8種制限(はっしゅせいげん)は、宅建業者が自分で売主になり、買主が宅建業者でない売買だけにかかる8つのルールのことです。「8種制限」は法律の言葉ではなく、宅建業法33条の2と37条の2〜43条をまとめた呼び方です。プロの業者と、不動産に慣れていない買主との力の差を埋めるために、買主に不利な約束を禁じています。
試験で使う数字を先に並べます。損害賠償額の予定と違約金は合わせて代金の2割まで。手付も代金の2割まで。手付金等の保全措置(売主が倒産しても、買主の払ったお金が返ってくるようにする手当て)が必要になるのは、受け取る額が次のどちらかを超えるときです。工事が終わる前の物件なら代金の5%、終わった物件なら代金の10%。または1,000万円。契約不適合責任の特約で許されるのは、通知の期間を引渡しから2年以上とするものだけ。割賦販売(かっぷはんばい:分割払いの売り方)の解除には30日以上の期間を定めた書面での催告(さいこく:支払いを求めること)がいります。業者が登記などを後回しにして所有権を残せるのは、代金の3割を超える額を受け取るまでです。
身近な例で考えると:建築中のマンションを買うさくらさん
| 人物 | 立場 | したこと |
|---|---|---|
| さくらさん | 買う人(業者ではない) | 建築中のマンションの1室を買う |
| あおぞらハウス | 売主の宅建業者 | マンションを建てて自分で売っている |
| みどり銀行 | 銀行 | 手付金の返還を保証する |
さくらさんは、あおぞらハウスが建てている途中のマンションを、代金5,000万円で買う契約をします。あおぞらハウスは「手付金は1,200万円、違約金は2,000万円で」と言ってきました。8種制限に当てはめると、次のようになります。
- 手付の上限は代金の2割=1,000万円。1,200万円は受け取れない(39条1項)。
- 違約金と損害賠償額の予定は合わせて2割=1,000万円まで。2,000万円と決めても、1,000万円を超える部分は無効(38条)。
- 工事が終わる前なので、手付金等が代金の5%=250万円を超えるなら、受け取る前に保全措置(たとえば、みどり銀行による返還の保証)が必要(41条)。
- 手付は、名前が何であっても「解約手付」として扱われる。さくらさんは、あおぞらハウスが契約の履行に着手するまでは、手付を手放せば契約をやめられる(39条2項)。
そこで手付を1,000万円にし、みどり銀行の保証を付けてから受け取ることにしました。これなら、もしあおぞらハウスが倒産しても、さくらさんの1,000万円は銀行から返ってきます。手付金等の保全は、買主が払ったお金が売主の倒産などで戻らなくなるのを防ぐ仕組みです。
条文ではこう決まっている(8つのルール)
まず、適用の範囲です。それぞれの条文は「宅地建物取引業者が自ら売主となる」売買について決めています。そして78条2項は、「第三十三条の二及び第三十七条の二から第四十三条までの規定は、宅地建物取引業者相互間の取引については、適用しない。」としています。だから、売主が業者・買主が業者でないときだけです。業者が仲介するだけの売買にもかかりません。
1.自分のものでない物件の売買の制限(33条の2)
業者は、自分のものでない宅地・建物について、自ら売主となる売買契約(予約を含む)を結んではいけません。例外は二つです。①業者がその物件を手に入れる契約(予約を含む)をすでに結んでいるときなど、手に入れられることが明らかなとき。ただし、その契約の効力が条件しだいのもの(停止条件付きなど)は除かれます。②工事完了前の物件で、41条1項の保全措置をとっているとき。
2.クーリング・オフ(37条の2)
事務所等以外の場所で申し込んだ買主は、書面で申込みの撤回や契約の解除ができます。書面で告げられた日から8日が過ぎたとき、または引渡しを受けて代金を全部払ったときは、できなくなります。くわしくはクーリング・オフの記事で扱っています。
3.損害賠償額の予定・違約金の制限(38条)
契約違反(債務不履行)で契約を解除するときの損害賠償の額を前もって決めたり、違約金を決めたりするときは、合わせて「代金の額の十分の二をこえることとなる定めをしてはならない」。反した特約は、2割を超える部分が無効です(全部が無効になるわけではありません)。
4.手付の額の制限と解約手付(39条)
- 代金の2割を超える手付は受け取れません(1項)。
- 手付は「いかなる性質のものであつても」、買主は手付を放棄して、業者は倍額を現実に提供して、契約を解除できます。ただし、相手方が契約の履行に着手した後はできません(2項)。
- 2項に反する特約で買主に不利なものは無効です(3項)。
5.契約不適合責任の特約の制限(40条)
物件が種類や品質の点で契約の内容に合わない(欠陥がある)とき、売主が負う責任を「契約不適合責任」といいます。民法566条では、買主が欠陥を知った時から1年以内に売主へ通知すれば、責任を問えます。40条は、業者がこれより買主に不利な特約をすることを禁じています。例外は、通知の期間を「引渡しの日から二年以上」とする特約だけです。反した特約は無効です。民法そのもののルールは契約不適合責任の記事で説明しています。
6.手付金等の保全(41条・41条の2)
「手付金等」は、代金に充てるお金で、契約の日から引渡しの前までに払われるものです。手付だけでなく、中間金なども入ります。業者は、保全措置をとった後でなければ手付金等を受け取れません。保全措置が要らないのは次のときです。
| 物件 | 保全が要らない額 | 使える保全措置 |
|---|---|---|
| 工事完了前(41条) | 代金の5%以下で、かつ1,000万円以下 | 銀行等の保証、保険事業者の保証保険 |
| 工事完了後(41条の2) | 代金の10%以下で、かつ1,000万円以下 | 上の二つ、または指定保管機関による保管 |
1,000万円という額は施行令3条の5が決めています。額は、これから受け取る分に、すでに受け取った分を足して判断します。また、買主へ所有権移転の登記がされたときや、買主が所有権の登記をしたときも、保全措置は要りません。業者が必要な保全措置をとらないときは、買主は手付金等を払わないことができます(41条4項)。
7.割賦販売の契約の解除などの制限(42条)
割賦販売(かっぷはんばい=代金を分割で受け取る売り方)で買主が分割金を払わないとき、業者は「三十日以上の相当の期間を定めてその支払を書面で催告し」、その期間内に払われないときでなければ、契約を解除したり、まだ支払時期が来ていない分割金をまとめて請求したりできません。反した特約は無効です。
8.所有権留保などの禁止(43条)
割賦販売のとき、業者は物件を引き渡すまでに、登記など引渡し以外の売主の義務を果たさなければなりません。ただし、引渡しまでに代金の3割を超えるお金を受け取っていないときは、3割を超えるお金を受け取るまでに果たせばよい、とされています。つまり、所有権を自分の名義に残しておける(所有権留保)のは、受け取った額が代金の3割以下の間だけです。また、引渡しを受けて代金の3割を超えて払った買主から、担保のために物件を譲り受けることも禁じられています(2項)。
当てはまる例・当てはまらない例
当てはまる例
- 完成済みの中古マンション(代金3,000万円)をあおぞらハウスが売り、手付300万円を受け取る。→ 完成物件で10%以下、1,000万円以下なので、保全措置は要りません。
- 同じ物件で、手付300万円に続けて、引渡し前に中間金200万円を受け取る。→ これから受け取る200万円に、すでに受け取った300万円を足して判断します(41条の2第1項ただし書のかっこ書き)。合計500万円で10%(300万円)を超えるので、中間金を受け取る前に保全措置が必要です。
- 契約不適合責任の通知期間を「引渡しの日から2年」とする特約。→ 40条が認める特約なので有効です。
当てはまらない例
- あおぞらハウスが、別の宅建業者にマンションを売る。→ 業者どうしの取引なので、8種制限はかかりません(78条2項)。手付を代金の3割にすることもこの法律では禁じられていません。
- 業者でない個人のはるかさんがマンションを売り、ひだまり不動産が仲介する。→ 売主が業者ではないので、8種制限はかかりません。
- さくらさんがあおぞらハウスにマンションを売る(業者が買主)。→ 8種制限は業者が売主のときのルールです。
ひっかけやすい例
- 違約金を代金の3割と決めた。→ 契約全体や違約金の定め全部が無効になるのではなく、2割を超える部分だけが無効です(38条2項)。
- 契約不適合責任の通知期間を「引渡しの日から1年」とした。→ 2年未満なので無効です。特約が無効になると、民法566条の「知った時から1年以内に通知」のルールにもどります。
- 工事完了前の物件(代金5,000万円)で、手付240万円を受け取る。→ 5%(250万円)以下で1,000万円以下なので、保全措置なしで受け取れます。完成・未完成を取りちがえると、計算がずれます。
似ているルールとの違い
数字が似ている条文を、効果の違いで並べます。
| ルール | 数字 | 超えたときの扱い |
|---|---|---|
| 損害賠償額の予定・違約金(38条) | 合わせて代金の2割 | 2割を超える部分が無効 |
| 手付の額(39条) | 代金の2割 | 超える手付は受け取れない |
| 手付金等の保全(41条・41条の2) | 未完成5%・完成10%・1,000万円 | 超えるなら保全措置の後でないと受け取れない |
| 所有権留保(43条) | 代金の3割 | 3割を超えて受け取るまでに登記などを果たす |
8種制限は、民法の一般的な売買のルールに上乗せして、業者が売主のときだけ買主を厚く守るルールです。だから、同じ約束でも、売主が業者でない個人なら8種制限による無効にはなりません。取引全体のお金の話では、仲介する業者の受け取れる額を決めた報酬の上限の記事もあわせて読むと、数字の混同を防げます。
試験ではここをまちがえやすい
8種制限は宅建試験の宅建業法の論点です。宅建試験では、次のような形で問われやすい論点です。
- 当事者の組み合わせ:まず「売主が業者か」「買主が業者でないか」を確かめる。業者どうし・仲介だけ・業者が買主なら、8種制限はかからない。
- 2割の効果のちがい:違約金は「超える部分が無効」、手付は「超えて受け取れない」。
- 違約金の合算:損害賠償額の予定と違約金は、別々に2割ではなく、合わせて2割。
- 保全の数字:未完成は5%、完成は10%、どちらも1,000万円。「以下で、かつ」なので、どちらか一方でも超えれば保全が必要。中間金はすでに受け取った手付と合算する。
- 保全の方法:指定保管機関による保管は、完成物件だけで使える。
- 手付解除の時期:やめられないのは「相手方」が履行に着手した後。自分が着手していても、相手が着手していなければ解除できる、という形で問われやすい。業者側の解除は倍額を「現実に提供」することが必要。
- 契約不適合の特約:「引渡しから2年以上」の通知期間だけが許される例外。「責任を負わない」「知った時から半年」は無効。
○✕でたしかめよう
問1(このサイトのオリジナル問題)
宅建業者が自ら売主となり、宅建業者でない買主と代金4,000万円の売買契約を結ぶとき、違約金を1,000万円と定めた場合は、その定めの全部が無効になる。
答え:✕ 上限は代金の2割の800万円です。38条2項により、無効になるのは2割を超える200万円の部分だけで、800万円までは有効です。
問2(このサイトのオリジナル問題)
宅建業者が自ら売主となる、工事完了前の建物(代金6,000万円)の売買で、宅建業者でない買主から手付金400万円を受け取るときは、保全措置をとった後でなければならない。
答え:○ 工事完了前は代金の5%(300万円)以下かつ1,000万円以下なら保全措置は不要ですが、400万円は5%を超えます。41条1項により、保全措置の後でなければ受け取れません。
問3(このサイトのオリジナル問題)
宅建業者どうしの売買では、売主の業者は代金の3割の手付を受け取ることができる。
答え:○ 78条2項により、39条を含む37条の2〜43条は業者どうしの取引には適用されません。手付の2割の上限はかかりません。
まとめ
- 8種制限は、業者が自ら売主・買主が業者でない売買だけ(78条2項)。
- 違約金と損害賠償額の予定は合わせて2割(超える部分は無効)。手付も2割(超えては受け取れない)。手付は解約手付とみなす。
- 手付金等の保全は、未完成5%・完成10%・1,000万円のどれかを超えるとき。完成物件だけ指定保管機関も使える。
- 契約不適合責任は、通知期間を引渡しから2年以上とする特約だけが例外。
- 割賦販売の解除は30日以上の書面催告。所有権を残せるのは代金の3割を超える額を受け取るまで。
次に読むなら、クーリング・オフの記事がおすすめです。8種制限の中でも、場所と日数の判断が細かく、別に練習しておくと得点につながりやすいからです。重要事項説明で説明する「手付金等の保全措置の概要」とのつながりは重要事項説明の記事で確かめられます。
参考にした公式の情報(2026年10月確認)
- e-Gov法令検索「宅地建物取引業法」(第33条の2、第37条の2、第38条、第39条、第40条、第41条、第41条の2、第42条、第43条、第78条を確認。令和8年4月1日施行の改正〔令和7年法律第68号〕を反映した現行版)
- e-Gov法令検索「宅地建物取引業法施行令」(第3条の5を確認)
- e-Gov法令検索「民法」(第566条を確認)
- 不動産適正取引推進機構「試験概要」(出題の根拠となる法令は、試験を行う年度の4月1日現在施行のもの)
働く人の法律試験ノート