マンションを建て替えるには、集会で「建替え決議」をします。必要な賛成は、区分所有者と議決権の各5分の4以上です(区分所有法62条1項)。令和8年4月1日に施行された改正で、耐震性が足りないなど5つの場合は、各4分の3以上に下がりました(同2項)。
マンションの一部が火事や地震でこわれたときの「復旧」も変わりました。建物の価格の2分の1を超える部分が滅失したときの復旧決議は、改正前は区分所有者と議決権の各4分の3以上でした。改正後は、区分所有者と議決権の過半数が出席した集会で、出席者とその議決権の各3分の2以上です(61条5項)。
宅建試験は、試験を行う年度の4月1日現在で施行されている法令で出題されます。令和8年度の試験では、改正後の条文が基準です。この記事では、建替えと復旧の割合と手続きを、時間の流れに沿って改正前と並べます。集会や規約などの決議の全体は区分所有法の記事にあります。
身近な例で考えると
舞台は、区分所有者40人のマンション「さくら台ハイツ」(1人1戸、議決権も1戸ずつ同じとします)です。
| 人物 | 立場 | したこと |
|---|---|---|
| やまもとさん | 管理者 | 集会を招集する |
| いしださん | 区分所有者 | 建替えに反対する |
| こばやしさん | 区分所有者 | 自分の部屋を貸している |
| のぞみさん | こばやしさんの部屋の賃借人 | 部屋に住んでいる |
さくら台ハイツは、耐震診断で、地震に対する安全性が法務大臣の定める基準に合わないことが分かりました。建替えまでの流れは次のとおりです。
- やまもとさんが、会日の2か月以上前に集会の招集通知を出す。通知には、建替えが必要な理由、建て替えない場合に修繕にかかる費用、修繕計画、修繕積立金の額を書く(62条6項・7項)。
- 会日の1か月以上前に、説明会を開く(62条8項)。
- 集会で、40人の4分の3の30人以上(議決権も4分の3以上)が賛成し、建替え決議が成立する(62条2項1号)。
- やまもとさんは、遅滞なく、賛成しなかったいしださんに、建替えに参加するかどうかを回答するよう書面で催告する(63条1項)。
- いしださんが2か月以内に回答しないと、参加しないと回答したものとみなされる(63条3項・4項)。
- その期間が過ぎてから2か月以内に、賛成した人などが、いしださんに区分所有権と敷地利用権を時価で売り渡すよう請求する(63条5項)。
- こばやしさんなどが、のぞみさんに賃貸借の終了を請求する。請求の日から6か月で賃貸借は終わり、こばやしさんは、通常生じる損失の補償金を払う(64条の2)。
耐震性の基準に合っていなければ4分の3の30人、合っていれば5分の4の32人が必要です。どちらも、集会に来た人の数ではなく、区分所有者全体の数で数えます。
条文ではこう決まっている
令和8年4月1日施行の区分所有法(令和7年法律第47号による改正後)で確かめました。
建替え決議(62条)
- 集会で、区分所有者(議決権を有しないものを除く)と議決権の各5分の4以上で、建物を取り壊して、敷地などに新しい建物を建てる決議ができる(1項)。
- 次のどれかに当たる建物では、各4分の3以上に下がる(2項)。①地震に対する安全性が法務大臣の定める基準に合わない。②火災に対する安全性が基準に合わない。③外壁などがはがれて落ち、周りに危害を生じるおそれがある。④給排水などの配管設備が劣化し、著しく衛生上有害となるおそれがある。⑤高齢者・障害者の移動の円滑化の基準に準じる基準に合わない。
- 決議では、新しい建物の設計の概要、取壊しと建築の費用の概算額、費用の分担、新しい建物の区分所有権の帰属を定める(4項)。
- 招集通知は会日の少なくとも2か月前に出す。この期間は規約で伸ばせる(6項)。説明会は会日の少なくとも1か月前までに開く(8項)。
「議決権を有しないもの」には、裁判所の裁判で所在等不明区分所有者とされた人が入ります(38条の2第2項)。誰が持ち主か分からない、どこにいるか分からない区分所有者は、裁判を受ければ、建替え決議の数からも議決権からも除けます。
決議の後(63条〜64条の4)
- 賛成しなかった区分所有者への催告→2か月以内に回答→回答しなければ不参加とみなす→期間満了から2か月以内に時価での売渡し請求(63条1項〜5項)。
- 売渡し請求を受けた人が、明け渡すと生活に著しい困難が生じるおそれがあり、建替えに甚だしい影響がないときは、裁判所は、代金の支払いまたは提供の日から1年を超えない範囲で明渡しの期限を許すことができる(63条6項)。
- 建替え決議の日から2年以内に取壊しの工事に着手しないときは、売り渡した人は、その期間の満了から6か月以内に、代金に当たる額を払って売り戻すよう請求できる。正当な理由があるときは除く(63条7項)。
- 賃貸されている部屋の賃借人に、賃貸借の終了を請求できる。請求の日から6か月で終了し、区分所有者は補償金を払う。賃借人は、補償金の提供を受けるまでは、明渡しを拒める(64条の2)。使用貸借と配偶者居住権にも同じしくみがある(64条の3・64条の4)。
復旧(61条)
- 小さな滅失:建物の価格の2分の1以下の部分が滅失したときは、各区分所有者が、滅失した共用部分と自分の専有部分を復旧できる。ただし、共用部分の復旧の工事に着手するまでに、復旧や建替えなどの決議があったときはできない(1項)。共用部分を復旧した人は、ほかの区分所有者に費用の償還を求められる(2項)。集会で共用部分の復旧を決めることもできる(3項)。
- 大きな滅失:それ以外の滅失(建物の価格の2分の1を超える部分の滅失)では、区分所有者と議決権の各過半数が出席した集会で、出席者とその議決権の各3分の2以上で復旧を決議できる(5項)。
- 復旧決議から2週間を過ぎると、決議に賛成しなかった区分所有者は、賛成した人に、建物と敷地の権利を時価で買い取るよう請求できる(7項)。決議から2週間以内に、賛成した人全員の合意で買取指定者を決めて通知したときは、請求の相手は買取指定者だけになる(8項)。
- 集会を招集した人は、賛成しなかった人に、4か月以上の期間を決めて、買取りを請求するかどうか答えるよう書面で催告できる。期間を過ぎると、その人は買取りを請求できない(11項・13項)。
- 滅失の日から6か月以内に、復旧・建替えなどの決議がないときは、各区分所有者が、ほかの区分所有者に、建物と敷地の権利を時価で買い取るよう請求できる(14項)。
改正前と改正後を並べると
| 項目 | 改正前(令和8年3月31日まで) | 改正後(令和8年4月1日から) |
|---|---|---|
| 建替え決議 | 区分所有者・議決権の各5分の4 | 各5分の4。5つの場合は各4分の3 |
| 所在等不明の区分所有者 | 母数から除く規定なし | 裁判で除ける(38条の2) |
| 大きな滅失からの復旧 | 区分所有者・議決権の各4分の3 | 過半数の出席+出席者の各3分の2 |
| 賃借人への終了の請求 | 区分所有法に規定なし | 請求から6か月で終了・補償金(64条の2) |
| 招集通知・説明会 | 2か月前・1か月前 | 変わらず(2か月前・1か月前) |
| 催告・売渡し請求 | 2か月・2か月 | 変わらず |
法務省の説明資料は、令和8年3月31日までに招集の手続が始まった集会には、改正前のルールが適用されるとしています。
改正では、建替えのほかに4つの決議もできました。建物の骨組み(構造上主要な部分)を生かしたまま、共用部分の形を変え、それに伴って全部の部屋の形・面積・位置を変える「建物更新決議」(64条の5)、建物と敷地をまとめて売る「建物敷地売却決議」(64条の6)、建物を取り壊して敷地を売る「建物取壊し敷地売却決議」(64条の7)、建物を取り壊す「取壊し決議」(64条の8)です。どれも各5分の4以上で、建替え決議の4分の3の規定(62条2項)も準用されます。敷地を売る2つの決議は、敷地利用権の持分の価格でも5分の4以上がいります。
当てはまる例・当てはまらない例
当てはまる例
- さくら台ハイツの耐震性が基準に合わない。区分所有者40人のうち30人(議決権も4分の3以上)が賛成すれば、建替え決議が成立します(62条2項1号)。
- 大きな滅失のあと、24人(議決権も過半数)が出席した集会で、16人(議決権も3分の2以上)が賛成した。出席者の3分の2なので、復旧決議が成立します(61条5項)。
当てはまらない例
- 耐震性などの5つのどれにも当たらない建物で、30人が賛成した。5分の4の32人に足りないので、建替え決議は成立しません。
- 建物の価格の2分の1以下の小さな滅失で、各区分所有者がそれぞれ共用部分を直そうとしたが、工事に着手する前に集会で復旧の決議がされた。この場合は、各自で共用部分を復旧することはできません(61条1項ただし書)。
ひっかけやすい例
- 建替え決議は、出席者の多数決ではありません。40人のうち36人が出席し、そのうち29人が賛成しても(出席者の約8割)、全体の5分の4の32人に足りません。出席者で数えるのは、ふつうの決議・規約の変更・復旧などで、建替え決議は区分所有者全体で数えます。
- 「賃貸借は、請求から3か月で終わる」は誤りです。区分所有法64条の2は6か月です。3か月は、民法617条の、期間の定めのない建物の賃貸借の解約の申入れの期間です。
似ているルールとの違い
| 決議 | 必要な賛成 | 母数 |
|---|---|---|
| ふつうの決議(39条) | 過半数 | 出席者 |
| 規約の変更・共用部分の変更など | 過半数の出席+各4分の3 | 出席者 |
| 大きな滅失からの復旧(61条5項) | 過半数の出席+各3分の2 | 出席者 |
| 建替え・更新・取壊しなど(62条・64条の5〜64条の8) | 各5分の4(5つの場合は4分の3) | 区分所有者全体 |
建物を建て替える・取り壊す・敷地ごと売る・全部の部屋をまとめて作り変える(建物更新)決議は区分所有者全体で数え、それ以外のふつうの決議・規約や共用部分の変更・大きな滅失からの復旧は出席者で数える、と分けると覚えやすくなります。マンションの売買で、管理規約や修繕積立金を重要事項として説明する場面は、マンションの重要事項説明にあります。管理組合法人の決め方は管理組合法人の記事で扱っています。
試験ではここをまちがえやすい
区分所有法は、当サイトが数えた宅建試験の全40回のうち37回で主な論点として出ており(計37問)、直近10回は毎回1問(問13)でした(数え方は宅建の出題論点ランキング)。建替えと復旧は、次の形で取り違えやすい所です。
- 改正前の数字:復旧決議を「区分所有者・議決権の各4分の3」とする形(改正前の数字)。
- 母数の入れ替え:建替え決議を出席者の5分の4とする形。復旧決議を全体の3分の2とする形。
- 4分の3に下がる場合:5つの場合のほかに「築40年以上」などを足す形。
- 期間の入れ替え:招集通知の2か月と説明会の1か月、催告の回答の2か月、明渡しの期限の1年、着手の2年、賃貸借の終了の6か月を入れ替える形。
- 小さな滅失と大きな滅失:2分の1以下の滅失でも決議がいる、または大きな滅失でも各自で復旧できる、とする形。
○✕でたしかめよう
問1(このサイトのオリジナル問題)
区分所有者40人のマンションで、建物の地震に対する安全性が法務大臣の定める基準に適合していない。所在等不明の区分所有者がいないとき、区分所有者30人で議決権の4分の3以上をもつ人が賛成すれば、建替え決議をすることができる(令和8年4月1日施行の条文による)。
答え:○ ○です。分かれ目は、5分の4が4分の3に下がる場合に当たるかです。区分所有法62条2項は、地震に対する安全性が法務大臣の定める基準に適合しない建物などでは、建替え決議の割合を各4分の3以上としています。40人の4分の3は30人です。改正前は例外なく各5分の4だったので、古い知識だと32人が必要と考えて✕にしてしまいます。
問2(このサイトのオリジナル問題)
区分所有者40人のマンションで、5分の4が4分の3に下がる事情はない。建替え決議の集会に36人(議決権も過半数)が出席し、そのうち29人が賛成した(議決権も出席者の5分の4以上)。この賛成で建替え決議は成立する(令和8年4月1日施行の条文による)。
答え:✕ 分かれ目は、5分の4を出席者で数えるか、区分所有者全体で数えるかです。62条1項は「区分所有者(議決権を有しないものを除く。)及び議決権の各五分の四以上」としていて、出席者の多数決ではありません。正しくは、40人の5分の4の32人以上の賛成が必要で、29人では足りません。出席者で数えるのは、ふつうの決議(39条)や、大きな滅失からの復旧決議(61条5項)などで、それと取り違えた文です。
問3(このサイトのオリジナル問題)
建替え決議があった後、賃貸されている部屋の区分所有者が、その部屋の賃借人に賃貸借の終了を請求した。この賃貸借は、請求の日から3か月を経過した時に終了する(令和8年4月1日施行の条文による)。
答え:✕ 分かれ目は、賃貸借が終わるまでの期間です。区分所有法64条の2第2項は、請求の日から6か月を経過することで賃貸借が終了するとしています。正しくは6か月で、区分所有者は通常生じる損失の補償金を払い、賃借人は補償金の提供を受けるまで明渡しを拒めます。3か月は、民法617条1項の、期間の定めのない建物の賃貸借で解約の申入れから終了までの期間で、それと取り違えた文です。
まとめ
- 建替え決議は区分所有者と議決権の各5分の4。耐震性・火災の安全性・外壁の剝落・配管の劣化・移動の円滑化の5つの場合は各4分の3(令和8年4月から)。数えるのは区分所有者全体。
- 招集通知は2か月前、説明会は1か月前。決議の後は、催告に2か月で回答、その後2か月以内に時価で売渡し請求。
- 建替え決議の後、賃借人に賃貸借の終了を請求でき、6か月で終了。補償金の提供まで明渡しを拒める。
- 2分の1以下の小さな滅失は各自で復旧できる。2分の1を超える大きな滅失の復旧は、過半数の出席+出席者の各3分の2(改正前は全体の各4分の3)。
- 区分所有法の○✕は、宅建の5分○✕ドリルで続けて解けます。
参考にした公式の情報(2026年10月確認)
条文は、令和8年4月1日時点で施行されている内容と、改正前(令和8年3月31日時点)の内容を、e-Gov法令検索(法令APIの時点指定)で読み比べました。
- e-Gov法令検索「建物の区分所有等に関する法律」(38条の2、39条、61条、62条、63条、64条、64条の2〜64条の8。改正前の61条・62条・63条)
- e-Gov法令検索「民法」(617条1項)
- 法務省民事局「区分所有法・被災区分所有法の改正について」(令和8年4月。施行日、建替えの4分の3、復旧の3分の2、新しい決議、賃貸借の終了、経過措置)
- 不動産適正取引推進機構「宅建試験の問題及び正解番号表」(当サイトの出題数の集計の出典)
働く人の法律試験ノート