ひとことで言うと、著作権法では、著作物を創作した著作者が、登録などの手続なしに(17条2項)、2種類の権利を持ちます。著作者人格権(公表権・氏名表示権・同一性保持権)と、著作権(複製権・公衆送信権など)です(17条1項)。著作権は譲渡できます(61条1項)。著作者人格権は著作者の一身に専属し、譲渡できません(59条)。著作権の保護期間は、原則として著作者の死後70年です(51条2項)。
著作権法には、許諾なしに著作物を使える場面(権利の制限)も決められています。私的使用のための複製(30条)、著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用(30条の4)、引用(32条)、学校その他の教育機関での複製等(35条)です。文化庁が生成AIの学習との関係で説明している30条の4には、著作権者の利益を不当に害することとなる場合は除く、というただし書があります(2026年10月17日に e-Gov 法令検索で確認)。
この記事の位置づけ:基礎知識の4分野(一般知識・業務関連法令・情報通信と個人情報保護・文章理解)のうち、情報通信・個人情報保護の分野の記事です。足切り(令和7年度の合否判定基準では基礎知識24点=6問)を越えるための6問を、文章理解と、条文で答えが決まる法令から先に固める、という基礎知識の記事の順番は変わりません。裁判の例、個別のサービス、契約書の書き方には入らず、令和8年4月1日時点の条文と、文化庁の公表している説明の範囲だけを整理します。
身近な例で考えると
ゆいさんは、会社に勤めながら、休日に個人でイラストを描いて仕事を受けています。行政書士試験の勉強も始めました。ある日、出版社のB社から、本の表紙のイラストを頼まれました。
- ゆいさんがイラストを描き上げた。この時点で、届け出も登録もしていないが、ゆいさんは著作者として著作者人格権と著作権を持つ(17条)。
- ゆいさんとB社は、イラストの著作権をB社に譲渡する契約を結んだ(61条1項)。
- B社の担当者が、ゆいさんに断らずに、イラストの人物の表情を大きく描き変えて使おうとした。
2で移ったのは著作権だけで、著作者人格権はゆいさんに残ります(59条)。3は、同一性保持権(20条)の問題になります。たとえると、著作権は「作品を使ってお金にする権利」で人に渡せますが、著作者人格権は「作者としての気持ちを守る権利」で、作者から離れません。ただし本物のルールでは、同一性保持権にも、やむを得ないと認められる改変などの例外があります(20条2項)。
条文ではこう決まっている
著作物と著作者(2条・10条・13条)
著作物は「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」です(2条1項1号)。著作者は「著作物を創作する者」です(同項2号)。10条1項は、言語・音楽・舞踊又は無言劇・美術・建築・地図や図形・映画・写真・プログラムの9つを例示しています。10条2項は、事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道は、言語の著作物に該当しないとしています。法令や判決などが権利の目的とならないこと(13条)は、判例の読み方の記事と判決文の問題の記事で触れています。
著作者人格権の3つ(18条〜20条)
- 公表権(18条1項):まだ公表されていない著作物(同意を得ないで公表されたものを含む)を、公衆に提供し、又は提示する権利。
- 氏名表示権(19条1項):実名か変名を著作者名として表示するか、表示しないこととするかを決める権利。
- 同一性保持権(20条1項):著作物とその題号の同一性を保持し、その意に反して変更、切除その他の改変を受けない権利。2項は4つの号で、適用しない改変を決めています。4号は「著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変」です。
「著作者人格権」という言葉は、17条1項が18条1項・19条1項・20条1項の権利をまとめて呼ぶ法律の言葉です。一方、契約書で見かける「著作者人格権の不行使」は、著作権法の条文にある言葉ではありません。文化庁の「誰でもできる著作権契約マニュアル」は、著作者人格権は譲渡できないとしたうえで、「著作者人格権を行使しない旨を規定する例も見受けられます」と説明しています。
著作権の中身と保護期間(21条〜28条・51条・53条)
著作権は、21条〜28条の権利の束です。たとえば、複製権(21条:著作物を複製する権利を専有する)、公衆送信権等(23条)、翻訳権、翻案権等(27条)があります。著作権の存続期間は著作物の創作の時に始まり(51条1項)、原則として著作者の死後(共同著作物は最終に死亡した著作者の死後)70年を経過するまで続きます(同条2項)。法人その他の団体が著作の名義を持つ著作物は、公表後70年(創作後70年以内に公表されなかったときは創作後70年)です(53条1項)。文化庁の説明では、死後50年から70年への延長は平成30年12月30日に施行され、その前日に著作権が消滅していなかったものだけが延びました。
許諾なしに使える主な場面(権利の制限)
| 条 | 何ができるか | 条件・ただし書 |
|---|---|---|
| 30条1項 | 私的使用(個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内での使用)を目的として、使用する者が複製する | 技術的保護手段の回避で可能になった複製と知りながら行う場合や、違法に送信されたものと知りながらの録音・録画・複製などは除く(各号) |
| 30条の4 | 思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合(情報解析の用に供する場合など)に、必要と認められる限度で、いずれの方法によるかを問わず利用する | 著作物の種類及び用途並びに利用の態様に照らし、著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない |
| 32条1項 | 公表された著作物を引用して利用する | 公正な慣行に合致し、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われること |
| 35条1項 | 営利を目的としない教育機関で、教育を担任する者と授業を受ける者が、授業の過程で公表された著作物を複製・公衆送信などする | 必要と認められる限度。著作権者の利益を不当に害する場合は除く。公衆送信には補償金(2項) |
30条の4の「情報解析」は、多数の著作物その他の大量の情報から、言語、音、影像などの要素の情報を抽出し、比較、分類その他の解析を行うことです(2号)。
生成AIについて文化庁が示した考え方
文化審議会著作権分科会法制度小委員会の「AIと著作権に関する考え方について」(令和6年3月15日)は、場面を「開発・学習段階」と「生成・利用段階」に分けて整理しています。文化庁の概要資料から、要点だけを並べます。この考え方は、それ自体に法的な拘束力はないと明記されています。AIの研究開発と活用を進めるための国の仕組みは、AI推進法の記事で扱っています。
- 開発・学習段階:情報解析など享受を目的としない利用は30条の4の対象になり得る。ただし、享受する目的が併存しているような場合は30条の4は適用されない。情報解析用に販売されているデータベースの著作物を情報解析の目的で複製することは、ただし書に当たる例として挙げられている。
- 生成・利用段階:生成物を公表・販売などするときは、通常の著作権侵害と同じく、既存の著作物との「類似性」と「依拠性」で判断する。
- AI生成物が著作物になるか:AIが自律的に生成したものは著作物に当たらないと考えられ、人がAIを道具として使い、創作意図と創作的寄与があれば著作物になり得る。
罰則(119条)
著作権などを侵害した者は、10年以下の拘禁刑若しくは1,000万円以下の罰金、またはその両方です(119条1項)。著作者人格権を侵害した者は、5年以下の拘禁刑若しくは500万円以下の罰金、またはその両方です(同条2項1号)。刑の名前は、令和7年6月1日施行の刑法等の改正のあとの「拘禁刑」です。
当てはまる例・当てはまらない例
- 当てはまる例:ゆいさんのイラスト。思想又は感情を創作的に表現した美術の著作物で、描き上げた時点で権利が生じます(2条1項1号・10条1項4号・17条2項)。
- 当てはまらない例:事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道。言語の著作物に該当しません(10条2項)。
- 当てはまる例:著作権をB社に譲渡したあとでも、意に反して大きく描き変えられたら、ゆいさんは同一性保持権を主張できます。著作者人格権は譲渡できないからです(59条・20条1項)。
- ひっかけやすい例:「著作権を全部譲渡する」とだけ書いた契約。27条(翻案権など)と28条の権利が譲渡の目的として特掲されていないときは、これらは譲渡した者に留保されたものと推定されます(61条2項)。
- ひっかけやすい例:会社などの団体の名義で公表された著作物の保護期間。著作者の死後ではなく、公表後70年で数えます(53条1項)。
似ているルールとの違い
| 比べる点 | 著作者人格権 | 著作権 |
|---|---|---|
| 中身 | 公表権・氏名表示権・同一性保持権(18条〜20条) | 複製権・公衆送信権・翻案権など(21条〜28条) |
| 譲渡 | できない(59条:一身に専属) | 全部又は一部を譲渡できる(61条1項) |
| 相続 | 一身に専属するので承継されない(民法896条ただし書) | 財産として承継される。相続人がいないなどで国庫に帰属すべきときは消滅(62条1項1号) |
| 著作者が亡くなった後 | 権利は承継されないが、著作物を提供・提示する者は、侵害となるべき行為をしてはならない(60条。意を害しないと認められる場合を除く) | 原則として死後70年まで存続(51条2項) |
60条は、著作物を公衆に提供し、又は提示する者に向けて、著作者が存しなくなった後でも、著作者が生きていれば著作者人格権の侵害となるべき行為をしてはならないと定めています。ただし、行為の性質及び程度、社会的事情の変動その他により、著作者の意を害しないと認められる場合は除かれます。著作者が亡くなった後は、遺族(配偶者、子、父母、孫、祖父母又は兄弟姉妹)が、60条に違反する行為をする者などに差止めの請求(112条)を、故意又は過失により違反した者に名誉回復などの措置の請求(115条)をすることができます(116条1項)。著作者人格権そのものが相続されるのではなく、法律が遺族にこれらの請求を認めている形です。
作品ではなく、事業の情報を秘密として守る仕組みは、不正競争防止法の営業秘密の記事で扱っています。
試験ではここをまちがえやすい
- 無方式:著作者人格権も著作権も、いかなる方式の履行も要しない(17条2項)。登録で生じる権利と取り違えない。
- 譲渡の可否:著作権は譲渡できる(61条1項)。著作者人格権は譲渡できない(59条)。「著作者人格権の不行使」は法律の言葉ではなく、契約で見られる定め方。
- 保護期間の起算:原則は著作者の死後70年(51条2項)。団体名義は公表後70年(53条1項)。
- 30条の4のただし書:享受を目的としない利用でも、著作権者の利益を不当に害することとなる場合は使えない。
- 引用の条件:対象は「公表された著作物」。公正な慣行に合致し、目的上正当な範囲内であること(32条1項)。
○✕でたしかめよう
問1(このサイトのオリジナル問題)
ゆいさんは、自分で描いたイラストの著作権を出版社のB社に譲渡した。契約にほかの定めがない場合でも、B社がゆいさんの意に反してイラストを大きく描き変えたときは、ゆいさんは同一性保持権を主張できる。
答え:○ 分かれ目は、何が譲渡されたかです。著作者人格権は著作者の一身に専属し、譲渡することができないので(59条)、著作権を譲渡しても同一性保持権(20条1項)はゆいさんに残ります。著作権を全部譲ったのだから作品をどう変えても自由になる、と考えると✕に見えます。譲渡できるのは著作権(61条1項)で、著作者人格権とは扱いが分かれます。
問2(このサイトのオリジナル問題)
ゆいさんは、個人として描いたイラストを、自分の実名を著作者名として公表した。このイラストの著作権は、原則として、そのイラストが公表された時から70年を経過するまでの間、存続する。
答え:✕ 分かれ目は、70年を数え始める時点です。正しくは、著作権は創作の時に始まり、原則として著作者の死後70年を経過するまでの間存続します(51条1項・2項)。公表後70年で数えるのは、法人その他の団体が著作の名義を有する著作物などです(53条1項)。団体名義の著作物の決まりを、個人の実名の著作物に当てはめた誤りです。
問3(このサイトのオリジナル問題)
著作物を情報解析の用に供する場合であっても、その著作物の種類及び用途並びに利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなるときは、30条の4による利用はできない。
答え:○ 分かれ目は、30条の4のただし書です。30条の4は、情報解析の用に供する場合など享受を目的としない利用を、必要と認められる限度で認めますが、「著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない」としています。情報解析なら許諾なく何でもできる、と考えると✕に見えます。文化庁の考え方も、情報解析用に販売されているデータベースの著作物の複製を、ただし書に当たる例に挙げています。
基礎知識の○✕は、行政書士の5分○✕ドリルの「基礎知識」で続けて解けます。
まとめ
- 著作物=思想又は感情を創作的に表現したもの(2条1項1号)。権利は手続なしに生じる(17条2項)。
- 著作者人格権(公表権・氏名表示権・同一性保持権)は譲渡できない(59条)。著作権は譲渡できる(61条1項)。27条・28条は特掲しないと譲渡した者に留保と推定(61条2項)。
- 保護期間は原則として死後70年(51条2項)、団体名義は公表後70年(53条1項)。延長は平成30年12月30日施行。
- 権利の制限:私的使用(30条)、享受を目的としない利用(30条の4、ただし書あり)、引用(32条)、教育機関(35条)。
- 罰則:著作権侵害は10年以下の拘禁刑若しくは1,000万円以下の罰金・併科、著作者人格権の侵害は5年以下・500万円以下(119条)。
このサイトで次に読むなら、情報通信の用語の記事です。同じ情報通信・個人情報保護の分野で、法律に定義がある言葉を条文で押さえる、という読み方がこの記事と同じです。
参考にした公式の情報(2026年10月確認)
条文は、e-Gov 法令検索で令和8年4月1日時点の内容を確かめました(2026年10月17日確認)。
- e-Gov法令検索「著作権法」(2条1項1号・2号、10条、13条、17条、18条1項、19条1項、20条、21条、23条1項、27条、30条1項、30条の4、32条1項、35条1項・2項、51条、53条1項、59条、60条、61条、62条1項1号、112条、115条、116条1項、119条1項・2項)
- e-Gov法令検索「民法」(896条)
- 文化庁「著作物等の保護期間の延長に関するQ&A」(施行日、延長の対象)
- 文化庁「誰でもできる著作権契約マニュアル」第1章1.(3)(著作者人格権を行使しない旨の規定)
- 文化庁「AIと著作権について」と、「AIと著作権に関する考え方について」【概要】(令和6年3月15日、文化審議会著作権分科会法制度小委員会)
働く人の法律試験ノート