立憲主義と法の支配:法治主義との違い、日本国憲法のどの条文に表れているか

ひとことで言うと、立憲主義(りっけんしゅぎ)は「憲法で国家の権力を縛り、人権を守る」という考え方です。法の支配は「権力を持つ人も、人権を守る正しい法に従わなければならない」という考え方です。法治主義は「行政は法律に従って行う」という考え方で、法律の形式さえ整っていれば中身を問わない形(形式的法治主義)と、中身の正しさも問う形(実質的法治主義)に分けて説明されます。

3つの違いは「法律の中身まで問うか」と「多数決でも決めてはいけないことがあるか」で見分けられます。日本国憲法では、97条(人権は永久の権利)、98条1項(憲法は最高法規)、99条(公務員の憲法尊重擁護義務)、81条(違憲審査)、31条(適正な手続)に、これらの考え方が表れていると説明されます。この記事は、基礎法学と憲法の総論の論点として、言葉の意味と条文の対応だけを扱います。政治の議論や評価、学者の名前には触れません。行政法の「法律による行政の原理」は法律による行政の原理の記事に任せます。条文は令和8年4月1日時点のものを e-Gov 法令検索で確かめました。

身近な例で考えると

舞台は、架空の「みどり中学校」の生徒会です。生徒会には、何でも決められる「生徒総会」と、最初に全員で決めた「生徒会規約」があります。規約には「だれでも意見を言う自由があり、生徒総会でもこれを奪えない」と書いてあります。

人物立場この話での役
そうたさん生徒会長生徒総会の決定を実行する
あかりさん生徒総会の決定に反対している
規約委員会規約を守るための係決定が規約に合うか判断する
  1. 生徒総会は、多数決で「あかりさんは、これから学級会で発言してはいけない」と決めた。
  2. 決め方の手続(出席の数、多数決)は正しく守られていた。
  3. あかりさんは、規約委員会に「この決定は規約に反する」と申し出た。
  4. 規約委員会は、「手続が正しくても、規約が守る自由を奪う決定は効力がない」と判断した。生徒会長のそうたさんも、規約に従わなければならない。

「多数で決めても奪えないものを、最初の決まりで守る」のが立憲主義の発想です。「生徒会長も規約委員会も、中身の正しい決まりに従う」のが法の支配の発想です。もし規約に「総会が決めたことには全員が従う」としか書いていなければ、手続さえ守れば中身は問われません。これが形式的法治主義に近い形です。ただし本物の憲法では、守る中身(人権)や、判断する機関(裁判所)、その権限の範囲が条文で細かく決まっていて、生徒会の規約のように簡単ではありません。

3つの考え方はどう説明されるか

  • 立憲主義:憲法によって国家権力の行使のしかたを決め、国家権力を制限して、国民の人権を守る考え方として説明されます。衆議院憲法審査会事務局の資料(衆憲資第91号、平成28年11月)は、立憲的意味の憲法の基本価値を「個人の尊厳」とし、それを護るために人権保障と権力分立を定めた、と整理しています。
  • 法の支配:イギリスで発達した考え方として説明されます。同じ資料は、法の支配を「人の支配」に対する概念とし、人による恣意的な支配を排除して、あらかじめ定められた法に基づく支配によって自由を確保することを目的とする、と整理しています。ここでいう「法」は人権を守る中身の正しい法だと説明する本が多い一方、同じ資料は、法の一般性・明確性などの形式的な特性を中心に考える見方も紹介しています。
  • 形式的法治主義:19世紀のドイツで発達した考え方として説明されます。行政は議会の作った法律に従って行うことを求めるが、法律の中身が正しいかどうかは問わない。同じ資料も、ドイツでは「法律に基づく行政」が法律の内容を問わないものと理解されるようになり、権利を制約する法律でも行政がそれに従う限り「法治国家」があるとされた(形式的法治国家)と整理しています。
  • 実質的法治主義:法律の中身の正しさも問う考え方。第二次世界大戦後のドイツでとられるようになり、法の支配との違いは小さくなったと説明されます。

憲法の教科書では、法の支配の中身として、たとえば「憲法が法律より上にあること(最高法規性)」「権力でも侵せない人権」「法の中身と手続が公正であること(適正手続)」「権力の勝手な行使を裁判所が抑える役割」が挙げられます。どの説明を中心にするかは本によって違いがあるので、試験では、言葉の意味の大きな違い(法律の中身を問うかどうか)をまず押さえます。

条文ではこう決まっている

日本国憲法には「立憲主義」「法の支配」という言葉そのものは出てきません。考え方が表れていると説明される条文は次のとおりです。

  • 97条(第10章「最高法規」の最初の条):憲法が保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果で、現在と将来の国民に「侵すことのできない永久の権利として信託されたもの」。
  • 98条1項:憲法は国の最高法規で、その条規に反する法律・命令・詔勅・国務に関するその他の行為の全部または一部は、効力を有しない。
  • 99条:天皇または摂政、国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、憲法を尊重し擁護する義務を負う。権力を使う側に義務を課している点が、立憲主義と結びつけて説明されます。
  • 81条:最高裁判所は、一切の法律・命令・規則・処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を持つ終審裁判所。議会の作った法律も裁判所が憲法に照らして判断できる点が、法の支配と結びつけて説明されます。判例は、下級裁判所の裁判官も、具体的な事件で法令を適用するときに、その法令が憲法に適合するかどうかを判断できるとしています(最高裁判所大法廷 昭和25年2月1日判決)。違憲審査のしくみは違憲審査の記事で扱っています。
  • 31条:何人も、法律の定める手続によらなければ、生命・自由を奪われ、その他の刑罰を科せられない。手続の公正を求める点が、法の支配の「適正手続」と結びつけられます。くわしくは人身の自由と刑事手続の記事にあります。
  • 96条:憲法の改正には、各議院の総議員の3分の2以上の賛成による国会の発議と、国民投票での承認が要る。法律より改正しにくい憲法(硬性憲法)にしている点も、最高法規性を支えると説明されます。
  • 12条:憲法が保障する自由と権利は、国民の不断の努力によって保持しなければならない。99条が国民を名あて人にしていないのと並べて押さえます。

憲法と法律はどう違うか(96条・98条・99条)

上の条文から、憲法と法律の違いを3行で並べます。

比べる点憲法法律
だれを縛るか権力を使う側(99条の尊重擁護義務は公務員などが負う)国民の権利・義務も定め、国民も従う
改正の手続各議院の総議員の3分の2以上で国会が発議し、国民投票で過半数の賛成(96条1項)両議院で可決したとき法律となる(59条1項)
効力の順位最高法規。反する法律などは効力を有しない(98条1項)憲法の下。条例は「法律の範囲内で」定める(94条)

法律より改正の手続が重いことと、反する法律の効力を認めないことの2つが、憲法が権力を縛るしくみを支えています。条例と法律の関係は条例と規則の記事で扱っています。

3つの考え方を表で比べる

考え方中身法律の中身を問うか表れている条文
立憲主義憲法で国家権力を縛り、人権を守る問う(憲法に反する法律は効力なし)97条・98条1項・99条
法の支配すべての権力が、正しい法に従う問う98条1項・81条・31条
形式的法治主義行政は議会の法律に従う問わない—
実質的法治主義法律の中身の正しさも求める問う法の支配に近づく

民主主義との違いは、「だれが決めるか」と「多数でも決めてはいけないことがあるか」です。民主主義は「国民が(代表者を通じて)決める」ことに重点があり、立憲主義は「国民の多数で決めても、憲法が守る人権は侵せない」ことに重点があります。日本国憲法には、国民主権(前文・1条)と、多数でも侵せない人権の保障(第3章・97条)の両方が定められています。

当てはまる例・当てはまらない例

  • 当てはまる例:国会が正しい手続で法律を作っても、その一部が憲法に反するなら、その部分は効力を有しません(98条1項「全部又は一部」)。手続だけでなく中身が問われる点で、立憲主義・法の支配の考え方です。
  • 当てはまる例:裁判所が、具体的な事件の裁判の中で、国会の作った法律の規定を憲法に反すると判断する(81条)。議会の多数の判断にも、憲法による歯止めがかかります。
  • 当てはまらない例:「議会が作った法律なら、どんな中身でも従うべきだ」という説明。法律の中身を問わないので、法の支配ではなく形式的法治主義の説明です。
  • ひっかけやすい例:「法の支配」を「法律の支配」と言い換えた説明。法の支配の「法」は、議会が作った法律なら何でもよいという意味ではなく、人権を守る正しい法を指します。
  • ひっかけやすい例:「99条で、国民も憲法を尊重し擁護する義務を負う」という説明。99条の名あて人は天皇・摂政・国務大臣・国会議員・裁判官その他の公務員で、国民は挙がっていません。国民については12条が、自由と権利を不断の努力で保持するよう定めています。

試験ではここをまちがえやすい

  • 法の支配と形式的法治主義の入れ替え:中身を問うのが法の支配、問わないのが形式的法治主義。生まれた国(イギリス/ドイツ)も対にして覚えます。
  • 実質的法治主義の位置:法治主義でも、中身の正しさを問う実質的法治主義は、法の支配に近い考え方として説明されます。「法治主義は常に中身を問わない」とする説明は、形式的法治主義だけの話です。
  • 立憲主義と民主主義の混同:多数決で決めること(民主主義)と、多数決でも侵せないものを憲法で守ること(立憲主義)は別の話です。
  • 条文の番号と中身:最高法規は98条1項、人権の永久性は97条、憲法尊重擁護義務は99条、違憲審査は81条。97条〜99条は第10章「最高法規」にまとまっています。
  • 99条の名あて人:権力を使う側(天皇・摂政・国務大臣・国会議員・裁判官その他の公務員)。国民は入っていません。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題)
地方裁判所が、具体的な事件の裁判の中で、適用する法律の規定が憲法に適合するかどうかを判断することは、憲法81条が最高裁判所を「終審裁判所」と定めていても妨げられないとするのが判例である。

答え:○ 分かれ目は、81条が下級裁判所の違憲審査を否定しているかどうかです。最高裁判所大法廷昭和25年2月1日判決は、憲法が最高法規であること(98条1項)、裁判官が憲法と法律に拘束され(76条3項)、憲法を尊重し擁護する義務を負うこと(99条)を挙げ、具体的な事件で法令を適用するときにその憲法適合性を判断するのは、最高裁判所の裁判官でも下級裁判所の裁判官でも同じだとしました。81条は、最高裁判所が違憲審査の終審裁判所であることを定めたもので、下級裁判所の違憲審査権を否定する趣旨ではない、という理由です。「終審」の語から、違憲審査は最高裁判所だけの権限だと考えると✕に見えます。「終審」は最後に判断する裁判所という意味で、ほかの裁判所が判断できないという意味ではありません。

問2(このサイトのオリジナル問題)
日本国憲法は、99条で天皇・摂政・国務大臣・国会議員・裁判官その他の公務員に憲法を尊重し擁護する義務を負わせ、12条で、国民にも同じく憲法を尊重し擁護する義務を負わせている。

答え:✕ 分かれ目は、12条が国民に何を求めているかです。99条が憲法尊重擁護義務を負わせているのは「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員」で、国民は挙がっていません。正しくは、12条は、憲法が保障する自由と権利を国民の不断の努力によって保持しなければならないこと、国民はこれを濫用してはならず、常に公共の福祉のために利用する責任を負うことを定めた条文で、憲法尊重擁護義務の規定ではありません。権力を使う側に義務を課す99条と、権利を持つ国民の側の責任を定めた12条を、同じ義務の条文として並べた形です。国民の義務として憲法が明記しているのは、子に普通教育を受けさせる義務(26条2項)・勤労(27条1項)・納税(30条)です。

問3(このサイトのオリジナル問題)
国会が正規の手続で可決した法律Xのうち、ある条の規定だけが憲法の条規に反する。この場合、憲法98条1項によって効力を有しないのはその規定の部分であり、法律Xのほかの規定まで当然に効力を失うわけではない。

答え:○ 分かれ目は、98条1項の「全部又は一部」です。98条1項は、憲法の条規に反する法律・命令・詔勅・国務に関するその他の行為の「全部又は一部」は効力を有しないとしています。憲法に反するのが法律の一部なら、効力が否定されるのはその部分で、正規の手続で可決されたことはこの結論を変えません。「憲法に反する法律は無効」とだけ覚えて、法律全体が効力を失うと考えると✕に見えます。なお、条約と確立された国際法規は1項の列挙になく、同条2項が誠実に遵守することを求めています。

この分野の○✕は、行政書士の5分○✕ドリルの「憲法」で続けて解けます。

まとめ

  • 立憲主義:憲法で国家権力を縛り、人権を守る。法の支配:すべての権力が中身の正しい法に従う。
  • 形式的法治主義は法律の形式だけを求め、中身を問わない。実質的法治主義は中身も問い、法の支配に近い。
  • 民主主義は「だれが決めるか」、立憲主義は「多数でも決めてはいけないこと」。
  • 条文:97条(人権の永久性)、98条1項(最高法規)、99条(公務員の憲法尊重擁護義務。国民は入らない)、81条(違憲審査)、31条(適正手続)。

このサイトで次に読むなら、基礎法学の記事です。基礎法学の2問で、どこまでを押さえるかの線引きが分かります。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)

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