宅建士の3つの義務:公正誠実・信用失墜行為の禁止・知識と能力の維持

宅建士(宅地建物取引士)には、宅建業法の第3章の初めに、3つの義務が並んでいます。公正かつ誠実に事務を行うこと(15条)、信用や品位を傷つける行為をしないこと(15条の2)、知識と能力の維持向上に努めること(15条の3)です。

ひとことで言うと、15条は「宅建業の仕事をするとき」の心がまえ、15条の2は「仕事の外も含めた」ふるまい、15条の3は「学び続ける」努力です。試験では、どれが職務に限られるか、どれが努力義務か、宅建業者の義務とどう対応するかが分かれ目になります。

当サイトが、不動産適正取引推進機構が公開している過去の試験(昭和63年度〜令和7年度の40回、2,000問)を1問ずつ読んで数えたところ、宅建士(登録・宅建士証)が主な論点の問題は63問(37回)で、直近10回では15問でした。3つの義務は、この宅建士の問題の中の肢として出る論点で、条文ごとの数までは分けていません(分け方は当サイトの判断で、公式の分類ではありません)。

この記事では、3つの義務と、違反したときの処分の流れを扱います。登録・宅建士証の手続は宅建士の登録と宅建士証の記事、住所が変わったときの変更の登録や登録の移転は変更の登録と登録の移転の記事にあります。宅建士にしかできない3つの事務(重要事項の説明、35条書面と37条書面への記名)も、登録の記事で扱っています。

身近な例で考えると

登場人物は3人(社)です。宅建業者=みどり住宅(愛知県知事の免許)、みどり住宅の宅建士=たくやさん(愛知県知事の登録)、家を買う人=ちえさんです。

  1. たくやさんは、ちえさんに中古の一戸建ての重要事項を説明した。
  2. たくやさんは、屋根に雨漏りの跡があると知っていたが、契約がまとまらなくなるのを心配して、ちえさんに話さなかった。→ 仕事の中で公正・誠実でない行為。15条に反し、宅建士としての事務に関する「著しく不当な行為」として、知事の処分の対象になりうる(68条1項3号)。
  3. 別の週末、たくやさんは、仕事と関係のない飲み会で騒ぎを起こし、店の物を壊した。→ 仕事の外の行為でも、宅建士の信用や品位を傷つける行為として15条の2の問題になる。
  4. たくやさんは反省し、法改正の勉強会に出るようにした。→ 15条の3の「知識と能力の維持向上」。こちらは努力義務。

たとえるなら、3つの義務は、制服を着ている間の決まり(15条)、制服を脱いでも守る決まり(15条の2)、腕をみがき続ける心がけ(15条の3)です。ただし本物のルールでは、15条の2に「仕事の外も含む」と条文に書いてあるわけではありません。15条だけが「業務に従事するときは」と場面を限り、15条の2にはその限定がない、という書き分けから読み取ります。

条文ではこう決まっている

  • 15条(業務処理の原則):宅建士は、宅建業の業務に従事するときは、取引の専門家として、購入者等の利益の保護と円滑な流通に役立つよう、「公正かつ誠実に」この法律に定める事務を行う。あわせて、宅建業に関連する業務に従事する人との「連携に努めなければならない」。
  • 15条の2(信用失墜行為の禁止):「宅地建物取引士は、宅地建物取引士の信用又は品位を害するような行為をしてはならない。」場面の限定はない。
  • 15条の3(知識及び能力の維持向上):宅建士は、事務に必要な知識と能力の維持向上に「努めなければならない」。努力義務。
  • 国土交通省の解釈:「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」は、15条の2について、職務として行われるものに限らず、職務との関係が薄い行為や私的な行為も含まれるとしている。
  • 宅建業者の義務:業者は、取引の関係者に対し、信義を旨とし、誠実に業務を行わなければならない(31条1項)。従業者に対し、業務を適正に行わせるため必要な教育を行うよう努めなければならない(31条の2。努力義務)。

宅建士の義務と業者の義務を並べる

中身宅建士宅建業者
公正・誠実15条(業務に従事するとき)31条1項(取引の関係者に対し)
信用・品位15条の2(禁止。場面の限定なし)―
学び・教育15条の3(自分の知識。努力義務)31条の2(従業者の教育。努力義務)
連携15条後半(努力義務)―

業者の側は、31条1項の信義誠実が、取引の関係者に対する業務全体にかかります。

当てはまる例・当てはまらない例

  1. 当てはまる(仕事の中の不誠実):たくやさんが雨漏りを知りながら説明しなかった。15条に反する。宅建士の事務に関する著しく不当な行為として、指示や事務禁止の対象になりうる(68条1項3号・2項)。業者のみどり住宅も、重要な事実を故意に告げない行為の禁止(47条)や監督処分の問題になる。
  2. 当てはまる(仕事の外の行為):休日の私的な場での暴力や器物の損壊。国土交通省の解釈では、私的な行為も15条の2の対象に入る。「業務中ではないから関係ない」とはならない。
  3. 当てはまらない(講習の受け忘れ):宅建士証の交付や更新の前6か月以内の講習(22条の2第2項・22条の3)は、宅建士証をもらうための要件で、15条の3の努力義務とは別の条文。受けていなければ宅建士証の交付や更新を受けられない、という形で効いてくる。
  4. ひっかけやすい(指示を飛ばして事務禁止):たくやさんが宅建士でない知人に自分の名義を使わせ、知人がその名義で宅建士であると表示した(68条1項2号)。知事は、指示をせずに、いきなり1年以内の事務禁止をすることもできる(68条2項)。
  5. ひっかけやすい(業者への処分):宅建士が68条の処分を受け、業者の責めに帰すべき理由があるときは、業者も指示の対象になる(65条1項4号)。

違反したときの処分の流れ

宅建士への監督処分は、次の3段です(くわしくは監督処分と罰則の記事)。

処分だれができるか主なきっかけ
指示登録した知事、事務を行った県の知事名義貸し・専任の表示を許した・事務での不正や著しく不当な行為(68条1項・3項)
事務禁止(1年以内)同上上と同じ事由、または指示に従わない(68条2項・4項)
登録消除登録した知事だけ上の事由で情状が特に重い、事務禁止の処分に違反した、欠格にあたったなど(68条の2)

たくやさんの例に当てはめると、次のようになります。

  1. 雨漏りを説明しなかった → 68条1項3号にあたりうる。愛知県知事は、指示も、指示を経ない事務禁止もできる。
  2. 事務禁止の期間中に、こっそり重要事項の説明をした → 事務禁止の処分に違反したので、愛知県知事は登録を消除しなければならない(68条の2第1項4号)。
  3. たくやさんが岐阜県の物件で同じことをした → 岐阜県知事も指示や事務禁止ができる(68条3項・4項)。登録の消除は、登録した愛知県知事だけ。

なお、68条1項の事由は「宅建士として行う事務に関し」などと書かれています。15条の2の私的な行為が、そのまま68条1項各号にあたると条文に書いてあるわけではありません。私的な行為で刑罰を受けると、登録の欠格(18条1項)から登録消除につながる道があります。

似ているルールとの違い

比べる点15条15条の215条の3
義務の形行う(連携は努力)してはならない努めなければならない
場面業務に従事するとき限定なし限定なし
業者の側の近い条文31条1項―31条の2

業者の31条の2は「従業者の教育」で、教える相手は宅建士に限りません。宅建士の15条の3は「自分の」知識と能力です。主語と相手の入れかえに注意します。業者の業務のルール全体は業務上の規制の記事で扱っています。

試験ではここをまちがえやすい

  • 15条の2を職務に限る型:「業務に従事するときは」と場面を限っているのは15条です。15条の2には限定がなく、私的な行為も入るとされています。
  • 努力義務と義務の入れかえ:15条の3(知識・能力)と31条の2(従業者の教育)は「努めなければならない」です。「しなければならない」に変えた肢に注意します。
  • 15条の3と法定講習の混同:宅建士証の交付・更新の前6か月以内の講習は、22条の2・22条の3の要件です。
  • 処分の順番の型:事務禁止の前に指示を経る必要はありません。68条1項各号にあたれば、いきなり事務禁止もできます。
  • 処分できる知事の型:指示・事務禁止は事務を行った県の知事もできますが、登録消除は登録した知事だけです。

宅建試験では、宅建士の登録や宅建士証の問題の中で、15条〜15条の3の条文の言葉(業務に従事するとき・信用又は品位・努めなければならない)を入れかえた肢として確かめておく範囲です。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題)
宅建業法は、宅建士の公正誠実の義務(15条)だけでなく、信用失墜行為の禁止(15条の2)についても、「宅地建物取引業の業務に従事するときは」と場面を限って定めている。

答え:✕ 分かれ目は、場面の限定がどの条文にあるかです。15条の2は「宅地建物取引士は、宅地建物取引士の信用又は品位を害するような行為をしてはならない」とだけ定めています。正しくは、「業務に従事するときは」と場面を限っているのは15条(公正誠実)だけで、その限定を15条の2に持ち込んだ誤りです。このため、休日の私的な場での行為も15条の2の問題になりえます(国土交通省「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」も、私的な行為も含まれるとしています)。

問2(このサイトのオリジナル問題)
愛知県知事の登録を受けた宅建士Aが、岐阜県内の取引で、宅建士として行う事務に関し著しく不当な行為をした。岐阜県知事は、Aに指示も事務禁止もできるが、Aの登録を消除することはできない。

答え:○ 分かれ目は、処分ごとに「だれができるか」です。事務を行った岐阜県の知事も、指示(68条3項)と1年以内の事務禁止(同条4項)ができます。一方、登録消除(68条の2)は、登録をしている愛知県知事だけができます。「他県の知事は何もできない」と考えると✕にしてしまいます。業者への処分でも、業務停止は業務地の知事もできますが、免許取消しは免許をした行政だけ、という同じ形です。

問3(このサイトのオリジナル問題)
宅建士Aが他人に自己の名義の使用を許し、その他人がAの名義を使用して宅建士である旨の表示をした。Aの登録をしている知事がAに事務禁止の処分をするには、先にAに指示をし、Aがその指示に従わなかったことが要件となる。

答え:✕ 分かれ目は、事務禁止の前に指示が要るかどうかです。68条2項は、1項各号のどれかにあたる場合「又は」指示に従わない場合に、1年以内の事務禁止ができると定めています。正しくは、名義貸し(68条1項2号)にあたれば、指示を経ずに事務禁止ができます。「指示に従わない」は、事務禁止ができる場合の一つにすぎず、要件ではありません。

まとめ

  • 15条:業務に従事するとき、公正かつ誠実に事務を行う(関連業務の人との連携は努力義務)。
  • 15条の2:信用や品位を害する行為の禁止。場面の限定がなく、私的な行為も含まれるとされる。
  • 15条の3:知識と能力の維持向上は努力義務。宅建士証の前の講習(22条の2)は別の要件。
  • 業者の側は、31条1項(信義誠実)と31条の2(従業者の教育。努力義務)。
  • 処分は、指示・1年以内の事務禁止(事務を行った県の知事も可)と、登録消除(登録した知事だけ)。指示を経ない事務禁止もある。

この分野の○✕は、宅建の5分○✕ドリルの「宅建業法」で続けて解けます。宅建士の登録・宅建士証の肢とまぜて解くと、義務の条文と手続の条文を見分ける練習になります。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)

条文は、令和8年4月1日時点で施行されている内容を、e-Gov法令検索(法令API)で確かめています。

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