ヘイトスピーチ解消法と部落差別解消推進法:平成28年にできた2つの法律の定義・国と地方公共団体の責務と、罰則がないこと

ひとことで言うと、ヘイトスピーチ解消法と部落差別解消推進法は、どちらも平成28年に施行された、差別の解消に向けた国と地方公共団体の取組を定める法律で、罰則の規定はありません。国には施策を実施する責務を、地方公共団体には地域の実情に応じた施策を講ずる努力を求め、相談体制・教育・啓発を柱にしています。部落差別解消推進法は、国が行う実態の調査(6条)も定めています。

この記事の位置づけ:基礎知識の4分野(一般知識・業務関連法令・情報通信と個人情報保護・文章理解)のうち、一般知識の社会の記事です。足切りを越える6問は、文章理解と、条文で答えが決まる法令から先に固める、というのが基礎知識の記事の考え方で、この記事も同じ立場です。その準備が進んでから、制度の骨組みを知るために読んでください。

「ヘイトスピーチ解消法」「部落差別解消推進法」は、どちらも法律の題名ではなく略した呼び方です(法務省の説明は、どちらの呼び方も使っています)。この記事は、2つの法律が何を定めているかを、条文と法務省の説明の言葉だけで書きます。具体的な言動や出来事、地域や団体には触れず、法律への評価や賛否も扱いません。条文は令和8年4月1日時点の法令を、2026年10月17日に e-Gov 法令検索で確かめました。

身近な例で考えると

市役所で人権啓発の担当になったみおさんが、2つの法律が市に何を求めているかを、条文で確かめていきます。

  1. 相談:どちらの法律も、国は相談体制を整備・充実する「ものとする」。市などの地方公共団体は、国との適切な役割分担を踏まえ、地域の実情に応じて「努める」(ヘイトスピーチ解消法5条、部落差別解消推進法4条)。
  2. 教育・啓発:同じく、国は行う「ものとする」、地方公共団体は「努める」(ヘイトスピーチ解消法6条・7条、部落差別解消推進法5条)。
  3. 実態の調査:部落差別解消推進法6条で、国が、地方公共団体の協力を得て行う。市は協力する側。
  4. 罰則:どちらの法律にも、罰則の規定はない。

たとえると、2つの法律は、差別のない社会に向けて国と地方公共団体が何をするかを決めた「取組の工程表」で、違反した人に罰を科す規定は置いていません。ただし本物のルールでは、ヘイトスピーチ解消法の前文は、本邦外出身者に対する不当な差別的言動は「許されないことを宣言する」とし、部落差別解消推進法1条も、部落差別は「許されないものであるとの認識の下に」解消することが重要な課題だとしています。罰則の有無と、法律が「許されない」と書いていることは、分けて押さえます。

条文ではこう決まっている(ヘイトスピーチ解消法)

正式な題名は「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律」(平成28年法律第68号)です。平成28年6月3日に公布され、附則1項で公布の日から施行されました。前文(3つの段落)と、第1章 総則(1条〜4条)、第2章 基本的施策(5条〜7条)からなります。

  • 1条(目的):本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消が喫緊(きっきん)の課題であることに鑑み、その解消に向けた取組について、基本理念を定め、国等の責務を明らかにするとともに、基本的施策を定め、これを推進する。
  • 2条(定義):①対象は、専ら本邦の域外にある国若しくは地域の出身である者又はその子孫であって適法に居住するもの(本邦外出身者)。②差別的意識を助長し又は誘発する目的で、③公然と生命・身体・自由・名誉・財産に危害を加える旨を告知し、又は著しく侮蔑するなど、④本邦の域外にある国又は地域の出身であることを理由として、本邦外出身者を地域社会から排除することを煽動(せんどう)する不当な差別的言動。
  • 3条(基本理念):主語は「国民は」。不当な差別的言動の解消の必要性に対する理解を深め、不当な差別的言動のない社会の実現に寄与するよう努めなければならない。
  • 4条(国及び地方公共団体の責務):国は、解消に向けた施策を実施するとともに、地方公共団体の施策を推進するために必要な助言その他の措置を講ずる責務を有する(1項)。地方公共団体は、国との適切な役割分担を踏まえて、地域の実情に応じた施策を講ずるよう努めるものとする(2項)。
  • 附則2項:施行後の不当な差別的言動の実態等を勘案し、必要に応じ、検討が加えられるものとする。

法務省は「ヘイトスピーチ解消法が平成28年6月3日に施行され」たと説明しています。

条文ではこう決まっている(部落差別解消推進法)

正式な題名は「部落差別の解消の推進に関する法律」(平成28年法律第109号)です。平成28年12月16日に公布され、附則で公布の日から施行されました。条文は1条〜6条の6つで、定義の条はありません。

  • 1条(目的):現在もなお部落差別が存在するとともに、情報化の進展に伴って部落差別に関する状況の変化が生じていることを踏まえ、部落差別は許されないものであるとの認識の下にこれを解消することが重要な課題であることに鑑み、基本理念を定め、国及び地方公共団体の責務を明らかにし、相談体制の充実等について定めることで、部落差別の解消を推進し、部落差別のない社会を実現する。全ての国民に基本的人権の享有を保障する日本国憲法の理念にのっとることも、1条に書かれています。
  • 2条(基本理念):全ての国民が等しく基本的人権を享有するかけがえのない個人として尊重されるものであるとの理念にのっとり、部落差別を解消する必要性に対する国民一人一人の理解を深めるよう努めることで、部落差別のない社会を実現することを旨として、施策を行わなければならない。
  • 3条(国及び地方公共団体の責務):国は、施策を講ずるとともに、地方公共団体の施策を推進するために必要な情報の提供、指導及び助言を行う責務を有する(1項)。地方公共団体は、国との適切な役割分担を踏まえて、地域の実情に応じた施策を講ずるよう努めるものとする(2項)。
  • 6条(部落差別の実態に係る調査):国は、施策の実施に資するため、地方公共団体の協力を得て、部落差別の実態に係る調査を行うものとする。

法務省は、この法律が平成28年12月16日から施行されたこと、6条に基づいて部落差別の実態に係る調査を実施したことを説明しています。

2つの法律を、定義・責務・施策・罰則で表にすると

項目ヘイトスピーチ解消法部落差別解消推進法
法律番号平成28年法律第68号平成28年法律第109号
施行日平成28年6月3日平成28年12月16日
前文・定義前文あり。2条に定義前文・定義の条はない
国の責務施策の実施と、地方公共団体への助言その他の措置(4条1項)施策と、地方公共団体への情報の提供・指導・助言(3条1項)
地方公共団体地域の実情に応じた施策に努める(4条2項)地域の実情に応じた施策に努める(3条2項)
相談国は整備するものとし、地方公共団体は努める(5条)国は充実を図るものとし、地方公共団体は努める(4条)
教育・啓発同じ書き分け(6条・7条)同じ書き分け(5条)
調査附則2項に、実態等を勘案した検討国が地方公共団体の協力を得て行う(6条)
罰則ないない

罰則はあるか

ありません。どちらの法律にも罰則の章・条はなく、特定の行為を禁止して違反に制裁を科す規定もありません。定められているのは、国と地方公共団体の責務と、相談体制・教育・啓発・調査などの施策です。ヘイトスピーチ解消法3条は国民に努力を求める規定です。

罰則の規定がないことは、法律が差別的言動や部落差別を許されるものとしている、という意味ではありません。前文と1条が「許されない」と書いていることは、上の「身近な例で考えると」で見たとおりです。

憲法21条の表現の自由の考え方そのものは表現の自由の記事、憲法14条の平等の考え方は法の下の平等の記事で扱っています。

当てはまる例・当てはまらない例

  1. 当てはまる例:国が、本邦外出身者に対する不当な差別的言動に関する相談に的確に応ずるとともに、これに関する紛争の防止又は解決を図ることができるよう必要な体制を整備する(ヘイトスピーチ解消法5条1項。「ものとする」)。
  2. 当てはまらない例:「地方公共団体は、相談体制を整備しなければならない」という説明。5条2項は「整備するよう努めるものとする」で、努力の規定です。
  3. ひっかけやすい例:部落差別の実態に係る調査を行う主体。行うのは国で、地方公共団体はその協力をする側です(6条)。
  4. ひっかけやすい例:ヘイトスピーチ解消法3条の「基本理念」。主語は国や地方公共団体ではなく「国民は」で、理解を深め、社会の実現に寄与するよう努める規定です。
  5. 当てはまらない例:「部落差別解消推進法2条で部落差別を定義している」という説明。2条は基本理念で、この法律に定義の条はありません。

同じ平成28年の4月1日には、障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(平成25年法律第65号)も施行されています。こちらは行政機関等と事業者に義務を課し、報告をしない場合の過料などの罰則もある点で、組み立てが違います(中身は障害者差別解消法の記事)。国際的な取決めの側は人種差別撤廃条約の記事で扱っています。

試験ではここをまちがえやすい

  • 施行日:ヘイトスピーチ解消法は平成28年6月3日、部落差別解消推進法は平成28年12月16日。どちらも公布の日から施行。
  • 国と地方の書き分け:国は「責務を有する」「ものとする」、地方公共団体は「努めるものとする」。
  • 罰則:どちらの法律にもない。前文・1条の「許されない」は宣言・認識の言葉。
  • 定義:ヘイトスピーチ解消法は2条に定義あり。部落差別解消推進法は定義の条なし(2条は基本理念)。
  • 調査:部落差別解消推進法6条で、国が地方公共団体の協力を得て行う。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題)
ヘイトスピーチ解消法は、前文で、本邦外出身者に対する不当な差別的言動は許されないことを宣言しているが、罰則の規定を置いていない点では、部落差別解消推進法と共通している。

答え:○ 分かれ目は、宣言の言葉と罰則の関係です。ヘイトスピーチ解消法は前文と1条〜7条・附則からなり、部落差別解消推進法は1条〜6条・附則からなりますが、どちらにも罰則の規定はありません。「許されない」と宣言しているのだから罰則もあるはずだ、と考えると✕に見えます。罰則のある差別の解消の法律としては、報告をしない場合の過料などを置く障害者差別解消法があり、その組み立てと混ぜないことが要点です。

問2(このサイトのオリジナル問題)
ヘイトスピーチ解消法では、相談体制について、国は必要な体制を整備するものとされ、地方公共団体は、国との適切な役割分担を踏まえて、地域の実情に応じ、必要な体制を整備するよう努めるものとされている。

答え:○ 分かれ目は、国と地方公共団体の書き分けです。5条1項は国について「必要な体制を整備するものとする」、5条2項は地方公共団体について「必要な体制を整備するよう努めるものとする」としています。国も地方も同じ強さで義務を負う、と考えると✕に見えます。教育(6条)・啓発(7条)も同じ書き分けで、4条の責務も、国は「責務を有する」、地方公共団体は「努めるものとする」です。

問3(このサイトのオリジナル問題)
部落差別解消推進法では、相談体制の充実や教育・啓発について国と地方公共団体の両方に役割が定められているが、部落差別の実態に係る調査は、地方公共団体が、国の協力を得て行うものとされている。

答え:✕ 分かれ目は、調査をする主体です。6条は、国は、部落差別の解消に関する施策の実施に資するため、地方公共団体の協力を得て、部落差別の実態に係る調査を行うものとしています。正しくは、調査をするのは国で、協力するのが地方公共団体です。相談体制(4条)や教育・啓発(5条)で地方公共団体にも役割があるため、調査の主体と協力する側を入れ替えた誤りです。

基礎知識の○✕は、行政書士の5分○✕ドリルの「基礎知識」で続けて解けます。

まとめ

  • ヘイトスピーチ解消法:平成28年法律第68号、平成28年6月3日施行。前文と2条の定義がある。
  • 部落差別解消推進法:平成28年法律第109号、平成28年12月16日施行。定義の条はなく、6条で国の実態調査。
  • どちらも、国は「責務を有する」「ものとする」、地方公共団体は「努めるものとする」。
  • どちらにも罰則の規定はない。相談体制・教育・啓発が施策の柱。

このサイトで次に読むなら、アイヌ施策推進法の記事です。同じく国と地方公共団体の取組を定める法律ですが、4条に「何人も」で始まる差別の禁止の規定がある点が違います。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)

条文は、e-Gov 法令検索で令和8年4月1日時点の法令を、2026年10月17日に確かめました。法務省の説明も同じ日に確かめています。

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