抵当権消滅請求と代価弁済の違い:抵当権の付いた土地を買った人が取れる手段

抵当権(ていとうけん)の付いた土地を買った人が、その抵当権を消すための民法の手段は2つあります。抵当権者(お金を貸し、その土地に抵当権を持つ人)から「代金をこちらに払って」と求められて払う代価弁済(だいかべんさい)と、買った人のほうから「この金額で抵当権を消して」と書面で申し出る抵当権消滅請求(ていとうけんしょうめつせいきゅう)です。

見分けの軸は「どちらが始めるか」です。代価弁済は抵当権者の請求で始まり、払った相手の抵当権が消えます。消滅請求は買った人が始め、登記した債権者全員が承諾したとき(2か月以内に競売を申し立てなければ承諾とみなされます)に抵当権が消えます。借りた本人と保証人は、消滅請求ができません。

この記事では、2つの手段を表で比べ、買った人が代金の支払いを止められる577条までつなげます。抵当権そのもの(順位・法定地上権・物上代位)は抵当権の記事、抵当権とその不動産を借りている人の優先関係は抵当権と賃借権の記事で扱います。条文は令和8年4月1日時点のものです。

身近な例で考えると:抵当権の付いた土地を買ったみずきさん

登場人物を紹介します。

人物立場したこと
みずきさん土地を買った人こうたさんから土地を1,500万円で買った
こうたさん土地を売った人土地を担保にお金を借りていた
ひかり信用金庫1番抵当権者こうたさんに1,800万円を貸した
みなと銀行2番抵当権者こうたさんに600万円を貸した
  1. こうたさんは、ひかり信用金庫とみなと銀行からお金を借り、自分の土地に1番と2番の抵当権を付けて登記しました。
  2. こうたさんは、この土地をみずきさんに1,500万円で売りました。抵当権の登記は残ったままです。
  3. こうたさんが返済をやめると、2つの金融機関は抵当権を実行して(競売にかけて)、土地の売れた代金から貸したお金を回収できます。土地の持ち主がみずきさんに変わっていても同じです。

抵当権は、土地の持ち主が変わってもついていきます。みずきさんは、自分は借金をしていないのに、土地を失うかもしれない立場です。こういう人を第三取得者(だいさんしゅとくしゃ)といいます。抵当権が付いた後に、その不動産を手に入れた人のことです。

みずきさんが土地を守る方法は、次の2つです。

  • ひかり信用金庫から「代金1,500万円は、こうたさんではなく当金庫に払ってください」と求められ、それに応じて払う(代価弁済)。
  • みずきさんのほうから、ひかり信用金庫とみなと銀行の両方に「1,500万円を順位に従って払うので、抵当権を消してください」と書面で申し出る(抵当権消滅請求)。

たとえるなら、代価弁済は「お店から声をかけられて、その場で精算する」形です。消滅請求は「こちらから見積書を関係者全員に送り、決まった期間に反対がなければ、その金額で決まる」形です。ただし本物のルールでは、反対の方法は「競売を申し立てること」です。文句を言うだけでは、承諾とみなされるのを止められません。

この例では、1,500万円を順位どおりに分けると、ひかり信用金庫に1,500万円、みなと銀行には0円です。みなと銀行は、この金額では納得せず、2か月以内に競売を申し立てるかもしれません。消滅請求は、抵当権者の側に「受けるか、競売で勝負するか」を選ばせる仕組みです。

条文ではこう決まっている

代価弁済(378条)

  • だれが:抵当不動産について「所有権又は地上権を買い受けた第三者」。
  • きっかけ:抵当権者の請求に応じて、その抵当権者に代価(買った値段)を払う。
  • 効果:抵当権は「その第三者のために消滅する」。消えるのは、請求して代価を受け取った抵当権者の抵当権です。
  • 書面で請求する、何日以内にする、といった手続の定めは、条文にありません。

抵当権消滅請求(379条〜386条)

  • できる人(379条):抵当不動産の第三取得者。
  • できない人(380条・381条):主たる債務者(借りた本人)、保証人、これらの人の承継人(相続人など)。停止条件付き(ある条件がそろったら自分のものになる約束)で取得した人は、条件が決まるまでできない。
  • 期限(382条):抵当権の実行としての競売による差押えの効力が生じる前にしなければならない。
  • 方法(383条):登記をした各債権者に、3種類の書面を送る。①取得の原因、当事者、不動産の所在や代価などを書いた書面、②登記事項証明書、③「2か月以内に競売を申し立てないときは、代価または指定した金額を、債権の順位に従って払うか供託(きょうたく=法務局などに預けること)する」と書いた書面。
  • 承諾とみなす(384条):書面を受け取ってから2か月以内に競売を申し立てないときなどは、債権者は③の金額を承諾したものとみなされる。
  • 競売を申し立てる側の通知(385条):競売を申し立てる債権者は、2か月の間に、債務者と、土地を売った人(譲渡人)に知らせる。
  • 効果(386条):登記をしたすべての債権者が承諾し、第三取得者がその金額を払うか供託したとき、抵当権は消える。

買った人を守るほかの条文

  • 577条1項:買った不動産に「契約の内容に適合しない抵当権の登記」があるときは、買主は、抵当権消滅請求の手続が終わるまで、代金の支払を拒むことができる。この場合、売主は、買主に「遅滞なく消滅請求をして」と求めることができる。
  • 570条:契約の内容に適合しない抵当権があり、買主が費用を出して所有権を守ったときは、売主にその費用を返すよう請求できる。
  • 390条:第三取得者は、競売で買受人(かいうけにん=競売で買う人)になることができる。
  • 391条:第三取得者が土地に必要費・有益費を出していたときは、競売の代金から、ほかの債権者より先に返してもらえる。

577条の「契約の内容に適合しない」という限定に注意します。抵当権が付いていることを前提に値段を下げて買った場合は、抵当権の登記は契約の内容どおりなので、この条文で代金を止めることはできません。売主が引き受けた責任の全体は契約不適合責任の記事で確かめてください。

当てはまる例・当てはまらない例

当てはまる例

  • ひかり信用金庫から請求を受け、みずきさんが1,500万円をひかり信用金庫に払った。→ ひかり信用金庫の抵当権は、みずきさんのために消えます(378条)。貸したお金のうち足りない300万円は、こうたさんへの貸金として残りますが、この土地の抵当権としては残りません。
  • みずきさんが、2つの金融機関に383条の書面を送った。2か月たっても、どちらも競売を申し立てなかった。→ 両方とも承諾したものとみなされます(384条)。みずきさんが1,500万円を順位に従って払うか供託すれば、2つの抵当権が消えます(386条)。

当てはまらない例

  • ひかり信用金庫が競売を申し立て、差押えの効力が生じた後に、みずきさんが消滅請求の書面を送った。→ 期限を過ぎています(382条)。みずきさんが土地を手元に残したいなら、競売に参加して買受人になる道があります(390条)。
  • ひかり信用金庫が代価弁済の請求をしてこない。→ みずきさんの側から代価弁済を求める定めはありません。自分から動くなら、消滅請求を使います。

ひっかけやすい例

  • みずきさんが、消滅請求の書面をひかり信用金庫だけに送った。→ 書面を送る相手は「登記をした各債権者」です(383条)。抵当権が消えるのは、登記をしたすべての債権者が承諾したときです(386条)。みなと銀行を外した請求では、抵当権は消えません。
  • こうたさんの父が、こうたさんの借金のために自分の土地に抵当権を付けた(物上保証人=ぶつじょうほしょうにん。自分の財産を他人の借金の担保に出した人)。→ 379条は、請求できる人を「抵当不動産の第三取得者」(抵当権が付いた後にその不動産を取得した人)としています。物上保証人は、自分の土地に抵当権を付けた持ち主本人で、後から取得した人ではないので、条文の言葉の上ではこれに当たりません。380条が「できない人」として名前を挙げているのは借りた本人と保証人で、物上保証人は挙がっていません。380条に名前がないことを「できる」の根拠と読まないようにします。物上保証人から土地を買った人は、第三取得者として請求できます。
  • みずきさんが払った1,500万円は、ひかり信用金庫の貸金1,800万円より少ない。→ 代価弁済は「代価」を払うもので、借金の全額を払うことは要件ではありません。抵当権者は、この金額で足りるかを考えたうえで請求するかを決めます。

代価弁済と抵当権消滅請求は何が違うか

2つを並べます。

比べる点代価弁済抵当権消滅請求
始める人抵当権者(請求する)第三取得者(書面を送る)
できない人条文に除く人の定めなし借りた本人・保証人・その承継人
方式条文に書面の定めなし登記した債権者全員に書面
期限条文に定めなし競売の差押えの効力が生じる前
抵当権者が断る方法そもそも請求しない2か月以内に競売を申し立てる
消える抵当権請求した抵当権者の分全員が承諾し払込み・供託→すべて

代価弁済は、抵当権者の側で「この代金を受け取れば十分だ」と判断したときに使う手段です。消滅請求は、第三取得者の側で「この金額なら払える」と示し、抵当権者に受けるか競売にするかを選ばせる手段です。どちらの話をしているかは、「だれが言い出したか」で見分けます。

抵当権が2つ以上あるときの配当の順番(順位の譲渡・放棄など)は抵当権の処分の記事で計算しています。

試験ではここをまちがえやすい

当サイトが数えた宅建試験の全40回(不動産適正取引推進機構が公開している昭和63年度〜令和7年度の問題、2,000問)では、抵当権が主な論点の問題は29問(26回)、直近10回(令和7年度〜平成30年度。令和2・3年度は10月・12月の2回ずつ)では5問でした。根抵当権を含めると全40回で35問です。代価弁済と抵当権消滅請求だけの問数は数えていません(分け方は当サイトの判断で、公式の分類ではありません。数え方は宅建の出題論点ランキング)。取り違えやすい形は次のとおりです。

  • 始める人の入れかえ:「第三取得者が代価弁済を請求する」は誤り。代価弁済は抵当権者の請求、第三取得者から始めるのは消滅請求です。
  • できない人:消滅請求ができないのは、借りた本人・保証人・その承継人(380条)。停止条件付きの取得者は、条件が決まるまでできません(381条)。
  • 期限:消滅請求は、競売による差押えの効力が生じる前まで(382条)。「買受人が決まるまで」「競売の代金が払われるまで」は誤りです。
  • 2か月の数え方と、反対の方法:書面を受け取ってから2か月以内に競売を申し立てないと、承諾とみなされます(384条)。反対の意思を伝えるだけでは足りません。
  • 消える範囲:代価弁済で消えるのは、請求した抵当権者の抵当権です。登記したすべての抵当権を消すのは消滅請求で、全員の承諾(みなし承諾を含む)と払込み・供託が要ります(386条)。
  • 代金の支払拒絶:577条で代金を止められるのは「契約の内容に適合しない抵当権の登記」があるときです。売主は「遅滞なく消滅請求をして」と求められます。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題)
抵当権の付いた土地を買ったみずきさんは、抵当権者のひかり信用金庫から何も求められていなくても、自分から代金をひかり信用金庫に払えば、代価弁済として、その抵当権を消すことができる。

答え:✕ 分かれ目は、だれが始めるかです。代価弁済は、抵当権者の「請求に応じて」代価を払う制度です(民法378条)。正しくは、第三取得者の側から始めるなら抵当権消滅請求で、登記した債権者全員に書面を送り、全員の承諾(2か月以内に競売の申立てがなければ承諾とみなされる)を得て払うか供託したときに抵当権が消えます(383条・384条・386条)。代価弁済と消滅請求を、始める人で取り違えた形です。

問2(このサイトのオリジナル問題)
みずきさんが買った土地には、ひかり信用金庫の1番抵当権と、みなと銀行の2番抵当権が登記されている。ひかり信用金庫の請求に応じて、みずきさんが代金をひかり信用金庫に払った場合でも、みなと銀行の2番抵当権は消えない。

答え:○ 分かれ目は、代価弁済で消える抵当権の範囲です。378条は、抵当権者の請求に応じて「その抵当権者に」代価を払ったとき、抵当権がみずきさんのために消えると定めています。消えるのは請求したひかり信用金庫の抵当権で、「代価弁済で土地の抵当権がすべて消える」と考えると✕にしやすい肢です。登記したすべての抵当権を一度に消す仕組みは抵当権消滅請求(386条)で、こちらと取り違えないようにします。

問3(このサイトのオリジナル問題)
みずきさんは、登記をしたひかり信用金庫とみなと銀行に383条の書面を送って抵当権消滅請求をし、みなと銀行は、受け取ってから2か月以内に「この金額には反対する」と書面で伝えたが、競売の申立てはしなかった。この場合、みなと銀行は、みずきさんが示した金額を承諾したものとみなされる。

答え:○ 分かれ目は、抵当権者が消滅請求を断る方法です。書面の送付を受けた債権者が、2か月以内に抵当権を実行して競売の申立てをしないときは、第三取得者が示した代価または金額を承諾したものとみなされます(民法384条1号)。断る方法は競売の申立てで、「反対を伝えたのだから承諾にはならない」と考えると✕にしやすい肢です。抵当権者が請求するかどうかを自分で選べる代価弁済(378条)と、消滅請求の仕組みを取り違えないようにします。

この分野の○✕は、宅建の5分○✕ドリルの「権利関係」で続けて解けます。

まとめ

  • 抵当権の付いた不動産を買った人(第三取得者)が抵当権を消す手段は、代価弁済と抵当権消滅請求の2つ。
  • 代価弁済は抵当権者の請求に応じて代価を払う。消えるのは請求した抵当権者の抵当権。
  • 消滅請求は第三取得者が登記した債権者全員に書面を送る。2か月以内に競売の申立てがなければ承諾とみなされる。
  • 消滅請求ができないのは借りた本人・保証人・その承継人。期限は競売の差押えの効力が生じる前。
  • 契約に合わない抵当権の登記があれば、買主は消滅請求の手続が終わるまで代金の支払を拒める(577条)。

次に読むなら、抵当権と賃借権はどちらが優先するかがおすすめです。抵当権の付いた建物を借りている人が、競売のあとどうなるかを扱っています。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)

宅建試験の出題の根拠となる法令は、試験を実施する年度の4月1日現在施行されているものです(不動産適正取引推進機構)。条文は、令和8年4月1日時点で施行されている内容を e-Gov 法令検索(法令API)で確かめました。