資本金の額の減少と債権者異議手続:株主総会の決議、債権者が異議を述べられる場面と、合併などとの共通点(会社法447条・449条)

ひとことで言うと、資本金の額の減少は、貸借対照表にのる「資本金」という数字を小さくすることです(会社法447条)。会社のお金がその場で出ていくわけではありません。ただ、資本金は「会社に残しておくべき財産の目安」の役をしているので、これを減らすと、配当などに回せる額の計算が広がります。そのため、会社は株主総会で決めるだけでなく、債権者に「異議があれば言ってください」と知らせる手続(債権者異議手続。債権者保護手続とも呼ばれます)をしなければなりません(449条)。

この記事は、試験の論点として、決議の種類、債権者異議手続の中身、効力が生じる時、無効の訴えを扱います。登記の申請・登録免許税・催告書の書き方は扱いません。剰余金の配当と分配可能額の計算は剰余金の配当の記事に任せます。条文は令和8年4月1日時点のものを e-Gov 法令検索で確かめました。

身近な例で考えると

舞台は、取締役会設置会社の「さくら工房株式会社」です(架空の話です)。定款で、公告の方法を電子公告と定めています。

人物立場この話での役
さくら工房資本金5,000万円の会社資本金を3,000万円減らしたい
なおきさん代表取締役手続を進める
たくみさん材料の売主(知れている債権者)代金800万円の支払を待っている
  1. さくら工房には、定時株主総会の日の時点で3,000万円の欠損(これまでの損失が積み重なった穴)がある。
  2. 定時株主総会で、減らす額3,000万円、準備金にはしないこと、効力が生じる日を8月1日とすることを決めた(447条1項)。減らす額が欠損の額を超えないので、普通決議で足りた(309条2項9号)。
  3. さくら工房は、減少の内容、計算書類に関する事項、1か月以上の期間内に異議を述べられることを、官報と電子公告で公告した(449条2項・3項)。
  4. 官報のほかに定款の電子公告でもしたので、たくみさんへの各別の催告は省けた(449条3項)。
  5. たくみさんは期間内に異議を述べた。さくら工房は、たくみさんに800万円を支払ってから、手続を終えた(449条5項)。

たとえるなら、資本金は「家計簿で『ここまでは手をつけない』と線を引いた貯金の額」です。線を下げれば使える額が増えるので、お金を貸している人に前もって知らせます。ただし本物のルールでは、知らせるだけでなく、異議を述べた債権者には払うか担保を出すかなどの対応が要り、それが終わるまで減少の効力が生じません。

条文ではこう決まっている

決めること・決める機関(447条・448条・309条2項9号)

  • 資本金の額を減らすときは、株主総会の決議で、①減らす資本金の額、②減らす額の全部または一部を準備金にするときはその旨と額、③効力が生じる日を決める(447条1項)。
  • 減らす額は、効力が生じる日の資本金の額を超えてはならない(同条2項)。
  • 決議は原則として特別決議(309条2項9号)。定時株主総会で決め、かつ減らす額がその総会の日における欠損の額(法務省令で定める方法で計算)を超えないときは、特別決議の対象から外れて普通決議になる(同号イ・ロ)。
  • 株式の発行と同時に資本金を減らし、減少後の資本金が減少前を下回らないときは、取締役の決定(取締役会設置会社では取締役会の決議)で足りる(447条3項)。
  • 準備金を減らすときも、株主総会の決議で額・資本金にするかどうか・効力が生じる日を決める(448条1項)。309条2項に挙がっていないので、普通決議です。
  • 最終事業年度の末日(直近の決算の日)のあとに資本金を減らしたときは、その額(準備金にした分を除く)が剰余金の額に加わる(446条3号)。資本金の減少が配当の財源に関係するのはこのためです。

債権者異議手続(449条)

  • 資本金または準備金(まとめて「資本金等」)を減らすときは、会社の債権者は異議を述べられる。ただし、減らす準備金の全部を資本金にするときは除く(1項本文)。
  • 準備金だけを減らす場合で、定時株主総会で決め、減らす額が欠損の額を超えないときも、異議を述べられない(1項ただし書)。資本金を減らすときには、このただし書はない。
  • 会社は、減少の内容、計算書類に関する事項(法務省令)、一定の期間内に異議を述べられることを官報に公告し、知れている債権者には各別に催告する。期間は1か月を下ることができない(2項)。
  • 官報のほか、定款で定めた日刊新聞紙への掲載か電子公告(939条1項2号・3号)でも公告したときは、各別の催告は要らない(3項)。
  • 期間内に異議を述べなかった債権者は、減少を承認したものとみなす(4項)。
  • 異議を述べた債権者には、弁済する、相当の担保を提供する、または弁済させるために相当の財産を信託会社などに信託する。ただし、減少しても債権者を害するおそれがないときは要らない(5項)。
  • 減少は、決議で定めた効力が生じる日に効力を生じる。ただし、2項〜5項の手続が終わっていないときは生じない(6項)。会社は、その日の前ならいつでも日を変えられる(7項)。

無効の訴え(828条1項5号・2項5号)

  • 資本金の額の減少の無効は、訴えでしか主張できない。期間は、効力が生じた日から6か月以内(828条1項5号)。
  • 訴えを起こせるのは、その会社の株主等(株主・取締役・監査役など)、破産管財人、減少を承認しなかった債権者(同条2項5号)。

決議・手続・訴えを1枚で

場面決まり条文
資本金の減少(原則)株主総会の特別決議447条1項・309条2項9号
定時総会で欠損の範囲内普通決議309条2項9号イ・ロ
株式の発行と同時で、資本金が減らない取締役会の決議など447条3項
準備金の減少普通決議448条1項
債権者への知らせ官報公告+各別の催告。期間は1か月以上449条2項
催告を省ける場合官報+定款の日刊新聞紙か電子公告449条3項
異議を述べた債権者弁済・担保・信託。害するおそれがなければ不要449条5項
効力が生じる時定めた日。手続が終わるまでは生じない449条6項
無効の訴え6か月以内。承認しなかった債権者なども828条

当てはまる例・当てはまらない例

  • 当てはまる例:さくら工房が資本金を3,000万円減らす。債権者のたくみさんは、1か月以上の期間内に異議を述べられます(449条1項・2項)。
  • 当てはまらない例:準備金1,000万円の全部を資本金に組み入れるために準備金を減らす。減らす準備金の全部を資本金にするので、債権者は異議を述べられません(449条1項本文かっこ書)。会社に残す財産の目安がかえって大きくなるからです。
  • 当てはまらない例:公告の方法を定款で定めていない会社が、官報にだけ公告した。定款の定めがない会社の公告方法は官報で(939条4項)、日刊新聞紙・電子公告での公告をしていないので、知れている債権者への各別の催告は省けません(449条3項)。
  • ひっかけやすい例:効力が生じる日を8月1日と決めたが、たくみさんへの支払が8月1日までに終わらなかった。減少は8月1日には効力を生じません(449条6項ただし書)。会社は8月1日の前なら日を変えられます(同条7項)。
  • ひっかけやすい例:異議を述べた債権者がいても、減少によってその債権者を害するおそれがないときは、弁済などは要りません(449条5項ただし書)。異議があれば手続が止まる、というわけではありません。

似ているルールとの違い:合併・会社分割・事業譲渡

合併や会社分割でも、同じ形の債権者異議手続が置かれています。たとえば吸収合併では、消滅する会社の債権者(789条)も、存続する会社の債権者(799条)も異議を述べられ、期間は1か月を下ることができません。官報公告と各別の催告、催告を省ける場合、異議を述べた債権者への弁済などの組み立ても、449条とそろっています。

一方、事業譲渡には、この形の手続がありません。債務を移すには、債権者との間で債務の引受けなどの手続が要ります。この違いは事業譲渡の記事で比べています。株式の数を減らす株式の併合は、資本金の額の減少とは別の手続で、株式の併合・分割の記事で扱っています。

試験ではここをまちがえやすい

  • 決議の種類:資本金の減少は原則特別決議。定時総会で欠損の範囲内なら普通決議。準備金の減少は普通決議。
  • 異議手続が要らない場面:減らす準備金の全部を資本金にするとき、準備金だけを定時総会で欠損の範囲内で減らすとき。資本金を減らすときは、普通決議で足りる場合でも異議手続は要ります。
  • 催告を省ける条件:官報に「加えて」定款で定めた日刊新聞紙か電子公告でも公告すること。官報だけでは省けません。
  • 期間の数字:異議を述べられる期間は1か月以上。無効の訴えは効力が生じた日から6か月以内。株主総会決議取消しの訴えの3か月(831条)と混ぜないようにします。
  • 「みなす」の位置:異議を述べなかった債権者は承認したとみなす(449条4項)。だから、無効の訴えを起こせるのは「承認しなかった債権者」です(828条2項5号)。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題)
A社は、定款で公告の方法を電子公告と定めている。A社は資本金の額の減少について、異議を述べられる旨などを官報に公告し、あわせて電子公告もした。この場合、A社は、知れている債権者Bに各別の催告をしなくてよい。

答え:○ 分かれ目は、各別の催告を省ける条件です。449条2項は、官報公告と、知れている債権者への各別の催告を求めています。しかし同条3項は、官報のほか、定款の定めに従って日刊新聞紙か電子公告(939条1項2号・3号)でも公告したときは、各別の催告を要しないとしています。知れている債権者には個別に知らせるほかないと考えると✕に見えます。官報だけで公告したときは、催告は省けません。

問2(このサイトのオリジナル問題)
C社は、株主総会で資本金の額の減少を決め、効力が生じる日を9月1日と定めた。期間内に異議を述べた債権者Dに対し、C社は、減少がDを害するおそれがあるのに、9月1日までに弁済も担保の提供もしていなかった。この場合でも、資本金の額の減少は9月1日に効力を生じる。

答え:✕ 分かれ目は、効力が生じる時です。減少は決議で定めた日に効力を生じますが、449条6項ただし書は、2項〜5項の手続が終わっていないときは効力を生じないとしています。正しくは、Dへの弁済・担保の提供・信託のどれかが終わるまで、減少の効力は生じません。決議で定めた日がくれば効力が生じると読むと○にしてしまいます。会社は、その日の前ならいつでも日を変えられます(同条7項)。

問3(このサイトのオリジナル問題)
E社は、株主総会の決議で準備金の額を減らし、減らした準備金の全部を資本金とすることにした。この場合、E社は、債権者異議手続をとらずに、この準備金の額の減少の効力を生じさせることができる。

答え:○ 分かれ目は、債権者が異議を述べられない場面です。449条1項本文は、資本金等の額の減少について債権者が異議を述べられるとしたうえで、「減少する準備金の額の全部を資本金とする場合」を除いています。準備金が資本金に替わるだけで、会社に残す財産の目安は小さくならないからです。準備金を減らせば常に異議手続が要ると考えると✕に見えます。この場合は449条2項〜5項の手続がそもそも要らないので、同条6項ただし書で効力が止まることもありません。1項ただし書の「準備金だけを定時総会で欠損の範囲内で減らす場合」とは別の例外です。

この分野の○✕は、行政書士の5分○✕ドリルの「会社法」で続けて解けます。

まとめ

  • 資本金の減少は株主総会で減らす額・準備金にするか・効力が生じる日を決める(447条)。原則は特別決議、定時総会で欠損の範囲内なら普通決議。
  • 債権者異議手続:官報公告と知れている債権者への各別の催告、期間は1か月以上。官報+日刊新聞紙か電子公告なら催告は不要(449条)。
  • 異議を述べた債権者には弁済・担保・信託。害するおそれがなければ不要。異議を述べなければ承認とみなす。
  • 手続が終わるまで効力は生じない。無効の訴えは効力が生じた日から6か月以内。
  • 合併・会社分割にも同じ形の手続がある。事業譲渡にはない。

このサイトで次に読むなら、剰余金の配当と分配可能額の記事です。資本金を減らしたあと、どこまで配当に回せるかの計算が分かります。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)

  • e-Gov法令検索「会社法」(309条2項9号、446条3号、447条〜449条、789条、799条、828条1項5号・2項5号、939条。令和8年4月1日時点)

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