権利の登記(所有権の移転や抵当権の設定など)は、登記で得をする人(登記権利者)と、登記で損をする人(登記義務者)が、一緒に申請するのが原則です(不動産登記法60条)。損をする人も申請に加わることで、うその登記を防ぐためです。そのため、1人で申請できる場合(単独申請)は、①相手の協力の代わりになるものがある、②登記で損をする人がいない、③権利が消えたことがはっきりしている、のどれかに当たります。
この記事では、単独申請できる場合を、この3つの型で表にします。あわせて、申請のときに出す「登記識別情報」と「登記原因証明情報」がそれぞれ何のためにあるかを、事例で確かめます。登記記録のしくみ(表題部と権利部)や仮登記の順位、相続登記の義務は不動産登記法の記事で扱っています。
身近な例で考えると:しげるさんの土地をあやかさんが買う
登場人物を紹介します。
| 人物 | 立場 | したこと |
|---|---|---|
| しげるさん | 売主(登記義務者) | 自分の名義の土地を売った |
| あやかさん | 買主(登記権利者) | 代金を払って土地を買った |
| ともやさん | しげるさんの一人息子(相続人) | 父の死後、手続きを引き継ぐ |
ふつうの流れは次のとおりです。
- しげるさんとあやかさんが、一緒に所有権の移転の登記を申請する(60条)。
- 申請のとき、売買があったことを示す情報(売買契約書など、登記原因証明情報)を出す(61条)。
- あわせて、しげるさんが前に登記名義人になったときに通知された登記識別情報(登記名義人ごとに決まる、暗証番号のような符号)を出す(22条)。しげるさん本人が申請していることを確かめるためです。
- 登記が終わると、新しく名義人になったあやかさんに、新しい登記識別情報が通知される(21条)。
では、登記の前に、しげるさんが亡くなったらどうなるでしょうか。
- ともやさんは、しげるさんの立場を引き継ぐ。あやかさんと一緒に、しげるさんからあやかさんへの所有権の移転の登記を申請できる(62条)。いったんともやさんの名義に相続の登記をしてから移す必要はない。
しげるさんが登記に協力してくれないときは、あやかさんは、しげるさんに「登記手続をせよ」と命じる判決を得て、確定すれば1人で申請できます(63条1項)。判決が、しげるさんの協力の代わりになるからです。
たとえると、共同申請は「銀行の口座の名義を変えるとき、渡す人と受け取る人の両方が窓口に来る」ようなものです。ただし本物のルールでは、渡す人が来られない理由(亡くなった、判決がある、など)に応じて、法律が「1人でよい場合」を細かく決めています。
条文ではこう決まっている
原則(60条・61条・22条)
- 60条:権利に関する登記の申請は、法令に別の定めがある場合を除き、登記権利者と登記義務者が共同してします。
- 61条:権利に関する登記を申請するときは、法令に別の定めがある場合を除き、登記原因を証する情報を出します。
- 22条:共同申請のときは、登記義務者の登記識別情報を出します。ただし、通知を受けていないなど、出せない正当な理由があるときは、この限りではありません。
- 23条:登記識別情報を出せないときは、登記官が登記義務者に「申請がありました。本当なら申し出てください」と通知し(事前通知)、決められた期間内に申出がなければ登記をしません(23条1項)。司法書士などの代理人が本人確認の情報を出し、登記官が相当と認めたときや、公証人の認証があるときは、この通知をしません(23条4項)。
単独で申請できる場合を、3つの型で
| 単独でできる登記 | 申請する人 | なぜ1人でよいか | 条文 |
|---|---|---|---|
| 登記手続を命じる確定判決による登記 | 判決を得た側 | 判決が相手の協力の代わり | 63条1項 |
| 仮登記(義務者の承諾か、仮登記を命ずる処分があるとき) | 仮登記の権利者 | 承諾書や処分が協力の代わり | 107条1項 |
| 相続・法人の合併による移転 | 登記権利者(相続人など) | 損をする人(亡くなった人・消えた法人)がいない | 63条2項 |
| 相続人への遺贈による所有権の移転 | 登記権利者(相続人) | 相続とほぼ同じ立場 | 63条3項 |
| 所有権の保存 | 表題部所有者・その相続人など | まだ権利部に損をする人がいない | 74条 |
| 登記名義人の住所・氏名の変更 | 登記名義人 | 自分の情報を直すだけ | 64条1項 |
| 人の死亡などで消える権利の抹消 | 登記権利者 | 消えることが登記されている | 69条 |
| 買戻しの特約の抹消(契約の日から10年) | 登記権利者 | 買戻しの期間は10年が上限 | 69条の2 |
| 仮登記の抹消 | 仮登記の名義人など | 権利を手放すのは本人 | 110条 |
表の上の2つが①「協力の代わり」、次の4つが②「損をする人がいない」、下の3つが③「権利が消えたことがはっきり」の型です。
- 69条の2(買戻しの特約の抹消)と、相続人への遺贈の単独申請(63条3項)は、どちらも令和5年4月1日に施行された比較的新しいルールです。古い教材では共同申請と書かれていることがあります。買戻しの期間は10年を超えられないので(民法580条1項)、契約の日から10年たてば、買戻しはもうできません。買戻しの中身は買戻しの記事で扱っています。
- 仮登記の抹消は、仮登記の名義人の承諾があれば、登記上の利害関係人も単独で申請できます(110条)。
当てはまる例・当てはまらない例
当てはまる例
- しげるさんが引っ越し、登記記録の住所が古いままだった。→ しげるさんが1人で住所の変更の登記を申請できます(64条1項)。
- しげるさんが「土地を長男ともやに遺贈する」と遺言して亡くなった。→ ともやさんは相続人なので、1人で所有権の移転の登記を申請できます(63条3項)。
当てはまらない例
- しげるさんが「土地を友人のまゆみさんに遺贈する」と遺言した。→ まゆみさんは相続人ではありません。63条3項は「相続人に対する遺贈に限る」ので、原則どおり共同申請です(60条)。
- あやかさんが銀行の住宅ローンを全部返し、土地の抵当権が消えた。→ 抵当権の抹消の登記は、あやかさん(登記権利者)と銀行(登記義務者)の共同申請です(60条)。返し終わったことは登記記録からは分からないので、死亡で消える旨が登記されている権利(69条)のような単独申請にはなりません。
ひっかけやすい例
- 確認の判決:あやかさんが「土地の所有権はあやかさんにある」と確認する判決を得た。→ 63条1項が求めるのは「登記手続をすべきことを命ずる確定判決」です。所有権を確認するだけの判決は、この形に当たりません。一方、所有権の保存の登記では、「所有権を有することが確定判決によって確認された者」も申請できます(74条1項2号)。判決の形の違いが問われます。
- 売主が亡くなった後の移転:ともやさんの名義に相続の登記をしてから、あやかさんへ移す必要はありません。一般承継人として、しげるさんからあやかさんへの登記を申請できます(62条)。ただし、これは共同申請です(相手はあやかさん)。相続の単独申請(63条2項)とは別の場面です。
似ているルールとの違い:2つの「情報」の役割
| 項目 | 登記識別情報 | 登記原因証明情報 |
|---|---|---|
| 何のため | 申請しているのが登記義務者本人か確かめる | 登記の原因(売買など)が本当にあったか示す |
| だれのもの | 登記義務者(前に名義人になった人) | 当事者が用意する(契約書など) |
| 出せないとき | 正当な理由があれば不要。事前通知などで本人を確かめる | 法令に別の定めがなければ必要 |
| 条文 | 21条〜23条 | 61条 |
登記識別情報は「本人であることのかぎ」、登記原因証明情報は「何があったかの証拠」です。登記識別情報が出せなくても、登記がまったくできなくなるわけではありません(23条)。
民法の側から見た登記の意味(第三者に対抗するには登記が要る)は、不動産の二重譲渡と登記の記事で説明しています。相続で取得した不動産の登記と遺産分割の関係は遺産分割の記事へ。
試験ではここをまちがえやすい
当サイトが、不動産適正取引推進機構が公開している過去の試験(昭和63年度〜令和7年度の40回、2,000問)を1問ずつ読んで数えたところ、不動産登記法が主な論点の問題は53問で、40回すべてに出ていました。直近10回(令和7年度〜平成30年度。令和2・3年度は10月・12月の2回ずつ)でも、10回すべてに1問ずつ出ています(分け方は当サイトの判断で、公式の分類ではありません)。共同申請と単独申請は、その中で取り違えやすい点の1つです。取り違えやすい形は次のとおりです。
- 遺贈の範囲:単独申請できるのは「相続人に対する」遺贈だけ。相続人以外への遺贈は共同申請。
- 判決の形:63条1項は「登記手続を命ずる」確定判決。所有権の保存(74条1項2号)は「所有権を確認された者」。
- 仮登記:義務者の承諾があれば仮登記の権利者が単独で申請できる。承諾がなくても、裁判所の仮登記を命ずる処分があれば単独でできる(107条1項)。
- 売主の死亡:相続人が売主の立場で共同申請する(62条)。「先に相続登記が要る」は誤り。
- 登記識別情報がない:申請できなくなるのではなく、事前通知や本人確認の情報で補う(23条)。
- 買戻しの特約:契約の日から10年たてば、登記権利者が単独で抹消できる(69条の2)。
○✕でたしかめよう
問1(このサイトのオリジナル問題)
Aは自分の名義の土地をBに売ったが、所有権の移転の登記をする前に死亡した。Aの相続人はCだけである。Cは、相続を原因とするC名義への登記をしなくても、Bと共同して、AからBへの所有権の移転の登記を申請することができる。
答え:○ 分かれ目は、一般承継人による申請です。登記義務者に相続があったときは、相続人が登記義務者の立場で申請できます(不動産登記法62条)。✕に見えるのは「名義が順に移るように、まずCに相続の登記をする」と考えやすいからです。土地はすでにBに売られているので、Cを経由せず、AからBへ直接移します。相続の単独申請(63条2項)とは違い、この登記は共同申請です。
問2(このサイトのオリジナル問題)
Aは、遺言で、相続人ではない友人Dに土地を遺贈して死亡した。Dは、遺贈による所有権の移転の登記を単独で申請することができる。
答え:✕ 分かれ目は、単独申請できる遺贈の範囲です。遺贈による所有権の移転の登記を登記権利者が単独で申請できるのは、相続人に対する遺贈に限られます(63条3項)。正しくは、相続人ではないDへの遺贈は、原則どおり共同申請です(60条)。相続による移転の単独申請(63条2項)と同じだと考えると、この限定を落とします。
問3(このサイトのオリジナル問題)
BはAから土地を買ったが、Aが登記に協力しないので訴えを起こし、「土地の所有権がBにあることを確認する」との確定判決を得た。Bは、この判決にもとづいて、AからBへの所有権の移転の登記を単独で申請することができる。
答え:✕ 分かれ目は、判決の形です。単独申請の根拠になるのは、共同して申請すべき者の一方に「登記手続をすべきことを命ずる確定判決」です(63条1項)。正しくは、Bは、Aに登記手続を命じる判決を得て単独で申請します。所有権を確認する判決で足りるのは、所有権の保存の登記を申請できる人を決める74条1項2号の場面で、これと取り違えた形です。
この分野の○✕は、宅建の5分○✕ドリルの「権利関係」で続けて解けます。
まとめ
- 権利の登記は、登記権利者と登記義務者の共同申請が原則(60条)。登記原因証明情報(61条)と、登記義務者の登記識別情報(22条)を出す。
- 単独でできるのは、①協力の代わりがある(判決・仮登記の承諾や処分)、②損をする人がいない(相続・合併・相続人への遺贈・保存・住所の変更)、③権利が消えたことがはっきり(死亡で消える権利・買戻し特約の10年・仮登記の抹消)。
- 判決は「登記手続を命ずる」もの。保存の登記の「所有権の確認」とは別。
- 遺贈の単独申請は相続人に対するものだけ。
- 売主が登記前に亡くなったら、相続人が売主の立場で共同申請できる(62条)。
次に読むなら、不動産登記法の記事がおすすめです。表題部の登記や仮登記の順位、相続登記の申請義務まで、登記法の全体がつながります。
参考にした公式の情報(2026年10月確認)
- e-Gov法令検索「不動産登記法」(21条、22条、23条、60条〜64条、69条、69条の2、74条、107条、110条を、令和8年4月1日時点の条文で確認)
- e-Gov法令検索「民法」(580条1項:買戻しの期間)
- 不動産適正取引推進機構「試験概要」(出題の根拠となる法令は、試験を行う年度の4月1日現在施行のもの)
- 不動産適正取引推進機構(宅建試験の問題と正解の公開。出題数は当サイトが数えたもの)
働く人の法律試験ノート