株式会社をつくる方法は2つです(会社法25条1項)。1つは「発起設立(ほっきせつりつ)」で、発起人(ほっきにん=会社をつくる言い出し役)が最初の株を全部引き受けます。もう1つは「募集設立(ぼしゅうせつりつ)」で、発起人が一部を引き受け、残りを引き受ける人を募集します。どちらも、定款(ていかん)を作る、公証人の認証を受ける、お金などを出す、最初の役員を選ぶ、設立の登記をする、という順で進みます。会社が生まれるのは、登記をした時です(49条)。
この記事では、設立の流れ全体と、2つの方法の違いを扱います。株式の発行や機関の仕組みそのものは扱いません(機関は株式会社の機関をわかりやすくで説明しています)。条文は、令和8年度の行政書士試験の基準日(令和8年4月1日)の時点のものを e-Gov 法令検索で確かめています。4月2日以降に施行された会社法の改正(2026年8月施行の改正など)は、令和8年度試験の範囲外なので扱いません。
身近な例で考えると
2つの会社の生まれ方を比べます。登場人物は次のとおりです。
| 人物 | 立場 | したこと |
|---|---|---|
| はるかさん | パン屋の会社の発起人 | お金とパン焼きのオーブンを出す |
| けんたさん | 同じく発起人 | お金を出す |
| ひろしさん | 商店街の会社の発起人 | 町の人に出資を呼びかける |
| みかさん | 商店街の会社の株の引受人 | 呼びかけに応じて株を申し込む |
発起設立:あおぞらベーカリー株式会社
- はるかさんとけんたさんが定款(会社の基本ルールブック)を作り、2人とも署名する。会社の目的・商号(会社の名前)・本店の所在地などを書く。
- はるかさんがオーブンを出資することも定款に書く(現物出資〈げんぶつしゅっし〉=お金以外の物を出すこと)。
- 公証人(こうしょうにん)に定款を認証してもらう。これで定款が効力を持つ。
- 2人が最初に発行する株を全部引き受け、すぐにお金を銀行に払い込み、オーブンを引き渡す。
- 2人で最初の取締役(設立時取締役)にはるかさんを選ぶ。
- はるかさんが、出資がすんだか、手続きに法令違反がないかを調べる。
- 本店の所在地で設立の登記をする。この日に会社が生まれる。
募集設立:まちなか市場株式会社
ひろしさんは、商店街の空き店舗を使う会社を作りたいと考えました。自分の出せるお金では足りないので、株の一部を自分で引き受け、残りを町の人に募集します。みかさんが申し込み、決められた期日までにお金を払い込みました。募集した場合は、株を引き受けた人たちの会議である「創立総会(そうりつそうかい)」を開き、最初の役員をそこで選びます。最後に登記をして会社が生まれます。
たとえると、発起設立は「仲間うちだけでお金を出し合って始める店」、募集設立は「外の人からも出資を集めて始める店」です。ただし、本物のルールでは、募集設立でも発起人は1株以上を自分で引き受けなければなりません(25条2項)。発起人が1株も持たずに、全部を外の人に任せることはできません。
条文ではこう決まっている
2つの方法と発起人(25条)
- 発起設立:発起人が、設立のときに発行する株(設立時発行株式)の全部を引き受ける(25条1項1号)。
- 募集設立:発起人が引き受けるほか、引き受ける人を募集する(25条1項2号)。
- どちらの方法でも、発起人は1人1株以上を引き受ける(25条2項)。
- 募集をすると決めるには、発起人全員の同意がいる(57条)。
定款と公証人の認証(26条〜30条・33条・37条)
- 定款は発起人が作り、全員が署名か記名押印をする(26条1項)。電磁的記録(データ)でも作れる(26条2項)。
- 定款に書かなければならない事項は5つ:目的、商号、本店の所在地、設立のときに出す財産の価額かその最低額、発起人の氏名か名称と住所(27条)。
- 発行可能株式総数(会社が発行できる株の上限)は、認証のときに書いていなくてもよい。会社が生まれる時までに、発起人全員の同意で定款に書き足す(37条1項)。募集設立では、払込みの期日(期間の初日)からあとは発起人が定款を変えられず、創立総会の決議で定める(95条・98条)。
- 公開会社をつくるときは、設立時発行株式の数を発行可能株式総数の4分の1より少なくできない(37条3項)。
- 次の4つは、定款に書かなければ効力がない(28条)。①現物出資。②財産引受け(会社ができたあとに財産を買う約束)。③発起人が受ける報酬などの特別の利益。④設立にかかる費用(定款の認証の手数料などは除く)。
- 定款は公証人の認証を受けなければ効力がない(30条1項)。認証のあとは、会社ができるまで原則として変えられない(30条2項)。
- 28条の事項があるときは、認証のあと遅滞なく、裁判所に検査役(けんさやく=値段が正しいか調べる人)を選んでもらう(33条1項)。
- ただし、現物出資と財産引受けについては、次のときは検査役がいらない(33条10項)。①定款に書いた値段の合計が500万円以下のとき。②市場価格のある有価証券のとき。③弁護士・公認会計士・税理士などが値段が相当だと証明したとき(不動産は不動産鑑定士の鑑定評価も必要)。
出資・役員の選任・登記(34条〜52条・911条)
- 発起人は、株を引き受けたら遅滞なく、お金の全額を払い込むか、物の全部を引き渡す(34条1項)。払い込む場所は、発起人が決めた銀行などの窓口(34条2項)。
- 払い込まない発起人がいるときは、期日を決め、その2週間前までに知らせる。期日までに払わなければ、株主になる権利を失う(36条)。
- 発起設立では、出資がすんだあと遅滞なく、発起人が設立時取締役を選ぶ(38条1項)。決め方は発起人の議決権の過半数で、出資をした株1株につき1個の議決権(40条)。
- 設立時取締役は、現物出資の値段が相当か、出資がすんだか、手続きが法令・定款に違反していないかを調べる(46条1項)。
- 取締役会を置く会社をつくるときは、設立時取締役の過半数で設立時代表取締役を選ぶ(47条)。
- 会社は、本店の所在地で設立の登記をすることで成立する(49条)。登記は、発起設立なら46条の調査が終わった日などから2週間以内、募集設立なら創立総会が終わった日などから2週間以内(911条1項・2項)。
- 現物出資の物の値段が、会社ができた時に、定款に書いた値段より「著しく不足する」ときは、発起人と設立時取締役が連帯して不足分を払う(52条1項)。
- ただし、①検査役の調査を受けたとき、②注意を怠らなかったと証明したときは、払わなくてよい。現物出資をした本人(財産引受けで物を売った発起人も同じ)は、どちらの場合でも払う(52条2項)。
募集設立だけのルール(63条〜103条)
- 引受人は、決められた期日か期間内に、銀行などで全額を払い込む。払わなければ、株主になる権利を失う(63条1項・3項)。発起人のような「2週間前の通知」の手順はない。
- 発起人は、払込みを受けた銀行などに、払込金の保管証明書を出してもらえる。銀行は、証明した内容が事実と違うことを会社に言い訳にできない(64条)。
- 払込みの期日(期間の末日)のあと遅滞なく、発起人は創立総会を開く(65条1項)。
- 創立総会の決議は、賛成が次の2つを両方満たすと成立する(73条1項)。①議決権を使える設立時株主の議決権の過半数。②出席した人の議決権の3分の2以上。
- 最初の役員は、創立総会の決議で選ぶ(88条1項)。
- 募集設立では、52条の「注意を怠らなかったと証明すれば払わなくてよい」が使えない(103条1項)。過失がなくても不足分を払う。検査役の調査を受けたときに払わなくてよい点は同じ。
- 募集の広告などに、自分の名前と「設立を応援する」旨をのせることを承諾した人は、発起人とみなされ、発起人と同じ責任を負う(103条4項)。
当てはまる例・当てはまらない例
- 当てはまる(効力がある)例:はるかさんのオーブン(300万円)の現物出資を定款に書いて認証を受けた。定款に書いたので効力があり(28条1号)、合計が500万円以下なので検査役の調査もいりません(33条10項1号)。
- 当てはまらない例:オーブンの現物出資を、定款に書かずに口約束ですませた。28条の事項は定款に書かなければ効力がないので、この現物出資は効力を持ちません。
- ひっかけやすい例:あおぞらベーカリー(発起設立)が、定款に発行可能株式総数を書かないまま、公証人の認証を受けた。これは許されます。会社が生まれる時までに発起人全員の同意で書き足せばよいからです(37条1項)。「27条の5つ」と「37条の発行可能株式総数」を混ぜると、まちがえます。
- ひっかけやすい例:けんたさん(発起人)が払込みをしなかった。すぐに権利を失うのではなく、期日を決めて2週間前までに知らせ、それでも払わないときに失います(36条)。一方、みかさん(募集に応じた引受人)が期日に払わなければ、通知の手順なしに権利を失います(63条3項)。
- 当てはまらない例:あおぞらベーカリー(発起設立)で創立総会を開いて取締役を選ぼうとした。創立総会は募集をしたときの手続きです(65条)。発起設立では発起人が議決権の過半数で選びます(38条・40条)。
- ひっかけやすい例:公証人の認証を受けた日に会社が生まれた、とする。会社が生まれるのは設立の登記をした時です(49条)。認証は定款が効力を持つための手続きにすぎません(30条1項)。
似ているルールとの違い
発起設立と募集設立の違いを表にします。試験では、この表の右と左を入れかえた選択肢が作られやすいところです。
| 項目 | 発起設立 | 募集設立 |
|---|---|---|
| 株を引き受ける人 | 発起人だけ | 発起人+募集に応じた人 |
| 最初の役員を選ぶ | 発起人の議決権の過半数 | 創立総会の決議 |
| 創立総会 | ない | 開く |
| 払込金の保管証明 | 規定なし | 銀行などに請求できる(64条) |
| 払わない人 | 発起人:通知のあと失権(36条) | 引受人:期日に払わなければ失権(63条) |
| 現物出資の不足の責任 | 注意を怠らなかったと証明すれば免れる | 過失がなくても免れない(103条1項。検査役の調査を受けたときは免れる) |
もう一つまぎらわしいのが、株主総会と創立総会です。株主総会は、会社が生まれたあとの株主の会議です。創立総会は、会社が生まれる前の、募集設立のときだけ開く設立時株主の会議です。決議の条件も違い、創立総会は「議決権の過半数」かつ「出席者の議決権の3分の2以上」です(73条1項)。株主総会の決議の種類は株式会社の機関の記事で整理しています。
試験ではここをまちがえやすい
設立は、行政書士試験の会社法で問われやすい分野です。次の型に注意します。
- 成立の時期:「認証の時」「出資がすんだ時」とすりかえる形。正しくは設立の登記をした時(49条)。
- 定款に書く事項の混同:27条の5つ(定款に書かなければならない事項)と、28条の4つ(書かないとその事項だけが効力を持たない事項)と、37条の発行可能株式総数(あとで書き足せる)を入れかえる形。
- 検査役がいらない場合:500万円の「以下」か「未満」か。条文は「五百万円を超えない場合」なので、ちょうど500万円は検査役がいりません。
- 失権の手順:発起人には2週間前までの通知があり(36条)、募集に応じた引受人にはない(63条3項)。逆にした選択肢に注意。
- 募集設立だけの手続き:創立総会と払込金の保管証明を、発起設立にもあるように書く形。
- 責任の重さ:現物出資の不足について、募集設立では過失がなくても責任を負う(103条1項)。外の人のお金が入るぶん、責任が重いと理解すると覚えやすくなります。また、現物出資をした本人は、発起設立でも、検査役の調査や過失がないことを理由に責任を免れません(52条2項)。
会社法にどれだけ時間をかけるかは、商法・会社法は捨てていいかで、配点と残り時間から決める考え方を示しています。
○✕でたしかめよう
問1(このサイトのオリジナル問題)
株式会社は、公証人が定款を認証した時に成立する。
答え:✕
株式会社は、本店の所在地で設立の登記をすることによって成立します(49条)。公証人の認証は、定款が効力を持つための手続きです(30条1項)。
問2(このサイトのオリジナル問題)
発起設立で、発起人の一人が出資のお金を払い込まないときは、その発起人はただちに株主になる権利を失う。
答え:✕
発起人が払い込まないときは、期日を決めて、その2週間前までに知らせます。期日までに払わなかったときに、はじめて権利を失います(36条)。ただちに失うのは、募集に応じた引受人が期日に払わなかった場合です(63条3項)。
問3(このサイトのオリジナル問題)
現物出資の合計額が500万円ちょうどのときは、定款に書いたその値段について、裁判所に検査役を選んでもらう必要はない。
答え:○
検査役がいらないのは、合計額が「五百万円を超えない場合」です(33条10項1号)。500万円ちょうどは超えていないので、検査役はいりません。ただし、定款に書くこと(28条)は必要です。
まとめ
- 設立は、発起人が株を全部引き受ける発起設立と、引受人を募集する募集設立の2つ。発起人はどちらでも1株以上を引き受ける。
- 流れは、定款作成→公証人の認証→出資→役員の選任→調査→設立の登記。会社は登記の時に成立する。
- 現物出資など28条の4つは、定款に書かないと効力がない。合計500万円以下などなら検査役はいらない。
- 募集設立だけにあるのは、創立総会・払込金の保管証明・通知なしの失権・過失がなくても負う不足額の責任(検査役の調査を受けたときは除く)。
このサイトで次に読むなら、生まれた会社がどう動くかを扱う株式会社の機関をわかりやすくがおすすめです。設立のときに選んだ最初の取締役が、会社ができたあとにどんな役割を持つのかがつながります。
参考にした公式の情報(2026年10月確認)
- 会社法(e-Gov 法令検索):25条〜28条、30条、33条、34条、36条〜38条、40条、46条、47条、49条、52条、57条、63条〜65条、73条、88条、95条、98条、103条、911条。令和8年4月1日時点で施行されている条文で確認しました。
- 行政書士試験研究センター「試験案内」:令和8年度試験は令和8年4月1日現在施行の法令から出題。
働く人の法律試験ノート