設立無効の訴えと会社の不成立:2年の提訴期間・提訴権者・判決の効力、発起人が負う責任(会社法828条・839条・52条〜56条)

ひとことで言うと、会社の設立の手続に重大な欠陥があっても、その無効は、会社の成立の日から2年以内に、訴えによってしか主張できません(会社法828条1項1号)。訴えられるのは株主・取締役・清算人など(同条2項1号)、被告は会社です(834条1号)。無効の判決が確定すると、その効力は第三者にも及び(838条)、設立は将来に向かって効力を失います(839条)。

これと別の場面が、設立の登記まで行き着かずに会社が生まれなかった「会社の不成立」です。このときは、発起人が連帯して、設立に関してした行為の責任を負い、設立の費用を負担します(56条)。条文は、令和8年度の行政書士試験の基準日(令和8年4月1日)時点のものを e-Gov 法令検索で確かめました。

この記事は、設立無効の訴えの要件と判決の効力、持分会社の設立取消しの訴えとの違い、発起人の責任の条文を扱います。設立の手続の流れは株式会社の設立の記事、仮装払込みの責任は定款の記載事項と出資の仮装の記事に任せます。

身近な例で考えると

舞台は、発起設立でつくられた架空の「みなと製作所株式会社」(監査役設置会社)です。

人物・会社立場この話での役
かなさん・たくみさん発起人みなと製作所をつくった
えいたさん株主設立の欠陥に気づいた
つばさ商事取引先(債権者)みなと製作所に売掛金がある
  1. みなと製作所は、本店の所在地で設立の登記をして成立した(49条)。
  2. 成立から1年後、株主のえいたさんは、設立の手続に、法律で欠かせない手続の重大な欠陥があったことに気づいた。
  3. えいたさんは、成立の日から2年以内に、会社を被告として、本店の所在地を管轄する地方裁判所に設立無効の訴えを起こした(828条・834条・835条)。
  4. 無効の判決が確定した。設立は将来に向かって効力を失う。みなと製作所がそれまでにつばさ商事とした取引は、さかのぼって無効にはならない(839条)。

たとえるなら、設立無効の訴えは「動き出した会社を、期限内に、決まった窓口でだけ止められる仕組み」です。だれでもいつでも「この会社は無効だ」と言えると、会社と取引した人が困るからです。ただし本物のルールでは、止めるといっても過去にさかのぼって消すのではなく、判決のあとから効力を失わせるだけです。

条文ではこう決まっている

設立無効の訴え(828条・834条〜839条・846条)

  • 主張のしかたと期間(828条1項1号):会社の設立の無効は、会社の成立の日から2年以内に、訴えをもってのみ主張できる。株式会社にも持分会社にも使います。
  • 訴えられる人(828条2項1号):株式会社では「株主等」=株主・取締役・清算人。監査役設置会社では監査役も、指名委員会等設置会社では執行役も加わる。持分会社では社員・清算人。
  • 被告と管轄(834条1号・835条1項):被告は設立する会社。訴えは、会社の本店の所在地を管轄する地方裁判所の専属。
  • 担保(836条1項):株主が起こしたときは、被告の申立てにより、裁判所が株主に相当の担保を立てるよう命じることができる。株主が取締役・監査役・執行役・清算人のときは除く。
  • 判決の効力(838条・839条):請求を認める確定判決は、第三者に対しても効力を持つ。設立を無効とする判決が確定すると、その設立は将来に向かって効力を失う。
  • 負けた原告の責任(846条):原告が敗訴し、原告に悪意または重大な過失があったときは、被告に対し、連帯して損害を賠償する責任を負う。

会社法は、どんな欠陥が無効の原因になるかを条文で並べていません。たとえば定款は公証人の認証を受けなければ効力を生じないので(30条1項)、設立の手続の中で欠かせない手続です。一方、発起人は、会社の成立後は、錯誤・詐欺・強迫を理由に設立時発行株式の引受けを取り消せません(51条2項)。成立した後は、発起人の意思表示の問題を理由に、引受けを取り消すことはできない、ということです。

持分会社の設立取消しの訴え(832条)

  • 社員が民法などの規定で設立に関する意思表示を取り消せるとき:その社員が訴えられる(1号)。
  • 社員が債権者を害することを知って持分会社を設立したとき:その債権者が訴えられる(2号)。
  • どちらも、持分会社の成立の日から2年以内に、訴えで請求する。株式会社には、この取消しの訴えはありません。

無効・取消し・不成立を表で比べる

比べる点設立無効の訴え設立取消しの訴え会社の不成立
条文828条1項1号832条56条
使える会社株式会社・持分会社持分会社だけ株式会社
どんなとき設立の手続の重大な欠陥社員の意思表示の取消し、債権者を害する設立設立の登記まで至らない
だれが株主・取締役・清算人などその社員、害された債権者責任を負うのは発起人
期間・効力成立の日から2年。将来に向かって失効成立の日から2年。将来に向かって失効訴えの制度ではない

839条は、設立無効の訴え(834条1号)と、持分会社の設立取消しの訴え(834条18号・19号)の両方に「将来に向かって効力を失う」を当てています。設立取消しの訴えの被告は持分会社で、832条2号の訴えでは、債権者を害することを知って設立した社員も被告になります(834条19号)。

発起人などが負う責任を表で見る

条文責任を負う人中身
52条発起人・設立時取締役現物出資財産などの価額が定款の価額に著しく足りないとき、連帯して不足額を支払う
53条1項発起人・設立時取締役・設立時監査役設立について任務を怠ったとき、会社に損害賠償
53条2項同じ職務に悪意・重大な過失があったとき、第三者に損害賠償
56条発起人だけ会社が成立しなかったとき、連帯して行為の責任と設立の費用
  • 52条の不足額の義務は、検査役の調査を経た場合か、注意を怠らなかったことを証明した場合には負わない。ただし、現物出資の財産を給付した発起人と、財産引受けの財産を譲り渡した発起人は、この2つの場合でも免れない(2項かっこ書)。募集設立では、注意を怠らなかったことの証明では免れない(103条1項)。
  • 同じ損害について責任を負う人が複数いるときは、連帯債務者になる(54条)。52条1項・53条1項などの責任は、総株主の同意がなければ免除できない(55条)。
  • 募集設立で、募集の広告などに自分の名前と設立を賛助する旨を載せることを承諾した人は、発起人とみなされる(103条4項)。

当てはまる例・当てはまらない例

  • 当てはまる例:みなと製作所の取締役が、成立の日から1年6か月後に、設立無効の訴えを起こした。取締役は訴えられる人に入り、2年以内なので間に合います(828条1項1号・2項1号)。
  • 当てはまらない例:取引先のつばさ商事が、債権者として株式会社であるみなと製作所の設立無効の訴えを起こした。株式会社の設立無効の訴えで訴えられるのは株主等で、債権者は入っていません。
  • 当てはまらない例:成立の日から3年後に、株主のえいたさんが設立の無効を主張した。2年を過ぎているので、訴えを起こせません。訴えの外で「無効だ」と言うこともできません(訴えをもってのみ主張できる)。
  • ひっかけやすい例:設立の手続の途中で発起人どうしが対立し、設立の登記をしないまま計画が止まった。これは設立無効ではなく会社の不成立で、訴えの問題ではありません。発起人が連帯して責任を負い、費用を負担します(56条)。

似ているルールとの違い:ほかの会社の組織に関する訴え

828条は、設立のほかに、新株の発行・合併・会社分割などの無効の訴えも定めています。期間と起算点は訴えごとに違い、設立は「会社の成立の日から2年以内」です。新株発行の無効の訴えは募集株式の発行の記事、株主総会の決議を争う訴えは決議取消しの訴えの記事にあります。判決が第三者に及ぶ(838条)、という点はどれも共通です。

試験ではここをまちがえやすい

  • 期間と起算点:会社の成立の日から2年。「知った日から」と起算点を入れ替える形や、ほかの無効の訴えの期間と入れ替える形に注意します。
  • 訴えられる人:株式会社では株主・取締役・清算人(監査役設置会社は監査役、指名委員会等設置会社は執行役も)。債権者が訴えられるのは、持分会社の設立取消しの訴え(832条2号)。
  • 判決の効力:第三者にも及ぶ(838条)が、さかのぼらず、将来に向かって効力を失う(839条)。
  • 負けた原告の責任:悪意または重大な過失があったときだけ(846条)。ただの過失では負わない。
  • 不成立の責任の主体:56条は発起人だけ。設立時取締役まで広げる形は、52条・53条の範囲と取り違えています。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題)
監査役設置会社であるみなと製作所の設立の手続に、重大な欠陥があった。みなと製作所の監査役れんさんは、株主でも取締役でもないので、会社の成立の日から2年以内であっても、設立無効の訴えを起こすことはできない。

答え:✕ 分かれ目は、訴えを起こせる人の範囲です。828条2項1号は、株式会社の設立無効の訴えを起こせる人を「株主等」とし、株主・取締役・清算人のほか、監査役設置会社では監査役、指名委員会等設置会社では執行役を加えています。正しくは、監査役のれんさんも、成立の日から2年以内なら起こせます。監査役を置かない会社の「株主・取締役・清算人」だけを覚えていると取り違えます。反対に、株式会社の債権者は入っていません。債権者が訴えられるのは、持分会社の設立取消しの訴え(832条2号)の場面です。

問2(このサイトのオリジナル問題)
みなと製作所の設立を無効とする判決が確定した。この場合でも、判決の確定前にみなと製作所がつばさ商事と結んだ売買が、設立が無効だったことを理由にさかのぼって効力を失うことはない。

答え:○ 分かれ目は、無効の判決がさかのぼるかです。839条は、設立無効の訴えなどの請求を認める判決が確定したときは、無効とされた行為(会社が設立された場合はその設立を含む)は「将来に向かってその効力を失う」としています。民法の無効のように、はじめから効力がなかったことになる、と考えると✕にしてしまいます。判決が当事者以外にも及ぶこと(838条)とあわせて、取引の相手を守る仕組みです。

問3(このサイトのオリジナル問題)
みなと製作所の株主えいたさんが設立無効の訴えを起こしたが、敗訴した。えいたさんに過失があったときは、えいたさんは、みなと製作所に対し、訴えによって生じた損害を賠償する責任を負う。

答え:✕ 分かれ目は、敗訴した原告が責任を負う程度です。846条は、会社の組織に関する訴えを起こした原告が敗訴した場合に、原告に「悪意又は重大な過失があったとき」に被告への損害賠償の責任を負わせています。正しくは、ただの過失では責任を負いません。不法行為の一般の要件(709条の「故意又は過失」)と同じに考えた取り違えです。株主が起こした訴えでは、被告の申立てで裁判所が担保を立てるよう命じることもできます(836条1項)。

この分野の○✕は、行政書士の5分○✕ドリルの「会社法」で続けて解けます。

まとめ

  • 設立の無効は、会社の成立の日から2年以内に、訴えをもってのみ主張できる(828条1項1号)。
  • 訴えられるのは株主・取締役・清算人(監査役・執行役が加わる会社あり)。被告は会社。管轄は本店所在地の地方裁判所。
  • 判決は第三者にも及び(838条)、設立は将来に向かって効力を失う(839条)。負けた原告は悪意・重過失のときだけ賠償責任(846条)。
  • 持分会社には設立取消しの訴えもある(832条。債権者が訴えられる場合あり)。
  • 会社が成立しなかったときは、発起人だけが連帯して責任を負い、費用を負担する(56条)。

このサイトで次に読むなら、株式会社の設立の記事です。どの手続が欠けると問題になるのかを、発起設立と募集設立の流れの中で確かめられます。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 ※ が付いている欄は必須項目です