条例と規則をわかりやすく:地方公共団体が作るルールの違いと限界

ひとことで言うと、条例(じょうれい)は、都道府県や市町村の議会が議決して作るルールです。規則(きそく)は、知事や市町村長が自分だけで作るルールです。住民に義務を課したり、権利を制限したりするには、原則として条例が必要です(地方自治法14条2項)。

罰則にも差があります。条例には、2年以下の拘禁刑(こうきんけい)や100万円以下の罰金などの刑罰を置けます。規則に置けるのは、5万円以下の過料(かりょう=刑罰ではないお金の制裁)だけです。この記事では、令和8年4月1日時点の地方自治法で、条例と規則の作り方と限界を説明します。住民が署名を集めて条例を求める直接請求は直接請求と住民監査請求の記事で扱うので、ここでは触れる程度にします。

身近な例で考えるとどうなるか

架空の「みどり市」で考えます。登場するのは、みどり市長のふじたさん、市議会の議長のいしかわさん、駅前で働く会社員のあおいさんです。

みどり市の駅前は、たばこのポイ捨てが目立っていました。そこで市は「駅前で歩きながらたばこを吸ってはいけない。違反したら2万円の過料」というルールを作ることにしました。流れは次のとおりです。

  1. ふじた市長が、条例の案を議会に出す。市長は議案を出せます(149条1号)。議員も、定数の12分の1以上の賛成があれば出せます(112条)。
  2. 議会が話し合い、出席議員の過半数で可決する(96条1項1号・116条1項)。
  3. いしかわ議長は、議決の日から3日以内に、条例を市長に送る(16条1項)。
  4. ふじた市長は、送られた日から20日以内に公布する(16条2項)。公布(こうふ=住民に知らせて、ルールとして出すこと)です。
  5. 条例に特別の定めがなければ、公布の日から数えて10日を過ぎた日から効き始める(16条3項)。

このあと、ふじた市長は「禁止区域を示す看板の形」や「過料を払う手続き」を、規則で決めました。規則は議会の議決がいりません。市長が自分の仕事の範囲で作れます(15条1項)。

ある日、あおいさんが禁止区域で歩きたばこをしました。市長が過料を科すときは、前もってあおいさんにそのことを知らせ、言い分を言う機会(弁明の機会)を与えなければなりません(255条の3)。

ただし、本物のルールでは、過料の金額や禁止区域は市ごとに条例で決めます。ここでの「2万円」は説明のための例です。

条文ではどう決まっているか

おおもとは憲法94条です。地方公共団体は「法律の範囲内で条例を制定することができる」とされています。これを受けて、地方自治法が細かいルールを決めています。

条例(14条)

  • 作れる範囲(1項):法令に違反しない限りで、2条2項の事務について作れる。2条2項の事務には、自治事務(じちじむ=自分の仕事)も、法定受託事務(ほうていじゅたくじむ=国などの役割を法律で任された仕事)も入る(2条8項・9項)。
  • 義務・権利の制限(2項):住民に義務を課し、権利を制限するには、法令に特別の定めがある場合をのぞき、条例によらなければならない。
  • 罰則(3項):法令に特別の定めがあるものをのぞき、条例に違反した人に「二年以下の拘禁刑、百万円以下の罰金、拘留、科料若しくは没収の刑又は五万円以下の過料」を科す規定を置ける。

規則(15条・138条の4)

  • 長の規則(15条1項):知事・市町村長(条文では「長(ちょう)」)は、法令に違反しない限りで、自分の権限に属する事務について規則を作れる。
  • 規則の罰則(15条2項):規則に違反した人に、5万円以下の過料を科す規定を置ける。刑罰は置けない。
  • 委員会の規則(138条の4第2項):教育委員会などの委員会も、法律の定めるところにより、法令や条例・規則に違反しない限りで、自分の権限の事務について規則その他の規程を作れる。

上下の関係と公布(2条・16条)

  • 地方公共団体は、法令に違反して事務を処理してはならない。市町村と特別区は、その都道府県の条例にも違反してはならない(2条16項)。違反した行為は無効(2条17項)。
  • 条例の公布は、議長が議決の日から3日以内に長へ送り、長が受け取った日から20日以内に公布する。ただし長が再議(さいぎ=議会にもう一度話し合わせること)などをしたときは別(16条1項・2項)。
  • 条例は、特別の定めがなければ、公布の日から起算して10日を経過した日から施行(16条3項)。このうち施行日のルール(3項)と、公布に必要な事項を条例で決めるルール(4項)は、公表がいる規則などにも準用される(16条5項)。議長が3日以内に送る・長が20日以内に公布する、という1項・2項は準用されていない。

当てはまる例・当てはまらない例

当てはまる例:条例で過料を置く

みどり市が、歩きたばこの禁止と2万円の過料を条例で決めるのは、14条3項の範囲内です。5万円以下だからです。住民の自由を制限するルールなので、規則ではなく条例で決める必要があります(14条2項)。

当てはまらない例:規則で罰金を置く

ふじた市長が、議会を通さずに規則で「違反者は罰金10万円」と決めることはできません。規則に置けるのは5万円以下の過料だけです(15条2項)。罰金は刑罰なので、置けるのは条例だけです。

ひっかけやすい例1:国の法律と同じものを条例で規制する

国の法律がすでに決めていることを、条例でも決めたらどうなるか。最高裁判所大法廷昭和50年9月10日判決(徳島市公安条例事件)は、デモ行進を規制する市の条例と道路交通法の関係を扱いました。判決は、道路交通法は、条例が交通秩序の面から独自の規制をすることを排除していないとして、条例は道路交通法に違反しないとしました。

判決は、言葉を並べて比べるだけでなく、法令と条例のそれぞれの趣旨(しゅし=ねらい)・目的・内容・効果を比べて、ぶつかるかどうかを判断しています。対象が重なるだけで条例が違法になるわけではない、という点がひっかけになります。

ひっかけやすい例2:財産の使い方を条例で制限する

憲法29条2項は、財産権の内容は「法律で」定めるとしています。では、条例で財産の使い方を制限できないのか。最高裁判所大法廷昭和38年6月26日判決(奈良県ため池条例事件)は、ため池の堤に作物を植えるなどの行為を禁止し、違反に罰金を科す県の条例について、憲法29条2項・3項に違反しないとしました。条例でも財産権を制限できる場合がある、という例です。補償がいるかどうかは損失補償の記事で扱います。

ひっかけやすい例3:市の条例が県の条例とぶつかる

みどり市の条例が、みどり市のある県の条例に違反していたら、その部分は無効です(2条16項・17項)。「市の条例も県の条例も同じ条例だから対等」と考えると、まちがえます。

ひっかけやすい例4:条例を作ったこと自体を裁判で争う

最高裁判所第二小法廷平成18年7月14日判決は、水道料金を一般的に改定する条例を作ったことについて、特定の人だけに当てはまるものではないとして、抗告訴訟(こうこくそしょう=行政の処分を争う裁判)の対象になる処分に当たらないとしました。条例はふつう、多くの人に向けた一般的なルールだからです。

似ているルールとどう違うか

地方公共団体のルールには、条例・規則のほかに、要綱(ようこう)のような内部の決まりもあります。要綱は、役所の中の仕事の進め方を決めたもので、住民を法的にしばる力はありません。国の政令・省令との違いや、内部の決まり(行政規則)の考え方は行政立法の記事で扱います。

比べる点条例長の規則
作る人議会が議決知事・市町村長
住民への義務づけできる(原則これ)法令の特別の定めがなければできない
刑罰2年以下の拘禁刑・100万円以下の罰金など置けない
過料5万円以下5万円以下
根拠14条15条

過料は刑罰ではなく、行政上の秩序を守るための制裁です。刑罰との違いは行政上の強制と行政罰の記事で整理しています。

もう一つ、議会を通さずに条例ができる場面があります。急ぎで議会を開く時間がないときなど、長が専決処分(せんけつしょぶん=議会のかわりに長が決めること)で条例を定めることがあります(179条)。この場合、長は次の議会で承認を求めます。くわしくは議会と長の関係の記事で扱います。

試験ではここをまちがえやすい

行政書士試験の地方自治法で問われやすい形です(宅建試験の範囲ではありません)。

  • 規則に刑罰を置けるとする:置けるのは5万円以下の過料だけ(15条2項)。「規則で罰金」は誤り。
  • 罰則の上限の数字を変える:条例は「2年以下」「100万円以下」、過料は「5万円以下」。3年・50万円・10万円などに変えた選択肢に注意。
  • 古い言葉のまま覚えている:14条3項は、令和7年6月1日施行の改正で「懲役若しくは禁錮」が「拘禁刑」に変わっています。令和8年度試験は改正後の条文が前提です。
  • 法定受託事務には条例を作れないとする:14条1項は2条2項の事務すべてが対象。法定受託事務も入る。
  • 公布の日数を入れかえる:議長→長は3日以内、長の公布は20日以内、施行は公布から10日を経過した日。
  • 「法律の範囲内」と「法令に違反しない限り」を混ぜる:前者は憲法94条、後者は地方自治法14条1項・15条1項の言い方。
  • 条例の制定請求で何でも求められるとする:地方税や使用料・手数料などの徴収に関する条例は、直接請求の対象から外れる(74条1項)。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題)
みどり市長は、規則で、規則に違反した者に3万円の過料を科す規定を置くことができる。

答え:○ 長は、法令に特別の定めがあるものをのぞき、規則に5万円以下の過料を科す規定を置けます(15条2項)。3万円はその範囲内です。罰金などの刑罰は置けません。

問2(このサイトのオリジナル問題)
条例は、条例に特別の定めがない限り、公布の日から施行される。

答え:✕ 特別の定めがなければ、公布の日から起算して10日を経過した日から施行されます(16条3項)。公布の日からではありません。

問3(このサイトのオリジナル問題)
普通地方公共団体が住民に義務を課すには、法令に特別の定めがある場合をのぞき、条例によらなければならない。

答え:○ 14条2項のとおりです。義務を課したり権利を制限したりするルールは、住民の代表である議会が議決する条例で決めるのが原則です。

まとめ

  • 条例は議会が議決して作る。規則は長(と委員会)が作る。住民に義務を課すのは原則として条例。
  • 条例の罰則は「2年以下の拘禁刑・100万円以下の罰金・拘留・科料・没収、5万円以下の過料」。規則は5万円以下の過料だけ。
  • 公布は3日(議長→長)・20日(長が公布)、施行は公布から10日を経過した日。
  • 法定受託事務にも条例を作れる。市町村の条例は都道府県の条例に違反すると無効。
  • 法令と対象が重なっても、趣旨・目的・内容・効果を比べて矛盾しなければ条例は有効(徳島市公安条例事件)。

次に読むなら、議会と長の関係の記事がおすすめです。条例の公布の前に長が使える「再議」や、議会の代わりに長が決める「専決処分」が出てきます。条例ができる流れを、議会と長の両方の側から見られるからです。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)