ひとことで言うと、デジタル社会形成基本法(令和3年法律第35号)は、国や地方公共団体がデジタル化を進めるときの基本理念と、政府が作る重点計画、デジタル庁を置くことを定めた法律です。令和3年9月1日に施行され、それまでの「高度情報通信ネットワーク社会形成基本法」(平成12年法律第144号。IT基本法)は、この法律の附則で廃止されました。
官民データ活用推進基本法(平成28年法律第103号)は、国・地方公共団体・事業者が持つデータの活用と、行政手続のオンライン化の原則を定めた法律で、今も効力があります。この記事は、基礎知識の論点として、行政のデジタル化にかかわる法律の名前・役割・関係を整理します。政策の評価や時事は扱いません。条文は令和8年4月1日時点のものを e-Gov 法令検索で確かめました。それより後に施行された改正(たとえばデジタル手続法の令和8年法律第57号による改正)は、令和8年度試験の範囲外です。
身近な例で考えると
架空の「あおば県みなと市」で、市役所の情報担当のゆうきさんと、住民のみおさんの話です。
- 国では、政府が、デジタル社会形成基本法にもとづいて重点計画を作り、公表している(39条)。
- あおば県は、官民データ活用推進基本法にもとづいて、県の官民データ活用推進計画を定めた。都道府県には、定める義務がある(9条1項)。
- みなと市は、市の計画を定めるよう努めている。市町村は努力義務にとどまる(9条3項)。
- みおさんは、市への届出をオンラインでした。行政手続を情報通信技術で行うことを原則にする考え方は、官民データ活用推進基本法10条と、デジタル手続法に置かれている。
- 手続の中でマイナンバーを使う場面は、番号法で決まっている。
たとえるなら、デジタル社会形成基本法は「学校のデジタル化の方針書」、官民データ活用推進基本法は「データの使い方の方針書」、デジタル手続法は「申請をオンラインでする手順書」、番号法は「番号の使い方の決まり」です。ただし本物の法律では、基本法は方針と計画の作り方が中心で、手続そのものの細かい決まりは、デジタル手続法や個別の法律に置かれています。
条文ではこう決まっている
デジタル社会形成基本法(令和3年法律第35号)
- 目的:デジタル社会の形成に関する施策を迅速かつ重点的に推進し、国民の幸福な生活の実現などに寄与する(1条)。
- 「デジタル社会」:インターネットなどを通じて、自由かつ安全に多様な情報や知識を世界的規模で入手・共有・発信し、AI・IoT・クラウドなどの技術で大量の情報を適切かつ効果的に活用することで、あらゆる分野で創造的かつ活力ある発展ができる社会(2条)。
- 基本理念は第2章(3条〜12条)。国の責務(13条)、地方公共団体の責務(14条)、事業者の責務(16条)は第3章。
- デジタル庁:別に法律で定めるところにより、内閣にデジタル庁を置く(38条)。
- 重点計画:政府が作成する(39条1項)。案は内閣総理大臣が、サイバーセキュリティ戦略本部と個人情報保護委員会の意見を聴いて作り、閣議の決定を求める(同条4項)。作ったら遅滞なくインターネットなどで公表する(同条6項)。
- 附則:令和3年9月1日施行(附則1条)。IT基本法は廃止(附則2条)。IT基本法にもとづく重点計画は、新しい重点計画ができるまでの間、この法律の重点計画とみなす(附則3条)。
令和5年法律第63号で加わったこと
「デジタル社会の形成を図るための規制改革を推進するためのデジタル社会形成基本法等の一部を改正する法律」(令和5年法律第63号)は、デジタル社会形成基本法に、情報通信技術の効果的な活用のための規制の見直しの条(いまの37条)を加え、重点計画に定める事項にも規制の見直しの施策を加えました。国・地方公共団体・事業者の業務にかかわる規制が、情報通信技術の効果的な活用を妨げないよう、必要な措置を講じるという内容です。デジタル社会形成基本法のこの改正は、公布の日(令和5年6月16日)に施行されています。同じ法律による他の法律の改正は、この記事では扱いません。
デジタル庁設置法(令和3年法律第36号)
- 内閣に、デジタル庁を置く(2条)。任務は、デジタル社会の形成に関する内閣の事務を内閣官房とともに助けることなど(3条)。
- デジタル庁の長は、内閣総理大臣(6条1項)。
- デジタル大臣を置き、国務大臣をもって充てる。デジタル大臣は内閣総理大臣を助け、デジタル庁の事務をまとめる(8条)。デジタル監も置かれる(11条)。
- 令和3年9月1日施行(附則1条)。
官民データ活用推進基本法(平成28年法律第103号)
- 「官民データ」:電磁的記録に記録された情報で、国・地方公共団体・独立行政法人・その他の事業者が、事務や事業の中で管理・利用・提供するもの(国の安全を損なうおそれがあるものなどは除く)(2条1項)。
- 官民データ活用推進基本計画:政府が定める(8条1項)。案は内閣総理大臣が作り、閣議の決定を求める(同条4項)。
- 都道府県は、都道府県官民データ活用推進計画を「定めなければならない」(9条1項)。市町村は、市町村官民データ活用推進計画を「定めるよう努めるものとする」(9条3項)。
- 手続のオンライン化:国は、行政機関等の申請・届出・処分の通知などの手続を、情報通信技術を使う方法で行うことを原則とするよう、必要な措置を講ずる(10条1項)。
- データを国民が使いやすくする:国と地方公共団体は、自分が持つ官民データを、国民がインターネットなどで容易に利用できるよう、必要な措置を講ずるものとする(11条1項)。事業者は努めるものとする(同条2項)。条文に「オープンデータ」という言葉はありませんが、この考え方を指してそう呼ばれます。
- 公布の日(平成28年12月14日)に施行。令和3年には、デジタル社会形成基本法による改正を受けています(令和3年9月1日施行)。本則は19条までです。
行政のデジタル化の法律を1枚で
| 法律 | 何を決めた法律か | 法令番号・施行 |
|---|---|---|
| IT基本法(高度情報通信ネットワーク社会形成基本法) | ネットワーク社会の形成の基本方針 | 平成12年法律第144号。令和3年9月1日に廃止 |
| デジタル社会形成基本法 | デジタル社会の基本理念・重点計画・デジタル庁を置くこと | 令和3年法律第35号。令和3年9月1日施行 |
| デジタル庁設置法 | デジタル庁の任務・所掌・組織(長は内閣総理大臣) | 令和3年法律第36号。令和3年9月1日施行 |
| 官民データ活用推進基本法 | データの活用、計画、手続のオンライン化の原則 | 平成28年法律第103号。平成28年12月14日施行 |
| デジタル手続法(情報通信技術を活用した行政の推進等に関する法律) | 行政手続をオンラインでするための通則 | 平成14年法律第151号。令和元年の改正で今の題名に |
| 番号法 | マイナンバーの利用・提供の制限 | 平成25年法律第27号 |
デジタル手続法の基本原則と情報通信の用語は情報通信の用語の記事、番号法の条文は番号法の記事で扱っています。
当てはまる例・当てはまらない例
- 当てはまる例:あおば県が、県の官民データ活用推進計画を定める。都道府県の義務です(官民データ活用推進基本法9条1項)。
- 当てはまらない例:みなと市が市の計画を定めていないことは、それだけで法律違反にはなりません。市町村は努力義務です(9条3項)。
- 当てはまらない例:「IT基本法は、題名を変えてデジタル社会形成基本法になった」という説明。IT基本法は廃止され、新しい法律が別に作られました(デジタル社会形成基本法附則2条)。題名が変わったのは、デジタル手続法(旧「行政手続等における情報通信の技術の利用に関する法律」)のほうです。
- ひっかけやすい例:「デジタル庁の長はデジタル大臣」という説明。長は内閣総理大臣で、デジタル大臣は内閣総理大臣を助ける国務大臣です(デジタル庁設置法6条1項・8条)。
- ひっかけやすい例:「重点計画はデジタル庁が決める」という説明。重点計画を作るのは政府で、案は内閣総理大臣が作り、閣議で決めます(デジタル社会形成基本法39条1項・4項)。
試験ではここをまちがえやすい
- 廃止と題名の変更:IT基本法は廃止(令和3年9月1日)。デジタル手続法は令和元年に題名が変わった。
- 義務と努力義務:官民データ活用推進計画は、都道府県が義務、市町村が努力義務。データを利用しやすくする措置は、国・地方公共団体が「講ずるものとする」、事業者が「努めるものとする」。
- だれが作るか・だれが長か:重点計画と官民データ活用推進基本計画は政府が作り、案は内閣総理大臣。デジタル庁の長は内閣総理大臣。
- 年と法令番号:官民データ活用推進基本法は平成28年、デジタル社会形成基本法とデジタル庁設置法は令和3年(第35号・第36号)。
- 令和5年の改正:規制の見直し(いまの37条)が加わった。基準日の後に施行された改正は混ぜない。
○✕でたしかめよう
問1(このサイトのオリジナル問題)
B県とC市は、どちらもまだ官民データ活用推進計画を定めていない。官民データ活用推進基本法によれば、B県とC市は、いずれもそれぞれの区域の計画を定める法律上の義務を負っている。
答え:✕ 分かれ目は、義務か努力義務かです。官民データ活用推進基本法9条1項は、都道府県に都道府県官民データ活用推進計画を「定めなければならない」としていますが、同条3項は、市町村については「定めるよう努めるものとする」としています。正しくは、義務を負うのはB県で、C市は努力義務にとどまります。国の官民データ活用推進基本計画は政府が定める義務を負う(8条1項)ので、国・都道府県と同じ扱いだと考えた形です。
問2(このサイトのオリジナル問題)
デジタル庁設置法によれば、デジタル庁は内閣に置かれ、その長は内閣総理大臣である。デジタル大臣は、国務大臣をもって充てられ、内閣総理大臣を助けてデジタル庁の事務をまとめる。
答え:○ 分かれ目は、デジタル庁の長がだれかです。デジタル庁設置法2条は内閣にデジタル庁を置くとし、6条1項は長を内閣総理大臣とし、8条はデジタル大臣を国務大臣で充て、内閣総理大臣を助けて事務をまとめる役としています。省の長が各省の大臣であるのと同じ形だと考えて、長をデジタル大臣とすると✕にしてしまいます。
問3(このサイトのオリジナル問題)
平成12年に制定された高度情報通信ネットワーク社会形成基本法(IT基本法)は、令和3年の改正で題名を改め、デジタル社会形成基本法として、令和8年4月1日現在も効力を持っている。
答え:✕ 分かれ目は、廃止か題名の変更かです。デジタル社会形成基本法の附則2条は、IT基本法(平成12年法律第144号)を廃止するとしています。正しくは、IT基本法は廃止され、デジタル社会形成基本法は令和3年法律第35号として別に作られ、令和3年9月1日に施行されました(附則1条)。令和元年に題名が変わったのはデジタル手続法(旧「行政手続等における情報通信の技術の利用に関する法律」)で、これと取り違えないようにします。
この分野の○✕は、行政書士の5分○✕ドリルの「基礎知識」で続けて解けます。
まとめ
- デジタル社会形成基本法:令和3年法律第35号、令和3年9月1日施行。基本理念、政府の重点計画、デジタル庁を置くこと。IT基本法は廃止。
- 令和5年法律第63号で、規制の見直し(いまの37条)が加わった(令和5年6月16日施行)。
- デジタル庁:内閣に置く。長は内閣総理大臣。デジタル大臣は国務大臣。
- 官民データ活用推進基本法:平成28年。計画は都道府県が義務・市町村が努力義務。手続のオンライン化の原則(10条)、データを利用しやすくする措置(11条)。
このサイトで次に読むなら、基礎知識の記事です。基礎知識の分野の範囲と足切りの考え方が分かります。
参考にした公式の情報(2026年10月確認)
条文は、e-Gov 法令検索で令和8年4月1日時点の法令を確かめました。改正と施行日は、e-Gov 法令API の改正履歴で確かめました。
- e-Gov法令検索「デジタル社会形成基本法」(1条、2条、3条〜16条、37条〜39条、附則1条〜3条。令和5年法律第63号による改正を含む)
- e-Gov法令検索「デジタル庁設置法」(2条、3条、6条、8条、11条、附則1条)
- e-Gov法令検索「官民データ活用推進基本法」(2条、8条〜11条)
- e-Gov法令検索「情報通信技術を活用した行政の推進等に関する法律」(題名と改正の履歴)
働く人の法律試験ノート