剰余金の配当と分配可能額:配当を決める機関・財源の規制と、規制に違反したときの責任

ひとことで言うと、剰余金の配当は、会社が株主にもうけなどを分けることで、原則としてその都度、株主総会の決議で決めます(会社法454条1項)。配当できる額には分配可能額という上限があり(461条)、超えて配ると、受け取った株主や配当を進めた取締役などが会社に支払う義務を負います(462条)。

この記事では、だれが配当を決めるか、どんな財源の規制がかかるか、違反したときにだれが責任を負うかを扱います。分配可能額の計算は条文の骨組みだけを示し、勘定科目や仕訳には入りません。株主の権利の全体は株式と株主の権利の記事に任せます。

身近な例で考えると

あおば工業株式会社(取締役会設置会社)は、今年はもうけが出たので、株主に配当をしたいと考えています。代表取締役はゆうきさんです。

  1. 定時株主総会で、配当財産の種類と総額、株主への割当て、効力が生じる日を決める(454条1項)。普通決議で足ります。
  2. 定款に中間配当の定めを置けば、事業年度の途中に1回だけ、取締役会の決議で配当できる。ただし金銭に限られる(454条5項)。
  3. 配る総額は、効力が生じる日の分配可能額を超えてはならない(461条1項8号)。
  4. もし超えて配ったら、受け取った株主と、配当の職務を行ったゆうきさんらは、連帯して、配った額を会社に支払う義務を負う(462条1項)。

たとえるなら、分配可能額は「家計の中で、生活費や借金の返済分を除いて使ってよいお小遣いの枠」です。ただし本物のルールでは、枠の計算は会社法と法務省令で細かく決まっており、枠を超えた分は、使った人だけでなく、使うことを決めた人も返す責任を負います。

条文ではこう決まっている

だれが配当を決めるか(453条〜459条・309条2項10号)

場面決める機関条文
ふつうの配当株主総会(普通決議)。その都度決める454条1項
金銭以外の物で配り、金銭分配請求権を与えない株主総会の特別決議454条4項・309条2項10号
中間配当(年1回・金銭だけ)取締役会(取締役会設置会社が定款で定める)454条5項
会計監査人設置会社などで定款に定めがある取締役会459条1項4号
  • 453条:株式会社は、株主(その会社自身を除く)に配当できる。会社が持っている自己株式には配当しません。
  • 454条4項:配当財産が金銭以外のとき(現物配当)、株主に金銭分配請求権(物の代わりに金銭を求める権利)を与えることができる。与えないなら特別決議(309条2項10号)。
  • 459条1項:会計監査人設置会社で、取締役の任期が1年を超えず、監査役会設置会社など(監査役設置会社であって監査役会設置会社でないものを除く)であれば、配当の事項を取締役会が定めることができる旨を定款で定められる。金銭分配請求権を与えない現物配当は除きます。
  • 458条:453条から457条までの規定は、純資産額が300万円を下回る場合には適用しない。つまり、その会社は配当できません。
  • 445条4項:配当をするときは、配当で減る剰余金の額の10分の1を、資本準備金または利益準備金として計上する(法務省令で定めるところによる)。

財源の規制:分配可能額(446条・461条)

  • 461条1項:配当などで株主に交付する金銭等の帳簿価額の総額は、その行為の効力が生じる日の分配可能額を超えてはならない。
  • 対象は配当(8号)だけではありません。譲渡制限株式の買取り(1号)や、株主との合意による自己株式の取得(2号・3号)なども、同じ上限を受けます。
  • 461条2項の骨組み:分配可能額=剰余金の額(+臨時計算書類の利益など)−自己株式の帳簿価額−期末後に処分した自己株式の対価−法務省令で定める額など。
  • 446条1号の出発点:最終事業年度の末日の「資産+自己株式の帳簿価額」から「負債+資本金・準備金+法務省令で定める額」を引いた額。期末後の自己株式の処分・消却や配当などで足し引きします。資本金の額を減らして剰余金にするときの株主総会の決議と債権者異議手続(447条・449条)は資本金の額の減少の記事にあります。

違反したときの責任(462条・463条・465条)

だれがどんな義務か免れる・免除の道
配当を受け取った株主受け取った金銭等の帳簿価額に相当する金銭を会社に支払う(462条1項)善意でも支払義務。善意なら業務執行者からの求償には応じなくてよい(463条1項)
業務執行者・議案を出した取締役株主と連帯して、交付された額を会社に支払う(462条1項)注意を怠らなかったと証明すれば免れる(同条2項)。免除は分配可能額を限度に総株主の同意があるときだけ(同条3項)
会社の債権者義務を負う株主に、債権額を限度として直接支払わせられる(463条2項)—

このほか、配当のときは分配可能額の範囲内でも、その事業年度の計算書類の承認の時点で欠損が出たときは、業務執行者が、欠損の額(配当した額が上限)を会社に支払う責任を負います(465条1項10号)。ただし、定時株主総会で決めた配当などは対象から除かれています(同号イ〜ハ)。注意を怠らなかったと証明すれば免れ、免除には総株主の同意がいります(同条2項)。計算書類の承認と決算公告の流れは計算書類の流れで扱っています。

当てはまる例・当てはまらない例

  • 当てはまる(中間配当):取締役会設置会社のあおば工業が、定款の定めにもとづき、事業年度の途中に1回、取締役会の決議で金銭の配当をした。454条5項の中間配当です。
  • 当てはまらない(中間配当の2回目):同じ事業年度の途中に、取締役会の決議でもう1回配当する。中間配当は「一回に限り」です。
  • 当てはまらない(純資産が少ない会社):純資産額が250万円の会社は、利益が出て剰余金があっても、配当できません(458条)。
  • ひっかけやすい(自己株式):会社が持つ自己株式には配当しません(453条)。議決権がないこと(308条2項)とあわせて覚えます。
  • ひっかけやすい(現物配当):自社製品を配る現物配当でも、株主に金銭分配請求権を与えるなら普通決議で足ります。与えないときに特別決議がいります。

似ているルールとの違い

違反したときの責任は、取締役の一般の責任(423条)と比べると、免れ方・免除のしかたが違います。423条の責任と一部免除、利益相反取引で無過失でも免れない428条は、取締役の義務と責任の記事で扱っています。

責任過失がなければ免れるか免除
違法配当の業務執行者(462条)免れる(注意を怠らなかったことを証明)分配可能額を限度に総株主の同意
任務を怠った取締役(423条)任務を怠っていなければ責任なし総株主の同意で全部(424条)、一部免除の制度もある
自己のための利益相反取引(428条)免れない一部免除の規定は適用しない

決める機関の違いは、株主総会と取締役会の役割の分け方の一例です。機関設計と取締役会の権限は株式会社の機関の記事、決議の要件の数字は会社法の数字の一覧にあります。

試験ではここをまちがえやすい

  • 中間配当の条件:取締役会設置会社・定款の定め・事業年度の途中に1回・金銭だけ。
  • 現物配当の決議:金銭分配請求権を与えないときだけ特別決議。
  • 300万円:純資産額が300万円を下回ると配当できない。分配可能額とは別の歯止め。
  • 責任の免れ方:業務執行者は注意を怠らなかったと証明すれば免れる。株主は善意でも会社への支払義務がある。
  • 免除の限度:業務執行者の義務の免除は、分配可能額を限度とし、総株主の同意がいる。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題)
取締役会設置会社のあおば工業は、定款に中間配当の定めを置いている。あおば工業は、事業年度の途中に1回、取締役会の決議によって、株主に自社製品を配る中間配当をすることができる。

答え:✕ 分かれ目は、中間配当で配れる財産の種類です。454条5項は、取締役会設置会社が、事業年度の途中に1回に限り取締役会の決議で剰余金の配当(配当財産が金銭であるものに限る)をできる旨を定款で定められるとしています。正しくは、中間配当は金銭に限られ、自社製品は配れません。金銭以外の物を配る現物配当は、株主総会の決議で決める配当(454条1項・4項)でできることで、それと取り違えた誤りです。

問2(このサイトのオリジナル問題)
株式会社さくら商店は、前の事業年度に利益を出して剰余金があるが、純資産額は250万円である。この場合、さくら商店は剰余金の配当をすることができない。

答え:○ 分かれ目は、分配可能額とは別の歯止めがあるかです。458条は、453条から457条までの規定は、純資産額が300万円を下回る場合には適用しないとしており、その会社は配当をする根拠を失います。剰余金があるなら配当できる、と考えると✕に見えます。458条は「配当できる会社か」の条件で、461条の分配可能額(いくらまで配れるか)とは別に定められています。

問3(このサイトのオリジナル問題)
あおば工業が、分配可能額を超える剰余金の配当をした。この配当の職務を行った業務執行取締役のゆうきさんは、職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明しても、会社に対して支払う義務を免れない。

答え:✕ 分かれ目は、業務執行者が過失のないことを証明して免れられるかです。462条1項は、業務執行者に、株主と連帯して会社に支払う義務を負わせていますが、同条2項は、職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明したときは、その義務を負わないとしています。正しくは、ゆうきさんは証明すれば免れます。過失がなくても責任を免れないのは、自己のために利益相反の直接取引をした取締役の責任(428条1項)で、それと取り違えた誤りです。

この分野の○✕は、行政書士の5分○✕ドリルの「会社法」で続けて解けます。

まとめ

  • 配当は、その都度株主総会の決議(普通決議)で決める。金銭分配請求権を与えない現物配当は特別決議。
  • 中間配当は、取締役会設置会社が定款で定め、事業年度の途中に1回、取締役会の決議で、金銭に限る。
  • 純資産額が300万円を下回る会社は配当できない(458条)。配る総額は分配可能額が上限(461条)。
  • 違反したら、受け取った株主と業務執行者などが連帯して会社に支払う。業務執行者は注意を怠らなかったと証明すれば免れる。
  • 業務執行者の義務の免除は、分配可能額を限度に総株主の同意があるときだけ。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)

条文は、e-Gov法令検索で令和8年4月1日時点の法令を確かめました。

このサイトで次に読むなら、取締役の義務と責任の記事です。違法配当の責任と、任務を怠った責任・利益相反取引の責任を並べると、免れ方と免除のしかたの違いが整理できます。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 ※ が付いている欄は必須項目です