営業保証金は、開業のときに預けて終わりではありません。開業したあとも、次の4つの場面でお金が動きます。①事務所を増やしたら、その分を預けて届け出てから、その事務所で営業を始めます。②本店を移して、もよりの供託所(きょうたくじょ=国がお金を預かる窓口)が変わったら、預けたお金を移します。お金だけで預けているなら「保管替え」を頼み、有価証券が入っていれば新しい供託所に預け直します。③お客さんへの還付で減ったら、2週間以内に足りない分を預けます。④やめたときなどは取り戻せますが、原則として6か月以上の公告が要ります。
この記事は、②と④を中心に、「公告がいる場合・いらない場合」を事例で見分けられるようにします。預ける額や還付を受けられる人などの基本は営業保証金と保証協会の記事にまとめています。
身近な例で考えると:みどり住宅の10年
登場人物を紹介します。
| 人物 | 立場 | したこと |
|---|---|---|
| みどり住宅 | 宅建業者(愛知県知事の免許) | 名古屋の本店で開業し、支店を出し、本店を移し、やがて廃業する |
| さとしさん | みどり住宅の社長 | 手続きを担当する |
| 保証協会 | 宅建業者だけが社員の団体 | 途中で入るかどうかの選択肢になる |
みどり住宅に起きたことを、時間の順に並べます。
- 開業:本店の分1,000万円を、本店のもよりの供託所に預ける。愛知県知事に届け出てから開業する。
- 支店を出す:豊田市に支店を出すことにした。支店の分500万円も、本店のもよりの供託所に預ける。届け出てから、豊田支店で営業を始める。
- 本店を移す:本店を名古屋から別の市に移し、もよりの供託所が変わった。みどり住宅はお金だけで預けていたので、遅滞なく、元の供託所に「新しい供託所へ移してください」と保管替えを頼む。費用は先に払う。
- 支店をやめる:豊田支店を閉じた。500万円が多すぎるので取り戻したい。お客さんに「6か月を下らない期間内に申し出てください」と公告し、申出がなければ取り戻せる。
- 廃業する:さとしさんは宅建業をやめ、廃業の届出をした。免許は効力を失う。残りの1,000万円も、6か月以上の公告をしてから取り戻す。
もし3の時点で、みどり住宅が国債も混ぜて預けていたら、保管替えは使えません。移転後の本店のもよりの供託所に、新しく全額を預けます。そのあと、元の供託所の分を取り戻します。このときは、一時的に両方の供託所にお金がある「二重の供託」になります。そのかわり、元の供託所の分は公告なしで取り戻せます。
たとえると、保管替えは「銀行に支店間の口座の移しかえを頼む」ようなものです。ただし本物のルールでは、お金だけで預けているときにしか使えません。有価証券があるときは、引っ越し先で新しく預けてから、元の分を引き出す順番になります。
条文ではこう決まっている
事務所を増やしたとき(26条)
- 事業を始めたあとに新しく事務所を設けたら、その事務所の分の営業保証金(1つごとに500万円)を預けます(26条1項、施行令2条の4)。
- 預ける場所は、主たる事務所のもよりの供託所です。有価証券でもかまいません。預けたら届け出て、届け出た後でなければ、その事務所で事業を始められません(26条2項で25条1項・3項〜5項を準用)。
- 開業のときの「免許から3か月で催告、催告から1か月で免許の取消しができる」という定め(25条6項・7項)は、26条2項の準用に入っていません。
本店を移したとき(29条)
- 主たる事務所を移して、もよりの供託所が変わったときの決まりです。
- 金銭だけで預けているとき:遅滞なく、費用を先に払って、今の供託所に対し、移転後のもよりの供託所への保管替えを請求します(29条1項)。
- それ以外のとき(有価証券が入っているとき):遅滞なく、移転後のもよりの供託所に新たに供託します(29条1項)。
- 保管替えの請求のしかたは、供託規則の定めによります(宅地建物取引業者営業保証金規則6条)。
取り戻すとき(30条)
- 取り戻せる場面(30条1項):免許の有効期間が満了したとき、廃業等の届出で免許が効力を失ったとき(11条2項)、業者が死亡したときや法人が合併で消えたとき(11条1項1号・2号)、免許を取り消されたとき(25条7項・66条・67条1項)。取り戻すのは、業者だった人か、その承継人です。
- 一部の事務所をやめて、預けた額が必要な額を超えたときも、超えた分を取り戻せます。本店の移転で新たに供託したときの、移転前の供託所の分も同じです(30条1項の2文目)。
- 公告:取り戻すには、還付を受ける権利を持つ人に「6か月を下らない一定期間内に申し出るべき旨」を公告し、その期間内に申出がないことが必要です(30条2項本文)。公告は官報で行い、公告したら遅滞なく免許権者に届け出ます(営業保証金規則7条)。
- 公告がいらない場合:①本店の移転で新たに供託したときの、移転前の供託所の分(30条2項のかっこ書き)。②取り戻せる事由が生じた時から10年たったとき(30条2項ただし書)。③保証協会の社員になって、営業保証金を預ける必要がなくなったとき(64条の14。30条2項を準用していない)。
還付で減ったとき(28条)
- 還付で足りなくなったら、免許権者から通知書を受け取った日から2週間以内に不足額を預けます(28条1項、営業保証金規則5条)。預けたら2週間以内に届け出ます(28条2項)。
当てはまる例・当てはまらない例
当てはまる例
- みどり住宅が、豊田支店の分を本店のもよりの供託所に預けて届け出た翌日から、豊田支店で営業を始めた。→ 届け出た後なので、条文に合っています(26条2項・25条5項)。
- 国債を含めて預けていたみどり住宅が本店を移し、移転後のもよりの供託所に新たに1,500万円を預けた。元の供託所の1,500万円を、公告をせずに取り戻した。→ 移転前の供託所の分は公告がいりません(30条2項かっこ書き)。
- 廃業してから10年たって、まだ取り戻していなかった営業保証金を取り戻す。→ 事由が生じてから10年たてば、公告はいりません(30条2項ただし書)。
当てはまらない例
- 本店を移したみどり住宅が、金銭と国債で預けていたのに保管替えを頼んだ。→ 保管替えができるのは金銭だけで預けているときです(29条1項)。国債が1枚でも入っていれば、新たに供託します。
- 豊田支店を閉じたので、すぐに500万円を取り戻した。→ 一部の事務所の廃止による取戻しにも、6か月以上の公告が要ります(30条1項後段・2項)。
ひっかけやすい例
- 保証協会に入った:みどり住宅が営業保証金をやめて保証協会の社員になり、営業保証金を取り戻す。→ 公告はいりません(64条の14)。社員になった時点で、お客さんは保証協会の仕組みで守られるからです。
- 支店を出したのに届出を忘れた:開業のときの「3か月で催告」は、増設の場面には準用されていません。ただし、届け出るまで、その支店で営業は始められません(26条2項・25条5項)。
似ているルールとの違い:公告がいる・いらない
取り戻す理由ごとに、公告の要否を並べます。
| 取り戻す理由 | 公告 | 条文 |
|---|---|---|
| 免許の満了・廃業・取消し | 6か月以上の公告が要る | 30条1項・2項 |
| 一部の事務所の廃止 | 6か月以上の公告が要る | 30条1項後段・2項 |
| 本店移転で新たに供託した後の、移転前の分 | 要らない | 30条2項かっこ書き |
| 保証協会の社員になった | 要らない | 64条の14 |
| 取戻しの事由から10年たった | 要らない | 30条2項ただし書 |
本店の移転は、次の表で分けます。
| 預け方 | すること | その後 |
|---|---|---|
| 金銭だけ | 元の供託所に保管替えを請求 | お金が新しい供託所へ移る |
| 有価証券がある(全部・一部) | 移転先に新たに供託 | 元の供託所の分を公告なしで取り戻す |
保証協会の側でも、社員が一部の事務所をやめたときの取戻しには公告の定めがありません(64条の11)。営業保証金とは逆なので、保証協会の記事の表とあわせて確かめてください。
試験ではここをまちがえやすい
当サイトが、不動産適正取引推進機構が公開している過去の試験(昭和63年度〜令和7年度の40回、2,000問)を1問ずつ読んで数えたところ、営業保証金が主な論点の問題は41問(38回)、ほかの論点の問題の中に2問でした。直近10回(令和7年度〜平成30年度。令和2・3年度は10月・12月の2回ずつ)では、主な論点として10問(9回)出ています。出ていない令和元年度にも保証協会の問題があり、直近10回のどの回にも、営業保証金か保証協会のどちらかが主な論点として出ていました(分け方は当サイトの判断で、公式の分類ではありません)。取り違えやすい形は次のとおりです。
- 保管替えの条件:「有価証券を含むときも保管替えを請求できる」は誤り。保管替えは金銭だけのとき(29条1項)。
- 公告の要否:「一部の事務所の廃止なら公告はいらない」は誤り(30条2項)。逆に、保証協会への加入、移転前の供託所の分、10年たったときは公告がいりません。
- 10年の数え始め:取戻しの事由が生じた時から10年です。供託した時からではありません(30条2項ただし書)。
- 増設の預け先:増やした事務所のもよりの供託所ではなく、主たる事務所のもよりの供託所(26条2項・25条1項)。
- 開業の順番:事務所を増やしたときも「預ける→届け出る→その事務所で開始」。預けただけでは始められません。
廃業や死亡で免許がどうなるか、取引の後始末はどこまでできるかは、廃業等の届出の記事で扱っています。期限の数字をまとめて見直すなら宅建の数字の一覧が使えます。
○✕でたしかめよう
問1(このサイトのオリジナル問題)
宅建業者Aは、金銭と国債で営業保証金を供託していた。本店を移転してもよりの供託所が変わったため、Aは移転後の本店のもよりの供託所に営業保証金を新たに供託した。この場合、Aは、移転前の供託所の営業保証金を、公告をしないで取り戻すことができる。
答え:○ 分かれ目は、取戻しの公告の例外です。取戻しには原則として6か月以上の公告が要りますが、本店の移転で新たに供託したときの移転前の供託所の分は、公告の対象から外されています(宅建業法30条1項2文目・2項かっこ書き)。新しい供託所にすでに同じ額があるので、お客さんが困らないからです。一部の事務所を廃止したときの取戻しには公告が要るので、これと混同しないようにします。
問2(このサイトのオリジナル問題)
宅建業者Aは、金銭500万円と国債500万円で営業保証金を供託している。本店の移転でもよりの供託所が変わったときは、Aは、遅滞なく、元の供託所に対し、移転後の本店のもよりの供託所への保管替えを請求しなければならない。
答え:✕ 分かれ目は、預けているものに有価証券が含まれるかです。保管替えを請求できるのは、金銭だけで供託しているときです(29条1項)。正しくは、国債が含まれるAは、移転後の本店のもよりの供託所に営業保証金を新たに供託します。「本店の移転=保管替え」と覚えていると、この条件を落とします。
問3(このサイトのオリジナル問題)
宅建業者Aは廃業の届出をし、免許は効力を失った。Aは営業保証金を取り戻さないまま、届出から10年が過ぎた。この場合、Aは、還付を受ける権利を持つ人への公告をしないで営業保証金を取り戻すことができる。
答え:○ 分かれ目は、10年の数え始めと公告の例外です。取り戻すことができる事由が生じた時から10年を過ぎると、公告はいりません(30条2項ただし書)。廃業の届出で免許が効力を失った時(11条2項)が、その事由が生じた時です。「供託した時から10年」と覚えていると、数え始めを取り違えます。
この分野の○✕は、宅建の5分○✕ドリルの「宅建業法」で続けて解けます。
まとめ
- 事務所を増やしたら、主たる事務所のもよりの供託所に預け、届け出てから、その事務所で営業を始める。
- 本店を移したら、金銭だけなら保管替えの請求、有価証券があれば移転先に新たに供託。どちらも遅滞なく。
- 取戻しは原則として6か月以上の公告(官報)。一部の事務所の廃止も公告が要る。
- 公告がいらないのは、移転前の供託所の分、保証協会の社員になったとき、事由が生じてから10年たったとき。
- 還付で減ったら、通知書を受け取った日から2週間以内に不足額を供託し、その後2週間以内に届け出る。
次に読むなら、保証協会の記事がおすすめです。営業保証金から保証協会に乗りかえたときの流れと、協会の側の期限がつながります。
参考にした公式の情報(2026年10月確認)
- e-Gov法令検索「宅地建物取引業法」(11条、25条〜30条、64条の11、64条の14を、令和8年4月1日時点の条文で確認)
- e-Gov法令検索「宅地建物取引業者営業保証金規則」(5条:不足額の供託の起算日、6条:保管替え、7条:取戻しの公告と届出)
- 不動産適正取引推進機構「試験概要」(出題の根拠となる法令は、試験を行う年度の4月1日現在施行のもの)
- 不動産適正取引推進機構(宅建試験の問題と正解の公開。出題数は当サイトが数えたもの)
働く人の法律試験ノート