行政書士試験の地方自治法は、まるごと捨てるのはすすめません。条文がとても多いので全部は読まず、最低限の6つの範囲(条例と規則、直接請求、住民監査請求と住民訴訟、議会と長、公の施設、国の関与)にしぼる、というのが当サイトの答えです。
理由は三つです。①試験の概要で、地方自治法は、行政法の「中心」として名前が挙がっている6つ(一般的な法理論と5つの法律)の一つです。②行政法は法令等の科目なので、全体の180点だけでなく、法令等の基準点(令和7年度は122点)にも関わります。③最低限の範囲は、署名の数・期間など、条文で答えが決まる所が多く、覚えた分が点に結びつきやすい分野です。
地方自治法は何点分あるのか
令和7年度の合否判定基準では、5肢択一式(5つから1つ選ぶ問題)は1問4点です。配点は試験の前には公表されず、合否発表のときに公表されます。令和8年度の配点はまだ出ていないので、令和7年度の配点を前提にします。
科目ごとの問題数を示した公式の表はありません。当サイトが、公開されている令和3年度の問題冊子を中身から数えたところ、行政法の5肢択一式19問(問題8〜26)のうち、主に地方自治法を問う問題は問題22〜24の3問でした。公式の内訳ではなく、年度によって変わることもあります。ここでは「3問・12点」を目安にします。
12点は、満点300点の4%です。小さく見えますが、商法・会社法(当サイトの数え方で5問・20点)と同じく、法令等の点として足切りに関わります。合格点と足切りの関係はどこを捨てるかの記事で計算しています。
捨てると、ほかの科目で何点取り返すことになるか
5肢択一式を勘で選ぶと、1問あたり正解する見込みは5分の1です。3問なら、平均して取れるのは2.4点です。3問とも外れる確率は、計算上約51%(5分の4の3乗)あります。
| 地方自治法の正解数 | 得点 | 180点まで残り |
|---|---|---|
| 0問 | 0点 | 180点 |
| 1問 | 4点 | 176点 |
| 2問 | 8点 | 172点 |
| 3問 | 12点 | 168点 |
勘で選んだ平均(2.4点)と、最低限の範囲をやって2問取れた場合(8点)の差は、5.6点です。5肢択一式の1問と少しにあたります。考えるべきことは、「地方自治法で1〜2問増やすのと、行政手続法や民法で1〜2問増やすのと、今の自分にはどちらが近いか」です。
捨てるかどうかを決める3つの基準
- 行政法のほかの分野の仕上がり:一般的な法理論と、行政手続法・行政不服審査法・行政事件訴訟法・国家賠償法が、過去問でまだ安定しないなら、そちらを先にします。地方自治法は「後回し」にします。
- 試験までの残り時間:令和8年度の試験は11月8日(日)です。最低限の6つの範囲は、条文を読んで数字と主語を覚える作業が中心なので、まとまった時間を数週間に分けて取れるかで決めます。
- 「捨てる」と「後回し」を分ける:捨てるなら本番は勘で、平均2.4点です。後回しなら、ほかの法律が固まった時点で、次の6つの範囲に戻ってきます。
どの選び方が正しいということではありません。ただ、当サイトの数え方で3問あり、条文で答えが決まる所が多いので、「まるごと捨てる」より「範囲をしぼって後回し」のほうが、合格の確率を上げやすいと考えています。
最低限やる6つの範囲
条文は、令和8年度試験の基準である令和8年4月1日現在施行の法令に合わせて、e-Gov法令検索で確かめました。どれも、住民や長・議会という「主語」と、署名の数・期間という「数字」がひっかけの中心です。
- 条例と規則(14条・15条):義務を課し権利を制限するには、法令に特別の定めがなければ条例による(14条2項)。条例には刑罰も過料も置けるが、長の定める規則に置けるのは5万円以下の過料だけ(14条3項・15条2項)。くわしくは条例と規則の記事。
- 直接請求(74条〜88条):条例の制定・改廃の請求と事務の監査の請求は50分の1以上、議会の解散・議員や長の解職の請求は原則3分の1以上。請求先が長・監査委員・選挙管理委員会に分かれる。
- 住民監査請求と住民訴訟(242条・242条の2):一人でもできる。監査請求が先で、訴訟はその後。期間は1年と30日。2と3は直接請求と住民監査請求の記事にまとめています。
- 議会と長(176条〜180条):再議、不信任と解散、専決処分。数字(10日・3分の2・4分の3)が多い。議会と長の記事へ。
- 公の施設(244条〜244条の4):正当な理由がない限り利用を拒めない。指定管理者は条例の定めにより指定し、指定の前に議会の議決が要る。公の施設の記事へ。
- 国の関与(245条以下):国などが地方公共団体の仕事にかかわる方法と、不服があるときの審査の申出の流れ。国の関与と係争処理の記事へ。
このほか、地方公共団体の種類(特別区・一部事務組合など)や財務の細かい規定は、6つが固まってから広げます。
覚える数字の一覧
| 制度 | 数字 | 条文 |
|---|---|---|
| 条例の制定・改廃の請求 | 有権者の50分の1以上・長へ | 74条1項 |
| 事務の監査の請求 | 有権者の50分の1以上・監査委員へ | 75条1項 |
| 議会の解散の請求 | 原則3分の1以上・選挙管理委員会へ | 76条1項 |
| 長・議員の解職の請求 | 原則3分の1以上・選挙管理委員会へ | 80条1項・81条1項 |
| 副知事・副市町村長などの解職の請求 | 原則3分の1以上・長へ | 86条1項 |
| 住民監査請求 | 行為の日から1年(正当な理由があれば別) | 242条2項 |
| 住民訴訟 | 監査結果の通知などから30日以内 | 242条の2第2項 |
| 再議(一般の拒否権) | 議決の日から10日以内(条例・予算は送付を受けた日から) | 176条1項 |
| 再議の後の条例・予算の議決 | 出席議員の3分の2以上の同意 | 176条3項 |
| 不信任の議決 | 議員数の3分の2以上が出席し、4分の3以上の同意 | 178条3項 |
| 不信任の後の解散 | 通知を受けた日から10日以内 | 178条1項 |
| 解散後の再度の不信任 | 3分の2以上が出席し、過半数の同意 | 178条3項 |
| 条例の罰則 | 2年以下の拘禁刑・100万円以下の罰金・5万円以下の過料など | 14条3項 |
| 規則の罰則 | 5万円以下の過料だけ | 15条2項 |
| 特に重要な公の施設の廃止など | 出席議員の3分の2以上の同意 | 244条の2第2項 |
「3分の1」は、有権者の総数が40万を超えると、超えた部分について6分の1(80万を超える部分は8分の1)で数える、という緩和があります(76条1項・81条1項など)。数字と同時に、だれに請求するか(長・監査委員・選挙管理委員会)をセットで覚えます。
範囲をどう回すか
- 上の6つの範囲の条文を、e-Gov法令検索で一度通して読む。e-Govでは施行日ごとの版を選べるので、令和8年4月1日時点の版で読む。
- 数字の一覧を、主語と行き先を隠して言えるか確かめる(例:「解職の請求は、3分の1以上で、選挙管理委員会へ」)。
- 公開されている過去問(センターの「過去の試験問題と正解」)のうち、地方自治法の問題を解き、6つの範囲でどれくらいの肢を見分けられるかを確かめる。
- 見分けられない肢が6つの範囲の外に多いなら、それ以上は広げず、ほかの行政法に戻るのも一つの判断です。
○✕でたしかめよう
問1(このサイトのオリジナル問題)
有権者が30万人のC市で、市長の解職を求めたい住民がいる。この住民は、有権者の総数の3分の1以上の連署を集め、その代表者から市長に対して解職の請求をする。
答え:✕ 分かれ目は、請求先です。長の解職の請求は、有権者の総数の3分の1以上(40万人以下の場合)の連署で、代表者から選挙管理委員会に対してします(地方自治法81条1項)。正しくは、市長ではなく選挙管理委員会に請求します。長に対してするのは、条例の制定・改廃の請求(74条1項)や、副市町村長などの解職の請求(86条1項)です。
問2(このサイトのオリジナル問題)
D市長は、市の施設の使い方を定める規則を作る。D市長は、この規則に、違反した人に5万円以下の罰金を科す規定を置くことができる。
答え:✕ 分かれ目は、規則に置ける罰の種類です。長の規則に置けるのは、法令に特別の定めがなければ「五万円以下の過料」だけです(地方自治法15条2項)。正しくは、規則に罰金は置けません。罰金や拘禁刑などの刑罰を置けるのは条例で(14条3項)、条例には5万円以下の過料も置けます。「5万円以下」という同じ数字で、過料と罰金を入れ替えた形です。
問3(このサイトのオリジナル問題)
E市の住民Fさんは、市長が1年半前に結んだ高すぎる契約について、最近になって知った。行為の日から1年を過ぎていても、正当な理由があれば、Fさんは住民監査請求をすることができる。
答え:○ 分かれ目は、1年の期間に例外があるかです。住民監査請求は、行為のあった日または終わった日から1年を過ぎるとできませんが、「正当な理由があるとき」は別です(242条2項ただし書)。期間を過ぎたら一律にできない、と考えると✕に見えます。住民訴訟は、監査の結果の通知などから30日以内という別の期間で数えます(242条の2第2項)。
この分野の○✕は、行政書士の5分○✕ドリルの「行政法」で続けて解けます。
まとめ
- 地方自治法は、試験の概要で行政法の「中心」として名前が挙がる法律。法令等の足切りにも関わる。
- 当サイトが令和3年度の問題冊子で数えると3問(公式の内訳ではない)。勘なら平均2.4点、2問取れれば8点。
- まるごと捨てるより、範囲をしぼって後回しにする。
- 最低限の範囲は、条例と規則・直接請求・住民監査請求と住民訴訟・議会と長・公の施設・国の関与の6つ。
- 数字は「だれに請求するか」とセットで覚える。
次に読むなら、直接請求と住民監査請求の記事がおすすめです。6つの範囲のうち、数字と請求先のひっかけがいちばん多い所を、例でまとめて確かめられます。
参考にした公式の情報(2026年10月確認)
- 行政書士試験研究センター「合否判定基準」(令和7年度の配点・基準点):https://gyosei-shiken.or.jp/pdf/basis.pdf
- 同「試験概要」(行政法の中心となる法律):https://gyosei-shiken.or.jp/doc/abstract/abstract.html
- 同「令和8年度 試験案内」(試験日・出題の基準日):https://gyosei-shiken.or.jp/doc/guide/guide.html
- 同「よくある質問(試験について)」(配点の公表時期):https://gyosei-shiken.or.jp/doc/faq/exam.html
- 同「過去の試験問題と正解」(当サイトが問題数を数えた令和3年度の問題):https://gyosei-shiken.or.jp/doc/exam/index.html
- e-Gov法令検索「地方自治法」(14条、15条、74条、75条、76条、80条、81条、86条、176条、178条、179条、242条、242条の2、244条、244条の2):https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000067
働く人の法律試験ノート