ひとことで言うと、情報流通プラットフォーム対処法は、インターネットの書き込みで権利を侵害されたときに、サイトの運営者などがどこまで責任を負い、書いた人の情報をどう開示し、大きなSNSなどが削除の申出にどう対応するかを決めた法律です。正式名称は「特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律」(平成13年法律第137号)です。18歳未満の青少年が携帯電話でインターネットを使うときのフィルタリングの決まりは青少年インターネット環境整備法の記事で扱っています。
もとの名前は「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」(プロバイダ責任制限法)でした。令和6年法律第25号の改正で題名が改められ、2025年4月1日に施行されました(総務省の令和7年版情報通信白書)。このとき、大規模な事業者の義務を定める章が加わりました。この記事では、個別の事件や事業者の名前は扱わず、条文のしくみを整理します。条文は令和8年4月1日時点のものを e-Gov 法令検索で確かめました。人工知能の研究開発と活用の推進を定めた法律(AI推進法)はAI推進法の記事で扱っています。
身近な例で考えると
ゆなさんは、小さなパン店を開いています。利用者の多いSNS「ひろばSNS」に、だれかがゆなさんの店について、うその内容の書き込みをしました。ひろばSNSは、この法律で総務大臣の指定を受けた大規模特定電気通信役務提供者だとします。
| 人物・会社 | この法律での呼び名 | したいこと |
|---|---|---|
| ゆなさん | 権利を侵害されたとする者 | 削除してほしい・書いた人を知りたい |
| ひろばSNS | 特定電気通信役務提供者(大規模の指定あり) | 申出に対応する |
| 書き込んだ人 | 発信者 | (意見を聴かれる立場) |
- ゆなさんは、ひろばSNSが公表している受付の方法で、書き込みの削除を申し出た(22条)。
- ひろばSNSは、遅滞なく調査し(23条)、削除するかどうかを判断して、申出を受けた日から14日以内の総務省令で定める期間内に、ゆなさんに結果を通知する(25条1項)。
- 削除したときは、書き込んだ人にも、その旨と理由を通知するなどする(27条)。
- ゆなさんは、書き込んだ人に損害賠償を求めたいので、だれが書いたかの情報(発信者情報)の開示を求めた(5条)。裁判所に開示命令を申し立てる方法もある(8条)。
たとえると、この法律は、掲示板を置いている建物の管理人の決まりのようなものです。貼り紙をはがすかどうか、はがしたら貼った人に何を伝えるか、だれが貼ったかを教えるかを決めています。ただし本物のルールでは、管理人(事業者)が責任を負う場面は限られ、書いた人の情報の開示には厳しい要件があります。
条文ではこう決まっている
全体の形と定義(1条・2条)
| 章 | 中身 | 条 |
|---|---|---|
| 第1章 総則 | 趣旨・定義 | 1条・2条 |
| 第2章 | 損害賠償責任の制限 | 3条・4条 |
| 第3章 | 発信者情報の開示請求等 | 5条〜7条 |
| 第4章 | 発信者情報開示命令事件の裁判手続 | 8条〜19条 |
| 第5章 | 大規模特定電気通信役務提供者の義務 | 20条〜34条 |
| 第6章 | 罰則 | 35条〜38条 |
- 特定電気通信とは、不特定の者に受信されることを目的とする電気通信の送信(2条1号)。ネットの掲示板やSNSの公開の投稿が典型。公衆によって直接受信されることを目的とする送信(放送など)は除かれる。
- 発信者情報とは、侵害情報の発信者の特定に役立つ情報で、総務省令で定めるもの(2条10号)。
事業者が責任を負わない場合(3条)
- 削除しなかったとき(被害者に対して):削除などの送信防止措置が技術的に可能で、かつ、①権利が侵害されていることを知っていたとき、または②知ることができたと認めるに足りる相当の理由があるとき、でなければ、事業者は賠償の責任を負わない(3条1項)。事業者自身が書き込んだ人であるときは、この制限はない(同項ただし書)。
- 削除したとき(書き込んだ人に対して):送信を防ぐのに必要な限度で行った措置で、①権利が不当に侵害されていると信じるに足りる相当の理由があったとき、または②被害を訴える人の申出を受けて発信者に照会し、発信者が照会を受けた日から7日を経過しても同意しない旨の申出がなかったとき、は賠償の責任を負わない(3条2項)。
- 選挙の特例(4条):選挙運動の期間中に頒布された文書図画に係る情報で、公職の候補者等から名誉の侵害の申出があった場合などは、照会から2日を経過すれば足りるなどの特例がある。
発信者情報の開示:請求と開示命令(5条〜19条)
- 開示請求(5条1項):権利を侵害されたとする者は、事業者に、発信者情報の開示を請求できる。要件は、①権利が侵害されたことが明らかであること、②損害賠償の請求のためなど、開示を受けるべき正当な理由があること。一部の発信者情報(特定発信者情報)の開示には、③の追加の要件がある。
- 発信者の意見の聴取(6条1項):開示請求を受けた事業者は、連絡がとれないなど特別の事情がある場合を除き、発信者の意見を聴かなければならない。
- 開示しなかった事業者の責任(6条4項):開示請求に応じなかったことで請求者に生じた損害は、故意または重大な過失がある場合でなければ、賠償の責任を負わない。事業者自身が発信者であるときは別。
- 開示を受けた人の義務(7条):発信者情報をみだりに用いて、不当に発信者の名誉や生活の平穏を害する行為をしてはならない。
- 発信者情報開示命令(8条):裁判所が、申立てにより、決定で、事業者に開示を命じる。令和3年法律第27号の改正で設けられ、2022年10月1日に施行された手続。
- 提供命令・消去禁止命令(15条・16条):発信者を特定できなくなるのを防ぐため、裁判所は、ほかの事業者の情報の提供や、発信者情報を消さないことを命じられる。
- 異議の訴え(14条):開示命令の申立てについての決定に不服がある当事者は(除かれる決定もある)、告知を受けた日から1か月の不変期間内に、異議の訴えを起こせる。
大規模特定電気通信役務提供者の義務(20条〜34条)
令和6年の改正で加わったのが第5章です。総務大臣が、利用者の数などが総務省令で定める基準を超える事業者を指定します(20条)。指定された事業者には、次の義務があります。
| 何を | いつ・どう | 条 |
|---|---|---|
| 届出 | 指定から3か月以内 | 21条 |
| 削除の申出の受付の方法の公表 | ネットで申し出られ、過重な負担をかけない方法 | 22条 |
| 申出についての調査 | 遅滞なく | 23条 |
| 侵害情報調査専門員の選任 | 総務省令の数以上、届け出る | 24条 |
| 申出者への通知 | 申出の日から14日以内の総務省令で定める期間内 | 25条 |
| 削除などの基準の公表 | 公表した基準に従う場合に限り削除できる(例外あり) | 26条 |
| 発信者への通知 | 措置をとった旨と理由 | 27条 |
| 実施状況の公表 | 毎年1回 | 28条 |
義務に違反しているときは、総務大臣が勧告し、正当な理由なく従わなければ命令できます(30条)。25条の通知は、発信者の意見を聴くときや専門員に調査させるときなどは、判断のあと遅滞なく通知すればよいとされています(25条2項)。
プロバイダ責任制限法から何が変わったか
| 時期 | 改正 | 主な中身 |
|---|---|---|
| 2022年10月1日施行 | 令和3年法律第27号 | 発信者情報開示命令の裁判手続(いまの第4章) |
| 2025年4月1日施行 | 令和6年法律第25号 | 題名の変更、大規模特定電気通信役務提供者の義務(第5章) |
| 2027年3月1日施行 | 令和8年法律第58号 | 選挙の公正への悪影響を軽減する措置(新27条の2) |
新27条の2は、大規模特定電気通信役務提供者に、選挙の公正を害するおそれのある情報の流通による悪影響を軽減するため、必要な措置を講じることを義務づけます(e-Gov の2027年3月1日時点の版で確かめました)。総務大臣が指針を定め、公表します。令和8年度試験の基準日(令和8年4月1日)には施行されていないので、令和8年度試験の範囲外です。施行日の令和9年3月1日は令和9年4月1日より前なので、「試験を実施する年度の4月1日現在施行されている法令」という試験の一般の定めに従えば、令和9年度試験では施行済みの法令になります。このほか、基準日のあとに、民事訴訟法等の一部を改正する法律(令和4年法律第48号)による改正が2026年5月21日に、令和8年法律第58号のうち公布の日から施行される部分が2026年7月17日に施行されています(e-Gov の改正履歴)。この記事の説明は、令和8年4月1日時点の条文によります。
当てはまる例・当てはまらない例
- 当てはまる例:ひろばSNSが、ゆなさんの申出を受けて書き込んだ人に照会し、7日たっても反対の申出がなかったので削除した。必要な限度での削除なら、書き込んだ人に対して賠償の責任を負いません(3条2項2号)。
- 当てはまらない例:ひろばSNSの社員が、会社として自ら問題の書き込みをしていた。事業者自身が発信者のときは、3条1項の制限は使えません(同項ただし書)。
- 当てはまらない例:ゆなさんが、書き込んだ人に個人的に仕返しをするために発信者情報の開示を求めた。開示を受けるべき正当な理由(5条1項2号)に当たりません。
- ひっかけやすい例:メールで1人だけに送られた中傷。不特定の者に受信されることを目的とする送信ではないので、特定電気通信(2条1号)に当たりません。
- ひっかけやすい例:14日以内の通知の義務は、すべての事業者ではなく、総務大臣の指定を受けた大規模特定電気通信役務提供者の義務です(20条・25条)。
書き込みの削除や開示は、書いた人の表現の自由ともかかわります。憲法の考え方は表現の自由の記事で扱っています。基礎知識の情報通信の用語は情報通信の用語の記事、基礎知識の全体の進め方は基礎知識の記事にまとめています。
試験ではここをまちがえやすい
- 題名と施行日:令和6年法律第25号で題名が変わり、2025年4月1日施行。もとの法律の番号(平成13年法律第137号)は同じ。
- 7日と2日:削除の前の発信者への照会は7日(3条2項2号)。2日は選挙運動期間中の公職の候補者等の特例(4条)。
- 責任の重さの違い:削除しなかった責任は「知っていた」か「知ることができたと認めるに足りる相当の理由」(3条1項)。開示しなかった責任は故意か重大な過失(6条4項)。
- 大規模事業者だけの義務:受付の方法の公表、14日以内の通知、基準の公表、毎年の公表は、指定を受けた事業者の義務。
- 開示命令は裁判所の決定:不服は1か月以内の異議の訴え(14条)。
○✕でたしかめよう
問1(このサイトのオリジナル問題)
ひろばSNSは、ゆなさんの権利を侵害する書き込みを削除しなかった。削除は技術的に可能だったが、ひろばSNSは侵害を知らず、知ることができたと認めるに足りる相当の理由もなかった。ひろばSNSは、ゆなさんに賠償の責任を負わない。
答え:○ 分かれ目は、技術的に可能なことだけで責任が生じるかです。3条1項は、送信防止措置が技術的に可能な場合であって、かつ、侵害を知っていたとき、または知ることができたと認めるに足りる相当の理由があるとき、でなければ責任を負わないとしています。削除できたのにしなかったのだから責任がある、と考えると✕に見えます。ひろばSNS自身が書き込んだ人なら、ただし書でこの制限は使えません。
問2(このサイトのオリジナル問題)
ゆなさんの店についての書き込みで、ゆなさんから削除の申出を受けたひろばSNSは、書き込んだ人に削除に同意するか照会した。照会から2日を経過して同意しない旨の申出がなければ、削除しても書き込んだ人への賠償の責任を負わない。
答え:✕ 分かれ目は、照会のあと待つ日数です。3条2項2号は、発信者が照会を受けた日から7日を経過しても同意しない旨の申出がなかったときに、削除した事業者が発信者への責任を負わないとしています。正しくは、2日ではなく7日です。2日は、選挙運動の期間中に頒布された文書図画に係る情報で、公職の候補者等が名誉の侵害を申し出た場合の特例(4条1号)の日数で、ゆなさんの店の場面には当たりません。
問3(このサイトのオリジナル問題)
ゆなさんは、ひろばSNSに発信者情報の開示を請求したが、ひろばSNSは開示しなかった。開示しなかったことに軽い過失があっても、故意または重大な過失がなければ、ひろばSNSは、ゆなさんに生じた損害を賠償する責任を負わない。
答え:○ 分かれ目は、開示しなかった事業者の責任の程度です。6条4項は、開示請求に応じないことで請求者に生じた損害について、故意または重大な過失がある場合でなければ賠償の責任を負わないとしています。過失があれば賠償、という民法の不法行為の考え方で読むと✕に見えます。削除しなかった責任(3条1項)は「知ることができたと認めるに足りる相当の理由」で決まり、2つの基準は別です。
この分野の○✕は、行政書士の5分○✕ドリルの「基礎知識」で続けて解けます。
まとめ
- 正式名称は「特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律」。プロバイダ責任制限法の題名を改め、2025年4月1日施行。
- 削除しなかった責任は、技術的に可能で、侵害を知っていたか知ることができた相当の理由があるときだけ。削除した責任は、相当の理由か、照会から7日。
- 開示請求は「侵害が明らか」と「正当な理由」。裁判所の開示命令もある。開示しなかった責任は故意・重大な過失のときだけ。
- 大規模事業者は、受付の方法と基準を公表し、申出から14日以内の総務省令の期間に通知し、毎年1回状況を公表する。
- 選挙の公正のための措置の義務(新27条の2)は2027年3月1日施行。令和8年度試験の範囲外。
このサイトで次に読むなら、個人情報保護法の記事です。発信者情報のように「だれかを特定できる情報」を事業者がどう扱うかの一般のルールを確かめられます。
参考にした公式の情報(2026年10月確認)
条文は、e-Gov 法令検索で令和8年4月1日時点の法令を確かめました。改正の履歴は e-Gov 法令API の改正履歴で、新27条の2は2027年3月1日時点の版で確かめました。
- e-Gov法令検索「特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律」(1条〜8条、14条〜16条、20条〜30条、令和9年3月1日施行の27条の2)
- 総務省「令和7年版 情報通信白書:情報流通プラットフォーム対処法の施行」
働く人の法律試験ノート