業者間取引(ぎょうしゃかんとりひき)とは、売主も買主も宅建業者である取引のことです。宅建業法の中には、不動産に慣れていない買主を守るためのルールがあります。相手がプロの業者なら、そこまで守る必要がないので、一部のルールが外れます。
外れるのは、8種制限(33条の2と37条の2〜43条)です(78条2項)。重要事項は説明しなくてよくなりますが、重要事項説明書(35条書面)の交付と宅建士の記名は残ります。37条書面、媒介契約のルール、報酬の上限、広告のルールは、相手が業者でも外れません。この記事では、この「外れる・外れない」を表にして、事例で当てはめます。
身近な例で考えると:同じ家を、業者に売るか、会社員に売るか
登場人物を紹介します。
| 人物 | 立場 | したこと |
|---|---|---|
| ひまわりハウス | 宅建業者(売主) | 自社の中古住宅を売りたい |
| みなと不動産 | 宅建業者(買主) | 買い取って直してから売る予定 |
| ことりさん | 会社員(買主の候補) | 住むための家を探している |
| あおば不動産 | 宅建業者(媒介) | 買い手探しを頼まれた会社 |
ひまわりハウスは、代金3,000万円の中古住宅を売りに出しました。買いたいと言ってきたのは、みなと不動産とことりさんの二者です。どちらに売るかで、ひまわりハウスが守るルールが変わります。
- ことりさんに売る場合:手付は代金の2割(600万円)までしか受け取れない。契約不適合責任(欠陥の責任)を軽くする特約にも制限がある。ことりさんが喫茶店などで申し込んだなら、クーリング・オフもできる。
- みなと不動産に売る場合:手付の2割の上限も、特約の制限も、クーリング・オフもない。業者どうしなので、自分たちで交渉して決めればよい、という考え方です。
- どちらに売る場合でも:契約の前に重要事項説明書を渡し、契約が決まったら37条書面(契約の内容を書いた書面)を渡す。ことりさんには宅建士が重要事項の説明までするが、みなと不動産には説明はいらない。
ここで大事なのは、「業者間取引」かどうかを決めるのは、売主と買主の二者だという点です。ひまわりハウスがことりさんに売る契約を、あおば不動産が媒介しても、業者間取引にはなりません。あおば不動産は契約の当事者ではないからです。
条文ではこう決まっている(78条2項と、相手を限る括弧書き)
業者間取引で外れるルールは、条文のあちこちに書かれています。中心は78条2項です。
- 78条2項:「第三十三条の二及び第三十七条の二から第四十三条までの規定は、宅地建物取引業者相互間の取引については、適用しない。」8種制限がまとめて外れます。
- 35条6項・7項:相手方が宅建業者のときは、「説明をさせなければ」が「交付しなければ」に読み替えられます。宅建士の説明はいりませんが、書面の交付はいります。その書面には、宅建士が記名します(7項)。
- 35条の2:供託所等(営業保証金を預けた供託所など)の説明の相手から、「宅地建物取引業者に該当する者」が除かれています。業者には、この説明がいりません。
- 27条1項・64条の8第1項:営業保証金や弁済業務保証金から還付(かんぷ=代わりに払ってもらうこと)を受けられる人から、宅建業者が除かれています。
- 特定住宅瑕疵担保責任の履行の確保等に関する法律2条7項2号ロ:新築住宅の「買主」から宅建業者が除かれています。業者に新築住宅を売るときは、資力確保(欠陥に備えたお金の準備)の義務の対象になりません。
逆に、37条(契約書面)、34条の2(媒介契約)、46条(報酬)には、相手が業者なら外れるという定めがありません。だから業者どうしでもそのまま守ります。
業者どうしでも「要る・要らない」の表
外れるもの(業者どうしなら要らない)
| ルール | 条文 | 一般の買主なら | 業者どうし |
|---|---|---|---|
| 自分のものでない物件の売買の制限 | 33条の2 | かかる | 外れる |
| クーリング・オフ | 37条の2 | かかる | 外れる |
| 損害賠償の予定・違約金は2割まで | 38条 | かかる | 外れる |
| 手付は2割まで・解約手付になる | 39条 | かかる | 外れる |
| 契約不適合責任の特約の制限 | 40条 | かかる | 外れる |
| 手付金等の保全措置 | 41条・41条の2 | かかる | 外れる |
| 割賦販売の解除の制限・所有権留保の禁止 | 42条・43条 | かかる | 外れる |
| 重要事項の説明(宅建士が話す) | 35条6項 | 要る | 要らない |
| 供託所等の説明 | 35条の2 | 要る | 要らない |
| 保証金からの還付 | 27条・64条の8 | 受けられる | 受けられない |
| 新築住宅の資力確保 | 履行法2条7項 | 対象 | 対象外 |
外れないもの(業者どうしでも要る)
| ルール | 条文 | 業者どうし | ひっかけの目印 |
|---|---|---|---|
| 重要事項説明書の交付 | 35条6項 | 要る | 「説明不要だから書面も不要」は誤り |
| 35条書面への宅建士の記名 | 35条7項 | 要る | 書面がある以上、記名も残る |
| 37条書面の交付と宅建士の記名 | 37条 | 要る | 外れる定めがない |
| 媒介契約の書面・期間・報告 | 34条の2 | 要る | 依頼者が業者でも同じ |
| 報酬の上限 | 46条 | 要る | 業者どうしの媒介でも上限あり |
| 誇大広告の禁止・広告の開始時期 | 32条・33条 | 要る | 広告は相手を選ばない |
| 工事完了前の契約の時期の制限 | 36条 | 要る | 8種制限ではない |
| 取引態様の明示 | 34条 | 要る | 8種制限ではない |
覚え方のこつは、「8種制限とその仲間だけが外れる」と考えることです。8種制限は、業者が自ら売主となり、買主を守るためのルールです。35条の説明や供託所の説明、還付も、「慣れていない相手を守る」ためのものなので、相手が業者なら外れます。一方、37条書面や報酬の上限は、取引の記録や業界全体のルールなので、相手を選びません。
8種制限の一つずつの中身は8種制限の記事で、重要事項説明の中身は重要事項説明の記事で確かめてください。
当てはまる例・当てはまらない例
当てはまる例(業者間取引なので外れる)
- ひまわりハウスが、みなと不動産に代金3,000万円で売り、手付を900万円とした。→ 39条1項の「2割まで」は外れるので、宅建業法には違反しません。900万円は2割(600万円)を超えますが、業者どうしなら問題になりません。
- みなと不動産が、ひまわりハウスの営業所以外の場所(たとえばホテルのロビー)で買受けを申し込んだ。→ クーリング・オフ(37条の2)は外れます。場所がどこでも、みなと不動産は撤回できません。
- ひまわりハウスが、みなと不動産との特約で「欠陥の通知は引渡しから半年以内」と決めた。→ 40条は外れるので、この特約も宅建業法上は問題になりません。
当てはまらない例(業者間取引ではない)
- ひまわりハウスがことりさんに売る契約を、あおば不動産が媒介した。→ 当事者はひまわりハウスとことりさんです。業者が二社かかわっていても業者間取引ではないので、8種制限はかかります。
- 会社員のたかしさん(宅建業者ではない)が、自分の家をみなと不動産に売った。→ 業者間取引ではありません。ただし8種制限は「業者が自ら売主」の売買のルールなので、売主が業者でないこの売買には、もともとかかりません。
ひっかけやすい例
- 業者間の売買で、重要事項説明書を渡さなかった。→ 違反です。業者が相手でも、35条書面の交付と宅建士の記名は必要です(35条6項・7項)。外れるのは「説明」だけです。
- 業者間の売買で、37条書面を省いた。→ 違反です。37条には業者間で外れる定めがありません。
- あおば不動産が、業者どうし(ひまわりハウスとみなと不動産)の売買を媒介し、上限を超える報酬を受け取った。→ 違反です。報酬の上限(46条)は、依頼者が業者でもかかります。
- 業者間で「欠陥の責任は一切負わない」と特約した。→ 宅建業法の40条は外れます。ただし民法572条で、売主が知りながら告げなかった欠陥については、特約があっても責任を免れません。業法が外れても、民法のルールは残ります。
似ているルールとの違い:「業者が相手」と「業者が売主でない」
業者間取引と、よく混ざる場面を並べます。8種制限がかかるのは、売主が業者で、買主が業者でない売買だけです。
| 売主 | 買主 | 8種制限 | 理由 |
|---|---|---|---|
| 業者 | 業者でない | かかる | 8種制限の本来の場面 |
| 業者 | 業者 | 外れる | 78条2項 |
| 業者でない | 業者 | かからない | 業者が自ら売主ではない |
| 業者でない | 業者でない(業者が媒介) | かからない | 業者は媒介しているだけ |
4行目の「業者が媒介」は、試験でよく混ぜられます。媒介した業者には、35条の説明や37条書面、報酬の上限のルールがかかります。でも、手付の2割や保全措置は、媒介業者のルールではありません。
また、免許がいるかどうか(宅建業にあたるか)は、相手が業者かどうかでは変わりません。業者に売る取引も、宅建業の取引です。免許の範囲は宅建業の免許の記事で確かめてください。
試験ではここをまちがえやすい
業者間取引は宅建試験の宅建業法の論点です(行政書士試験の範囲ではありません)。宅建試験では、次のような形で取り違えやすい論点です。
- 「説明」と「書面」を一緒に外す:「相手が業者なら重要事項説明書の交付も不要」は誤りです。不要になるのは宅建士による説明だけです。
- 供託所の説明と混ぜる:供託所等の説明(35条の2)は、業者が相手なら不要です。35条の重要事項説明書は交付が要ります。似た番号なので入れ替えられやすい組です。
- 媒介業者を当事者と数える:業者が二社かかわっていても、売主か買主が一般の人なら業者間取引ではありません。
- 8種制限以外まで外す:報酬の上限、37条書面、媒介契約の期間や報告、広告の開始時期、契約の時期の制限は、業者どうしでも残ります。
- 電磁的方法の承諾:業者間でも、35条書面をデータで渡すには相手の業者の承諾が要ります(35条9項)。「業者どうしなら承諾なしでよい」は誤りです。
宅建業法の問題は、肢の最初に「宅建業者Aが自ら売主として、宅建業者Bと」のように前提が書かれます。ここを読み落とすと、正しい知識でもまちがえます。問題を読むときは、売主・買主・媒介の三つの立場に印をつける習慣をつけると、読み落としが減ります。この分野の○✕は、宅建の5分○✕ドリルの宅建業法で続けて解けます。
○✕でたしかめよう
問1(このサイトのオリジナル問題)
宅建業者Aが自ら売主となり、宅建業者Bに代金5,000万円の建物を売る契約で、手付金1,500万円を受け取ることにした。Aがこの手付金を受け取っても、宅建業法に違反しない。
答え:○ 分かれ目は、買主Bが宅建業者かどうかです。手付を代金の2割(ここでは1,000万円)までとする39条1項は、78条2項により業者どうしの取引には適用されません。1,500万円は2割を超えるので✕に見えますが、相手が業者なら上限はかかりません。同じく保全措置(41条・41条の2)も外れます。
問2(このサイトのオリジナル問題)
宅建業者Aが、自社の中古マンションを宅建業者Cに売る。Cは宅建業者なので、Aは、重要事項説明書をCに交付する必要もない。
答え:✕ 分かれ目は「説明」と「書面の交付」の区別です。相手方が宅建業者のときは、宅建士による説明は不要ですが、重要事項説明書の交付は必要で、宅建士の記名もいります(35条6項・7項)。正しくは「説明は不要、書面の交付は必要」です。業者が相手なら丸ごと不要になるのは、35条の2の供託所等の説明のほうです。
問3(このサイトのオリジナル問題)
宅建業者Aが自ら売主となり宅建業者でないBに建物を売る契約を、宅建業者Cが媒介した。Bが喫茶店で申し込み、書面で告げられてから3日目で、引渡しも代金の支払もまだなら、Bはクーリング・オフができる。
答え:○ 分かれ目は、業者間取引かどうかを「売主と買主」で判断することです。媒介したCは契約の当事者ではないので、この売買は業者間取引ではなく、37条の2がかかります。喫茶店は事務所等にあたらず、告げられてから8日もたっていないので、Bはクーリング・オフができます(37条の2第1項)。業者が二社かかわっていることから、業者間取引と取り違えないようにします。
まとめ
- 業者間取引=売主も買主も宅建業者。媒介した業者は数えない。
- 外れるのは8種制限(33条の2・37条の2〜43条)。78条2項。
- 35条は「説明」が不要になるが、書面の交付と宅建士の記名は残る。供託所等の説明は不要。
- 業者は営業保証金・弁済業務保証金から還付を受けられない。新築住宅の資力確保の対象にもならない。
- 37条書面、媒介契約、報酬の上限、広告、契約の時期の制限、取引態様の明示は、業者どうしでも外れない。
次に読むなら、8種制限の記事がおすすめです。業者間で外れる8つのルールの中身を一つずつ確かめると、「外れる」ことの意味がはっきりします。重要事項説明書に何を書くかを押さえたい人は、重要事項説明の記事へ進んでください。
参考にした公式の情報(2026年10月確認)
- e-Gov法令検索「宅地建物取引業法」(第27条第1項、第34条の2、第35条第6項〜第9項、第35条の2、第37条、第39条、第64条の8第1項、第78条を確認。令和8年4月1日時点の条文)
- e-Gov法令検索「民法」(第572条を確認)
- e-Gov法令検索「特定住宅瑕疵担保責任の履行の確保等に関する法律」(第2条第7項を確認)
- 不動産適正取引推進機構「試験概要」(出題の根拠となる法令は、試験を行う年度の4月1日現在施行のもの)
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