行政行為をわかりやすく:公定力の意味と、取消しと撤回の違い

行政行為(ぎょうせいこうい)とは、役所が、法律にもとづいて、特定の人の権利や義務を一方的に決めることです。運転免許を出す、営業停止を命じる、税金の額を決める、などがそうです。行政行為には、たとえ違法でも、取り消されるまでは有効なものとして扱われる力があり、これを公定力(こうていりょく)といいます。

最初に押さえたいのは、「行政行為」「公定力」「撤回」は、法律の条文に出てこない学問上の言葉だということです。条文に出てくるのは「処分」(行政事件訴訟法3条2項、行政手続法2条2号など)です。この記事では、学問上の考え方を説明したうえで、その根拠になる制度を条文で示します。行政行為の種類(許可・特許・認可)や附款(ふかん=処分につける条件や期限)は扱いません。

身近な例で考えると

運転免許で考えます。免許を出したり取り消したりするのは、都道府県の公安委員会(こうあんいいんかい)です。

人物立場したこと
だいきさん会社員運転免許を持っている
公安委員会免許を出す役所だいきさんの免許を取り消した
ひなさんだいきさんの同僚まちがって出された免許を持っていた
  1. だいきさんは、5年前に試験に合格して運転免許を受けた(行政行為)。
  2. その後、交通違反が重なり、公安委員会はだいきさんの免許を取り消した。道路交通法103条1項は、違反があったときに公安委員会が「免許を取り消し」などができると定めている。
  3. だいきさんは「違反の数え方がまちがっている。この取消しは違法だ」と考えた。
  4. だいきさんは「違法なら従わなくていい」と考え、そのまま運転を続けようとした。

4のだいきさんの考えは通りません。取消しの処分が本当に違法だったとしても、正式な手続で取り消されるまでは、処分は有効なものとして扱われます。これが公定力です。だいきさんが運転すれば、免許がない状態での運転として扱われます。

だいきさんが処分の効力をなくしたいなら、決められたルートを通ります。審査請求(しんさせいきゅう=役所に見直しを求める手続)か、取消訴訟(とりけしそしょう=裁判所に取り消してもらう裁判)です。どちらにも期間の制限があります。期間を過ぎると、もう争えなくなります。これを不可争力(ふかそうりょく)といいます。

もう一人、同僚のひなさんの話です。ひなさんは、実は試験の点数が足りていなかったのに、役所の採点ミスで免許を受けていました。この免許は、出された時から問題を抱えています。役所が気づいてこれをなくすのは、学問上の「取消し」です。一方、だいきさんの免許は、出された時には問題がありませんでした。あとの違反を理由に効力をなくすのは、学問上の「撤回(てっかい)」です。法律の条文では、どちらも「取消し」と書かれることに注意してください。

公定力は「審判が下した判定は、試合中はひとまず従う」というたとえに近いものです。抗議したいなら、決められた方法で申し立てます。ただし本物のルールでは、違法がとても重く明らかな場合は「無効」として、初めから効力がないと扱われることがあります。この点は後で説明します。

条文ではこう決まっている

公定力などの効力を、そのまま定めた条文はありません。学問上、次の制度を根拠に説明されます。

公定力の根拠:取消訴訟という専用のルート

  • 行政事件訴訟法3条2項:処分の取消しを求める裁判として、「処分の取消しの訴え」を定めている。
  • 同法14条:その訴えには期間の制限がある。
  • 法律は、処分の効力を消すための専用の裁判と期間をわざわざ用意している。だから、処分の効力を否定したい人はこのルートを通るべきだ。それまでは処分は有効として扱われる、と考える。
  • この考え方を「取消訴訟の排他的管轄(はいたてきかんかつ=処分の効力を消せるのは取消訴訟だけ、ということ)」といい、公定力の根拠とされる。

不可争力の根拠:争える期間

  • 取消訴訟(行政事件訴訟法14条):処分があったことを知った日から6か月、処分の日から1年を過ぎると起こせない。どちらも正当な理由があれば別。
  • 審査請求(行政不服審査法18条):処分があったことを知った日の翌日から3か月、処分があった日の翌日から1年を過ぎるとできない。どちらも正当な理由があれば別。
  • 審査請求ができる処分でも、原則として、すぐに取消訴訟を起こせる。ただし、法律に「審査請求の裁決を経た後でなければ」訴えられないと定めがあれば別(行政事件訴訟法8条1項)。

争っている間も処分は止まらない(執行不停止)

  • 行政事件訴訟法25条1項:取消訴訟を起こしても、処分の効力・執行(処分の中身を実際に行うこと)・手続の続行は妨げられない。つまり、処分はそのまま進む。
  • 行政不服審査法25条1項:審査請求も同じ。
  • 止めてほしいときは、別に執行停止を申し立てる。取消訴訟では、重大な損害を避けるため緊急の必要があることなどが条件(行政事件訴訟法25条2項)。くわしくは執行停止の記事。

執行力の根拠:法律で認められた場合だけ

  • 行政行為で義務を課された人が従わないとき、役所が裁判所を通さずに実現する力を、学問上「自力執行力」という。
  • その代表が行政代執行法2条。対象は、他人が代わりにできる義務(たとえば違法な建物を取り壊す義務)に限られる。
  • 使えるのは、ほかの方法では実現が難しく、放っておくと著しく公益(みんなの利益)に反するとき。役所は自分で、または業者などの第三者にさせて行い、その費用を義務者(義務を負う人)から取れる。
  • この力は、行政行為なら当然にあるのではなく、こうした法律があって初めて使える、と整理される。

無効なら、期間に関係なく争える

  • 違法の程度がとても重いときは、取り消されるまでもなく初めから効力がない(無効)と扱われる。無効な行政行為には公定力がない。
  • 無効を確かめる裁判として「無効等確認の訴え」がある(行政事件訴訟法3条4項)。14条の出訴期間は取消訴訟についての定めなので、この訴えには当てはまらない。
  • ただし、無効等確認の訴えを起こせる人は限られる。たとえば、処分が無効であることを前提に「今の権利関係」を直接争う裁判(お金を返せ、など)で目的を達せられるなら、こちらは使えない(同法36条)。
  • どの程度の違法なら無効になるかは、条文に書かれていない。判例の基準は教材で確かめてください(当サイトでは判決文を確認できたものだけを載せています)。

当てはまる例・当てはまらない例

当てはまる例:違法かもしれない営業停止

だいきさんの友人で、居酒屋を営むけいたさんが、市から営業停止を命じられたとします。けいたさんが「理由がおかしい」と思っても、取り消されるまでは営業停止は有効です。営業を続ければ、命令違反として扱われます。争うなら、審査請求や取消訴訟を、期間内に起こします。

当てはまらない例:損害賠償だけを求める

けいたさんが、処分の効力をなくすことではなく、違法な処分で受けた損害のお金(国家賠償)だけを求める場合は、話が違います。最高裁平成22年6月3日第一小法廷判決は、固定資産(土地や建物)の価格を高すぎる額に決められた納税者の事案です。判決は、地方税法の審査の申出や取消訴訟などの手続を経ていなくても、国家賠償を請求できるとしました。学問上は、お金の請求は処分の効力そのものを消すことを求めるものではありません。だから公定力とぶつからない、と説明されます。国家賠償のしくみは国家賠償法の記事で説明しています。

ひっかけやすい例:期間を過ぎた後

だいきさんが、取消しを知ってから8か月たって取消訴訟を起こそうとしたとします。知った日から6か月を過ぎているので、正当な理由がなければ起こせません(行政事件訴訟法14条1項)。ただし、不可争力は処分を受けた人の側が争えなくなる効力です。役所の側が、自分で処分を見直して取り消すことまで禁じるものではない、と整理されます。

ひっかけやすい例:条文の「取消し」が撤回だった

道路交通法103条1項の「免許を取り消し」は、免許を出した時には問題がなく、あとの違反を理由に効力をなくすものです。学問上は撤回に当たります。試験で「条文に取消しと書いてあるから取消し」と考えると、まちがえます。理由が成立した時の問題か、あとから生じた事情かで分けます。

似ているルールとの違い

学問上の「取消し」と「撤回」は、次のように整理されます。

比べる点取消し(職権取消し)撤回
理由成立した時から違法・不当成立後の事情の変化
効果原則としてさかのぼって効力がなくなる将来に向かって効力がなくなる
例採点ミスで出された免許違反を理由とする免許の取消し
できる者処分をした役所など処分をした役所

撤回には、相手にとって利益になる処分(免許・許可など)をなくすとき、どこまで許されるかという問題があります。最高裁昭和63年6月17日第二小法廷判決は、当時の優生保護法にもとづいて都道府県医師会から指定を受けていた医師の事案です。この医師は、うその出生証明書で他人の赤ちゃんを実の子として渡す「実子あっせん」を長年くり返していました。判決は、医師の受ける不利益を考えてもなお「撤回すべき公益上の必要性が高いと認められる場合」には、指定をした医師会が撤回できるとしました。

もう一つ、「無効」と「取り消すことができる」の違いも比べます。

比べる点取り消すことができる無効
公定力ある(取り消されるまで有効)ない
争う裁判取消訴訟(3条2項)無効等確認の訴え(3条4項)など
期間の制限6か月・1年(14条)14条は当てはまらない

なお、学問上は「不可変更力」という言葉もあります。審査請求の裁決のように、争いを裁く性質の行為は、出した役所自身も自由に変えられない、という考え方です。条文にない言葉なので、どんな行為に認められるかを教材で確認しておきます。

試験ではここをまちがえやすい

  • 公定力は「適法の推定」ではない:違法かどうかとは別に、取り消されるまで有効として扱う、という意味。
  • 国家賠償には公定力が及ばない:取消訴訟を経なくても、国家賠償は請求できる(平成22年6月3日判決の事案)。
  • 無効な行政行為には公定力がない:取消訴訟の出訴期間(14条)も当てはまらない。
  • 期間の数字:取消訴訟は知った日から6か月・処分の日から1年。審査請求は知った日の翌日から3か月・処分の日の翌日から1年。3か月と6か月を入れかえたひっかけに注意。
  • 執行不停止が原則:審査請求や取消訴訟を起こしても、処分は止まらない。
  • 条文の「取消し」が撤回のことがある:理由が成立時の問題か、あとの事情かで分ける。撤回は将来に向かってだけ効力をなくす。
  • 自力執行力は法律の根拠があって使える:行政代執行法2条の対象は、他人が代わりにできる義務に限られる。

行政書士試験では、行政法の一般的な法理論の中で、公定力・不可争力・取消しと撤回の違いを、正しい説明かどうか問う形が考えられます。条文にない言葉なので、「根拠になる制度」とセットで覚えると判断がぶれません。取消訴訟の要件は取消訴訟の記事、審査請求の流れは審査請求の記事、行政法全体の順番は行政法の勉強法で説明しています。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題) パン屋を営むまゆさんが、県から営業停止を命じられた。命令が違法である以上、まゆさんは、取消訴訟などで取り消されていなくても、命令に従う必要はない。

答え:✕ 違法な処分でも、取消訴訟や審査請求などで取り消されるまでは、有効なものとして扱われます(公定力)。ただし、違法がとても重く無効といえる場合は別です。

問2(このサイトのオリジナル問題) まゆさんが営業停止命令の取消訴訟を起こした。このとき、判決が出るまでの間、命令の効力は当然に止まる。

答え:✕ 取消訴訟を起こしても、処分の効力・執行・手続の続行は妨げられません(行政事件訴訟法25条1項)。止めてほしいときは、執行停止を申し立てます。

問3(このサイトのオリジナル問題) しょうたさんの運転免許が、免許を受けた後の交通違反を理由に取り消された。この「取消し」は、学問上は「撤回」に当たる。

答え:○ 免許を出した時には問題がなく、あとの事情(違反)を理由に効力をなくすので、学問上は撤回です。条文で「取消し」と書かれていても、理由で区別します。

まとめ

  • 行政行為・公定力・撤回は、条文にない学問上の言葉。条文では「処分」。
  • 公定力=違法でも取り消されるまで有効。根拠は取消訴訟という専用のルート(行政事件訴訟法3条2項・14条)。
  • 不可争力=期間を過ぎると争えない。取消訴訟は6か月・1年、審査請求は3か月・1年。
  • 無効なら公定力はなく、国家賠償にも公定力は及ばない。
  • 取消し=成立時の問題でさかのぼる。撤回=あとの事情で将来に向かって。

次に読むなら、行政手続法の記事がおすすめです。処分が出される前に役所が守るべきルール(審査基準・理由の提示など)が分かり、この記事の「処分」がどう作られるかがつながります。期間の数字をまとめて見直すなら期間・数字の一覧も使えます。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)

条文は、令和8年度試験の出題の基準日である令和8年4月1日時点の内容を、e-Gov法令検索で確かめています。