宅建業者が広告をするときのルールは、大きく3つです。①事実と大きく違う表示や、実際よりずっと良く見せる表示をしない(誇大広告の禁止、宅地建物取引業法32条)。②工事が終わる前の物件は、建築確認などを受けた後でないと広告しない(33条)。③自分が売主なのか、代理か、媒介(ばいかい=あいだに入って契約をまとめること)かを示す(取引態様の明示、34条)。
この記事では、この3つと、まちがえやすい36条(契約を結べる時期)との違いを扱います。媒介を頼む契約そのものや、契約前の重要事項説明は別の記事で説明しています。条文は e-Gov 法令検索の現行の条文(令和8年4月1日時点で施行されているもの)で確かめています。
身近な例で考えると
名古屋市で新築マンションの売り出しが始まる話です。
| 人物 | 立場 | したこと |
|---|---|---|
| さくら建設 | 売主の宅建業者 | マンションを建てて売る |
| そうたさん | みなと不動産の担当者 | 販売の媒介をする |
| みゆさん | 家を探す会社員 | 広告を見て問い合わせる |
- さくら建設はマンションの建築確認を申請した。まだ確認は下りていない。そうたさんは「早く広告を出したい」と思ったが、確認が下りるまで広告はできない(33条)。
- 建築確認が下りた。そうたさんはチラシとインターネットに広告を出した。広告には「取引態様:媒介」と書いた(34条1項)。
- 本当は駅から歩いて15分かかるのに、広告の下書きに「駅徒歩5分」とあった。そうたさんは、事実と大きく違うので直した(32条)。
- みゆさんが広告を見て「この部屋を買いたい」と電話してきた。そうたさんは、遅滞なく「当社は媒介です」と伝えた(34条2項)。
- 建物はまだ工事中だが、建築確認は下りている。みゆさんとさくら建設は、売買契約を結ぶことができる(36条)。
たとえると、33条は「お店のオープン前に、営業の許しが出るまでは開店セールの宣伝をしない」というルールです。ただし本物のルールでは、決め手はお店の許しではなく、建築確認や開発許可など、その工事に必要な役所の処分です。
条文ではこう決まっている
誇大広告等の禁止(32条)
- いつ:宅建業者が「その業務に関して広告をするとき」。売買だけでなく、貸借の広告も入る。
- 何について:物件の所在(場所)、規模、形質、今と将来の利用の制限、環境、交通などの便利さ、代金・借賃などの額と支払方法、代金などのローンのあっせん。
- 禁止される表示は2つ。①「著しく事実に相違する表示」。②実際のものより「著しく優良であり、若しくは有利であると人を誤認させるような表示」。
- 条文は、実際にだまされた人や、損をした人が出たことを要件にしていない。広告の方法(チラシ・インターネットなど)も区別していない。
広告の開始時期の制限(33条)
- 対象:宅地の造成か建物の建築に関する「工事の完了前」の物件。
- 条件:その工事に必要な都市計画法29条1項・2項の許可(開発許可)、建築基準法6条1項の確認(建築確認)、そのほか政令で定める許可などの処分が「あつた後」でなければ、広告してはならない。
- 広告できない業務は「売買その他の業務」。売買だけでなく、貸借の代理・媒介の広告も入る。
- 政令で定める処分(施行令2条の5)には、土地区画整理法76条1項の許可、農地法3条1項・4条1項・5条1項の許可、宅地造成及び特定盛土等規制法12条1項の許可などが入っている。
取引態様の明示(34条)
- 取引態様(とりひきたいよう)の別とは、業者の立場のこと。①自分が契約の当事者になって売買・交換をする、②代理人として売買・交換・貸借をまとめる、③媒介して売買・交換・貸借をまとめる、のどれか。
- 広告をするときは、取引態様の別を明示する(34条1項)。
- 売買・交換・貸借の注文を受けたときは、遅滞なく、注文をした人に取引態様の別を明らかにする(34条2項)。
- 2項には「広告で示していれば不要」という例外は書かれていない。示す方法(書面か口頭か)も条文は決めていない。
①に「貸借」が入っていないのは、自分で貸すことはそもそも宅建業ではないからです(2条2号)。媒介とは何かは媒介契約をわかりやすくで説明しています。
違反したらどうなるか(65条・81条)
| ルール | 刑罰(81条〜83条) | 業務停止の一覧(65条2項2号) |
|---|---|---|
| 32条 誇大広告 | 6か月以下の拘禁刑か100万円以下の罰金(両方も) | 入っている |
| 33条 広告の開始時期 | 対象に入っていない | 入っていない |
| 34条 取引態様の明示 | 対象に入っていない | 入っている |
どのルールでも、違反すれば指示処分の対象になります。65条1項は「この法律の規定」に違反したときに指示ができるとしているからです。指示に従わなければ、業務停止もありえます(65条2項3号)。処分の種類と流れは、記事の最後で紹介する監督処分の記事で説明しています。
当てはまる例・当てはまらない例
- 当てはまる例:実際は駅から歩いて15分の物件を「駅徒歩5分」と広告した。交通の便利さについて事実と大きく違うので、32条違反です。問い合わせが1件もなくても違反になります。
- 当てはまる例:建築確認を申請中のマンションを「建築確認申請中」と書いて広告した。33条は処分が「あった後」を求めているので、申請中と書いても広告できません。
- 当てはまらない例:すでに完成している中古の一戸建てを広告する。33条は「工事の完了前」の物件のルールなので、この制限はかかりません(32条と34条は守ります)。
- ひっかけやすい例:工事中の賃貸マンションで、建築確認の前に、入居者募集(貸借の媒介)の広告を出した。33条は貸借の広告にもかかるので違反です。一方、確認前に賃貸借の契約の媒介をすることは、36条の制限には入りません。
- ひっかけやすい例:広告に「媒介」と書いたので、問い合わせてきたみゆさんには何も伝えなかった。34条2項は注文を受けたときにも明らかにするよう求めているので、違反です。
33条(広告)と36条(契約)はどう違うか
どちらも「工事の完了前は、開発許可や建築確認などの処分の後でないとだめ」というルールです。違いは、しばる行為と取引の種類です。
| 項目 | 33条 | 36条 |
|---|---|---|
| しばる行為 | 広告 | 契約の締結(自ら・代理)と媒介 |
| 売買・交換 | 対象 | 対象 |
| 貸借 | 対象 | 対象外 |
| 処分の後なら | 広告できる | 契約できる |
36条の条文は「売買若しくは交換の契約を締結し、又はその売買若しくは交換の媒介をしてはならない」です。貸借は書かれていません。33条は「売買その他の業務に関する広告」なので、貸借も入ります。
番号が近い33条の2は、まったく別のルールです。業者が自分の物でない物件を自分で売る契約を制限するもので、8種制限の一つです。8種制限をわかりやすくで扱っています。また、開発許可がいる工事かどうかは開発許可をわかりやすくで確かめてください。
34条の取引態様の明示と、35条の重要事項説明も混同しやすい組み合わせです。34条は「業者の立場」を広告と注文のときに示すルールです。35条は、契約の前に宅建士が物件や条件を説明するルールです。後者は重要事項説明(35条)をわかりやすくで説明しています。
試験ではここをまちがえやすい
- 「申請中なら広告できる」とする形:33条は処分が「あった後」。申請中・申請予定と書き添えても広告できません。
- 33条と36条の範囲の入れかえ:広告は貸借も制限、契約は売買・交換だけ。「確認前に賃貸借の媒介契約をまとめたら36条違反」とする形に注意します。
- 誇大広告の要件の上乗せ:「実際に誤認した人がいなければ違反にならない」「契約に至らなければ違反にならない」とする形。条文はそこまで求めていません。
- 取引態様の明示の省略:「広告で示したから注文時は不要」とする形。広告のときと注文のときの両方です。
- 罰則の有無:刑罰があるのは32条。33条と34条は81条〜83条の刑罰の対象に入っていません。ただし、監督処分の対象にはなります。
不動産の広告には、宅建業法のほかに景品表示法などのルールもあります。そちらは景品表示法と不動産の表示のルールをわかりやすくで扱っています。宅建試験では、どの法律の話かを取りちがえないようにします。
○✕でたしかめよう
問1(このサイトのオリジナル問題)
宅建業者は、建築確認を申請中の新築住宅について、「建築確認申請中」と明示すれば、売買の広告をすることができる。
答え:✕
工事の完了前の物件は、建築確認などの処分が「あった後」でなければ広告できません(33条)。申請中であることを書いても、この制限は外れません。
問2(このサイトのオリジナル問題)
宅建業者は、工事の完了前の賃貸マンションについて、建築確認を受ける前に、借りたい人との賃貸借契約を媒介してはならない。
答え:✕
36条が制限するのは、売買と交換の契約の締結と媒介です。貸借は入っていません。ただし、同じ物件の貸借の「広告」は33条で制限されます。
問3(このサイトのオリジナル問題)
広告に取引態様の別を明示していれば、その広告を見て売買の注文をしてきた人に対して、改めて取引態様の別を明らかにする必要はない。
答え:✕
34条2項は、注文を受けたとき遅滞なく、注文をした人に取引態様の別を明らかにするよう求めています。広告で示したことによる例外は、条文に書かれていません。
まとめ
- 32条:場所・環境・交通・代金などで、事実と大きく違う表示や、ずっと良く見せる表示をしない。だまされた人がいなくても違反。刑罰あり。
- 33条:工事の完了前は、開発許可や建築確認などの処分の後でないと広告できない。貸借の広告も対象。
- 36条:工事の完了前の契約の制限は、売買・交換だけ。貸借は対象外。
- 34条:広告のときと注文を受けたときの両方で、売主か・代理か・媒介かを示す。
このサイトで次に読むなら、違反したあとの処分の種類を整理した監督処分と罰則をわかりやすくがおすすめです。広告のルールは「どの処分・どの刑罰の対象か」と組み合わせて問われることがあるので、続けて読むとつながりが見えます。
参考にした公式の情報(2026年10月確認)
- 宅地建物取引業法(e-Gov 法令検索):2条、32条、33条、34条、36条、65条、81条、82条、83条。現行の条文(最終改正の施行日は2026年4月1日)で確認しました。
- 宅地建物取引業法施行令(e-Gov 法令検索):2条の5(33条・36条の「政令で定める処分」)。
- 不動産適正取引推進機構「試験概要」:出題の根拠となる法令は、試験を実施する年度の4月1日現在施行されているもの。
働く人の法律試験ノート