手付金等の保全措置は、宅建業者が自ら売主となる売買で、買主が引渡し前に払ったお金を守る仕組みです。業者が倒産しても、銀行などからお金が返ってくるように、お金を受け取る前に手当てをしておきます(宅地建物取引業法41条・41条の2)。
必要になるのは、受け取る手付金等の合計が、工事完了前の物件なら代金の5%、完了後の物件なら代金の10%を超えるとき、または1,000万円を超えるときです(施行令3条の5)。方法は3つあり、そのうち指定保管機関による保管は完成物件だけで使えます。
8種制限の全体(手付の2割、違約金の2割など)は8種制限の記事にまとめています。この記事では、保全措置だけを深く扱います。「どのお金が対象か」「いくら守るのか」「どの方法で、何を買主に渡すのか」です。条文は e-Gov 法令検索の、令和8年4月1日時点の条文で確かめました。
身近な例で考えると
登場人物は次のとおりです。
| 人物 | 立場 | したこと |
|---|---|---|
| はるとさん | 会社員(業者ではない) | 建築中のマンションを買う |
| ひかり不動産 | 宅建業者(売主) | マンションを建てて自分で売る |
| あさひ銀行 | 金融機関 | 手付金等の返還を保証する |
はるとさんは、ひかり不動産が建てている途中のマンションを、代金4,000万円で買う契約をします。工事の完了前なので、基準は代金の5%=200万円です。
- 契約の日:手付金150万円を払う。200万円以下で、1,000万円以下なので、保全措置はなくても受け取れる。
- 2か月後:引渡し前に、中間金100万円を払うことになった。すでに受け取った150万円と足すと250万円。200万円を超えるので、ひかり不動産は中間金を受け取る前に保全措置をとる。
- ひかり不動産は、あさひ銀行と保証委託契約を結び、銀行が「返還の債務を連帯して保証する」と約束した書面を、はるとさんに渡した。
- 守られるのは、超えた50万円ではなく、受け取った手付金等の全部(250万円)。
- 完成・引渡しのときに、はるとさんは残りの代金を払い、マンションを受け取った。
たとえると、保全措置は「前払いしたお金の返金を、銀行に約束してもらう預かり証」です。お店がつぶれても、預かり証を持つお客さんは銀行から返してもらえます。ただし本物のルールでは、どの額から必要か、どの方法が使えるかが細かく決まっていて、業者が勝手に選べない場面があります。
条文ではこう決まっている
「手付金等」とは何か(41条1項)
- 代金の全部か一部として払うお金、手付金その他の名前で払うお金で代金に充てるもの。そのうち、契約を結んだ日以後、引渡しの前に払われるもの。
- 名前は問わない。手付金だけでなく、中間金や内金も、代金に充てるなら入る。
- 引渡しの後に払うお金は入らない。
工事完了前の物件(41条1項)
- 対象:工事の完了前に行う、その工事にかかる宅地・建物の売買で、業者が自ら売主となるもの。売買の時点で工事が終わっていないかどうかで分ける。
- 業者は、次の①か②の措置をとった後でなければ、買主から手付金等を受け取ってはいけない。
- 不要になるとき(ただし書):買主への所有権移転の登記がされたとき、買主が所有権の登記をしたとき、または受け取ろうとする手付金等の額(すでに受け取った分があれば、それを足した額)が代金の5%以下で、かつ1,000万円以下のとき。
- ①保証委託契約:銀行その他政令で定める金融機関か、国土交通大臣が指定する者(銀行等)に、返還の債務を連帯して保証してもらう契約を結ぶ。そのうえで、銀行等が連帯して保証すると約束した書面を買主に渡す。
- ①の保証の中身(41条2項):保証は、業者が受け取った手付金等の返還の債務の全部を保証するもの。保証する債務は、少なくとも引渡しまでに生じたもの。
- ②保証保険契約:法律の定める事業者と、返還されないことで買主が受ける損害を、少なくとも手付金等の額の分はうめる契約を結ぶ。そのうえで、その証券かこれに代わる書面を買主に渡す。
- ②の条件(41条3項):金額は、受け取ろうとする手付金等の額(すでに受け取った分を足した額)に相当する額。期間は、少なくとも契約が成立した時から引渡しまで。
- 書面は、買主の承諾があれば、電磁的方法(電子データなど)に代えられる(41条5項)。
工事完了後の物件(41条の2)
- 対象:工事完了前の売買以外の、業者が自ら売主となる売買。
- 業者は、①か②の措置、または次の③の措置をとった後でなければ、手付金等を受け取ってはいけない。
- 不要になるとき(ただし書):所有権の登記は工事完了前と同じ。額は、代金の10%以下で、かつ1,000万円以下のとき。
- ③指定保管機関による保管:国土交通大臣が指定する指定保管機関と「手付金等寄託契約」を結び、指定保管機関が業者に代わって手付金等を受け取り、保管する。あわせて、買主と「質権設定契約」を結ぶ(41条の2第1項1号・2号)。
- ③で買主に渡すもの:寄託契約を証する書面と、質権設定契約を証する書面。さらに、質権の設定を、確定日付のある証書で指定保管機関に通知する。
- ③の条件(41条の2第2項・3項):保管する額は、受け取ろうとする手付金等の額に、すでに受け取って保管されていない額を足したもの。保管期間と質権の存続期間は、少なくとも引渡しまで。
- 業者がすでに自分で手付金等を受け取っている場合は、その額(指定保管機関がすでに保管している分を除く)を、買主が手付金等を払う前に指定保管機関に渡す(41条の2第4項)。
1,000万円の数字(施行令3条の5)
41条1項ただし書と41条の2第1項ただし書の「政令で定める額」は、どちらも1,000万円です。
措置がとられないときの買主(41条4項・41条の2第5項)
業者が必要な措置をとらないとき、買主は手付金等を支払わないことができます。はるとさんが中間金の支払いを止めても、約束違反にはなりません。
当てはまる例・当てはまらない例
- 当てはまる例(完成物件・額):完成済みの一戸建て、代金1億2,000万円。代金の10%は1,200万円ですが、手付金1,100万円は1,000万円を超えます。「10%以下で、かつ1,000万円以下」の両方を満たさないので、保全措置が必要です。
- 当てはまる例(合算):工事完了前のマンション、代金4,000万円。手付金150万円の後に中間金100万円。合計250万円で5%(200万円)を超えるので、中間金を受け取る前に、250万円の全部について保全措置をとります。
- 当てはまらない例:完成済みの中古マンション、代金3,000万円で、手付金300万円。10%以下で、1,000万円以下なので、保全措置なしで受け取れます。
- 当てはまらない例:はるとさんへ所有権移転の登記をすませてから、引渡し前に中間金を受け取る。登記がされているので、保全措置は不要です。
- 当てはまらない例:売主も買主も宅建業者。41条・41条の2は、業者どうしの取引には適用されません(78条2項)。また、ひかり不動産が売主ではなく媒介をするだけの売買にも、かかりません。
- ひっかけやすい例:工事完了前のマンションで、指定保管機関に保管してもらう方法をとった。③は完成物件(41条の2)でだけ使える方法なので、工事完了前の物件の保全措置にはなりません。
- ひっかけやすい例:代金5,000万円の工事完了前の物件で、手付金300万円。5%は250万円なので保全措置が必要です。「超えた50万円の分だけ保証すればよい」は誤りで、保証は受け取った手付金等の返還の債務の全部が対象です(41条2項1号)。
似ているルールとの違い
3つの方法を比べます。
| 方法 | 工事完了前 | 工事完了後 | 買主に渡すもの |
|---|---|---|---|
| ①銀行等の保証 | 使える | 使える | 連帯保証を約束した書面 |
| ②保証保険契約 | 使える | 使える | 証券などの書面 |
| ③指定保管機関の保管 | 使えない | 使える | 寄託契約と質権設定契約の書面 |
保全措置は、ほかの条文ともつながっています。
- 自分のものでない物件の売買(33条の2):業者は、自分のものでない物件を自ら売主として売ってはいけません。ただし、工事完了前の物件の売買で、41条1項の①か②の措置がとられているときは例外です(33条の2第2号)。
- 重要事項の説明(35条1項10号):手付金等を受け取ろうとするときは、41条か41条の2による「措置の概要」を、契約の前に説明します。くわしくは重要事項説明の記事で扱っています。
- 手付の額の制限(39条):手付は代金の2割まで。保全措置をとっても、2割を超える手付は受け取れません。保全措置は「守る仕組み」、2割は「上限」で、別のルールです。
- 営業保証金・保証協会:取引で損をした人が後から弁済を受ける仕組みで、業者ごとに前もって用意するもの。手付金等の保全は、売買ごとに、お金を受け取る前に用意するものです。仕組みは営業保証金と保証協会の記事で確かめられます。
試験ではここをまちがえやすい
このテーマは宅建試験の宅建業法の論点です。計算と組み合わせの形で問われやすい論点です。
- 完成か未完成か:先に物件の状態を確かめる。未完成は5%、完成は10%。取りちがえると計算がずれます。
- 「かつ」の読み方:不要なのは「5%(10%)以下で、かつ1,000万円以下」のときだけ。どちらか一方でも超えれば必要です。高額物件では1,000万円のほうが先に効きます。
- 合算:中間金を受け取るときは、すでに受け取った手付金と足して判断する。足した結果で超えるなら、受け取る前に措置をとります。
- 守る額:超えた部分だけでなく、受け取った手付金等の全部。
- 方法の範囲:指定保管機関は完成物件だけ。未完成物件は①か②だけです。
- タイミング:措置は受け取る「前」。受け取った後に措置をとる形は誤りです。
- 対象のお金:契約の日以後、引渡しの前に払うもので、代金に充てるもの。名前が「中間金」「内金」でも入ります。
- 不要になる登記:買主への所有権移転の登記がされたとき、または買主が所有権の登記をしたときは不要。引渡しをしたかどうかとは別の基準です。
- 適用の場面:業者が自ら売主・買主が業者でない売買だけ(78条2項)。
○✕でたしかめよう
問1(このサイトのオリジナル問題)
宅建業者が自ら売主となる工事完了前の建物(代金6,000万円)の売買で、宅建業者でない買主から手付金250万円を受け取った後、中間金100万円を受け取るときは、中間金を受け取る前に保全措置を講じなければならない。
答え:○
5%は300万円です。手付金250万円だけなら不要ですが、中間金を足すと350万円で300万円を超えます。すでに受け取った分を足して判断するので(41条1項ただし書)、中間金を受け取る前に措置が必要です。
問2(このサイトのオリジナル問題)
宅建業者が自ら売主となる工事完了前のマンションの売買で、保全措置が必要な場合、指定保管機関と手付金等寄託契約を結び、その書面を買主に交付すれば、手付金等を受け取ることができる。
答え:✕
指定保管機関による保管は、工事完了後の物件の売買(41条の2)だけで使える方法です。工事完了前の物件では、銀行等の保証(41条1項1号)か、保証保険契約(同項2号)をとります。
問3(このサイトのオリジナル問題)
宅建業者が自ら売主となる完成済みの建物(代金8,000万円)の売買で、宅建業者でない買主から手付金900万円を受け取るときは、保全措置を講じる必要はない。
答え:✕
完成物件の基準は代金の10%(800万円)です。900万円は1,000万円以下ですが、10%を超えるので、保全措置が必要です(41条の2第1項)。
まとめ
- 手付金等=契約の日以後・引渡し前に払う、代金に充てるお金。名前は問わない。
- 措置が必要なのは、合計額が未完成で5%、完成で10%、または1,000万円を超えるとき。すでに受け取った分を足して判断する。
- 措置は受け取る前に。守るのは受け取った手付金等の全部。
- 方法は①銀行等の保証、②保証保険契約(41条1項2号)、③指定保管機関の保管(完成物件だけ)。それぞれ書面を買主に渡す。
- 措置がなければ、買主は手付金等を払わなくてよい。業者どうしの取引にはかからない。
このサイトで次に読むなら、8種制限の記事がおすすめです。手付の2割や違約金の2割など、同じ「業者が売主」の場面で使う数字を並べて覚えられます。新築住宅を売る業者の、引渡し後の備えを決めた住宅瑕疵担保履行法の記事も、「買主を守るお金の仕組み」として比べると違いがはっきりします。
参考にした公式の情報(2026年10月確認)
- 宅地建物取引業法(e-Gov 法令検索):33条の2、35条1項10号、39条、41条、41条の2、78条2項。令和8年4月1日時点の条文(令和7年法律第68号による改正の施行後)で確認しました。
- 宅地建物取引業法施行令(e-Gov 法令検索):3条の5(1,000万円)。
- 不動産適正取引推進機構「試験概要」:出題の根拠となる法令は、試験を実施する年度の4月1日現在施行されているもの。
働く人の法律試験ノート