不動産登記法をわかりやすく:表示の登記・権利の登記・仮登記と、相続登記・住所変更登記の義務

不動産登記法(ふどうさんとうきほう)は、土地や建物の情報を、法務局の記録(登記記録)に書くための手続の法律です。

ひとことで言うと、登記記録には2つの部分があります。土地や建物の「姿」(場所・広さ・種類など)を書く表題部(ひょうだいぶ)と、「誰がどんな権利を持っているか」を書く権利部(けんりぶ)です。表題部の登記(表示の登記)のうち、建物の新築や地目の変更、滅失などの登記は、1か月以内に申請する義務があります。権利部の登記(権利の登記)は、原則として申請するかどうかは自由です。ただし、相続の登記は2024年4月から、住所や氏名の変更の登記は2026年4月から、申請が義務になりました。

この記事では、不動産登記法の手続のしくみを扱います。「登記がないと第三者に権利を言い張れない」という民法177条の話は不動産の二重譲渡と登記で説明しています。

身近な例で考えると

登場人物は3人です。親の家を相続した会社員=りょうさん、土地を売る人=まさおさん、その土地を買う人=ちかさんです。

りょうさんの場合(相続)

  1. 2025年5月、りょうさんの父が亡くなった。りょうさんは一人っ子で、父の家と土地を相続した。父が亡くなったことも、家と土地を受け継いだことも、その月に知った。
  2. 相続の登記(父からりょうさんへの所有権の移転の登記)は、知った日から3年以内に申請しなければならない。期限は2028年5月ごろ。
  3. 2026年1月、りょうさんは相続の登記を申請し、家と土地の所有権の登記名義人になった。
  4. 2026年7月、りょうさんは転勤で引っ越した。登記記録に書かれた自分の住所が変わったので、変更の日から2年以内に住所の変更登記を申請しなければならない。
  5. りょうさんは父の家の一部を壊して、物置を建て増しした。建物の床面積が変わったので、変更の日から1か月以内に、表題部の変更の登記を申請しなければならない。

まさおさんとちかさんの場合(売買)

  1. ちかさんは、まさおさんから土地を買う契約をした。
  2. 所有権の移転の登記は、買ったちかさん(登記権利者=登記で得をする人)と、売ったまさおさん(登記義務者=登記で損をする人)が共同で申請する。
  3. まさおさんは、前に自分が登記したときに通知された登記識別情報(登記名義人だけが知る暗証番号のようなもの)を申請のときに出す。本人が申請していることを確かめるためです。
  4. 登記が終わると、新しく名義人になったちかさんに、新しい登記識別情報が通知される。

たとえるなら、表題部は「土地と建物の住民票」、権利部は「持ち主と借金の記録帳」です。ただし本物の登記では、権利部の記録は、原則として当事者が申請しなければ書かれません(16条)。役所が自動で書いてくれるわけではない点がちがいます。

条文ではこう決まっている

登記記録のしくみ

  • 表題部と権利部(2条7号・8号):表題部は「表示に関する登記が記録される部分」。権利部は「権利に関する登記が記録される部分」。
  • 登記できる権利(3条):所有権、地上権、永小作権、地役権、先取特権、質権、抵当権、賃借権、配偶者居住権、採石権。この一覧にない権利(たとえば留置権や占有権)は登記できない。
  • 順位(4条):同じ不動産に登記した権利の順位は、法令に別の定めがなければ、登記の前後による。
  • 申請主義(16条):登記は、法令に別の定めがなければ、当事者の申請か、官庁・公署の嘱託(しょくたく=役所からの依頼)がなければできない。
  • だれでも見られる(119条・120条・121条):登記事項証明書は「何人も」手数料を納めて交付を求められる。地図や建物所在図の写しも同じ。申請のときに出された書類(附属書類)のうち、地積測量図などの図面は誰でも閲覧できる。それ以外の附属書類の閲覧は、正当な理由がある場合に限られる(登記を申請した本人は、自分の申請の書類を閲覧できる)。

表示の登記(表題部)

  • 表題登記(36条・47条1項):新しくできた土地や、表題登記がない土地の所有権を取得した人は、取得の日から1か月以内に表題登記を申請する。建物を新築した人も同じ。
  • 変更・滅失(37条・42条・51条・57条):土地の地目(宅地・田などの使いみち)や地積(面積)が変わったとき、建物の表示が変わったとき、土地や建物がなくなったとき(滅失)も、1か月以内に申請する。
  • 分筆・合筆(39条1項):土地を分ける(分筆)、まとめる(合筆)登記は、表題部所有者か所有権の登記名義人しか申請できない。分筆・合筆には、1か月以内のような申請の義務はない(申請するかは持ち主が決める)。
  • 登記官の職権(28条):表示に関する登記は、登記官が職権で(申請がなくても自分の判断で)することができる。権利の登記とはここがちがう。
  • マンションの表題登記(48条1項):区分建物(マンションの各部屋)の表題登記は、同じ1棟の建物の、ほかの区分建物の表題登記とあわせて申請する。

権利の登記(権利部)

  • 共同申請(60条):権利の登記は、法令に別の定めがなければ、登記権利者と登記義務者が共同で申請する。
  • 登記識別情報(21条・22条):申請によって自分が登記名義人になった人には、登記官から登記識別情報が通知される。共同申請のときは、登記義務者の登記識別情報を出す。
  • 単独で申請できる場合(63条):①登記をするよう命じる確定判決があるとき、相手方が単独で申請できる。②相続や法人(会社など)の合併による権利の移転は、登記権利者が単独で申請できる。③相続人への遺贈(遺言であげること)による所有権の移転も、登記権利者が単独で申請できる。
  • 一般承継人(62条):登記を申請すべき人が亡くなったときは、相続人などが代わりに申請できる。
  • 所有権保存登記(74条):権利部に最初にする所有権の登記。申請できるのは、①表題部所有者(表題部に所有者として記録された人)かその相続人など、②確定判決で所有権を確認された人、③収用で所有権を取得した人。区分建物では、表題部所有者から所有権を取得した人も申請できる(2項)。

相続登記と住所等変更登記の義務

  • 相続登記(76条の2):所有権の登記名義人について相続が始まったとき、相続で所有権を取得した人は、相続の開始を知り、かつ所有権を取得したことを知った日から3年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならない。相続人への遺贈で取得した人も同じ。法定相続分どおりの相続登記をしたあとに遺産分割があり、法定相続分をこえて取得したときは、分割の日から3年以内に登記を申請する(2項)。
  • 相続人申告登記(76条の3):期限内に、登記官に「相続が始まったこと」と「自分が相続人であること」を申し出れば、上の義務を果たしたものとみなされる。ただし、その後の遺産分割で所有権を取得したら、分割の日から3年以内に登記を申請する(4項)。
  • 住所等変更登記(76条の5):所有権の登記名義人の氏名・名称・住所が変わったときは、変わった日から2年以内に変更の登記を申請しなければならない。
  • 職権による変更登記(76条の6):登記官は、法務省令の定める場合に、職権で氏名などの変更の登記ができる。名義人が個人のときは、本人からの申出があるときに限る。
  • 過料(164条):正当な理由なく申請しないと、表示の登記と相続登記は10万円以下、住所等変更登記は5万円以下の過料(かりょう=行政上のお金の制裁)。

仮登記

  • 仮登記ができる場合(105条):①登記に必要な情報(登記識別情報など)を出せないとき(1号)。②将来の所有権の移転など、権利の変動を求める請求権を守りたいとき(2号)。
  • 順位の確保(106条):仮登記にもとづいて本登記をすると、本登記の順位は仮登記の順位による。
  • 申請のしかた(107条1項):登記義務者の承諾があるとき、または裁判所の仮登記を命ずる処分があるときは、登記権利者が単独で仮登記を申請できる。共同で仮登記を申請するときも、登記義務者の登記識別情報を出さなくてよい(107条2項)。
  • 本登記(109条1項):所有権に関する仮登記を本登記にするときは、登記上の利害関係のある第三者がいれば、その第三者の承諾がいる。本登記をすると、その第三者の登記は登記官が職権で抹消する(2項)。
  • 抹消(110条):仮登記の名義人は、単独で仮登記の抹消を申請できる。利害関係人も、仮登記の名義人の承諾があれば単独で申請できる。

当てはまる例・当てはまらない例

  1. 当てはまる(相続の単独申請):りょうさんは、父からの相続の登記を、ほかの人と共同せず、自分ひとりで申請できる(63条2項)。
  2. 当てはまらない(売買の単独申請):ちかさんが「代金を払ったから」と、まさおさんの協力なしに一人で所有権の移転の登記を申請することはできない。ただし、まさおさんに登記手続を命じる確定判決をとれば、ちかさんが単独で申請できる(63条1項)。
  3. 当てはまる(区分建物の保存登記):新築マンションの部屋を分譲会社から買った人は、表題部所有者(分譲会社)から所有権を取得した人として、自分の名前で所有権保存登記を申請できる(74条2項)。マンションの共用部分や敷地のルールは区分所有法をわかりやすくで扱っています。
  4. ひっかけやすい(権利の登記の義務):ちかさんが土地を買ったときの所有権の移転の登記には、申請の期限や過料の定めはない。期限があるのは、表示の登記と、相続登記・住所等変更登記など法律が決めたものだけ。
  5. ひっかけやすい(仮登記の後の売買):まさおさんは、ちかさんのために所有権移転の仮登記をした。その後、同じ土地をほかの人に売り、その人が所有権移転の登記をした。ちかさんが仮登記を本登記にすると、順位は仮登記のときのものになる(106条)。ただし、本登記には、その登記上の利害関係人の承諾がいる(109条1項)。

似ているルールとの違い

表示の登記と権利の登記

比べる点表示の登記(表題部)権利の登記(権利部)
書くこと所在・地目・地積・床面積など所有権・抵当権など
申請の義務多くはあり(1か月以内)。分筆・合筆はなし原則なし(相続・住所等の変更は義務)
申請のしかた所有者が申請共同申請が原則

申請の期限と過料

登記期限数え始め過料
表題登記・変更・滅失1か月以内取得・変更・滅失の日10万円以下
相続登記3年以内相続と取得を知った日10万円以下
住所・氏名の変更登記2年以内変更の日5万円以下

施行前のことにも義務がかかります。法務省の案内によれば、2024年4月1日より前に相続した不動産で相続登記をしていないものは、原則として2027年3月31日までに申請が必要です。2026年4月1日より前に住所などが変わって変更登記をしていないものは、2028年3月31日までに変更登記が必要です。

登記にかかる税金(登録免許税)は印紙税と登録免許税で扱っています。相続のしくみそのものは相続をわかりやすくで説明しています。

試験ではここをまちがえやすい

  • 権利の登記にも1か月の義務があるとする型:1か月以内の申請義務は表示の登記(新築・変更・滅失など)です。売買による所有権移転登記に期限はありません。表示の登記でも、分筆・合筆の登記には申請義務がありません。
  • 相続登記の期限の起算点の型:「相続の開始の日から3年」ではなく、相続の開始を知り、かつ所有権を取得したことを知った日から3年です。
  • 住所変更登記の期限と過料の型:2年以内、5万円以下。相続登記の3年・10万円以下と入れかえた選択肢に注意します。
  • 相続人申告登記の効果の型:申出をすれば相続登記の義務を果たしたとみなされますが、後で遺産分割があれば、その日から3年以内に登記がいります。
  • 所有権保存登記の申請人の型:原則は表題部所有者など。表題部所有者から買った人が申請できるのは区分建物だけです。
  • 仮登記の型:仮登記は、後で本登記をしたときの順位を確保するための登記です。本登記の順位は、本登記をした時ではなく仮登記の順位になります。登記義務者の承諾があれば単独で申請でき、抹消は仮登記の名義人が単独でできます。
  • 登記事項証明書の型:利害関係がなくても、誰でも交付を求められます。附属書類の閲覧は正当な理由が必要です。

宅建試験では、権利関係の中で、表示の登記と権利の登記の区別、共同申請の例外、仮登記の手続、申請義務の期限を4肢択一で問う形が考えられます。令和8年度は基準日(4月1日)の時点で住所等変更登記の義務がすでに施行されているので、出題の対象に入りえます。行政書士試験では、不動産登記法の手続そのものより、民法177条の「対抗」と組み合わせた形で登記が出てくることが考えられます。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題)
ゆきさんは、ひろしさんから土地を買い、代金を全額支払った。ゆきさんは、所有権の移転の登記を、ひろしさんと共同せずに単独で申請することができる。

答え:✕ 権利に関する登記は、法令に別の定めがない限り、登記権利者(ゆきさん)と登記義務者(ひろしさん)が共同で申請します(60条)。代金を払っても単独申請はできません。ひろしさんに登記手続を命じる確定判決があれば、単独で申請できます(63条1項)。

問2(このサイトのオリジナル問題)
土地の所有権の登記名義人であるゆきさんが引っ越して住所が変わった。ゆきさんは、住所が変わった日から2年以内に、住所の変更の登記を申請しなければならない。(令和8年4月1日施行の条文による)

答え:○ 所有権の登記名義人の住所などに変更があったときは、変更の日から2年以内に変更の登記を申請しなければなりません(76条の5)。正当な理由なく申請しないと、5万円以下の過料の対象になります(164条2項)。

問3(このサイトのオリジナル問題)
ゆきさんは、ひろしさんの土地について所有権移転の仮登記をした。その後、ゆきさんがこの仮登記にもとづいて本登記をした場合、本登記の順位は、本登記をした時の順位になる。

答え:✕ 仮登記にもとづく本登記の順位は、仮登記の順位によります(106条)。仮登記は、この順位を確保するための登記です。

まとめ

  • 登記記録は、姿を書く表題部(表示の登記)と、権利を書く権利部(権利の登記)に分かれる。
  • 表示の登記(新築・変更・滅失など)は1か月以内の申請義務。権利の登記は共同申請が原則で、判決・相続・合併・相続人への遺贈は単独申請できる。
  • 相続登記は知った日から3年以内(2024年4月から)。住所等変更登記は変更の日から2年以内(2026年4月から)。過料は10万円以下と5万円以下。
  • 仮登記は順位を確保する登記。本登記の順位は仮登記の順位。所有権の仮登記の本登記には利害関係人の承諾がいる。
  • 登記事項証明書は誰でも取れる。所有権保存登記を申請できる人は限られ、区分建物は買った人も申請できる。

次に読むなら、不動産の二重譲渡と登記がおすすめです。この記事の「登記の手続」と、民法177条の「登記がないと対抗できない」を結びつけると、登記がなぜ大事かが分かります。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)

条文は、令和8年4月1日時点で施行されている内容を、e-Gov法令検索(法令API の2026年4月1日時点の版)で確かめています。不動産登記法はその後も改正されていますが、この記事は令和8年度試験の基準日の条文で書いています。