他人物売買をわかりやすく:民法では有効、宅建業法では原則だめな理由

他人物売買(たにんぶつばいばい)とは、自分の物ではない、他人の物を売る契約のことです。民法では、この契約は無効になりません。民法561条は、売主はその権利を手に入れて、買主に移す義務を負うと決めています。移せなかったときは、約束を守れなかった(債務不履行)として、買主は契約の解除や損害賠償を考えることになります。

ところが、宅建業者が自ら売主となり、買主が宅建業者でないときは、宅建業法33条の2が、自分のものでない宅地・建物を売る契約を原則として禁じています。業者がその物件を手に入れる契約(予約を含む)をすでに結んでいるときなどは例外ですが、その契約が停止条件付きなら例外になりません。この記事では、民法と宅建業法を並べて、どの場面で何が起きるかを当てはめます。

身近な例で考えると:まだ自分の土地ではない土地を売るふじ不動産

登場人物を紹介します。

人物立場したこと
ごろうさん土地の持ち主駅前の土地を持っている
ふじ不動産宅建業者ごろうさんの土地を買って、分けて売りたい
ちはるさん会社員(宅建業者ではない)家を建てる土地を探している
りょうたさん会社員(宅建業者ではない)知人の土地をちはるさんに売ろうとした

ふじ不動産は、ごろうさんの土地を仕入れて、ちはるさんに売るつもりです。ところが、ちはるさんが「早く契約したい」と言うので、ごろうさんから買う前に、ちはるさんと契約を結ぼうとしました。

  1. ふじ不動産が、まだごろうさんと何の約束もしていない段階で、ちはるさんと売買契約を結ぶ。→ 宅建業法33条の2に違反します。ふじ不動産は業者で、自ら売主で、ちはるさんは業者ではないからです。
  2. ふじ不動産が、ごろうさんと先に売買契約(条件なし)を結んでおき、その後でちはるさんと契約する。→ まだ代金を払っておらず、土地がふじ不動産のものになっていなくても、例外にあたるので結べます。
  3. ふじ不動産とごろうさんの契約が「ごろうさんの転勤が決まったら売る」という条件付きだった。→ 効力が条件しだいの契約は例外から外されているので、ちはるさんとは結べません。

一方、会社員のりょうたさんが、知人の土地をちはるさんに売る契約を結んだとします。りょうたさんは宅建業者ではないので、33条の2は関係ありません。この契約は民法の他人物売買です。契約は有効で、りょうたさんは知人から土地を手に入れて、ちはるさんに移す義務を負います。

条文ではこう決まっている

民法561条(他人の権利の売買における売主の義務)

  • 原文:「他人の権利(権利の一部が他人に属する場合におけるその権利の一部を含む。)を売買の目的としたときは、売主は、その権利を取得して買主に移転する義務を負う。」
  • 民法は、他人の物を売る契約を無効とはしていません。この条は、契約が有効であることを前提に、売主に「取得して移す義務」を負わせています。
  • 移せなかったとき:債務不履行の一般のルールで考えます。移すことが全部できなくなったら、買主は催告なしで解除できます(542条1項1号)。損害賠償は415条1項で、不履行が売主の責めに帰することができない事由によるときは請求できません(同項ただし書)。
  • 一部だけ他人のものだった:移した権利が契約の内容に合わないとして、565条により、追完・代金減額・損害賠償・解除の規定(562条〜564条)が準用されます。

宅建業法33条の2(自己の所有に属しない宅地又は建物の売買契約締結の制限)

  • 原則:「宅地建物取引業者は、自己の所有に属しない宅地又は建物について、自ら売主となる売買契約(予約を含む。)を締結してはならない。」
  • 例外1(1号):業者がその物件を取得する契約(予約を含み、「その効力の発生が条件に係るものを除く」)を結んでいるとき、その他取得できることが明らかな場合で省令が定めるとき。
  • 省令の例(施行規則15条の6):土地区画整理事業などの施行者が管理する保留地予定地について、換地処分の公告の日の翌日に施行者から取得する契約を結んでいるとき、など。
  • 例外2(2号):工事完了前の物件の売買で、手付金等の保全措置(41条1項1号・2号)が講じられているとき。
  • 範囲:8種制限の一つなので、業者どうしの売買には適用されません(78条2項)。業者が媒介や代理をしているだけの売買にもかかりません(業者が「自ら売主」ではないため)。

改正前との違い(令和2年4月1日施行の民法改正)

改正前の561条は、売主が権利を移せないときは買主は解除でき、ただし契約の時に他人の物だと知っていた買主は損害賠償を請求できない、と決めていました。今の561条は売主の義務を定める条文になり、移せなかったときは債務不履行の一般のルール(415条・541条〜543条など)で考えます。今の条文には、買主が知っていたかどうかで解除や損害賠償を分ける定めはありません。

民法と宅建業法の比べ方

項目民法561条宅建業法33条の2
だれのルールかすべての売主宅建業者が自ら売主・買主が業者でないとき
契約を結べるか結べる(有効)原則として結べない
例外―取得の契約・予約(停止条件付きは除く)、省令の場合、未完成物件で保全措置
移せなかったら債務不履行(解除・損害賠償)(そもそも結ばせないルール)

民法は「結んだ後に、移せなかったらどうするか」のルールで、宅建業法は「結ぶ前に、結んでよいか」のルールです。宅建業法のルールは、業者が手に入れられるか分からない物件を一般の人に売り、あとで移せなくなる事態を、契約の段階で防ぐ働きをします。

民法の解除と損害賠償の中身は債務不履行と解除の記事で、一部だけ他人のものだったときの買主の手段は契約不適合責任の記事で扱っています。

当てはまる例・当てはまらない例(宅建業法33条の2)

ふじ不動産が自ら売主で、ちはるさん(業者ではない)に、ごろうさんの土地を売る場面で当てはめます。

ふじ不動産とごろうさんの関係ちはるさんと契約できるか理由
まだ何の約束もない(交渉中)できない33条の2の原則
条件のない売買契約を結んだ(代金は未払い)できる1号の取得する契約
売買の予約を結んだできる1号は予約を含む
「転勤が決まったら売る」という停止条件付きの契約できない効力が条件しだいの契約は除かれる

当てはまらない例(33条の2がかからない)

  • ふじ不動産が、ごろうさんの土地を宅建業者のさくら住宅に売る。→ 業者どうしの売買なので、33条の2は適用されません(78条2項)。
  • ふじ不動産が、りょうたさんとちはるさんの売買を媒介する。→ ふじ不動産は自ら売主ではないので、33条の2は関係ありません。民法の他人物売買として考えます。

ひっかけやすい例

  • 「まだ代金を払っていないので、所有権が移っておらず、ちはるさんと契約できない」。→ 誤りです。1号は「取得する契約を締結しているとき」なので、代金の支払や登記が済んでいなくても例外にあたります。
  • 「予約だから不安定なので例外にならない」。→ 誤りです。1号のかっこ書きは「予約を含み」と書いています。外されているのは、効力の発生が条件にかかっている契約です。
  • 建築中の建物を、完成前に自ら売主として売る。→ 2号の例外があります。工事完了前の売買で、41条1項1号か2号の保全措置が講じられていれば、33条の2には違反しません。未完成物件のほかのルールは未完成物件の記事にまとめています。

似ているルールとの違い

ルール場面業者どうしだと
33条の2(自分のものでない物件)業者が他人の物件・未完成物件を売る外れる
36条(契約締結の時期の制限)工事完了前に、許可・確認の前に契約する外れない
民法561条だれでも、他人の物を売る関係なく適用

33条の2と36条は、どちらも「契約を結んではいけない」ルールなので混ざりやすい組です。33条の2は「だれの物か」、36条は「工事の許可・確認があったか」で決まります。36条は8種制限ではないので、業者どうしでもかかります。8種制限の全体は8種制限の記事で確かめてください。

試験ではここをまちがえやすい

他人物売買は、宅建試験では権利関係(民法561条)と宅建業法(33条の2)の両方で問われます。行政書士試験でも民法の売買の論点として出てきうる論点です。取り違えやすい形は次のとおりです。

  • 民法で無効にする:「他人の物の売買は無効」は誤り。民法では有効で、売主は取得して移す義務を負います。
  • 買主が知っていたら:今の条文では、買主が知っていたかどうかで解除の可否を分ける定めはありません。改正前の「知っていた買主は損害賠償ができない」と混ぜないようにします。
  • 宅建業法の例外の範囲:取得の契約・予約はOK、停止条件付きはだめ。代金の支払や登記は要らない。
  • 前提の読み落とし:買主が業者なら33条の2は外れる。業者が媒介しているだけなら関係ない。
  • 2号の例外:未完成物件で保全措置を講じていれば例外。完成物件にはこの例外がない。

この分野の○✕は、宅建の5分○✕ドリルの宅建業法(8種制限・自己の所有に属しない物件)と権利関係(債務不履行・解除)で続けて解けます。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題)
宅建業者でない売主Aが、Cの所有する土地をBに売る契約を結んだ。Bが契約の時にその土地がCのものだと知っていた場合でも、この契約は有効で、AはCから土地を取得してBに移す義務を負う。

答え:○ 分かれ目は、他人物売買の効力です。民法561条は、他人の権利を売買の目的としたときは、売主がその権利を取得して買主に移す義務を負うとしていて、契約を無効にしていません。買主が知っていたので✕に見えますが、今の条文には買主の知・不知で分ける定めはありません。宅建業者が自ら売主のときに原則として禁じる宅建業法33条の2とは、場面が違います。

問2(このサイトのオリジナル問題)
宅建業者Aが自ら売主となり、宅建業者Bに、Cの所有する土地を売る契約を結んだ。AがCとの間でその土地を取得する契約を結んでいない以上、この契約は宅建業法に違反する。

答え:✕ 分かれ目は、買主が宅建業者かどうかという前提です。33条の2は8種制限の一つで、業者どうしの取引には適用されません(78条2項)。正しくは「宅建業法には違反しない」です。買主が業者でない場合なら、取得の契約などがない限り違反になるので、その場面と取り違えないようにします。

問3(このサイトのオリジナル問題)
宅建業者でない売主Aが、Cの所有する建物をBに売ったが、Cが売ることを拒み、AはBに建物を移せなくなった。Bは、契約の時に建物がCのものだと知っていたので、契約を解除することができない。

答え:✕ 分かれ目は、買主が知っていたことが解除に影響するかです。売主の移す義務(561条)が全部できなくなったときは、債務不履行として、買主は催告なしで解除できます(542条1項1号)。正しくは「Bは解除できる」です。改正前の561条でも解除はでき、知っていた買主に制限されていたのは損害賠償のほうでした。

まとめ

  • 民法:他人物売買は有効。売主は権利を取得して買主に移す義務を負う(561条)。
  • 移せなければ債務不履行。全部できなくなれば催告なしで解除できる(542条1項1号)。一部だけ他人の物なら565条で562条〜564条を準用。
  • 宅建業法:業者が自ら売主・買主が業者でないとき、自分のものでない物件を売る契約(予約を含む)は原則禁止(33条の2)。
  • 例外:取得する契約・予約を結んでいる(停止条件付きは除く)、省令の場合、未完成物件で保全措置。代金の支払や登記は要らない。
  • 業者どうしの売買、業者が媒介しているだけの売買には33条の2はかからない。

次に読むなら、8種制限の記事がおすすめです。33条の2と同じく「業者が売主のときだけ」のルールを並べて覚えると、前提の読み落としを防げます。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)

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