第三者のためにする契約と中間省略登記:AからCへ直接登記を移せる場合・移せない場合

第三者のためにする契約とは、契約の当事者の一方が、契約に加わっていない第三者に給付をすると約束する契約です。民法537条1項は、この場合、第三者は債務者に対して「直接にその給付を請求する権利を有する」と定めています。

ひとことで言うと、第三者の権利は、第三者が「その利益を受けます」と表示した時に生まれ(537条3項)、その後は当事者が勝手に変えたり消したりできません(538条1項)。不動産の取引では、この仕組みを使うと、売主Aから最終の買主Cへ所有権を直接移し、AからCへ直接登記できます。反対に、AからB、BからCと所有権が順に移ったのに、登記だけをAからCへ飛ばす「中間省略登記」はできません。

この記事は、試験の論点として、537条〜539条、中間省略登記の判例、直接移せる形と宅建業法の例外を扱います。登記の申請書の書き方・費用・税は扱いません。条文は令和8年4月1日時点のものです。登記に協力してもらう権利(登記請求権)の3つの根拠は登記請求権で扱っています。

身近な例で考えると

まつもとさんは、持っている土地を宅建業者のひかり不動産に売ることにしました。登場人物は次のとおりです。

人物立場したこと
まつもとさん売主(宅建業者ではない)土地をひかり不動産に売る
ひかり不動産宅建業者土地を買い、ゆいさんに売る
ゆいさん最終の買主(宅建業者ではない)家を建てる土地を探している
こばやし工務店第三者まつもとさんに家の工事代金を請求できる

まず、第三者のためにする契約の基本形です。まつもとさんは、こばやし工務店に自宅の工事代金500万円を払う必要がありました。そこで、ひかり不動産との売買で「代金のうち500万円は、ひかり不動産がこばやし工務店に直接払う」と決めました。

  1. まつもとさんとひかり不動産が売買契約を結ぶ。500万円の支払先はこばやし工務店と決める。
  2. こばやし工務店が、ひかり不動産に「その500万円を受け取ります」と伝える(受益の意思表示)。この時に、こばやし工務店の権利が生まれる(537条3項)。
  3. その後は、まつもとさんとひかり不動産が話し合っても、この500万円の約束を変えたり消したりできない(538条1項)。
  4. ひかり不動産が500万円を払わないとき、まつもとさんが売買契約を解除するには、こばやし工務店の承諾がいる(538条2項)。

説明では、頼む側のまつもとさんを要約者(ようやくしゃ)、約束する側のひかり不動産を諾約者(だくやくしゃ)、利益を受けるこばやし工務店を受益者(じゅえきしゃ)と呼ぶことがあります。条文の言葉では、ひかり不動産が「債務者」、まつもとさんが「契約の相手方」です。

次に、転売の場面です。ひかり不動産は、買った土地をゆいさんに売るつもりです。ふつうに「まつもとさん→ひかり不動産→ゆいさん」と売ると、所有権は2回動きます。登記も2回必要です。そこで、所有権をまつもとさんから直接ゆいさんへ移せないか、という話になります。

条文ではこう決まっている

  • 537条1項:契約で当事者の一方が第三者にある給付をすると約したときは、その第三者は、債務者に直接その給付を請求する権利を持つ。
  • 537条2項:契約の成立の時に第三者が現に存在しない、または特定していない場合でも、契約の効力は妨げられない。
  • 537条3項:第三者の権利は、第三者が債務者に対して「契約の利益を享受する意思を表示した時」に発生する。
  • 538条1項:第三者の権利が発生した後は、当事者は、これを変更し、又は消滅させることができない。
  • 538条2項:権利の発生後に債務者が第三者への債務を履行しないとき、契約の相手方は、その第三者の承諾を得なければ契約を解除できない。
  • 539条:債務者は、その契約にもとづく抗弁(言い分)を、利益を受ける第三者にも主張できる。たとえば、売買で代金と土地の引渡しを引き換えにすると決めていたなら、まつもとさんが土地を引き渡さないうちは、ひかり不動産はこばやし工務店への支払いを拒めます。

中間省略登記は、なぜできないか

中間省略登記とは、所有権が「A→B→C」と順に移ったのに、Bを飛ばして「A→C」と登記することです。

  • 判例:最高裁判所第三小法廷昭和40年9月21日判決は、所有権が甲乙丙と順に移ったのに登記名義が甲のままのとき、丙が甲に直接自分への移転登記を請求することは「甲および乙の同意がないかぎり、許されない」としました(裁判要旨)。現在の不動産登記法ができる前の判例です。
  • 今の登記の手続:権利に関する登記を申請するときは、法令に別段の定めがある場合を除き、「登記原因を証する情報」を提供しなければなりません(不動産登記法61条)。実際の権利の動きがA→B→Cなら、A→Cの売買があったことを示す情報は作れません。国土交通省の資料も、平成16年の不動産登記法の改正により、中間省略登記が行われることはなくなった、と説明しています。

登記は、権利の動きをそのまま帳簿に写すものです。動きが2回あるのに1回分しか書けない、と考えると分かりやすくなります。登記の申請のしかた(共同申請と単独申請)は登記の申請の記事で扱っています。

AからCへ直接移せる2つの形

中間省略登記はできませんが、所有権が実際に「A→C」と直接移るように契約を組めば、そのとおりに「A→C」と登記できます。国土交通省の資料は、平成18年12月25日の規制改革・民間開放推進会議の答申で、「第三者のためにする契約」又は「買主の地位の譲渡」により、実体上、所有権が「甲→丙」と直接移転し、中間者乙を経由しないときは、直接移転登記をすることができる旨が、法務省との間で確認されたと説明しています。

形所有権の動きA→Cの登記
ふつうの転売A→B、B→Cの2回できない(2回分の登記)
第三者のためにする売買AからCへ直接できる
買主の地位の譲渡CがAの買主になるできる
  • 第三者のためにする売買:まつもとさんとひかり不動産の売買に「所有権は、ひかり不動産が指定する人に、まつもとさんから直接移る」という特約を付けます。ゆいさんが指定され、受益の意思表示をすると(537条3項)、所有権はまつもとさんからゆいさんへ移り、ひかり不動産を経由しません。
  • 買主の地位の譲渡:ひかり不動産が、まつもとさんとの売買の「買主の地位」をゆいさんに譲ります。契約上の地位の移転には、契約の相手方(売主のまつもとさん)の承諾が必要です(539条の2)。地位の移転の一般ルールは契約上の地位の移転の記事で扱っています。

宅建業法の他人物売買の例外とのつながり

第三者のためにする売買では、ひかり不動産は土地の所有権を一度も取得しません。その状態で、ひかり不動産が自ら売主としてゆいさんと売買契約を結ぶと、自分のものでない土地を売ることになります。宅建業者が自分の所有に属しない宅地を自ら売主として売る契約は、宅建業法33条の2で原則として禁じられています。

ただし、例外の一つとして、宅建業法施行規則15条の6第4号は、宅建業者が買主となる売買契約などで、所有権を「当該宅地建物取引業者が指定する者(当該宅地建物取引業者を含む場合に限る。)」に移転することを約するものを締結しているときを挙げています。指定先に業者自身も含めた形の特約なら、ひかり不動産はゆいさんと売買契約を結べます。33条の2の全体(取得する契約・未完成物件の保全措置)は他人物売買の記事で確かめてください。

当てはまる例・当てはまらない例

  • 当てはまる:こばやし工務店が受益の意思表示をした後、まつもとさんとひかり不動産が「500万円は、やはりまつもとさんに払う」と変えようとした。→ 変えられません(538条1項)。
  • 当てはまらない:受益の意思表示の前なら、こばやし工務店の権利はまだ生まれていません(537条3項)。当事者の合意で支払先を変えても、538条1項にはぶつかりません。
  • 当てはまらない(中間省略):まつもとさん→ひかり不動産→ゆいさんとふつうに売り、登記はまつもとさんのまま。ゆいさんがまつもとさんに「直接自分に登記を」と求めても、まつもとさんとひかり不動産の同意がなければ認められません(昭和40年判決)。
  • ひっかけやすい:受益者が契約の時にまだいない場合。たとえば「これから設立する会社」を受益者にしても、537条2項により契約の効力は妨げられません。

似ているルールとの違い

「第三者が契約の利益を得る」仕組みは、ほかにもあります。だれの合意・承諾が要るかで比べます。

仕組み何が動くか要るもの
第三者のためにする契約第三者に新しく請求権が生まれる当事者の契約+第三者の受益の意思表示
契約上の地位の移転契約の当事者の立場そのもの譲る人と受ける人の合意+相手方の承諾
債権譲渡債権だけ譲る人と受ける人の合意(債務者の承諾は不要)

第三者のためにする契約では、第三者は契約の当事者になりません。だから第三者は、契約の解除権を持たず、反対に当事者が解除するときに第三者の承諾が要る(538条2項)、という形になります。

試験ではここをまちがえやすい

当サイトが、不動産適正取引推進機構が公開している宅建試験の問題(昭和63年度〜令和7年度の40回、2,000問)を1問ずつ読んで数えたところ、契約の総論(成立・同時履行・危険負担など)が主な論点の問題は8問で、直近10回(平成30年度〜令和7年度)では1問、不動産登記法が主な論点の問題は53問で、直近10回では10問でした。この記事の論点だけの数は、分けて数えていません(分け方は当サイトの判断で、公式の分類ではありません)。取り違えやすい形は次のとおりです。

  • 権利が生まれる時:契約の時ではなく、第三者が受益の意思を表示した時(537条3項)。
  • 解除の承諾:権利の発生後に債務者が履行しないとき、相手方が解除するには第三者の承諾が要る(538条2項)。債務不履行の解除の一般ルール(541条・542条)だけで考えると落とします。
  • 中間省略登記の請求:判例は、登記名義人と中間者の同意がない限り請求できないとした。「最終の買主は当然に直接請求できる」は誤り。
  • 直接移せる形:所有権が実際にA→Cと動く形(第三者のためにする売買・買主の地位の譲渡)なら直接の登記ができる。登記だけを飛ばす形とは別物。
  • 宅建業法:所有権を取得しない業者が自ら売主として売るのは33条の2の問題。施行規則15条の6第4号の形なら例外に当たる。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題)
まつもとさんとひかり不動産の土地の売買で、代金のうち500万円をひかり不動産がこばやし工務店に直接払うと約束し、こばやし工務店は受益の意思を表示した。ひかり不動産が支払わない場合、まつもとさんは、こばやし工務店の承諾がなくても売買契約を解除できる。

答え:✕ 分かれ目は、解除に第三者の承諾が要るかです。第三者の権利が発生した後に債務者が第三者への債務を履行しない場合、契約の相手方は「その第三者の承諾を得なければ」解除できません(民法538条2項)。正しくは、まつもとさんはこばやし工務店の承諾を得て解除します。債務不履行による解除の一般ルール(541条)だけを当てはめた文で、受益の意思表示の前と後で扱いが変わる点(537条3項)が抜けています。

問2(このサイトのオリジナル問題)
土地の所有権が、まつもとさんからひかり不動産、ひかり不動産からゆいさんへと順に売買で移ったが、登記名義はまつもとさんのままである。判例によれば、ゆいさんは、まつもとさんとひかり不動産の同意がなければ、まつもとさんに直接自分への移転登記を求めることはできない。

答え:○ 最高裁判所第三小法廷昭和40年9月21日判決は、所有権が甲乙丙と順に移ったのに登記名義が甲にある場合、丙が甲に直接自分への移転登記を請求することは、甲および乙の同意がない限り許されないとしました。最終の所有者はゆいさんなので、直接請求できそうに見えるのが✕にしやすい点です。所有権がまつもとさんからゆいさんへ直接移る形(第三者のためにする売買)なら、そもそも中間省略にはなりません。

問3(このサイトのオリジナル問題)
宅建業者ひかり不動産は、宅建業者でないまつもとさんから土地を買う契約を結び、所有権はひかり不動産が指定する者(ひかり不動産自身を含む)にまつもとさんから直接移ると定めた。ひかり不動産は、所有権を一度も取得しない場合でも、宅建業者でないゆいさんにこの土地を自ら売主として売る契約を結べる。

答え:○ 宅建業者は、自己の所有に属しない宅地を自ら売主として売る契約を結べないのが原則ですが(宅建業法33条の2)、例外があります。施行規則15条の6第4号は、業者が買主となる契約で、所有権を業者が指定する者(業者自身を含む場合に限る)に移転することを約するものを締結しているときを挙げています。「自分のものになっていない土地は売れない」という原則だけで考えると✕にしてしまいます。指定先から業者自身を外した特約だと、この号には当たりません。

この分野の○✕は、宅建の5分○✕ドリルの「権利関係」で続けて解けます。

まとめ

  • 第三者のためにする契約では、第三者は債務者に直接請求できる(537条1項)。権利は受益の意思表示の時に生まれる(同条3項)。
  • 権利の発生後は、当事者は変更・消滅させられず、相手方の解除には第三者の承諾が要る(538条)。債務者は契約上の抗弁を第三者に主張できる(539条)。
  • A→B→Cと移ったのにA→Cと登記する中間省略登記は、登記原因証明情報(不動産登記法61条)と合わず、判例も請求には全員の同意を求めた(昭和40年判決)。
  • 第三者のためにする売買・買主の地位の譲渡で所有権が実際にA→Cと動くなら、A→Cの登記ができる。
  • 宅建業者は、施行規則15条の6第4号の形の契約を結んでいれば、所有権を取得しなくても自ら売主として売れる(33条の2の例外)。

次に読むなら、契約上の地位の移転がおすすめです。「買主の地位の譲渡」で売主の承諾が要る理由を、債権譲渡・債務引受と並べて確かめられます。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)

条文は、令和8年4月1日時点で施行されている内容を、e-Gov法令検索(法令API)で確かめています。判例は裁判所ウェブサイトで確かめました。

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