新株予約権をわかりやすく:決まった値段で株を受け取れる権利の発行・行使と、差止め

ひとことで言うと、新株予約権(しんかぶよやくけん)は、会社に対して使う(行使する)と、決まった値段でその会社の株式を受け取れる権利です。会社法2条21号は「株式会社に対して行使することにより当該株式会社の株式の交付を受けることができる権利」と定めています。取締役などに報酬として与えるものは、ストックオプションと呼ばれます。

新株予約権では、お金を払う場面が2つあります。権利そのものを手に入れるときの払込み(払込金額)と、権利を行使して株式を受け取るときの出資(行使価額)です。この2つを分けて読むのが、条文を取り違えないこつです。この記事では、発行の決め方・払込み・行使・争い方を扱います。ふつうの新株の発行は募集株式の発行の記事で説明しているので、違いを中心に書きます。

身近な例で考えると

舞台は、株が自由に売り買いされる公開会社「そらテック株式会社」です。取締役会を置いています。

人物立場したこと
まいさん投資する人新株予約権を1個1万円で引き受けた
りくさんそらテックの取締役報酬として新株予約権を受け取った
たけるさんそらテックの株主発行に反対している
  1. そらテックの取締役会が、「行使すると1株500円で株式を受け取れる。行使できるのは3年後から2年間」という新株予約権を、1個1万円で募集すると決めた。
  2. 割当日の2週間前までに、株主に募集の内容を通知した(公告でもよい)。
  3. 割当日に、まいさんは新株予約権者になった。1万円は、行使できる期間が始まる前の日までに払い込む。
  4. 3年後、株価が800円に上がった。まいさんは新株予約権を行使し、1株500円の全額を払い込んだ。行使した日に、まいさんは株主になる。

株価が500円より上がれば、まいさんは安く株を手に入れられます。上がらなければ、行使しなければよいだけです。たとえるなら「3年後に、この値段で買える予約券」です。ただし本物のルールでは、予約券そのものにも値段(払込金額)を付けることができ、行使のときに会社が新しい株を発行するか、持っている自己株式を渡します。

条文ではこう決まっている

内容と、発行の決め方(236条〜240条)

  • 236条1項:新株予約権の内容として、目的である株式の数、行使のときに出資する財産の価額(2号)、金銭以外の財産を出資させるならその内容と価額(3号)、行使できる期間(4号)、譲渡に会社の承認を要するならその旨(6号)などを定める。
  • 238条1項・2項:募集のたびに、内容と数、払込みを要しないならその旨、払込金額、割当日などの募集事項を定める。決めるのは株主総会(特別決議。309条2項6号)。
  • 238条3項:払込みを要しないことが引き受ける人に特に有利な条件のとき、または払込金額が特に有利な金額のときは、取締役が株主総会で理由を説明する。
  • 239条:株主総会の決議(特別決議)で、募集事項の決定を取締役(取締役会設置会社では取締役会)に任せられる。任せる決議は、割当日が決議の日から1年以内の募集にだけ効力がある。
  • 240条:公開会社では、特に有利な場合を除き、取締役会が募集事項を決める。そのときは割当日の2週間前までに株主に通知する(公告で代えられる)。

取締役に報酬として新株予約権を与えるときは、定款に定めがなければ、その数の上限などを株主総会の決議で定めます(361条1項4号)。

払込み・行使・株主になる日(245条〜282条)

場面決まり条文
新株予約権者になる日割当日245条1項
権利を取得するときの払込み行使期間の初日の前日(払込期日を定めたらその日)までに全額。会社の承諾があれば、金銭以外の財産の給付や、会社への債権との相殺で代えられる246条1項・2項
払込みをしなかったときその新株予約権を行使できない246条3項
行使するときの出資行使の日に全額を払い込む。会社への債権と相殺できない281条1項・3項
株主になる日行使した日282条1項

争い方(247条・828条)

  • 247条(差止め):発行が法令・定款に違反する場合、または著しく不公正な方法で行われる場合で、株主が不利益を受けるおそれがあるときは、株主は、会社に発行をやめるよう請求できる。
  • 828条1項4号・2項4号(無効の訴え):発行の効力が生じた日から6か月以内(公開会社でない会社は1年以内)に、訴えでだけ主張できる。訴えられるのは株主等または新株予約権者。

株主に払込みをさせずに新株予約権を割り当てる「新株予約権無償割当て」もあります(277条)。決めるのは、定款に別段の定めがなければ株主総会(取締役会設置会社では取締役会)です(278条3項)。最高裁判所第二小法廷平成19年8月7日決定は、109条1項の株主平等の原則の趣旨は、新株予約権無償割当てをする場合にも及ぶとしました。そのうえで、公開買付けに対抗してされたその事件の無償割当ては、247条1号・2号のどちらにも当たらないとしました。株主平等の原則そのもの(109条)と、違ってよい扱いの一覧は株主平等原則の記事にあります。

当てはまる例・当てはまらない例

  • 当てはまる(取得時の相殺):まいさんがそらテックにお金を貸していた。そらテックの承諾があれば、1万円の払込みを貸金と相殺できます(246条2項)。
  • 当てはまらない(行使時の相殺):行使のときの1株500円は、貸金と相殺できません。会社が承諾しても同じです(281条3項)。株式を受け取る対価は、実際に払い込ませる作りになっています。
  • 当てはまらない(払い込まずに行使):まいさんが1万円を期限までに払い込まなかった。この新株予約権は行使できません(246条3項)。
  • ひっかけやすい(株主になる日):新株予約権は「行使した日」に株主になります(282条1項)。募集株式は、払込みの期日を定めればその期日、期間を定めれば出資をした日です(209条1項)。割当日に株主になるのではありません。
  • ひっかけやすい(行使条件に反した行使):最高裁判所第三小法廷平成24年4月24日判決は、公開会社でない会社が株主割当て以外の方法で発行した新株予約権に株主総会が行使条件を付け、その条件が発行の趣旨から重要な内容になっているときは、条件に反した行使による株式の発行には無効原因があるとしました。

似ているルールとの違い

比べる点募集株式募集新株予約権
非公開会社で決める機関株主総会の特別決議(199条2項)株主総会の特別決議(238条2項)
公開会社で決める機関取締役会(有利発行を除く。201条1項)取締役会(有利発行を除く。240条1項)
株主への通知の期限払込みの期日(期間の初日)の2週間前割当日の2週間前
払込みと相殺相殺できない(208条3項)取得時は承諾で可(246条2項)、行使時は不可(281条3項)
差止め・無効の訴え210条・828条1項2号247条・828条1項4号(新株予約権者も原告になれる)

発行をやめさせる請求は、取締役個人の違法な行為をやめさせる請求(360条)と要件が違います。360条は、6か月前から株式を持つ株主(公開会社でない会社は株主)が、会社に「著しい損害」(監査役設置会社などでは「回復することができない損害」)が生ずるおそれがあるときに使えます。247条は、株主自身が不利益を受けるおそれがあれば足り、保有期間の要件もありません。株主総会や取締役会のしくみは株式会社の機関の記事で確かめられます。

試験ではここをまちがえやすい

  • 2段階のお金の取り違え:取得時の払込金額(238条1項3号)と、行使時の出資の価額(236条1項2号)は別のものです。相殺の扱いも違います。
  • 通知の基準になる日:新株予約権は割当日の2週間前。募集株式の「払込期日の2週間前」をそのまま当てはめない。
  • 差止めの要件:247条は「株主が不利益を受けるおそれ」。360条の「著しい損害」「回復することができない損害」や、6か月の保有要件を混ぜない。
  • 無効の訴えの原告:株主等に加えて新株予約権者。期間は6か月(公開会社でない会社は1年)。
  • 株式の種類との関係:種類株式発行会社で、目的の株式が譲渡制限株式の種類なら、その種類株主総会の決議も要る(238条4項。定款で外せる)。種類株式は種類株式の記事で扱っています。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題)
公開会社でないX社が、株主割当て以外の方法で新株予約権を発行し、株主総会がその行使に条件を付けた。その条件が発行の趣旨から新株予約権の重要な内容になっている場合、条件に反した行使による株式の発行には無効原因がある。

答え:○ 分かれ目は、行使条件の違反が株式の発行の効力に及ぶかです。最高裁判所第三小法廷平成24年4月24日判決は、問題文の場面で、行使条件が発行の趣旨に照らして重要な内容を構成しているときは、条件に反した行使による株式の発行には無効原因があるとしました。行使の段階の違反は新株予約権者と会社の間の問題にすぎない、と考えると✕に見えます。同じ判決は、公開会社でない会社が株主総会の特別決議を経ないまま株主割当て以外の方法で募集株式を発行したことも、無効原因になるとしています。

問2(このサイトのオリジナル問題)
公開会社Y社の新株予約権者Bは、Y社に貸金債権を持っている。Bは、行使期間中に新株予約権を行使するにあたり、Y社の承諾を得れば、行使に際して払い込む金額を、この貸金債権と相殺することができる。

答え:✕ 分かれ目は、相殺できるのが取得時か行使時かです。281条3項は、行使に際しての払込みの債務と会社に対する債権とを相殺することはできないとし、会社の承諾による例外を置いていません。正しくは、行使時の出資は相殺できません。会社の承諾があれば相殺で代えられるのは、新株予約権を取得するときの払込金額の払込み(246条2項)です。

問3(このサイトのオリジナル問題)
公開会社Y社が、著しく不公正な方法で募集新株予約権を発行しようとしている。Y社の株主Cは、Y社に回復することができない損害が生ずるおそれがあるときに限り、Y社に発行をやめるよう請求できる。

答え:✕ 分かれ目は、差止めの要件の言葉です。247条は、発行が著しく不公正な方法で行われる場合などで「株主が不利益を受けるおそれがあるとき」に、株主が会社に発行をやめるよう請求できるとしています。正しくは、会社の損害ではなく、株主の不利益のおそれで足ります。「回復することができない損害」は、監査役設置会社などで株主が取締役の違法な行為をやめさせる請求(360条3項)の言葉です。

この分野の○✕は、行政書士の5分○✕ドリルの「会社法」で続けて解けます。

まとめ

  • 新株予約権は、会社に行使すると株式を受け取れる権利(2条21号)。お金は「取得時の払込金額」と「行使時の出資」の2段階。
  • 決める機関は、非公開会社は株主総会の特別決議、公開会社は取締役会(特に有利なときは株主総会)。公開会社の通知は割当日の2週間前まで。
  • 割当日に新株予約権者、行使した日に株主。取得時の払込みは承諾で相殺可、行使時の出資は相殺不可。
  • 差止めは「株主が不利益を受けるおそれ」(247条)。無効の訴えは6か月(非公開会社は1年)、新株予約権者も原告になれる。
  • 株主総会が付けた重要な行使条件に反した行使による株式の発行は無効原因(平成24年判決)。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)

条文は、e-Gov法令検索で令和8年4月1日時点の法令を確かめました。判例は、裁判所ウェブサイトで裁判年月日・法廷・事件番号・判示事項・裁判要旨を確かめました。

このサイトで次に読むなら、会社法の一問一答です。設立・株式・機関の○✕20問で、この記事の決める機関の違いを、ほかの論点と混ぜて確かめられます。

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