売買の一方の予約と予約完結権:完結の意思表示で売買が成立する仕組み、催告、仮登記と時効(民法556条)

ひとことで言うと、売買の一方の予約は、相手方が「売買を完結する」という意思を表示した時に、売買の効力が生じる約束です(民法556条1項)。意思を表示するだけで売買を成立させられるこの権利を、予約完結権(よやくかんけつけん)と呼びます。民法の条文に「予約完結権」という言葉はなく、556条1項の働きにつけられた呼び名です。

完結の期間を決めなかったときは、予約者(予約で縛られている側)が相当の期間を定めて確答を催告でき、確答がなければ予約は効力を失います(556条2項)。不動産なら、予約の段階で、将来の所有権の移転の請求権を守る仮登記ができます(不動産登記法105条2号)。この記事では、この3つを時系列と表で扱います。買戻しと再売買の予約の違いは買戻しの記事に任せ、手付のしくみも詳しくは扱いません。条文は令和8年4月1日時点の民法・不動産登記法を e-Gov 法令検索で確かめています。

身近な例で考えると

人物立場したこと
まさみさん土地の持ち主(予約者)土地を売る予約をした
たくみさん買うかどうかを決められる人(完結権者)半年後に「買います」と伝えた
こうじさんあとから現れた第三者まさみさんから同じ土地を買おうとした
  1. 4月:まさみさんとたくみさんは、「たくみさんが買うと言えば、代金2,000万円で売買が成立する」という予約をした。このときは、まだ売買は成立していない。
  2. 4月:たくみさんは、所有権の移転の請求権を守るため、仮登記をした(不動産登記法105条2号)。
  3. 7月:まさみさんは、この土地をこうじさんに売り、こうじさんが所有権の移転の登記をした。
  4. 10月:たくみさんが「買います」とまさみさんに伝えた。この時に売買の効力が生じる(556条1項)。まさみさんの承諾はいらない。
  5. たくみさんが仮登記に基づく本登記をすると、その順位は4月の仮登記の順位による(106条)。こうじさんの登記は、登記官が職権で抹消する(109条2項)。

4番目がこの約束の中心です。ふつうの売買は、申込みと承諾がそろって成立します。一方の予約では、承諾にあたる部分を予約のときに先に済ませておき、あとは完結権者が意思を表示するだけで売買が成立します。だから、10月の時点でまさみさんが「やっぱり売りたくない」と言っても、売買の成立は止まりません。

たとえるなら、一方の予約は「相手が押せば決まるスイッチを渡しておく約束」です。スイッチを持つ人が押した時に売買が成立します。ただし本物のルールでは、スイッチを押せる期間を決めなかったときに、渡した側が「押すかどうか返事をして」と催告できる仕組みがあり、返事がなければスイッチ自体が消えます(556条2項)。

条文ではこう決まっている

売買の一方の予約(民法556条)

  • 1項:「売買の一方の予約は、相手方が売買を完結する意思を表示した時から、売買の効力を生ずる。」
  • 2項:完結の意思表示について期間を定めなかったときは、予約者は、相手方に対し、相当の期間を定めて、その期間内に売買を完結するかどうかを確答すべき旨の催告をすることができる。相手方がその期間内に確答をしないときは、売買の一方の予約は、その効力を失う。

2項で催告をするのは「予約者」で、催告を受けるのは完結の意思を表示できる「相手方」です。完結権者は、催告をしなくても自分で完結の意思を表示すれば足ります。期間を待たされて困るのは予約者の側なので、予約者に催告の手段が与えられています。売買のこの節の規定は、性質が許さない場合を除いて、売買以外の有償契約にも準用されます(559条)。

仮登記と本登記(不動産登記法105条・106条・109条)

  • 105条2号:権利の設定・移転・変更・消滅に関して、請求権(始期付き・停止条件付きのものその他将来確定することが見込まれるものを含む)を保全しようとするときは、仮登記ができる。
  • 106条:仮登記に基づいて本登記をした場合、その本登記の順位は、仮登記の順位による。
  • 109条:所有権に関する仮登記に基づく本登記は、登記上の利害関係を有する第三者がいるときは、その第三者の承諾があるときに限り申請できる(1項)。登記官は、その本登記をするときに、職権でその第三者の権利の登記を抹消する(2項)。

予約の段階のたくみさんは、まだ所有権を取得していません。それでも、完結すれば所有権の移転を請求できる立場にあるので、105条2号の請求権の仮登記ができます。所有権が移ったのに登記に必要な情報を出せないときの仮登記(105条1号)とは、場面が違います。

予約から本登記までを1枚にすると

場面決まり根拠
予約をしたとき売買はまだ成立しない556条1項
完結の意思表示その時から売買の効力。予約者の承諾はいらない556条1項
期間を決めなかった予約者が相当の期間を定めて催告。確答がなければ予約は効力を失う556条2項
予約の段階の登記所有権の移転の請求権を守る仮登記ができる不登法105条2号
本登記の順位仮登記の順位による。利害関係のある第三者の承諾がいり、その登記は職権で抹消不登法106条・109条

時効についても一言ふれておきます。予約完結権が何年で時効によって消えるかを直接定めた条文はありません。民法の消滅時効は、債権が166条1項(知った時から5年・行使できる時から10年)、債権・所有権以外の財産権が166条2項(行使できる時から20年)です。予約完結権がこのどちらに当たるかは条文に書かれていないので、この記事では年数を言い切りません。試験の対策としては、条文で決まる成立の時期・催告・効力を失う場面を先に固めます。

当てはまる例・当てはまらない例

当てはまる例:予約者が反対しても成立する

10月にたくみさんが「買います」と伝えた時点で売買の効力が生じます。まさみさんが同意するかどうかは関係がありません(556条1項)。

当てはまらない例:期間を決めてあった

予約で「完結は1年以内」と決めてあった場合、2項の催告の規定は使いません。2項は「期間を定めなかったとき」の決まりです。決めた期間の中で、たくみさんが意思を表示するかどうかを決めます。

ひっかけやすい例:催告するのはだれか

期間を決めなかった予約で、催告できるのは予約者のまさみさんです。たくみさんは催告をする必要がなく、意思を表示すれば足ります。確答がなかったときも、まさみさんが別に解除の意思表示をする必要はなく、予約は効力を失います(2項後段)。

ひっかけやすい例:仮登記のあとに買った第三者

7月に登記したこうじさんは、たくみさんの仮登記より後の人です。たくみさんが本登記をすると、順位は4月の仮登記の順位によるので(106条)、こうじさんの登記は抹消されます(109条2項)。本登記の申請には、登記上の利害関係を有するこうじさんの承諾がいります(109条1項)。

似ているルールとの違い

仕組み売買の効力が生じる時だれかの意思表示がいるか
売買の一方の予約(556条)完結の意思を表示した時完結権者の意思表示がいる
停止条件付きの売買(127条1項)条件が成就した時いらない(条件の成就で自動的に)
解約手付つきの売買(557条)契約の時(すでに成立)手付による解除には意思表示がいる

停止条件付きの売買は、条件が成就すれば当事者が何もしなくても効力が生じます(停止条件の記事)。一方の予約は、完結権者が意思を表示しない限り売買になりません。手付つきの売買は、すでに成立した売買を解除できるかの話です。

宅建試験では、予約は宅建業法と国土利用計画法でも出てきます。宅建業法33条の2第1号は、業者が他人の物件を売る例外として、業者がその物件を取得する契約を結んでいるときを挙げ、その契約に「予約を含み」、効力の発生が条件に係るものを除くとしています(他人物売買の記事)。国土利用計画法の土地売買等の契約も「予約を含む」と定義されています(14条1項。事後届出の場面は国土法の届出の判定の記事)。

試験ではここをまちがえやすい

当サイトが数えた宅建試験の全40回(不動産適正取引推進機構が公開している昭和63年度〜令和7年度の問題、2,000問)では、契約総論(成立・同時履行・危険負担)が主な論点の問題は8問、直近10回(令和7年度〜平成30年度。令和2・3年度は10月・12月の2回ずつ)では1問でした。副の論点として含むものは2問(直近10回で0問)です。買戻しが主な論点の問題は1問でした。予約だけの問数は数えていません(分け方は当サイトの判断で、公式の分類ではありません。数え方は宅建の出題論点ランキング)。取り違えやすい形は次のとおりです。

  • 成立の時期:予約をした時に売買が成立するとする形。成立は完結の意思を表示した時です(556条1項)。
  • 催告の主体:完結権者が催告するとする形。催告するのは予約者です(2項)。
  • 催告の前提:期間を決めてあっても催告できるとする形。2項は期間を定めなかったときの決まりです。
  • 確答がないときの効果:予約者の解除の意思表示がいるとする形。確答がなければ予約は効力を失います。
  • 仮登記の可否:所有権がまだ移っていないので仮登記できないとする形。請求権の保全の仮登記ができます(不登法105条2号)。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題)
Aは、自分の土地について、Bが売買を完結する意思を表示すればBとの売買が成立する予約をし、完結の期間は定めなかった。この場合、相当の期間を定めて、売買を完結するかどうかの確答を催告することができるのは、Bの側である。

答え:✕ 分かれ目は、催告をする人です。556条2項は、期間を定めなかったときは「予約者は、相手方に対し」相当の期間を定めて確答を催告できるとしています。正しくは、催告できるのは予約で縛られているAで、Bは催告を受ける側です。Bは催告をしなくても、完結の意思を表示すれば売買を成立させられます(1項)。完結権を持つ側が何でもできると考えて、主体を入れ替えた文です。

問2(このサイトのオリジナル問題)
問1の場面で、Aは、相当の期間を定めて確答を催告したが、Bはその期間内に確答しなかった。この場合、Aがあらためて解除の意思表示をしなくても、売買の一方の予約は効力を失う。

答え:○ 分かれ目は、確答がないときの効果です。556条2項後段は、相手方がその期間内に確答をしないときは「売買の一方の予約は、その効力を失う」としています。契約を終わらせるには解除の意思表示がいる、と考えると✕にしてしまいます。取り違えの相手は、履行がないときの解除で、催告の期間が過ぎたあとに相手方への意思表示で解除をする541条・540条1項の仕組みです。

問3(このサイトのオリジナル問題)
AとBは、Aの土地について、Bが完結の意思を表示すれば売買が成立する予約をした。売買がまだ完結されていない段階では、Bは、この土地について所有権の移転に関する仮登記をすることができない。

答え:✕ 分かれ目は、所有権が移る前でも仮登記ができるかです。不動産登記法105条2号は、所有権などの移転に関する請求権(将来確定することが見込まれるものを含む)を保全しようとするときに仮登記ができるとしています。正しくは、Bは、予約の段階で所有権の移転の請求権を守る仮登記ができます。取り違えの相手は、所有権がすでに移ったのに登記に必要な情報を出せないときの仮登記(105条1号)です。

この分野の○✕は、宅建の5分○✕ドリルの「権利関係」で続けて解けます。

まとめ

  • 売買の一方の予約は、相手方が完結の意思を表示した時から売買の効力が生じる(556条1項)。この権利を予約完結権と呼ぶ(条文の言葉ではない)。
  • 期間を定めなかったときは、予約者が相当の期間を定めて催告でき、確答がなければ予約は効力を失う(2項)。
  • 予約の段階で、所有権の移転の請求権を守る仮登記ができる(不登法105条2号)。本登記の順位は仮登記の順位(106条)。
  • 仮登記の後の第三者の登記は、本登記のときに職権で抹消される。本登記にはその第三者の承諾がいる(109条)。
  • 予約完結権の時効の期間を直接定めた条文はない。停止条件・解約手付とは、売買の効力が生じる時が違う。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)

条文は、e-Gov法令検索で令和8年4月1日時点の民法・不動産登記法・宅建業法・国土利用計画法を確かめました。「予約完結権」の語は、e-Gov の法令の検索で、民法に出てこないことを確かめました。

このサイトで次に読むなら、不動産登記法の記事です。この記事で使った仮登記と本登記の順位を、表示の登記・権利の登記の全体の中で確かめ直せます。

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