重要事項説明(宅建業法35条)のうち、お金と契約の終わり方の説明が35条1項7〜13号です。代金以外のお金、契約の解除、違約金、手付金等の保全措置、支払金・預り金の保全措置、ローンのあっせん、契約不適合責任の履行の措置の7つを、契約の前に宅建士が説明します。
このうち多くは、契約の後に渡す37条書面で「定めがあれば書く」事項と対になっています。ただし、手付金等と支払金・預り金の保全措置は、37条書面の事項にはありません。反対に、天災による損害の負担や税金の負担は、37条書面にだけある事項です。
この記事では、重要事項説明のうち取引条件の号だけを扱います。重要事項説明の全体(誰が・いつ・誰に)は重要事項説明(35条)の記事にあります。
身近な例で考えると
登場人物は次の4人(社)です。
| 人物 | 立場 | したこと |
|---|---|---|
| みなと不動産 | 宅建業者(売主) | 建築中のマンションを売る |
| さとうさん | みなと不動産の宅建士 | 契約の前に重要事項を説明する |
| はるとさん | 会社員(宅建業者ではない) | マンションを4,000万円で買う |
| ひかり不動産 | 宅建業者(別の取引の媒介) | 中古住宅の売買でお金を預かる |
はるとさんの契約の流れは、次のとおりです。
- 契約の前に、さとうさんが重要事項説明書を渡して説明する。
- 説明の中に「手付金400万円。建物は工事中なので、受け取る前に銀行の保証をつけます」「修繕積立基金30万円を引渡しのときに払います」「手付を放棄すれば契約を解除できます」「違約金は代金の2割です」「提携ローンをあっせんします。ローンが通らなければ契約は白紙に戻ります」という話が入る。
- 契約が結ばれ、みなと不動産が37条書面を渡す。そこには、決まった違約金の額や、ローンが通らなかったときの扱いが書かれる。
手付金の保全は、法律が業者に「先に措置をとれ」と命じている場面です。一方、ひかり不動産が中古住宅の買主から登記の前に60万円を預かるような場面では、法律が求めるのは「保全措置をとるかどうかを説明すること」までです。この違いが、この記事のいちばん大事な所です。
条文ではこう決まっている
宅建業法35条1項のうち、取引条件の号は次のとおりです(令和8年4月1日施行の条文で確かめました)。
- 7号:代金・交換差金・借賃以外に授受されるお金の額と、その目的(手付金、修繕積立基金、固定資産税の精算金など)。
- 8号:契約の解除に関する事項。
- 9号:損害賠償額の予定または違約金に関する事項。
- 10号:業者が手付金等を受け取ろうとするときは、41条(工事完了前)または41条の2(完了後)の保全措置の概要。
- 11号:支払金または預り金を受け取ろうとするときは、保全措置を講じるかどうかと、講じるならその概要。
- 12号:代金・交換差金のローンをあっせんするときは、その内容と、ローンが成立しないときの措置。
- 13号:契約不適合責任(引き渡した物が契約の内容に合わないときの売主の責任)の履行について、省令で定める措置を講じるかどうかと、講じるならその概要。
11号の「支払金又は預り金」は、業者が取引の相手方などから、その宅地・建物に関して受け取るお金です。名目は代金・借賃・権利金・敷金など何でもかまいません。ただし、次の4つは除かれます(施行規則16条の3)。
- 受け取る額が50万円未満のもの
- 41条・41条の2の保全措置がとられている手付金等
- 売主または交換の当事者である業者が、登記の後に受け取るもの
- 報酬
11号の保全措置には、銀行等の連帯保証を委託する契約や、指定保管機関に預ける方法などがあります(施行規則16条の4)。保証協会の一般保証業務による保証も、11号に書かれています。13号の措置には、銀行等の連帯保証を委託する契約や、住宅販売瑕疵担保保証金の供託などがあります(施行規則16条の4の2)。
35条と37条を1行ずつ並べると
37条書面(契約の後に、決まった内容を書いて渡す書面)の売買・交換の事項と並べました。37条の「定めがあれば」は、契約でその定めをしたときだけ書く、という意味です。
| 事項 | 35条(契約前に説明) | 37条(契約後に書く) |
|---|---|---|
| 代金以外のお金 | 額と目的(7号) | 定めがあれば、額・授受の時期・目的(6号) |
| 契約の解除 | 説明する(8号) | 定めがあれば内容(7号) |
| 損害賠償額の予定・違約金 | 説明する(9号) | 定めがあれば内容(8号) |
| 手付金等の保全措置 | 措置の概要(10号) | 書く事項にない |
| 支払金・預り金の保全措置 | 講じるかどうか・概要(11号) | 書く事項にない |
| ローンのあっせん | 内容と、不成立のときの措置(12号) | 定めがあれば、不成立のときの措置(9号) |
| 契約不適合責任の履行の措置 | 講じるかどうか・概要(13号) | 定めがあれば内容(11号。責任そのものの定めも) |
| 天災など不可抗力による損害 | 説明する事項にない | 定めがあれば内容(10号) |
| 税金などの負担 | 説明する事項にない | 定めがあれば内容(12号) |
表から読み取れる取り違えやすい所は3つです。
- 7号は「額と目的」、37条6号は「額・時期・目的」。授受の時期は37条書面で加わります。
- ローンは、35条では「内容」も説明しますが、37条書面に書くのは「成立しないときの措置」です。
- 天災と税金の負担は、35条の説明事項にありません。
貸借の37条書面では、このうち解除・損害賠償額の予定と違約金・天災の3つと、借賃以外のお金が「定めがあれば書く」事項になります(37条2項)。貸借の重要事項説明で外れる号(ローンのあっせん・手付金等の保全措置)は、貸借の重要事項説明の記事で整理しています。37条書面の全体は37条書面の記事にあります。
当てはまる例・当てはまらない例
当てはまる例(説明がいる)
- はるとさんの例で、みなと不動産が手付金400万円を受け取る。工事完了前の物件で、代金の5%(200万円)を超えるので、41条の保全措置が必要です。その措置の概要を10号として説明します。
- ひかり不動産が、中古住宅の買主から、登記の前に60万円を預かる。50万円以上で、報酬でもないので支払金・預り金に当たり、保全措置を講じるかどうかを11号として説明します。
当てはまらない例(11号の対象外)
- ひかり不動産が預かる額が40万円なら、50万円未満なので支払金・預り金に当たりません(施行規則16条の3第1号)。
- ひかり不動産が受け取る媒介の報酬は、額にかかわらず支払金・預り金に当たりません(同4号)。
- みなと不動産が、保全措置をとった手付金を受け取るときは、その手付金は11号の対象から外れます。説明するのは10号の措置の概要です(同2号)。
ひっかけやすい例
- 「60万円を預かるので、保全措置をとらなければ受け取れない」は誤りです。11号が求めるのは、講じるかどうかとその概要の説明までで、講じない、と説明することもできます。先に措置をとらないと受け取れないのは、41条・41条の2の手付金等です。
- 違約金を代金の3割と定めたとき、37条書面に3割と書いても、業者が自ら売主で買主が業者でない売買では、2割を超える部分は無効です(38条)。説明や記載をすれば有効になるわけではありません。8種制限の全体は8種制限の記事にあります。
似ているルールとの違い
10号(手付金等)と11号(支払金・預り金)は、どちらも「受け取ったお金を守る措置」の話ですが、法律の求め方が違います。
| 手付金等(41条・10号) | 支払金・預り金(11号) | |
|---|---|---|
| 場面 | 業者が自ら売主の売買 | 業者が受け取るお金(媒介・貸借も) |
| 措置 | 講じた後でなければ受け取れない | 講じるかどうかを説明する |
| 対象外の線 | 未完成5%以下かつ1,000万円以下、完成10%以下かつ1,000万円以下 | 50万円未満、保全済みの手付金等、業者売主の登記後、報酬 |
| 35条の説明 | 措置の概要 | 講じるかどうかと概要 |
手付金等の保全措置の方法と金額の数え方は、手付金等の保全措置の記事にあります。1,000万円は施行令3条の5の額です。手付金等の保全措置は、買主も宅建業者のときは適用されません(78条2項)。
試験ではここをまちがえやすい
35条書面(重要事項説明)は、当サイトが数えた宅建試験の全40回すべてで主な論点として出ており(計81問)、直近10回でも主な論点で29問、ほかの問の中の肢として3問ありました。宅建業法の論点で最も多い数です(数え方は宅建の出題論点ランキング)。取引条件の号は、次の形で取り違えやすい所です。
- 説明か義務か:11号の支払金・預り金は「保全措置を講じるかどうか」の説明。講じる義務と取り違えさせる形。
- 35条と37条の入れ替え:天災の負担・税金の負担を35条の事項にする、ローンの「内容」を37条書面の事項にする形。
- 数字の入れ替え:支払金・預り金の50万円と、手付金等の5%・10%・1,000万円を入れ替える形。
- 除かれるお金:報酬、保全済みの手付金等、業者売主の登記後のお金を、支払金・預り金に入れる形。
- 貸借への当てはめ:ローンのあっせん(12号)や手付金等の保全措置(10号)を、貸借でも説明する、とする形。
○✕でたしかめよう
問1(このサイトのオリジナル問題)
宅建業者Aが媒介する中古住宅の売買で、Aは、登記の前に買主B(宅建業者ではない)から、固定資産税の精算金として40万円を預かる予定である。Aは、この40万円について保全措置を講じるかどうかを、重要事項として説明する必要はない。
答え:○ ○です。分かれ目は50万円という金額の線です。35条1項11号の支払金・預り金からは、受け取る額が50万円未満のものが除かれます(施行規則16条の3第1号)。「預り金なら説明がいる」と考えると✕に見えますが、40万円は対象外です。5%・10%・1,000万円は、41条・41条の2の手付金等の保全措置の数字で、ここでは使いません。
問2(このサイトのオリジナル問題)
宅建業者Aが媒介する中古マンションの売買で、Aが登記の前に買主B(宅建業者ではない)から100万円を預かろうとする。Aは、保証協会の一般保証業務による保証などの保全措置を講じた後でなければ、この100万円を受け取ってはならない。
答え:✕ 分かれ目は、措置を講じる義務か、講じるかどうかの説明かです。100万円は支払金・預り金に当たりますが、35条1項11号が求めるのは、保全措置を講じるかどうかと、講じるならその概要を説明することです。正しくは、措置を講じないと説明したうえで受け取ることもできます。講じた後でなければ受け取れないのは、業者が自ら売主のときの手付金等(41条・41条の2)で、その規定と取り違えた文です。
問3(このサイトのオリジナル問題)
宅建業者Aが自ら売主となる土地の売買で、買主B(宅建業者ではない)のために代金のローンをあっせんする定めをした。Aが交付する37条書面には、ローンが成立しないときの措置を書けばよく、あっせんするローンの内容まで書くことは求められていない。
答え:○ ○です。分かれ目は、35条と37条で書く範囲が違うことです。37条1項9号は、ローンのあっせんの定めがある場合に「成立しないときの措置」を書くとしています。ローンの「内容」は、契約の前に35条1項12号で説明する事項です。説明したことはすべて37条書面にも書く、と考えると✕に見えますが、両方の条文の言葉が違います。
まとめ
- 取引条件の説明は35条1項7〜13号。お金・解除・違約金・保全措置・ローン・契約不適合責任の措置。
- 支払金・預り金(11号)は「保全措置を講じるかどうか」の説明。50万円未満・保全済みの手付金等・業者売主の登記後・報酬は対象外。
- 手付金等(10号)は、41条・41条の2の措置を講じた後でないと受け取れない。説明するのはその概要。
- 37条書面では、ローンは「成立しないときの措置」だけ。天災と税金の負担は37条書面にだけある。
- 取引条件の号を含む35条の○✕は、宅建の5分○✕ドリルで続けて解けます。
参考にした公式の情報(2026年10月確認)
- e-Gov法令検索「宅地建物取引業法」(35条1項7〜13号、37条1項・2項、38条、41条、64条の3第2項1号、78条2項)
- e-Gov法令検索「宅地建物取引業法施行令」(3条の5)
- e-Gov法令検索「宅地建物取引業法施行規則」(16条の3、16条の4、16条の4の2)
- 不動産適正取引推進機構「宅建試験の問題及び正解番号表」(当サイトの出題数の集計の出典)
働く人の法律試験ノート