宅建業法の電磁的方法をわかりやすく:どの書面をデータで渡せるか、承諾がいるか

宅建業法の電磁的方法(でんじてきほうほう)とは、紙の書面を渡す代わりに、メールやデータで内容を渡す方法のことです。データで渡せる主な書面は、媒介契約の書面、指定流通機構への登録を証する書面、重要事項説明書(35条書面)、37条書面の4つです(このほか、手付金等の保全措置で買主に渡す保証書なども、買主の承諾があればデータで代えられます。41条5項・41条の2第6項)。どれも、相手の承諾があるときだけ使えます。

承諾は、書面か電磁的方法(メールなど)で受けます。口頭(電話や対面で言うだけ)の承諾ではだめです。前もって、使うデータの方法の種類と内容を相手に示すことも必要です。一方、クーリング・オフができることの告知は「書面を交付して」告げると決まっていて、データで代える定めはありません。この記事では、書面ごとに「データで可か・承諾はだれの・承諾の方法」を一覧にして比べます。

身近な例で考えると:中古マンションを買うりなさんの場合

登場人物を紹介します。

人物立場したこと
ゆうきさん売主(会社員)マンションを売りたい
しおり不動産宅建業者ゆうきさんから売却の媒介を頼まれた
りなさん買主(会社員)マンションを探している
かえで建設宅建業者(売主)新築の一戸建てを分譲している

ゆうきさんは、しおり不動産に専任媒介を頼みました。りなさんが買主に決まり、契約まで進みます。この流れの中で、紙の書面がいくつも出てきます。

  1. しおり不動産は、ゆうきさんと媒介契約を結んだら、その書面を渡す。→ ゆうきさんの承諾があればデータで渡せる。
  2. しおり不動産は、物件を指定流通機構(業者どうしで物件情報を見せ合う仕組み)に登録し、その証明の書面をゆうきさんに渡す。→ これも、ゆうきさんの承諾があればデータで渡せる。
  3. しおり不動産は、契約の前に、りなさんに重要事項説明書を渡して宅建士が説明する。→ 書面は、りなさんの承諾があればデータで渡せる。
  4. 契約が決まったら、37条書面を渡す。→ 媒介なので、ゆうきさんとりなさんの両方に渡す書面です。データで渡すなら、両方の承諾がいる。

ゆうきさんから電話で「メールでいいですよ」と言われただけでは足りません。しおり不動産は、どんな方法でデータを送るか(メール添付か、ダウンロードか、など)を先に示し、ゆうきさんから書面かメールなどで承諾をもらいます。

別の日に、りなさんは、かえで建設の分譲現場のテントで新築の一戸建ての申込みをしました。この場合、かえで建設がクーリング・オフ(申込みの撤回などができる制度)について告げるときは、決まった事項を書いた書面を渡します。こちらは、りなさんが「メールでいい」と言っても、データで代える定めがありません。

条文ではこう決まっている

データで渡せる書面は、それぞれの条の中に「書面の交付に代えて」という項があります。承諾の受け方は、宅建業法施行令(政令)がまとめて決めています。

  • 媒介契約の書面(34条の2第11項):「第一項の書面の交付に代えて、政令で定めるところにより、依頼者の承諾を得て」提供できます。記名押印に代わる措置を講じる方法に限られ、提供すれば「記名押印し、これを交付したものとみなす」とされています。売買・交換の代理の契約にも準用されます(34条の3)。
  • 登録を証する書面(34条の2第12項):指定流通機構に登録したことを証する書面の引渡しに代えて、依頼者の承諾を得て提供できます。
  • 35条書面(35条8項・9項):相手方等の承諾を得て、宅建士に、データで提供させることができます。方法は、宅建士の記名(35条5項)に代わる措置を講じるものに限られます。相手が宅建業者のときも、その業者の承諾が要ります(9項)。
  • 37条書面(37条4項・5項):自ら当事者なら契約の相手方、代理なら相手方と代理を頼んだ人、媒介なら各当事者の承諾を得て提供できます。

承諾の受け方は、施行令2条の6(媒介契約)・3条の3(35条)・3条の4(37条)が同じ形で決めています。

  1. 前もって、使う電磁的方法の「種類及び内容」を相手に示す。
  2. 承諾は、「書面又は電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法」で受ける。口頭の承諾は入っていません。
  3. 承諾した人から、書面などで「データでは受け取らない」と申出があったら、データで提供してはいけない。
  4. ただし、その申出の後に、改めて承諾を得たときは、データで提供できる。

クーリング・オフのほうは、次のとおりです。

  • 告知(施行規則16条の6):申込みの撤回などができることと、その方法を告げるときは、「次に掲げる事項を記載した書面を交付して告げなければならない」とされています。データで代える定めはありません。
  • 買主がする撤回・解除(37条の2第1項・2項):買主は「書面により」撤回や解除をし、その効力は書面を「発した時」に生じます。この条にも、データで行う定めはありません。

一覧:データで渡せるか・承諾はだれの・承諾の方法

書面データで可かだれの承諾根拠
媒介契約の書面できる依頼者34条の2第11項
登録を証する書面できる依頼者34条の2第12項
35条書面(重要事項説明書)できる説明の相手方等(業者なら業者)35条8項・9項
37条書面できる相手方・各当事者など37条4項・5項
手付金等の保全措置で渡す書面(保証書など)できる買主41条5項・41条の2第6項
クーリング・オフの告知の書面定めなし(書面を交付)―規則16条の6
買主の撤回・解除の書面定めなし(書面)―37条の2

承諾の方法は、媒介契約書面・登録を証する書面・35条書面・37条書面の4つで共通です(施行令2条の6・3条の3・3条の4)。

項目ルール
前もって示すこと電磁的方法の種類と内容
承諾の方法書面か、メールなどの電磁的方法
口頭の承諾入っていない(足りない)
「データは要らない」と言われたらデータで提供してはいけない
その後また承諾を得たらデータで提供できる

37条書面は、承諾をもらう相手の数に注意します。媒介で売買が成立したときは、売主と買主の「各当事者」です。一方だけの承諾で両方にデータを送ることはできません。37条書面に何を書くかは37条書面の記事で確かめてください。

当てはまる例・当てはまらない例

当てはまる例(データで渡してよい)

  • しおり不動産が、媒介契約の前に「PDFをメールで送る方法」を示し、ゆうきさんからメールで承諾を受けた。→ 示す・承諾を受けるの両方がそろっているので、媒介契約書面をデータで渡せます。
  • かえで建設が、宅建業者のみどり不動産に建物を売る。みどり不動産から書面で承諾を受け、35条書面をデータで渡した。→ 業者どうしでも、35条書面のデータ化には相手の業者の承諾が要ります(35条9項)。承諾があるので問題ありません。
  • りなさんが、一度は承諾したのに「やはり紙で」と書面で申し出た。その後、改めて書面で承諾した。→ 改めて承諾を得たので、データで渡せます。

当てはまらない例(データでは足りない)

  • しおり不動産が、ゆうきさんから電話で「メールで構わない」と言われただけで、媒介契約書面をメールで送った。→ 口頭の承諾は、施行令の決める承諾の方法に入りません。
  • 37条書面について、買主のりなさんの承諾だけ受けて、売主のゆうきさんにもデータで送った。→ 媒介のときは各当事者の承諾が要ります。ゆうきさんの承諾がありません。
  • かえで建設が、りなさんの承諾を得て、クーリング・オフの告知をメールで済ませた。→ 告知は書面を交付して行うと決まっていて、データで代える定めがありません。

ひっかけやすい例

  • 重要事項説明書をデータで渡したので、宅建士の説明も省ける。→ 誤りです。データ化できるのは「書面」です。説明は別に必要です。説明をオンラインで行う方法(IT重説)は、重要事項説明の記事で扱っています。
  • 宅建士証の提示も、データで送れば足りる。→ 35条4項は、説明をするときに「宅地建物取引士証を提示しなければならない」と決めています。書面の交付の話ではありません。
  • 賃貸の媒介でも、媒介契約の書面をデータで渡すには依頼者の承諾が要る。→ そもそも34条の2は売買・交換の媒介のルールなので、貸借の媒介には書面の義務がありません(データ化の話の前の問題です)。

似ているルールとの違い:「書面の交付」と「説明」と「提示」

宅建業法には、紙を「渡す」ルールと、口で「説明する」ルールと、宅建士証を「見せる」ルールがあります。データで代えられるのは、法律が電磁的方法の項を置いた「渡す」ルールだけです。

ルール中身データで代える定め
渡す(交付・引渡し)媒介契約書面、登録の証明、35条書面、37条書面、保全措置の保証書などあり(承諾が要る)
渡す(交付)クーリング・オフの告知の書面なし
説明する35条の重要事項の説明書面の項とは別の話
見せる(提示)宅建士証書面の交付ではない

もう一つまぎらわしいのが、記名の扱いです。媒介契約の書面は業者が「記名押印」し、35条書面と37条書面は宅建士が「記名」します。データで渡すときも、媒介契約の書面は「記名押印に代わる措置」を、35条書面は宅建士の記名(35条5項の措置)に代わる措置を講じた方法で提供します。押印が出てくるのは媒介契約の書面だけです。媒介契約の書面のほかの決まりは媒介契約の記事にまとめています。

試験ではここをまちがえやすい

電磁的方法は宅建試験の宅建業法の論点です(行政書士試験の範囲ではありません)。宅建試験では、次のような形で取り違えやすい論点です。

  • 承諾の方法:「口頭で承諾を得れば足りる」は誤り。承諾は書面か電磁的方法です。前もって方法の種類と内容を示すことも要ります。
  • 承諾の相手:37条書面は、媒介なら各当事者、代理なら相手方と代理を頼んだ人の承諾が要ります。業者間の35条書面でも、相手の業者の承諾が要ります。
  • データにできない書面:クーリング・オフの告知は書面の交付です。「承諾があればメールで告げられる」とする形に注意します。
  • 撤回と再承諾:「一度承諾したら撤回できない」は誤り。撤回の申出があったらデータは使えず、改めて承諾を得れば使えます。
  • 書面と説明の混同:書面をデータで渡しても、35条の説明そのものは省けません。

この分野の○✕は、宅建の5分○✕ドリルの宅建業法で続けて解けます。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題)
宅建業者Aは、宅建業者でない買主Bから電話で口頭の承諾を得れば、重要事項説明書を紙で交付する代わりに、宅建士にその内容を電磁的方法で提供させることができる。

答え:✕ 分かれ目は承諾の方法です。35条書面をデータで提供するには、前もって方法の種類と内容を示したうえで、書面か電磁的方法で承諾を得る必要があります(35条8項、施行令3条の3第1項)。正しくは「口頭の承諾では足りない」です。承諾が要ること自体は覚えていても、その方法まで条文で決まっている点を落とすと、この肢で迷います。

問2(このサイトのオリジナル問題)
宅建業者Aが自ら売主として宅建業者Cに建物を売る場合でも、重要事項説明書の内容を電磁的方法で提供するには、Cの承諾を得なければならない。

答え:○ 分かれ目は、業者間で何が外れるかです。相手が宅建業者のときは宅建士の説明が不要になりますが、書面の交付は残り、それをデータで提供するにはCの承諾が要ります(35条9項)。業者どうしなら手続が軽くなるので✕に見えますが、承諾まで外す定めはありません。業者間で丸ごと外れるのは8種制限です(78条2項)。

問3(このサイトのオリジナル問題)
宅建業者Aが自ら売主となる建物の売買で、事務所等以外の場所で申し込んだ買主B(宅建業者ではない)の承諾を得て、クーリング・オフができる旨とその方法を電子メールで告げた。この場合、8日の期間はその日から進み始める。

答え:✕ 分かれ目は、データで代えられる書面かどうかです。クーリング・オフの告知は「書面を交付して告げなければならない」とされ(施行規則16条の6)、データで代える定めがありません。正しくは、メールで告げただけでは8日の期間は進みません(37条の2第1項1号)。35条書面・37条書面が承諾によってデータ化できることと取り違えると、○にしてしまいます。

まとめ

  • データで渡せる主な書面は、媒介契約書面・登録を証する書面・35条書面・37条書面の4つ(保全措置の保証書なども、買主の承諾でデータにできる)。
  • どれも相手の承諾が要る。承諾は書面か電磁的方法。口頭では足りない。前もって方法の種類と内容を示す。
  • 「データは要らない」と申し出られたら使えない。改めて承諾を得れば使える。
  • 37条書面は、媒介なら各当事者の承諾。業者間の35条書面も相手の業者の承諾が要る。
  • クーリング・オフの告知は書面を交付して行う。買主の撤回・解除も書面。

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参考にした公式の情報(2026年10月確認)

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