ひとことで言うと、是正の要求は国が自治事務(じちじむ=地方公共団体が自分の仕事として行う事務)の誤りを直すよう求める関与で、是正の指示は法定受託事務(ほうていじゅたくじむ=本来は国などの役割だが法律で地方に任せた事務)について、どう直すかまで指示する関与です。
関与(かんよ)とは、国や都道府県が、地方公共団体の仕事に口を出すことです。口を出された側が納得できないときは、国の関与なら国地方係争処理委員会に30日以内に審査を申し出て、さらに高等裁判所で争えます。この記事は、令和8年4月1日時点で施行されている地方自治法で書いています。
身近な例で考えると
架空のみどり市と、それを含むあおば県の話です。
| 人物 | 立場 | したこと |
|---|---|---|
| 山本さん | みどり市長 | 市の事務を進めている |
| 国の大臣 | 事務を所管する各大臣 | 市や県の事務に関与する |
| 佐藤さん | あおば県知事 | 県の立場で市に関与する |
- あおば県は、自治事務として、ある条例の運用を始めました。
- 大臣は「法令に違反している」と考え、あおば県に是正の要求をしました(245条の5第1項)。県は、直すための措置をとらなければなりません。ただし、どう直すかは県が考えます。
- 佐藤知事は「違反していない」と考えました。国の関与なので、30日以内に国地方係争処理委員会へ審査を申し出ます。
- 委員会の結論にも納得できなければ、高等裁判所に関与の取消しを求める訴えを起こします。
- 同じことがみどり市の自治事務で起きると、大臣は県に指示し、指示を受けた佐藤知事が市に是正の要求をします(245条の5第2項・3項)。これは県の関与なので、山本市長が審査を求める先は国地方係争処理委員会ではなく、自治紛争処理委員です(251条の3第1項)。
たとえると、是正の要求は「答案のここが間違っているから直しなさい。直し方は自分で考えて」、是正の指示は「この式をこう書き直しなさい」です。ただし本物のルールでは、どちらも法令違反か、著しく適正を欠き明らかに公益を害する場合にしか使えません。
条文ではこう決まっている
事務は2種類に分かれる(2条8項・9項)
- 法定受託事務:本来は国(第一号)や都道府県(第二号)が果たすべき役割で、適正な処理を特に確保する必要があるとして、法律や政令で特に定めた事務。
- 自治事務:地方公共団体の事務のうち、法定受託事務以外のもの。
- 関与は、法律かこれに基づく政令によらなければ受けない、とされています(245条の2。関与の法定主義)。
- 関与は必要最小限にし、自治事務では代執行などをできる限り避けることになっています(245条の3第1項・2項)。
是正の要求・是正の勧告・是正の指示
- 是正の要求(245条の5):各大臣は、都道府県の自治事務が「法令の規定に違反していると認めるとき、又は著しく適正を欠き、かつ、明らかに公益を害していると認めるとき」に、違反の是正や改善のため必要な措置を講ずべきことを求められます(1項)。市町村の事務(第一号法定受託事務を除く)については、大臣が都道府県の執行機関に指示し、その執行機関が市町村に求めます(2項・3項)。緊急を要するときなどは、大臣が市町村に直接求めることもできます(4項)。
- 求めを受けた地方公共団体は、必要な措置を「講じなければならない」とされています(245条の5第5項)。
- 是正の勧告(245条の6):都道府県の執行機関が、市町村の自治事務について、自分の判断で出せる関与です。条文に従う義務の定めはありません。
- 是正の指示(245条の7):各大臣は都道府県の法定受託事務について、都道府県の執行機関は市町村の法定受託事務について、「講ずべき措置に関し、必要な指示」ができます(1項・2項)。
- 代執行(245条の8):法定受託事務について、各大臣が知事に勧告し、指示し、高等裁判所の判決を得たうえで、知事に代わって行う手続です。高等裁判所は訴えの提起から15日以内の日を口頭弁論の期日とし、上告の期間は1週間です(5項・9項)。
令和6年改正のうち、試験の範囲に入るもの
令和6年の地方自治法改正で、「国民の安全に重大な影響を及ぼす事態」の特例ができました。各大臣は、生命等の保護の措置を迅速かつ的確に行うため特に必要なとき、閣議の決定を経て、地方公共団体に必要な指示ができます(252条の26の5第1項)。自治事務か法定受託事務かを条文で分けていない点が、ふつうの関与との違いです。指示をしたら国会に報告します(同条4項)。
この部分は令和6年9月26日に施行されているので、令和8年度試験の範囲です。一方、同じ改正のうち公金の収納事務のデジタル化の部分は、施行日が「公布の日から2年6月を超えない範囲内で政令で定める日」とされ(総務省の資料)、e-Gov の改正履歴でも、令和6年改正の最後の施行は令和8年9月24日です。令和8年4月1日にはまだ施行されていないので、令和8年度試験の範囲外です。
関与に不服があるときの流れ
| 順番 | すること | 期間・条文 |
|---|---|---|
| 1 | 国の関与(是正の要求、許可の拒否など) | 250条の13第1項 |
| 2 | 長などが委員会に審査を申し出る | 関与から30日以内 |
| 3 | 委員会が審査し、必要なら国に勧告 | 申出から90日以内 |
| 4 | 不服なら高等裁判所に訴える | 通知などから30日以内 |
- 審査の申出は、関与があった日から30日以内です(250条の13第4項)。天災などやむを得ない理由があれば、その理由がやんだ日から1週間以内にできます(同条5項)。
- 委員会は、自治事務への関与なら「違法」と「不当」の両方を、法定受託事務への関与なら「違法」だけを審査します(250条の14第1項・2項)。
- 訴えは、審査の申出をした長などしか起こせません(251条の5第1項)。委員会を通さずに、いきなり裁判所へは行けません。
- 委員会は総務省に置かれ、委員は5人です(250条の7、250条の8)。
- 都道府県の関与に不服があるときは、事件ごとに任命される3人の自治紛争処理委員が審査します(251条、251条の3第1項)。大臣の指示を受けて都道府県が市町村にした是正の要求も、都道府県の関与なので、こちらの手続です。
- 反対に、国が是正の要求や是正の指示をしたのに、地方公共団体が審査の申出も措置もしないまま放置するときは、各大臣が高等裁判所に不作為の違法確認の訴えを起こせます(251条の7)。都道府県が市町村にした是正の要求・是正の指示を放置されたときは、都道府県の執行機関が訴えます(252条)。
当てはまる例・当てはまらない例
- 当てはまる例(係争処理の流れを通った事件):ふるさと納税の対象に指定されなかった泉佐野市は、国地方係争処理委員会に審査を申し出ました。委員会は総務大臣に再検討を勧告しましたが、大臣は結論を変えませんでした。市は251条の5で訴え、最高裁判所第三小法廷は令和2年6月30日、総務省告示の一部を委任の範囲を逸脱し無効として、不指定を取り消しました。
- 当てはまらない例(都道府県が自分の判断で是正の要求):佐藤知事が、大臣の指示なしに、みどり市の自治事務に是正の要求をすることはできません。知事が自分の判断で出せるのは是正の勧告です(245条の6)。
- ひっかけやすい例(直し方の自由):是正の要求を受けた市は、措置を講じる義務を負います。ただし、条文は「必要な措置を講ずべきこと」を求める形で、措置の中身まで指定する是正の指示とは書き方が違います。
- ひっかけやすい例(代執行):代執行は法定受託事務の手続です。自治事務では代執行をできる限り避けることになっています(245条の3第2項)。
似ているルールとの違い
| 比べる点 | 是正の要求 | 是正の勧告 | 是正の指示 |
|---|---|---|---|
| 対象の事務 | 自治事務など | 市町村の自治事務 | 法定受託事務 |
| 出す側 | 各大臣(市町村へは原則県経由) | 都道府県の執行機関 | 各大臣・都道府県の執行機関 |
| 受けた側 | 措置を講じなければならない | 義務の定めなし | 講ずべき措置の指示を受ける |
| 放置したとき | 不作為の違法確認の訴え(251条の7・252条) | 規定なし | 不作為の違法確認の訴え(251条の7・252条) |
是正の要求の「など」は、市町村の第二号法定受託事務です(245条の5第2項は第一号法定受託事務だけを除いています)。条例と規則のちがいなど、地方公共団体が自分で作るルールは条例と規則をわかりやすくで、住民が使う手続は直接請求と住民監査請求・住民訴訟をわかりやすくで確かめられます。
試験ではここをまちがえやすい
- 主体のすり替え:「知事は自分の判断で市町村に是正の要求ができる」は誤り。自分の判断でできるのは是正の勧告です。
- 事務の入れ替え:「法定受託事務には是正の要求」「自治事務には是正の指示」と入れ替える肢に注意します。
- 審査の範囲:「委員会は違法かどうかだけを審査する」は、法定受託事務への関与の場合だけ正しい言い方です。
- 期間の数字:審査の申出は30日以内、委員会の審査は90日以内、訴えは30日以内です。
- 順番:委員会への審査の申出をしないで、関与の取消しの訴えは起こせません。
- 申出先:大臣の指示を受けて県が市にした是正の要求は、県の関与です。市が不服を申し出る先は、国地方係争処理委員会ではなく自治紛争処理委員です(251条の3第1項)。
- 令和6年改正:生命等の保護の指示は閣議の決定が要ります。各大臣の判断だけで出せるとする肢に注意します。
覚えるときは、関与の種類と事務の組み合わせ、係争処理の期間(30日・90日・30日)を組にしておくと、入れかえた肢に気づけます。この論点は宅建試験の範囲ではありません。地方自治法全体をどこまでやるかは行政書士試験の地方自治法は捨てていいかで整理しています。
○✕でたしかめよう
問1(このサイトのオリジナル問題)
あおば県知事の佐藤さんは、みどり市の自治事務の処理が法令に違反していると認めた。この場合、佐藤知事は、大臣の指示がなくても、自らの判断で、みどり市に是正の要求をすることができる。
答え:✕ 分かれ目は、是正の要求を出せる主体です。市町村の自治事務への是正の要求は、各大臣の指示を受けた都道府県の執行機関がします(地方自治法245条の5第2項・3項)。正しくは、知事が自らの判断でできるのは是正の勧告で、こちらは条文に従う義務の定めがありません(245条の6)。是正の要求と是正の勧告の取り違えを確かめる問題です。
問2(このサイトのオリジナル問題)
みどり市長は、自治事務についての国の関与に不服があり、国地方係争処理委員会に審査を申し出た。委員会は、その関与が違法とはいえなくても、市の自主性と自立性を尊重する観点から不当と認めるときは、国の行政庁に必要な措置を勧告する。
答え:○ 「違法でなくても」とあるので✕に見えますが、自治事務への関与は不当かどうかも審査されます(地方自治法250条の14第1項)。裁判所は違法しか判断しないので、委員会も同じだと考えると間違えます。法定受託事務への関与なら、審査は違法かどうかだけです(同条2項)。
問3(このサイトのオリジナル問題)
あおば県知事の佐藤さんは、県の自治事務について大臣から是正の要求を受けたが、納得できなかった。この場合、佐藤知事は、国地方係争処理委員会への審査の申出をしないで、直ちに高等裁判所に是正の要求の取消しを求める訴えを起こすことができる。
答え:✕ 分かれ目は、委員会への審査の申出を先にする必要があるかです。関与の取消しの訴えを起こせるのは、審査の申出をした長などで、委員会の結論に不服があるときなどに限られます(地方自治法251条の5第1項)。正しくは、関与から30日以内に審査を申し出て(250条の13第4項)、そのあと高等裁判所へ進みます。審査請求をせずに取消訴訟を起こせる行政事件訴訟法8条1項の自由選択と取り違えないようにします。
この分野の○✕は、行政書士の5分○✕ドリルの「行政法」で続けて解けます。
まとめ
- 是正の要求は自治事務(市町村は第二号法定受託事務も)、是正の指示は法定受託事務で、講ずべき措置に関して指示する。
- 都道府県が自分の判断で市町村に出せるのは是正の勧告。
- 国の関与への不服は、30日以内に国地方係争処理委員会、そのあと高等裁判所。県の関与(大臣の指示で県がした是正の要求を含む)への不服は自治紛争処理委員。
- 委員会は、自治事務なら違法と不当、法定受託事務なら違法だけを審査する。
- 令和6年改正の生命等の保護の指示は範囲内。公金の収納事務のデジタル化の部分は令和8年度試験の範囲外。
次に読むなら、議会と長の関係をわかりやすくがおすすめです。関与は国と地方の関係、議会と長は地方公共団体の中の関係で、地方自治法の大きな柱がそろいます。
参考にした公式の情報(2026年10月確認)
条文は、令和8年4月1日時点で施行されている内容を、e-Gov法令検索で確かめています。令和6年改正の施行日は、e-Gov の改正履歴と総務省の資料で確かめました。
- e-Gov法令検索「地方自治法」(2条、245条、245条の2〜245条の8、250条の7、250条の8、250条の13、250条の14、251条、251条の3、251条の5、251条の7、252条、252条の26の5)
- 総務省「地方自治法の一部を改正する法律(令和6年法律第65号)の概要」
- 裁判所「最高裁判所第三小法廷 令和2年6月30日判決」(不指定取消請求事件)
働く人の法律試験ノート