「地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律」(平成11年法律第87号)。475本の法律をまとめて改正し、平成12年4月施行。
- 機関委任事務(知事・市町村長を国の下部機関として国の事務をさせる)を廃止し、主務大臣の包括的な指揮監督権もなくした。
- 自治体の事務は自治事務と法定受託事務(2条8項・9項)。どちらも地方公共団体の事務。
- 関与は法律・政令の根拠が要る(245条の2)。必要最小限・自主性への配慮(245条の3)。争いは総務省の国地方係争処理委員会(250条の7)。
このサイトで次に読むなら、国の関与と係争処理の記事です。関与のうち是正の要求と是正の指示の違いと、委員会への申出から訴えまでの流れを確かめられます。
参考にした公式の情報(2026年10月確認)
条文は、e-Gov 法令検索で令和8年4月1日時点のものを確かめました(2026年10月17日確認)。法律の題名・番号・公布日は衆議院の制定法律の情報、成立・施行の時期と改正の中身は内閣府・総務省の説明で確かめました。
- e-Gov法令検索「地方自治法」(2条2項・8項・9項1号、245条、245条の2、245条の3、245条の8、250条の7、250条の13)
- 衆議院「制定法律:地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律」(法律第87号、平成11年7月16日)
- 内閣府「第1次地方分権改革(いわゆる地方分権一括法の概要)」(平成11年7月成立、平成12年4月施行、475本の法律を一括して改正、機関委任事務制度の廃止、包括的指揮監督権の廃止)
- 総務省「地方自治制度」(平成12年4月の地方分権一括法の施行)と総務省「地方自治制度の歴史」(平成11年の改正の項目)
- 内閣府 地方分権改革推進室の研修資料(その後の第1次〜第15次一括法の成立の年月)
働く人の法律試験ノート