懸賞広告:広告で約束した報酬はだれがもらえるか、知らずにした人・撤回できる場合(民法529条〜532条)

ひとことで言うと、懸賞広告(けんしょうこうこく)は、「ある行為をした人に報酬を出す」と広く知らせて約束することです(民法529条)。報酬は、広告を知らずにその行為をした人にも払わなければなりません。期間を決めた広告は、撤回する権利を残しておかない限り撤回できず、期間を決めない広告は、だれも行為を終えていない間なら撤回できます(529条の2・529条の3)。

このルールは、令和2年4月施行の民法改正で条文の形が変わりました。この記事では、529条〜532条の中身と、改正前との違いを扱います。契約の申込みと承諾の一般のルールは扱いません。条文は、令和8年4月1日時点の民法を e-Gov 法令検索で確かめています。

身近な例で考えると

人物立場したこと
あやのさんパン店の店主(広告をした人)猫探しの張り紙と、ロゴの募集をした
けんたさん近所の会社員猫を見つけて届けた
みおさんデザインを学ぶ学生ロゴ案を送った
  1. 3月1日:あやのさんは、店の前に「迷子の猫を見つけて届けてくれた人に3万円」と張り紙をした。期間は書いていない。
  2. 3月3日:張り紙を見ていないけんたさんが、公園で、首輪に店の名前が書かれた猫を見つけ、店に届けた。
  3. あやのさんは「張り紙を見て来たわけではないから」と言って、3万円を払わずに済むか。

答えは「払わなければならない」です。529条は、広告をした人(懸賞広告者)は、行為をした人が「その広告を知っていたかどうかにかかわらず」報酬を与える義務を負う、と定めています。ふつうの契約は、相手が申込みを知って承諾することで成り立ちます。懸賞広告は、行為をした人が広告を知らなくても報酬の義務が生じる点が違います。

もう一つの例です。3月10日、あやのさんは「新しい店のロゴ案を募集します。締切は4月30日、最も優れた1点に5万円」と広告しました。みおさんが応募しました。このように、優れた人だけに報酬を出す広告を、優等懸賞広告(ゆうとうけんしょうこうこく)といいます(532条)。

たとえるなら、懸賞広告は、町の掲示板に貼った「求む」のお知らせです。だれが見たかに関係なく、条件を満たした人が報酬を受けます。ただし本物のルールでは、期間を決めたかどうかで撤回できるかが変わり、優等懸賞広告には期間が要る、という細かい決まりがあります。

条文ではこう決まっている

条決まりポイント
529条行為をした人に報酬を与える義務広告を知っていたかどうかにかかわらない
529条の2第1項期間を定めた広告は撤回できない撤回する権利を広告で留保していれば撤回できる
529条の2第2項期間内に行為を完了した人がいない広告は効力を失う
529条の3期間を定めない広告は、行為を完了した人がいない間は撤回できる広告で撤回しないと表示していれば撤回できない
530条1項前の広告と同じ方法で撤回した撤回を知らない人にも効力がある
530条2項前の広告と違う方法でも撤回できる撤回を知った人にだけ効力がある
531条行為をした人が数人いる最初の人だけが報酬を受ける。同時なら等しい割合で分ける
532条優れた人だけに報酬を出す広告応募の期間を定めたときだけ有効。判定に異議は言えない

531条2項は、数人が同時に行為をしたときは等しい割合で分けるとし、報酬が性質上分けられないときや、広告で1人だけが受けると決めたときは、抽選で決めるとしています。3項で、広告にこれと違う意思を表示したときは、1項・2項は使いません。

532条は、2項で、どの応募が優れているかは広告で定めた人が判定し、定めていなければ懸賞広告者が判定するとしています。3項で、応募者はその判定に異議を述べることができません。4項で、同じくらいと判定されたときは、531条2項(等分・抽選)を準用します。

当てはまる例・当てはまらない例

当てはまる例:広告を知らずに猫を届けた

けんたさんは張り紙を見ていませんでしたが、猫を見つけて届けました。529条により、あやのさんは3万円を払う義務を負います。

当てはまらない例:期間を決めない広告を、だれも届ける前に撤回した

猫の張り紙には期間がありません。まだだれも猫を届けていない間なら、あやのさんは広告を撤回できます(529条の3)。張り紙を外し、同じ場所に「撤回します」と張り出すなど、前の広告と同じ方法で撤回すれば、撤回を知らない人にも効力があります(530条1項)。

ひっかけやすい例:違う方法で撤回した

あやのさんが、張り紙はそのままにして、店のSNSに「猫探しは終わりにします」と投稿しただけだったとします。前の広告と違う方法の撤回なので、効力があるのは撤回を知った人に対してだけです(530条2項)。投稿を知らずに猫を届けた人に対しては、撤回を主張できません。

ひっかけやすい例:期間を決めた広告は撤回できない

ロゴ募集は、締切を4月30日と決めています。撤回する権利を広告で留保していなければ、あやのさんは、応募がまだなくても撤回できません(529条の2第1項)。期間内にだれも応募を完了しなければ、広告は効力を失います(同条2項)。

ひっかけやすい例:優等懸賞広告に期間がない

ロゴ募集で、もし締切を書かずに「最も優れた1点に5万円」と広告していたら、532条1項により、この広告は効力を有しません。優等懸賞広告は、応募の期間を定めたときに限って効力を有するからです。

似ているルールとの違い

まず、令和2年4月施行の改正の前後の違いです。改正前の条文は、e-Gov 法令検索で令和2年3月31日時点の民法を確かめました。

比べる点改正前いま
広告を知らずにした人条文に定めがなかった知っていたかどうかにかかわらず報酬を与える(529条)
期間を定めた広告の撤回撤回する権利を放棄したものと推定(旧530条3項)撤回できない。権利を留保していれば撤回できる(529条の2)
違う方法での撤回同じ方法で撤回できない場合に限り、ほかの方法で撤回できた(旧530条2項)違う方法でも撤回できる。知った人にだけ効力(530条2項)

改正前の旧530条3項は「推定する」でした。推定は、反対の事情が示されれば覆ります。いまの529条の2は「撤回することができない」と言い切り、例外は広告で撤回の権利を留保したときだけです。古い教材で覚えた人は、ここを直しておきます。

次に、ほかの約束との違いです。懸賞広告は、民法の「契約の成立」の款に置かれていますが、贈与・売買など13の典型契約(典型契約の一覧)には入りません。また、報酬を出す約束であっても、特定の相手が受諾して効力を生じる贈与(549条。贈与の記事)とは仕組みが違います。懸賞広告は、行為をした人が広告を知らなくても報酬の義務が生じます。申込みや撤回などの意思表示がいつ効力を生じるかの一般のルールは、意思表示の記事の範囲です。

試験ではここをまちがえやすい

  • 知らずにした人を外す形:「広告を知って行為をした人だけが報酬を請求できる」とする形。いまの529条は、知っていたかどうかにかかわらないと定めています。
  • 期間の有無の入れ替え:期間を定めた広告を「完了者がいない間は撤回できる」とする形。それは期間を定めない広告のルール(529条の3)です。
  • 旧条文の「推定」:期間を定めた広告を「撤回権を放棄したものと推定する」とする形。いまは「撤回できない(留保すれば別)」です。
  • 撤回の方法と効力の範囲:同じ方法の撤回は知らない人にも効力があり、違う方法の撤回は知った人にだけ効力があります(530条)。
  • 優等懸賞広告:期間を定めなくても有効とする形、判定に異議を述べられるとする形。どちらも532条に反します。
  • 数人がしたとき:「全員で等分」とする形。原則は最初の人だけで、等分は同時にしたときです(531条)。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題)
あやのさんは、期間を定めずに「迷子の猫を見つけて届けてくれた人に3万円」と張り紙をした。張り紙を見ていなかったけんたさんが猫を見つけて届けた場合でも、あやのさんは、けんたさんに3万円を払う義務を負う。

答え:○ 分かれ目は、広告を知らずにした人も報酬を受けられるかです。懸賞広告者は、行為をした人が「その広告を知っていたかどうかにかかわらず」報酬を与える義務を負います(民法529条)。ふつうの契約のように、相手が申込みを知って承諾することが要ると考えると✕にしてしまいます。改正前の529条にはこの言葉がなく、令和2年4月施行の改正で書き加えられました。

問2(このサイトのオリジナル問題)
あやのさんは「4月30日までにロゴ案を送ってくれた人全員に図書カード1枚」と期間を決めて広告し、撤回する権利は留保しなかった。まだだれも案を送っていない3月中なら、あやのさんは、この広告を撤回できる。

答え:✕ 分かれ目は、広告に期間を定めたかどうかです。期間を定めてした広告は撤回できず、撤回できるのは広告で撤回する権利を留保したときだけです(民法529条の2第1項)。正しくは、だれも応募していなくても撤回できません。行為を完了した人がいない間は撤回できるのは、期間を定めない広告(529条の3)で、それと取り違えた形です。改正前は、期間を定めたときは撤回権を放棄したものと「推定」していました(旧530条3項)。

問3(このサイトのオリジナル問題)
あやのさんは、店の新しいロゴ案を広く募集し、最も優れた1点だけに5万円を出すと広告したが、応募の期間は定めなかった。この場合でも、この広告は効力を有し、最も優れた案を出した人は5万円を請求できる。

答え:✕ 分かれ目は、優等懸賞広告に応募の期間が要るかです。優れた人だけに報酬を与える広告は、応募の期間を定めたときに限り効力を有します(民法532条1項)。正しくは、期間を定めていないこの広告は効力を有しません。期間を定めないふつうの懸賞広告は有効で、行為を完了した人がいない間は撤回できる(529条の3)ので、それと同じに考えると○にしてしまいます。

この分野の○✕は、行政書士の5分○✕ドリルの「民法」で続けて解けます。

まとめ

  • 懸賞広告の報酬は、広告を知らずに行為をした人にも払う(529条)。
  • 期間を定めた広告は撤回できない(撤回の権利を留保すれば別)。期間内に完了者がいなければ効力を失う(529条の2)。
  • 期間を定めない広告は、完了者がいない間は撤回できる(撤回しないと表示すれば別。529条の3)。
  • 同じ方法の撤回は知らない人にも、違う方法の撤回は知った人にだけ効力(530条)。
  • 数人なら最初の人、同時なら等分か抽選(531条)。優等懸賞広告は応募期間が要り、判定に異議は言えない(532条)。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)

条文は、e-Gov法令検索で令和8年4月1日時点のものと、改正前の令和2年3月31日時点のものを確かめました。

このサイトで次に読むなら、典型契約13種類の一覧です。懸賞広告が入らない13の契約を、成立のしかた(諾成・要物)と有償・無償で分けて確かめられます。

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