重要事項説明(宅建業法35条)は、売買だけでなく貸借(賃貸)の媒介・代理にもかかります。ただし、説明する事項は売買と同じではありません。貸借だけで加わる事項があり、反対に、売買の事項の一部は貸借では外れます。
貸借で加わる主な事項は、建物の設備(台所・浴室・便所など)、契約期間と更新、定期借地権・定期建物賃貸借であること、用途の制限、敷金などの精算、管理の委託先、契約終了時の建物の取壊しです(施行規則16条の4の3)。外れる主な事項は、建物の貸借での私道負担(35条1項3号)、ローンのあっせん(12号)、手付金等の保全措置(10号)、そして建物の貸借での法令上の制限の大部分(施行令3条3項)です。
もう1つの分かれ目は、借りる物が宅地か建物かです。同じ貸借でも、宅地と建物で説明する号が違います。
重要事項説明(35条書面)は、宅建業法でいちばん多く出る論点です。当サイトが、不動産適正取引推進機構が公開している過去の試験(昭和63年度〜令和7年度の40回、2,000問)を1問ずつ読んで数えたところ、35条書面が主な論点の問題は81問で、全40回のすべてに出ていました。直近10回では29問です(分け方は当サイトの判断で、公式の分類ではありません。貸借の事項など、個々の説明事項ごとの数は数えていません)。重要事項説明の全体(だれが・いつ・だれに・どうやって)は重要事項説明の記事で説明しています。
身近な例で考えると
登場人物は4人です。アパートの一室を借りる大学生=りんさん、一般定期借地権で土地を借りて家を建てる会社員=はるとさん、仲介する宅建業者=みなみ不動産、みなみ不動産の宅建士=佐藤さんです。
- りんさんは、木造2階建てのアパートの一室を借りることにした。佐藤さんは、契約の前に、登記された権利、水道・電気・ガス・排水の状況、借賃以外に払うお金(敷金・礼金)、契約の解除、違約金などを説明する。ここまでは売買と同じ。
- 佐藤さんは、さらに、エアコン・浴室・トイレなどの設備の状況、契約期間(2年)と更新のしかた、「楽器の演奏は禁止」という使い方の制限、敷金を退去のときにどう精算するか、管理会社の名前と住所を説明した。これが貸借で加わる事項。
- アパートの前の私道の負担(通行料など)や、建物の容積率・建蔽率の制限は、建物の貸借なので説明の対象ではない。
- はるとさんは、地主から50年の一般定期借地権で土地を借りる。佐藤さんは、定期借地権であること、契約期間、契約が終わるときの建物の取壊しについての定め、私道の負担、土地の法令上の制限などを説明した。宅地の貸借なので、建物の貸借とは説明する号が違う。
たとえるなら、借りる人への説明は「住むため・使うための説明」、買う人への説明は「持ち主になるための説明」です。借りる人には、設備や契約の終わり方が大事で、お金を借りる話(ローン)や、建物を建て替えるときの制限は関係が薄いのです。ただし本物のルールでは、どれを説明するかは号で決まっていて、物件ごとに判断して減らすことはできません。
条文ではこう決まっている
35条1項の号で、貸借でも説明するもの
次の号には、売買・貸借の区別がありません。貸借でも説明します。
- 登記された権利の種類と内容(1号)
- 飲用水・電気・ガスの供給と排水の施設の整備の状況(4号)
- 工事完了前の物件の、完了時の形状・構造など(5号)
- 既存の建物の建物状況調査の実施の有無と結果の概要(6号の2イ)
- 代金・借賃以外に授受される金銭の額と目的(7号。敷金・礼金など)
- 契約の解除(8号)、損害賠償額の予定・違約金(9号)
- 支払金・預り金の保全措置をとるかどうか(11号)
- 種類・品質が契約に合わないときの責任(契約不適合責任)の履行を確保する措置(施行規則16条の4の2の保証の契約や供託など)をとるかどうかと、その概要(13号)
貸借で外れる・減るもの
- 私道に関する負担(3号):「当該契約が建物の貸借の契約以外のものであるときは」と書かれています。建物の貸借では説明しません。宅地の貸借では説明します。
- 法令上の制限(2号・施行令3条):契約の内容の別(宅地か建物か、売買か貸借か)に応じて政令で決めます。宅地の貸借では、施行令3条1項の制限から、土地などを譲り渡すときの届出・申出に関する一部の規定(都市計画法の有償譲渡の届出、公有地の拡大の推進に関する法律の届出など)を除いたもの(同条2項)。建築基準法の制限は除かれていません。建物の貸借では、新住宅市街地開発法・新都市基盤整備法・流通業務市街地の整備に関する法律の3つの法律の制限だけです(同条3項)。
- 区分所有建物の事項(6号・施行規則16条の2):建物の貸借では、専有部分の用途・利用の制限の規約と、管理の委託先の2つだけ。くわしくはマンションの重要事項説明の記事にあります。
- 設計図書などの保存の状況(6号の2ロ):対象の書類が売買・交換に係るものとされているので、貸借では説明しません(施行規則16条の2の3)。
- 手付金等の保全措置(10号):業者が自ら売主となる売買で手付金等を受け取るときの話なので、貸借には関係しません。
- ローンのあっせん(12号):「代金又は交換差金に関する金銭の貸借のあつせん」なので、貸借には関係しません。
貸借で加わるもの(14号・施行規則16条の4の3)
施行規則16条の4の3は、説明する号を契約ごとに決めています。宅地の貸借は1号〜3号の2と8号〜13号、建物の貸借は1号〜5号と7号〜12号です。1号〜6号(災害の区域・石綿・耐震診断・住宅性能評価)は災害と建物の調査の記事で扱うので、ここでは7号〜13号を表にします。
| 号と説明事項 | 宅地の貸借 | 建物の貸借 |
|---|---|---|
| 7 台所・浴室・便所などの設備の整備の状況 | しない | 説明する |
| 8 契約期間と契約の更新 | 説明する | 説明する |
| 9 定期借地権・定期建物賃貸借・終身建物賃貸借であること | 説明する | 説明する |
| 10 用途その他の利用の制限 | 説明する | 説明する(区分所有建物は16条の2第3号で) |
| 11 敷金など契約終了時に精算する金銭の精算 | 説明する | 説明する |
| 12 管理の委託先の氏名・住所 | 説明する | 説明する(区分所有建物は16条の2第8号で) |
| 13 契約終了時の建物の取壊しの定め | 説明する | しない |
宅地と建物の違いは、両端の2つだけです。設備(7号)は建物の話なので建物の貸借だけ、建物の取壊し(13号)は土地の上の建物の話なので宅地の貸借だけです。
9号の「定期借地権」は借地借家法22条1項の定期借地権、「定期建物賃貸借」は38条1項の定期建物賃貸借、「終身建物賃貸借」は高齢者の居住の安定確保に関する法律52条1項のものです。借地借家法のしくみは借地借家法の記事で確かめてください。
当てはまる例・当てはまらない例
- 当てはまる例:りんさんのアパートの媒介で、敷金を退去時にどう精算するかを説明した。→ 11号の事項です。7号(借賃以外の金銭の額と目的)で敷金の額を説明するのとは別に、精算のしかたも説明します。
- 当てはまる例:はるとさんの定期借地の媒介で、地主の土地の前の私道の負担を説明した。→ 宅地の貸借は「建物の貸借以外」なので、3号の私道負担を説明します。
- 当てはまらない例:りんさんのアパートの媒介で、ローンのあっせんについて説明しなかった。→ 12号は代金・交換差金のローンの話なので、貸借では関係しません。
- 当てはまらない例:みなみ不動産が、自分の持っているアパートを自分でりんさんに貸す。→ 自ら貸主になることは宅建業の取引に当たらず、35条の義務はかかりません(自ら貸主の記事)。
- ひっかけやすい例:りんさんのアパートの媒介で、建築基準法の用途地域の制限や容積率を説明しなかった。→ 建物の貸借で説明する法令上の制限は、施行令3条3項の3つの法律に限られます。説明しなくても35条の違反ではありません。ただし、アパートの使い方の制限(楽器禁止など)は10号として説明します。
- ひっかけやすい例:定期建物賃貸借の媒介で、「更新がない」ことは契約書に書くからと、重要事項説明では触れなかった。→ 9号で定期建物賃貸借であることを、8号で契約期間と更新に関する事項を説明します。
似ているルールとの違い:売買と貸借を並べる
| 事項 | 売買・交換 | 宅地の貸借 | 建物の貸借 |
|---|---|---|---|
| 私道負担(3号) | 説明する | 説明する | しない |
| 法令上の制限(2号) | 施行令3条1項の全部 | 一部を除いて説明 | 3つの法律だけ |
| ローンのあっせん(12号) | 説明する | 関係しない | 関係しない |
| 設備(規則7号) | — | しない | 説明する |
| 契約期間・更新(規則8号) | — | 説明する | 説明する |
| 建物の取壊し(規則13号) | — | 説明する | しない |
「—」は、施行規則16条の4の3の柱書が売買・交換の号として挙げていないものです。売買の重要事項説明では、契約期間や更新という考え方そのものがありません。
試験ではここをまちがえやすい
まちがえやすいのは次の点です。
- 私道負担:建物の貸借だけが外れる。宅地の貸借では説明する。「貸借では私道負担の説明は不要」と広げた肢に注意。
- 法令上の制限:建物の貸借では大部分が外れる(3つの法律だけ)。宅地の貸借では大部分を説明する。
- 設備と取壊し:設備は建物の貸借だけ、建物の取壊しの定めは宅地の貸借だけ。
- 定期借地・定期借家:その旨を説明する(規則9号)。契約期間・更新(規則8号)と組にして覚えておく。
- 敷金:額と目的は35条1項7号、精算のしかたは規則11号。どちらも貸借で説明する。民法の敷金のルールから37条書面・印紙税まで、分野をまたいだ敷金の扱いは敷金の記事でまとめています。
- 建物状況調査:実施の有無と結果の概要は貸借でも説明し、書類の保存状況は貸借では説明しない。
- 自ら貸主:宅建業にあたらないので、35条の義務はない。
○✕でたしかめよう
問1(このサイトのオリジナル問題)
宅建業者Aが、アパートの一室の賃貸借の媒介をする場合、Aは、借主に対し、そのアパートの敷地に接する私道に関する負担について説明しなければならない。
答え:✕ 分かれ目は、私道負担の説明が外れる契約の種類です。35条1項3号は「当該契約が建物の貸借の契約以外のものであるときは」私道に関する負担を説明するとしています。正しくは、建物の貸借の媒介では私道負担の説明は不要です。宅地の貸借は「建物の貸借以外」に当たるので説明がいり、これと取り違えた形です。
問2(このサイトのオリジナル問題)
宅建業者Aが、建物の賃貸借の媒介をする場合、その建物について建築基準法による容積率の制限があっても、Aは、その制限を35条1項2号の法令上の制限として借主に説明する必要はない。
答え:○ 分かれ目は、建物の貸借で説明する法令上の制限の範囲です。35条1項2号の制限は、契約の内容の別に応じて政令で定めます。建物の貸借では、新住宅市街地開発法・新都市基盤整備法・流通業務市街地の整備に関する法律の3つの法律による制限だけです(施行令3条3項)。法令上の制限は重要事項説明の柱なので、建築基準法も説明すると考えると✕にしてしまいます。宅地の貸借では、建築基準法の制限も説明の対象に入ります(同条2項)。
問3(このサイトのオリジナル問題)
宅建業者Aが、宅地について一般定期借地権(借地借家法22条1項)を設定する契約の媒介をする場合、Aは、借地権者となる者に対し、定期借地権を設定しようとする旨と、契約終了時における建物の取壊しに関する事項を定めようとするときはその内容を、説明しなければならない。
答え:○ 分かれ目は、宅地の貸借で説明する施行規則の号です。宅地の貸借では、施行規則16条の4の3の8号〜13号を説明します。定期借地権を設定しようとするときはその旨(9号)、建物の取壊しに関する事項を定めようとするときはその内容(13号)です。13号は宅地の貸借だけの事項なので、「貸借の事項は建物の貸借と同じ」と考えると✕にしてしまいます。反対に、設備の整備の状況(7号)は建物の貸借だけの事項です。
まとめ
- 貸借でも、登記された権利・水道など・借賃以外の金銭・解除・違約金・支払金の保全措置などは説明する。
- 建物の貸借では、私道負担と、法令上の制限の大部分(3つの法律以外)が外れる。宅地の貸借では両方説明する。
- ローンのあっせん・手付金等の保全措置・書類の保存状況は、貸借では関係しない。
- 貸借だけの事項:設備(建物のみ)、契約期間と更新、定期借地・定期借家であること、用途の制限、敷金などの精算、管理の委託先、建物の取壊し(宅地のみ)。
宅建業法の○✕は、宅建の5分○✕ドリルの「宅建業法」の重要事項説明の問題で続けて解けます。次に読むなら、災害と建物の調査の記事がおすすめです。この記事で後回しにした施行規則16条の4の3の1号〜6号(土砂災害・津波・水害の図面・石綿・耐震診断・住宅性能評価)も、宅地か建物か、売買か貸借かで要る・要らないが分かれます。
参考にした公式の情報(2026年10月確認)
条文は、令和8年4月1日時点で施行されている内容を、e-Gov法令検索(API。基準日2026-04-01)で確かめています。
- e-Gov法令検索「宅地建物取引業法」(35条1項1号〜14号)
- e-Gov法令検索「宅地建物取引業法施行令」(3条2項・3項)
- e-Gov法令検索「宅地建物取引業法施行規則」(16条の2、16条の2の3、16条の4の2、16条の4の3)
- 不動産適正取引推進機構「宅建試験の問題及び正解番号表」(出題数を数えるのに使った過去の試験問題)
働く人の法律試験ノート