ひとことで言うと、地方公共団体の仕事を確かめる仕組みは2本立てです。1つは監査委員で、長が議会の同意を得て選び、お金の使い方(財務)や事務の執行を監査します(地方自治法195条〜202条)。もう1つは議会自身で、書類を検査し(98条)、とくに必要なときは関係人の出頭・証言・記録の提出を求めて調査します(100条)。
100条の調査のために議会が設ける委員会は、一般に「百条委員会」と呼ばれます。ただし「百条委員会」は法律の言葉ではありません。この記事では、令和8年4月1日時点の条文で、監査委員と議会の調査を「だれが・何を・どうやって」の表で比べます。特定の自治体の事例は扱いません。住民が監査委員に求める住民監査請求は直接請求と住民監査請求の記事、議会と長の関係は議会と長の記事に任せます。
身近な例で考えると
舞台は架空の「さくら市」(指定都市ではない市)です。登場するのは、市議会議員のあやかさんと、公認会計士のたかしさんです。
- 市長は、たかしさんを監査委員に選びたいと考えた。監査委員は、市長が議会の同意を得て選任する(196条1項)。議会が同意し、たかしさんは「識見を有する者」から選ばれた監査委員になった。
- さくら市の監査委員の定数は2人(195条2項)。もう1人は、市議会議員の中から選ばれた。あやかさんではない別の議員である。
- たかしさんたちは、毎会計年度少なくとも1回以上、期日を決めて市の財務の事務を監査する(199条1項・4項)。結果は議会・市長などに出し、公表する(199条9項)。
- ある年、市の補助金の使い方に疑いが出た。議会は、とくに必要があるとして、100条の調査をすることにした。あやかさんたちが委員になる特別委員会が設けられ、これが一般に百条委員会と呼ばれる。
- 議会は、補助金を受けた団体の役員に出頭と証言、記録の提出を求めた。正当の理由がないのに出頭しない、記録を出さない、証言を拒むと、6か月以下の拘禁刑または10万円以下の罰金になる(100条3項)。
たとえると、監査委員は「会社に置かれた監査役」、100条の調査は「株主総会が自ら証人を呼んで調べる」ようなものです。ただし本物の地方自治法では、監査委員は長とは別の執行機関の一つで、議会の調査は議会の議決で行います。会社の機関とは仕組みが違います。
監査委員は条文でこう決まっている
置き方・選び方・任期(195条〜198条の3)
| 項目 | 中身 | 条文 |
|---|---|---|
| 置くか | 普通地方公共団体に置く | 195条1項 |
| 定数 | 都道府県・政令で定める市は4人、その他の市と町村は2人。条例で増やせる | 195条2項 |
| 選び方 | 長が議会の同意を得て、識見を有する者と議員から選任 | 196条1項 |
| 議員から選ばない | 条例で、議員から選任しないことができる | 196条1項ただし書 |
| 議員から選ぶ数 | 都道府県・政令で定める市は2人か1人、その他は1人 | 196条6項 |
| 兼職 | 地方公共団体の常勤の職員・短時間勤務職員と兼ねられない | 196条3項 |
| 任期 | 識見を有する者は4年、議員は議員の任期による | 197条 |
| 罷免 | 心身の故障・義務違反などのとき、長が議会の同意を得て。委員会で公聴会 | 197条の2第1項 |
| 退職 | 長の承認を得る | 198条 |
| 親族 | 長・副知事・副市町村長と親子・夫婦・兄弟姉妹の関係にある者はなれない | 198条の2第1項 |
- 識見を有する者は、人格が高潔で、財務管理・事業の経営管理その他行政運営に関し優れた識見を有する者(議員を除く)です(196条1項)。
- 識見を有する者から2人以上を選ぶときは、少なくともその数から1を引いた人数以上は、その団体の職員(政令で定める者)でなかった人でなければなりません(196条2項)。
- 識見を有する者は常勤にでき、都道府県と政令で定める市では、識見を有する者のうち少なくとも1人以上を常勤にします(196条4項・5項)。
- 監査基準に従い、常に公正不偏の態度で監査をし、職務上知った秘密は退職後も漏らしてはいけません(198条の3)。
監査委員の仕事(199条など)
| 監査の種類 | 中身 | 条文 |
|---|---|---|
| 財務の監査 | 財務に関する事務の執行と、経営に係る事業の管理 | 199条1項 |
| 事務の執行の監査 | 必要があると認めるときに、団体の事務の執行(政令で除くものあり) | 199条2項 |
| 定期・随時 | 毎会計年度少なくとも1回以上期日を定めて。必要ならいつでも | 199条4項・5項 |
| 長の要求 | 長から要求があれば、その事項を監査しなければならない | 199条6項 |
| 議会の請求 | 議会は監査委員に監査を求め、結果の報告を請求できる | 98条2項 |
| 住民の請求 | 事務の監査請求(50分の1の連署)、住民監査請求(1人でも) | 75条、242条 |
- 監査の結果の報告は、監査委員の合議で決め、議会・長・関係する委員会などに出し、公表します(199条9項・12項)。
- 結果を受けて長などが措置を講じたときは、その内容を監査委員に通知し、監査委員が公表します(199条14項)。
- 監査委員は、自分や父母・祖父母・配偶者・子・孫・兄弟姉妹の一身上の事件、これらの人が従事する業務に直接の利害関係がある事件は監査できません(199条の2)。
- 都道府県の監査委員には事務局を置き、市町村は条例で置くことができます(200条1項・2項)。
- 決算は、長が監査委員の審査に付してから議会の認定に付します(233条2項・3項)。決算の流れは地方公共団体の財務の記事で扱っています。
議会の検査・調査は条文でこう決まっている
検査権(98条)
議会は、団体の事務(政令で除くものあり)に関する書類と計算書を検閲し、長・各委員会・監査委員などの報告を請求して、事務の管理、議決の執行、出納を検査できます(98条1項)。人を呼んで証言させる仕組みはありません。
調査権(100条)
- 1項:議会は、団体の事務(自治事務では労働委員会・収用委員会の権限に属する事務で政令で定めるもの、法定受託事務では国の安全を害するおそれなどで政令で定めるものを除く)に関する調査を行える。とくに必要があると認めるときは、選挙人その他の関係人の出頭・証言と記録の提出を請求できる。
- 2項:この請求には、民事訴訟の証人の尋問に関する規定を準用する(過料・罰金・拘留・勾引の規定は除く)。
- 3項:請求を受けた関係人が、正当の理由がないのに出頭せず、記録を提出せず、または証言を拒んだときは、6か月以下の拘禁刑または10万円以下の罰金。
- 7項・8項:宣誓した関係人が虚偽の陳述をしたときは、3か月以上5年以下の拘禁刑。調査が終わった旨の議決の前に自白すれば、刑を減軽・免除できる。
- 9項:議会は、3項・7項の罪を犯したと認めるときは告発しなければならない(調査の終了の議決の前に虚偽の陳述を自白したときは、告発しないことができる)。
- 11項:調査をするときは、あらかじめ、予算の定額の範囲内で調査の経費の額を定めておく。超えるときは、さらに議決が要る。
「だれが・何を・どうやって」で比べる
| 比べる点 | 監査委員 | 議会の検査(98条) | 議会の調査(100条) |
|---|---|---|---|
| だれが | 監査委員(執行機関) | 議会 | 議会 |
| 何を | 財務・事務の執行 | 事務の管理・議決の執行・出納 | 団体の事務 |
| どうやって | 監査し報告・公表 | 書類の検閲・報告の請求 | 出頭・証言・記録の提出の請求 |
100条の調査は、強い権限があるぶん、「とくに必要があると認めるとき」に限って関係人を呼べます。100条は「議会は」で始まる議会の権限の規定です。長などが独自に設ける調査の委員会(いわゆる第三者委員会)は、100条を根拠に関係人の出頭・証言を求めたり、拒否に3項の罰則をかけたりすることはできません。
外部監査(252条の27以下)
- 外部監査契約には、包括外部監査契約と個別外部監査契約があります(252条の27)。外部監査人になれるのは、弁護士・公認会計士など、財務管理などに優れた識見を有する者です(252条の28)。
- 包括外部監査:都道府県と政令で定める市は、毎会計年度、あらかじめ監査委員の意見を聴き、議会の議決を経て、1人の者と契約を結ばなければなりません(252条の36第1項)。同じ者と連続して4回は結べません(同条4項)。
- 個別外部監査:条例で定めた団体で、事務の監査請求(75条)・議会の請求(98条2項)・長の要求(199条6項・7項)・住民監査請求(242条)について、監査委員の監査に代えて外部監査人の監査を求められます(252条の39〜252条の43)。
- 改正:令和8年法律第27号(第16次地方分権一括法)で、外部監査人の補助者の住所の告示がなくなりました(252条の32第2項・第9項)。施行は令和8年9月3日です。行政書士試験は、試験を実施する年度の4月1日現在施行されている法令から出題されます。令和8年度試験(基準日:令和8年4月1日)では改正前の条文で考え、令和9年度試験(基準日:令和9年4月1日)では改正後の条文が範囲に入ります。
当てはまる例・当てはまらない例
- 当てはまる例:さくら市が条例で「議員から監査委員を選任しない」と定めた。監査委員は全員、識見を有する者から選びます(196条1項ただし書)。
- 当てはまる例:百条委員会に呼ばれた団体の役員が、正当の理由なく出頭しなかった。6か月以下の拘禁刑または10万円以下の罰金の対象で、議会は告発しなければなりません(100条3項・9項)。
- 当てはまらない例:市長が、自分の弟である公認会計士を監査委員に選ぼうとした。長と兄弟姉妹の関係にある者は監査委員になれません(198条の2第1項)。
- 当てはまらない例:議会が、98条の検査で関係人を呼び、証言を求めた。検査は書類の検閲と報告の請求で、出頭・証言の請求は100条の調査の仕組みです。
- ひっかけやすい例:議員から選ばれた監査委員の任期を4年とすること。4年は識見を有する者の任期で、議員から選ばれた者は議員の任期によります(197条)。
- ひっかけやすい例:市の職員を兼ねたまま監査委員になること。監査委員は、地方公共団体の常勤の職員・短時間勤務職員と兼ねられません(196条3項)。
試験ではここをまちがえやすい
- 選任の主体:監査委員を選ぶのは長で、議会の同意が要ります。「議会が選挙する」「住民が選挙する」とする形は誤りです。
- 定数の数字:都道府県・政令で定める市は4人、その他の市と町村は2人。条例で増やせる。減らせるとはされていません。
- 議員から選ぶか:原則は識見を有する者と議員の両方から。条例で議員から選ばない、ができます。
- 任期の分かれ:識見を有する者は4年、議員は議員の任期。
- 親族の範囲:長・副知事・副市町村長と親子・夫婦・兄弟姉妹の関係にある者。除斥(199条の2)の範囲(父母・祖父母・配偶者・子・孫・兄弟姉妹)と混ぜない。
- 罰の種類:100条3項の罰は拘禁刑・罰金(刑罰)。過料ではありません。罰を科すのは議会ではなく、議会の告発を受けた刑事手続です。
- 検査と調査:出頭・証言の請求ができるのは100条の調査。98条の検査ではできません。
○✕でたしかめよう
問1(このサイトのオリジナル問題)
A市(指定都市ではない市)は、条例で、議員のうちから監査委員を選任しないことと定めたので、A市長は、議会の同意を得て、識見を有する者から2人の監査委員を選任できる。
答え:○ 分かれ目は、議員から選ぶことが必須かどうかです。地方自治法196条1項は、監査委員は長が議会の同意を得て、識見を有する者と議員のうちから選任するとしたうえで、ただし書で、条例で議員のうちから選任しないことができるとしています。指定都市でない市の定数は2人です(195条2項)。監査委員には議員が1人は入るもの、と覚えていると✕に見えます。議員を選ばない場合も、議会の同意が要ることは変わりません。
問2(このサイトのオリジナル問題)
B市議会は、100条にもとづく調査のため、補助金を受けた団体の理事Cに出頭と証言を求めた。Cが正当の理由がないのに出頭しなかったときは、議会は、Cに過料を科すことができる。
答え:✕ 分かれ目は、出頭しないときの罰の種類と、だれが罰するかです。地方自治法100条3項は、正当の理由がないのに出頭しないときなどは、6か月以下の拘禁刑または10万円以下の罰金に処するとしています。正しくは、刑罰で、議会はCが罪を犯したと認めるときは告発しなければなりません(100条9項)。議会が自分で過料を科す仕組みではありません。2項の準用でも、民事訴訟の過料の規定は除かれています。
問3(このサイトのオリジナル問題)
D町の町長は、税理士として長く働いてきた自分の弟Eを、識見を有する者として監査委員に選任したいと考えた。町議会が同意すれば、町長はEを監査委員に選任することができる。
答え:✕ 分かれ目は、監査委員になれない親族の範囲です。地方自治法198条の2第1項は、長または副知事・副市町村長と親子、夫婦または兄弟姉妹の関係にある者は監査委員となることができないとしています。正しくは、議会が同意しても、町長の弟Eは監査委員になれません。監査委員が自分の親族の事件を監査できない除斥(199条の2)は、なった後の監査の場面の規定で、なれるかどうかの規定とは別です。
この分野の○✕は、行政書士の5分○✕ドリルの「行政法」で続けて解けます。
まとめ
- 監査委員:普通地方公共団体に置く。定数は都道府県・政令で定める市4人、その他2人(条例で増やせる)。長が議会の同意を得て、識見を有する者と議員から選ぶ(条例で議員から選ばないこともできる)。
- 任期は識見を有する者4年、議員は議員の任期。常勤の職員と兼ねられない。長・副知事・副市町村長の親子・夫婦・兄弟姉妹はなれない。
- 仕事は財務の監査と事務の執行の監査。毎会計年度1回以上の定期の監査のほか、長の要求・議会の請求・住民の請求による監査がある。
- 議会は98条で書類の検査、100条で関係人の出頭・証言・記録の提出の請求ができる。正当の理由のない拒否は拘禁刑・罰金で、議会は告発する。
- 外部監査は包括と個別。包括は都道府県と政令で定める市が毎会計年度、議会の議決を経て結ぶ。
参考にした公式の情報(2026年10月確認)
条文は、e-Gov法令検索で令和8年4月1日時点の版を指定して確かめました。令和8年法律第27号の中身と施行日は、総務省自治行政局長の通知(令和8年6月3日)で確かめました。
- e-Gov法令検索「地方自治法」(75条1項、98条、100条、195条〜200条、233条、242条、252条の27、252条の28、252条の36、252条の39〜252条の43)
- 総務省自治行政局長「『地域の自主性及び自立性を高めるための改革の推進を図るための関係法律の整備に関する法律』による地方自治法の改正について(通知)」(令和8年6月3日、内閣府の地方分権改革のページに掲載)(252条の32の改正と施行日)
働く人の法律試験ノート