宅建士証の交付・更新・書換え・返納・提出・提示:場面ごとの手続きの違い

宅建士証(宅地建物取引士証)の手続きは、場面ごとに言葉が違います。登録が消えたときや宅建士証が効力を失ったときは「返納」、事務禁止処分を受けたときは「提出」、重要事項説明のときと取引の関係者から請求されたときは「提示」です。

返納と提出の行き先は、どちらも宅建士証の交付を受けた都道府県知事です。返ってくるのは、事務禁止の期間が終わって請求したときの「提出」したものだけです。この記事では、交付から返納までの手続きを1枚の表にして、取り違えやすい所を事例で確かめます。登録そのもの(実務経験2年や登録の移転の要件)は宅建士の登録と宅建士証の記事で扱っています。

身近な例で考えると

登場人物は次の3人です。

人物立場したこと
りくさん宅建士(愛知県知事の登録)あおば不動産で重要事項を説明する
あおば不動産宅建業者りくさんを雇っている
ゆなさん買主(宅建業者ではない)中古マンションを買う

りくさんの宅建士証は、次のように動きます。

  1. りくさんは、宅建試験に合格した日から1年以内に宅建士証を受け取れるよう、愛知県知事に交付を申請した。合格から1年以内に交付を受けるので、法定講習は受けなくてよかった。
  2. ゆなさんに重要事項を説明するとき、ゆなさんから求められなくても、宅建士証を見せた(提示)。
  3. 結婚して名字が変わったので、変更の登録の申請とあわせて、宅建士証の書換え交付を申請した。
  4. 5年の有効期間が近づいたので、講習を受けて更新を申請した。
  5. 仕事上の違反で、岐阜県知事から事務禁止処分を受けた。宅建士証は、処分をした岐阜県知事ではなく、交付を受けた愛知県知事に提出した。
  6. 禁止の期間が終わったあと、愛知県知事に返還を請求して、宅建士証を返してもらった。

同じ「知事に渡す」でも、5は提出、登録が消えたときは返納です。提出したものは返ってきますが、返納したものは返ってきません。

条文ではこう決まっている

宅建業法22条の2〜22条の4と施行規則で、令和8年4月1日施行の条文を確かめました。

  • 交付(22条の2第1項・2項):登録を受けている人が、登録をしている知事に申請する。申請前6か月以内に行われる、知事が指定する講習(法定講習)を受ける。ただし、試験に合格した日から1年以内に交付を受ける人と、登録の移転とともに交付を受ける人は、講習がいらない。
  • 有効期間(22条の2第3項):5年。
  • 更新(22条の3):申請により更新する。新しい宅建士証の交付を申請する形で行い、今の宅建士証と引換えに交付される(施行規則14条の16)。講習の規定は22条の2第2項の「本文」だけが準用されるので、合格から1年以内の例外はなく、更新のときは講習を受ける。
  • 登録の移転(22条の2第4項・5項):登録の移転があると、もとの宅建士証は効力を失う。移転の申請とあわせて交付を申請すると、移転先の知事は、もとの宅建士証の残りの期間を有効期間とする宅建士証を交付する。
  • 返納(22条の2第6項):登録が消除されたとき、または宅建士証が効力を失ったときは、速やかに、交付を受けた知事に返納する。
  • 提出(22条の2第7項・8項):事務禁止処分(68条2項・4項)を受けたときは、速やかに、交付を受けた知事に提出する。禁止の期間が満了し、本人から返還の請求があったときは、知事は直ちに返還する。
  • 提示(22条の4・35条4項):取引の関係者から請求があったときは提示する。重要事項の説明をするときは、請求がなくても説明の相手方に提示する。
  • 書換え交付(施行規則14条の13):氏名または住所が変わったら、変更の登録の申請とあわせて書換え交付を申請する。住所だけの変更なら、今の宅建士証の裏面に新しい住所を書く方法で代えられる。
  • 再交付(施行規則14条の15):なくした・汚した・壊したときは、交付を受けた知事に再交付を申請できる。なくして再交付を受けた後に古い宅建士証を見つけたら、速やかに、見つけた宅建士証を返納する。

宅建士証に書かれているのは、氏名・生年月日・住所、登録番号と登録年月日、交付年月日、有効期間が満了する日です(施行規則14条の11)。

場面ごとの手続きを1枚の表にすると

場面手続きだれに期限・返してもらえるか
はじめて受け取る交付の申請(法定講習。合格から1年以内は不要)登録をしている知事―
有効期間(5年)を延ばす更新の申請(法定講習がいる)登録をしている知事―
氏名・住所が変わった変更の登録とあわせて書換え交付の申請登録をしている知事―
なくした・汚した再交付の申請交付を受けた知事見つけたら古い証を速やかに返納
登録が消除された・効力を失った返納交付を受けた知事速やかに。返ってこない
事務禁止処分を受けた提出交付を受けた知事速やかに。期間満了後、請求すれば直ちに返還
重要事項の説明をする提示説明の相手方請求がなくても
取引の関係者に求められた提示求めた人求められたとき

「登録をしている知事」と「交付を受けた知事」は、同じ知事になります。交付は登録をしている知事に申請し、登録を移転すれば、移転先の知事から新しい宅建士証を受け取り直すからです。気をつけるのは、事務禁止処分を別の県の知事がしたとき(68条4項)です。その場合も、提出先は処分をした知事ではなく、交付を受けた知事です。

返納・提出の義務と、重要事項説明のときの提示の義務に違反すると、10万円以下の過料(行政上の罰の一つ)の対象になります(86条)。請求されたときの提示(22条の4)は、86条には入っていません。

当てはまる例・当てはまらない例

当てはまる例

  • りくさんが登録の消除を受けた。宅建士証は、交付を受けた愛知県知事に返納します(22条の2第6項)。
  • りくさんが更新をしないまま、宅建士証の有効期間(5年)が過ぎた。有効期間が過ぎた宅建士証は効力を失っているので、返納します(同項。大阪府の案内でも、有効期間が満了した宅建士証は返納するとしています)。
  • りくさんが、ゆなさんに重要事項を説明する。ゆなさんが何も言わなくても、宅建士証を提示します(35条4項)。

当てはまらない例

  • りくさんが事務禁止処分を受けたのに、宅建士証を「返納」した。正しくは「提出」で、期間が終われば請求して返してもらえます。返納と答えると、宅建士証が返ってこない手続きと混ざります。
  • りくさんが合格から3年後に、はじめて宅建士証の交付を申請する。合格から1年を過ぎているので、法定講習がいります(22条の2第2項)。

ひっかけやすい例

  • 愛知県から岐阜県へ登録を移転し、あわせて宅建士証の交付を申請した。新しい宅建士証の有効期間は、交付の日から5年ではなく、もとの宅建士証の残りの期間です(22条の2第5項)。このときの交付は、今の宅建士証と引換えに行われます(施行規則14条の14)。
  • 住所が変わったとき、書換え交付の申請は、変更の登録の申請とあわせてする決まりです(施行規則14条の13第1項)。宅建士証の書換えだけを考えて、変更の登録を忘れる形に注意します。変更の登録の手続きは変更の登録と登録の移転の記事で整理しています。

似ているルールとの違い

宅建士証と、業者が従業者に持たせる従業者証明書(48条)は、別の書類です。

宅建士証従業者証明書
だれが用意する宅建士本人が知事に申請宅建業者が従業者に携帯させる
持つ人宅建士だけ宅建士を含む従業者全員
提示重要事項の説明のとき(請求がなくても)と、請求があったとき取引の関係者の請求があったとき
根拠22条の2〜22条の4、35条4項48条1項・2項

業者の帳簿や従業者名簿など、ほかの備付けの書類との関係は事務所・案内所の記事にあります。事務禁止処分そのもの(どんなときに受けるか)は監督処分の記事で扱っています。

試験ではここをまちがえやすい

当サイトが数えた宅建試験の全40回で、宅建士(登録・宅建士証)は主な論点として63問(37回)出ており、直近10回では主な論点で15問、ほかの問の中の肢として4問ありました。宅建士証の手続きは、次の形で取り違えやすい所です。

  • 返納と提出の取り違え:事務禁止処分で「返納」、登録の消除で「提出」とする形。
  • 行き先の取り違え:事務禁止処分をした知事、登録の移転先の知事に提出・返納するとする形。正しくは交付を受けた知事。
  • 提示の条件:重要事項の説明のときも「請求があったときに」提示すればよい、とする形。
  • 講習の例外:合格から1年以内の例外を、更新のときにも当てはめる形。
  • 有効期間:登録の移転とあわせて交付を受けた宅建士証の有効期間を「5年」とする形。
  • 返還の条件:禁止の期間が終われば請求がなくても返ってくる、とする形。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題)
愛知県知事の登録を受け、宅建士証の交付を受けている宅建士Aが、岐阜県内で行った事務について、岐阜県知事から事務禁止処分を受けた。Aは、速やかに、宅建士証を岐阜県知事に提出しなければならない。

答え:✕ 分かれ目は、提出先が処分をした知事か、交付をした知事かです。22条の2第7項は、事務禁止処分を受けたときは、宅建士証を「その交付を受けた都道府県知事」に提出するとしています。正しくは、交付を受けた愛知県知事に提出します。他県の知事も事務禁止処分ができる(68条4項)ことから、処分をした知事に出すと取り違えた文です。

問2(このサイトのオリジナル問題)
宅建試験に合格して10か月後に登録を受けたBが、合格した日から1年以内に宅建士証の交付を受けようとする場合、Bは、知事が指定する講習を受けなくても宅建士証の交付を受けることができる。

答え:○ ○です。分かれ目は、合格の日から1年以内という例外です。交付の前には申請前6か月以内の法定講習を受けるのが原則ですが、合格した日から1年以内に交付を受ける人は除かれます(22条の2第2項ただし書)。講習はどんなときも受けるものと覚えていると✕に見えます。なお、更新のときは22条の2第2項の本文だけが準用されるので(22条の3第2項)、この例外は使えません。

問3(このサイトのオリジナル問題)
宅建業者Cの宅建士Dが、買主E(宅建業者ではない)に重要事項の説明をした。EからDに宅建士証を見せるよう求めることはなかったので、Dが説明の間に宅建士証を提示しなかったとしても、宅建業法に違反しない。

答え:✕ 分かれ目は、提示が請求を条件とするかどうかです。重要事項の説明をするときは、説明の相手方に宅建士証を提示しなければならず(35条4項)、請求は条件になっていません。正しくは、Eから求められなくても提示が必要で、違反すると10万円以下の過料の対象になります(86条)。「取引の関係者から請求があつたとき」に提示するという22条の4と取り違えた文です。

まとめ

  • 返納:登録の消除・宅建士証が効力を失ったとき。交付を受けた知事へ速やかに。返ってこない。
  • 提出:事務禁止処分を受けたとき。交付を受けた知事へ速やかに。期間満了後に請求すれば直ちに返還。
  • 提示:重要事項の説明のときは請求がなくても。それ以外は取引の関係者から請求があったとき。
  • 交付は申請前6か月以内の法定講習(合格から1年以内は不要)。更新は講習がいる。有効期間は5年。
  • 登録の移転とあわせて交付を受けた宅建士証の有効期間は、もとの宅建士証の残りの期間。
  • 宅建士証と登録の○✕は、宅建の5分○✕ドリルで続けて解けます。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)

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