ひとことで言うと、合憲限定解釈は、法律や条例の規定を文字どおりに読むと憲法に反する疑いがあるときに、規定の意味を狭く(限定して)読み、その範囲でなら憲法に反しない、とするやり方です。都教組事件の判決(最高裁判所大法廷 昭和44年4月2日判決)は、「法律の規定は、可能なかぎり、憲法の精神にそくし、これと調和しうるよう、合理的に解釈されるべきもの」と述べ、この考え方を示しました。広島市暴走族追放条例事件の判決(最高裁判所第三小法廷 平成19年9月18日判決)も、条例の規定を限定して読み、憲法21条1項・31条に違反しないとしています。
「合憲限定解釈」と、都教組事件について使われる「二重の絞り(しぼり)」は、法律の条文の言葉ではなく、教科書が裁判所の解釈のしかたを呼ぶ言葉です(判決の中にもこの言い方はありません)。この記事では、3つの判決が何を限定したか、その後の判例の変更、限定解釈が許される条件(税関検査事件)を判決の言葉で確かめます。違憲判決の一覧は違憲判決の一覧の記事に任せます。条文は、令和8年4月1日時点の内容を e-Gov 法令検索で確かめています。
身近な例で考えると
| 人物・機関 | 立場 | したこと |
|---|---|---|
| A市 | 条例を作った市 | 「公園で、他人に迷惑を及ぼすおそれのある集会をしてはならない」と定め、罰則を付けた |
| ゆうとさん | 市民 | 公園で友人と読書会を開き、罰則を科されそうになった |
- A市の条例は「迷惑を及ぼすおそれのある集会」を禁じている(この例は説明のための仮のもの)。
- 文字どおりに読むと、静かな読書会まで禁止され得る。集会の自由(21条1項)を広く制限しすぎる疑いがある。
- 裁判所は、条例を「違憲で無効」とする代わりに、「禁じられるのは、たとえば公園の利用を実際に妨げるような集会に限る」と狭く読むことで、条例を合憲とする道をとる。
- 狭く読んだ条例に、ゆうとさんの読書会が当たらなければ、ゆうとさんは罰せられない。当たれば、条例は合憲のまま適用される。
ポイントは、合憲限定解釈では規定そのものは合憲として残り、その事件の人が罰せられるかは「狭く読んだ範囲に当たるか」で決まることです。都教組事件では被告人が無罪になり、広島市の事件では有罪が維持されました。どちらも規定は合憲とされています。
条文ではこう決まっている
- 憲法81条:最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である。
- 憲法28条:勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する。
- 憲法21条1項:集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。31条:何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。
- 地方公務員法37条1項:職員は争議行為などをしてはならない。また、何人も、このような違法な行為を企て、又はその遂行を共謀し、そそのかし、若しくはあおってはならない。
- 地方公務員法61条4号:37条1項前段の違法な行為の遂行を共謀し、唆し、若しくはあおり、又はこれらの行為を企てた者は、3年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金(令和7年6月1日施行の改正で「懲役」から「拘禁刑」に変わった)。
合憲限定解釈を定めた条文はありません。81条の違憲審査の中で、裁判所が規定の意味を決めるときのやり方の一つです。地方公務員法37条1項・61条4号は都教組事件で争われた規定で、今も同じ番号で残っています。
3つの判決は何を限定したか
| 判決 | 限定したもの | 結論 |
|---|---|---|
| 全逓東京中郵事件(昭和41年10月26日 大法廷) | 争議行為の禁止に違反したときの刑事罰が及ぶ範囲 | 規定は合憲。刑事罰は正当性の限界をこえる場合など。破棄差戻し |
| 都教組事件(昭和44年4月2日 大法廷) | 処罰される争議行為とあおり行為(どちらも違法性の強いもの) | 規定は合憲。被告人は無罪 |
| 広島市暴走族追放条例事件(平成19年9月18日 第三小法廷) | 条例の規制の対象になる集団・集会 | 規定は合憲。上告棄却 |
全逓東京中郵事件(最高裁判所大法廷 昭和41年10月26日判決、昭和39年(あ)第296号)
当時の公共企業体等労働関係法(公労法)17条1項が禁じていた争議行為をめぐり、郵便法違反の教唆が問われた刑事事件で、一般に「全逓東京中郵事件」と呼ばれます。判決は、国家公務員や地方公務員も「憲法二八条にいう勤労者にほかならない以上、原則的には、その保障を受けるべきもの」とし、制限は「合理性の認められる必要最小限度のものにとどめなければならない」と述べました。さらに、争議行為に刑事制裁を科すことは「必要やむを得ない場合に限られるべき」としています。
そのうえで判決は、公労法17条1項は憲法28条などに違反しないとしつつ(裁判要旨一)、17条1項に違反してなされた争議行為にも、労働組合法1条2項(正当な争議行為を罰しない規定)の適用がある、としました(裁判要旨二)。刑事制裁を免れないのは、政治的目的のために行われた場合、暴力を伴う場合、社会の通念に照らして不当に長期に及ぶときのように国民生活に重大な障害をもたらす場合など、争議行為としての正当性の限界をこえるときだ、としています。結果は破棄差戻しです。
都教組事件(最高裁判所大法廷 昭和44年4月2日判決、昭和41年(あ)第401号)
地方公務員である教職員の争議行為について、あおり行為などをしたとして地方公務員法違反に問われた刑事事件で、一般に「都教組事件」と呼ばれます。判決は、37条・61条4号が「文字どおりに、すべての地方公務員の一切の争議行為を禁止し」、あおり行為などを「すべて処罰する趣旨と解すべきものとすれば」、必要やむをえない限度をこえて争議行為を禁止し、刑罰の対象としているものとして「違憲の疑を免れないであろう」と述べました。しかし、規定の「表現にのみ拘泥して、直ちに違憲と断定する見解は採ることができない」としています。
判決の限定は2段です。1つめに、61条4号は「争議行為自体が違法性の強いものであることを前提とし」ている。2つめに、あおり行為などにも違法性の強弱があり、「争議行為に通常随伴して行なわれる行為のごときは、処罰の対象とされるべきものではない」。教科書は、この2段の限定を「二重の絞り」と呼びます。この事件では、被告人らの行為は処罰の対象に当たらないとされ、被告人らは無罪になりました(主文「被告人らはいずれも無罪」)。37条は28条に、61条4号は28条・31条・18条に違反しない、というのが裁判要旨一です。
広島市暴走族追放条例事件(最高裁判所第三小法廷 平成19年9月18日判決、平成17年(あ)第1819号)
市の条例にもとづく中止・退去命令に違反したとして起訴された刑事事件で、一般に「広島市暴走族追放条例事件」と呼ばれます。判決は、条例の規定は「規定の仕方が適切ではなく」、文言どおりに適用されると、社会通念上の暴走族以外の集団が含まれる文言になっていることを認めました。そのうえで、規制の対象となる集団は、本来的な意味における暴走族のほかは、「服装,旗,言動などにおいてこのような暴走族に類似し社会通念上これと同視することができる集団に限られる」と解し、市長の中止・退去命令の対象も、そうした集団による集会が条例所定の場所・態様で行われている場合に限られる、としました。
このように限定して読んだうえで、判決は、規制目的の正当性、弊害防止手段としての合理性、この規制で得られる利益と失われる利益との均衡の観点に照らし、「いまだ憲法21条1項,31条に違反するとまではいえない」としました(猿払事件・成田新法事件の大法廷判決の趣旨を引いています)。結果は上告棄却です。
この判決には、補足意見が2つ、反対意見が2つ付いています(法廷意見とは別のもの)。反対意見の1つは、「法令の文言とりわけ定義規定の強引な解釈を行ってまで法令の合憲性を救うことが果たして適切であるか」に疑問を示しました。
その後、公務員の判例はどう変わったか
全逓東京中郵事件と都教組事件の限定は、その後の大法廷判決で変更されました。
- 都教組事件 → 最高裁判所大法廷 昭和51年5月21日判決(昭和44年(あ)第1275号。一般に「岩教組学テ事件」と呼ばれる)は、地方公務員法61条4号について、争議行為に違法性の強いものと弱いものとを区別して前者だけが当たるとする解釈を採らず、都教組事件の判決は「上記判示と抵触する限度において、変更すべきものである」としました。
- 全逓東京中郵事件 → 最高裁判所大法廷 昭和52年5月4日判決(昭和44年(あ)第2571号。一般に「全逓名古屋中郵事件」と呼ばれる)は、公労法17条1項違反の争議行為にも労働組合法1条2項の適用があり、原則としてその刑事法上の違法性が阻却されるとした点において、全逓東京中郵事件の判決は「変更を免れない」としました。
- 国家公務員については、全農林警職法事件(最高裁判所大法廷 昭和48年4月25日判決)が、当時の国家公務員法の争議行為の禁止とあおり行為などの処罰の規定を合憲としました。中身は社会権の記事の「公務員の労働基本権」で確かめられます。
変更されたのは公務員の争議行為についての限定の中身で、合憲限定解釈というやり方そのものではありません。平成19年の広島市の事件の判決がその例です。
限定解釈が許されるのはどんなときか(税関検査事件)
言葉を狭く読めば何でも合憲にできるわけではありません。最高裁判所大法廷 昭和59年12月12日判決(昭和57年(行ツ)第156号。一般に「札幌税関検査事件」と呼ばれる)は、表現の自由を規制する法律の規定について限定解釈をすることが許される条件を示しました(裁判要旨六)。
- その解釈により、規制の対象となるものとそうでないものとが明確に区別され、かつ、合憲的に規制しうるもののみが規制の対象となることが明らかにされる場合であること。
- 一般国民の理解において、具体的場合に当該表現物が規制の対象となるかどうかの判断を可能ならしめるような基準を、その規定から読みとることができること。
2つめの条件は、裁判所が狭く読めるだけでは足りず、ふつうの人が規定から「対象になる・ならない」を判断できることを求めるものです。判決はこれに照らし、関税定率法(当時)の「風俗を害すべき書籍、図画」等は猥褻(わいせつ)な書籍・図画等を指すと解すべきで、広汎または不明確のゆえに21条1項に違反しない、としました(裁判要旨七)。同じ判決の「検閲」の定義は表現の自由の記事で確かめられます。
似ているやり方との違い
| やり方(教科書の言葉) | 規定はどうなるか | この記事との関係 |
|---|---|---|
| 法令違憲 | 規定そのもの(またはその一部)が違憲とされる | 3つの判決はどれも当たらない |
| 適用違憲 | 規定は残し、その事件への当てはめを違憲とする | 3つの判決はどれも当たらない |
| 合憲限定解釈 | 規定を狭く読み、その範囲で合憲とする | 3つの判決はこれに当たる |
試験ではここをまちがえやすい
- 結論の向き:合憲限定解釈は「規定は合憲」。都教組事件で無罪になったのは、規定が違憲だからではなく、行為が処罰の範囲に当たらないから。
- 限定の中身:全逓東京中郵事件は刑事罰が及ぶ範囲、都教組事件は争議行為とあおり行為の両方(二重の絞り)、広島市の事件は規制の対象になる集団。
- 判例の変更:都教組事件は昭和51年、全逓東京中郵事件は昭和52年の大法廷判決で変更。全農林警職法事件(昭和48年)は国家公務員の事件。
- 許される条件:税関検査事件は、対象の明確な区別に加えて、一般国民が規定から判断の基準を読み取れることを求めた。
○✕でたしかめよう
問1(このサイトのオリジナル問題)
判例によれば、表現の自由を規制する法律の規定を限定して解釈することが許されるには、その解釈で規制の対象とそうでないものが明確に区別され、合憲的に規制しうるものだけが対象となることに加え、一般国民がその規定から判断の基準を読み取れることが求められる。
答え:○ 分かれ目は、限定解釈の条件が「裁判所が狭く読めること」だけか、です。最高裁判所大法廷昭和59年12月12日判決(税関検査事件)は、限定解釈が許されるのは、規制の対象となるものとそうでないものとが明確に区別され、合憲的に規制しうるもののみが対象となることが明らかにされる場合でなければならず、また、一般国民の理解において具体的場合に規制の対象となるかの判断を可能にする基準をその規定から読みとれるものでなければならない、としました。2つめの条件を知らないと、言い過ぎと見て✕にしてしまいます。裁判所が狭く読めることだけを条件と考えるのが、取り違えの型です。
問2(このサイトのオリジナル問題)
都教組事件の判決は、地方公務員法37条・61条4号を文字どおりに読むと違憲の疑いがあるとしたうえで、これらの規定を違憲・無効とし、そのために被告人らを無罪とした。
答え:✕ 分かれ目は、規定を違憲としたのか、狭く読んで合憲としたのかです。最高裁判所大法廷昭和44年4月2日判決は、文字どおりに解すれば違憲の疑いを免れないとしつつ、規定は可能なかぎり憲法の精神に即して合理的に解釈されるべきで、表現にのみ拘泥して直ちに違憲と断定する見解は採れないとしました。正しくは、37条は28条に、61条4号は28条・31条・18条に違反しないとし、被告人らの行為は処罰の対象に当たらないとして無罪にしました。合憲限定解釈を、法令違憲の判決と取り違えた肢です。
問3(このサイトのオリジナル問題)
広島市暴走族追放条例事件の判決は、条例の規定の仕方が適切でなく、文言どおりに適用されると社会通念上の暴走族以外の集団も含まれる文言となっていることを認めながら、規定を限定して解釈し、憲法21条1項・31条に違反しないとした。
答え:○ 分かれ目は、規定の仕方の不適切さを認めたことが、違憲の結論につながったかです。最高裁判所第三小法廷平成19年9月18日判決は、規定の仕方が適切ではないことを認めつつ、規制の対象を本来的な意味の暴走族と、服装・旗・言動などでこれに類似し社会通念上同視できる集団に限られると解し、規制目的の正当性、手段の合理性、利益の均衡の観点から、いまだ21条1項・31条に違反するとまではいえないとしました。規定が不適切と認めたなら違憲になる、と考えると✕にしてしまいます。限定解釈を行ってまで合憲性を救うことに疑問を示したのは、反対意見です。
この分野の○✕は、行政書士の5分○✕ドリルの「憲法」で続けて解けます。
まとめ
- 合憲限定解釈=違憲の疑いがある規定を狭く読み、その範囲で合憲とするやり方(教科書の言葉)。規定は合憲として残る。
- 全逓東京中郵事件(昭和41年)は刑事罰の範囲を、都教組事件(昭和44年)は争議行為とあおり行為の両方を限定(二重の絞り)。
- 2つの限定は、昭和51年・昭和52年の大法廷判決で変更された。
- 広島市暴走族追放条例事件(平成19年):規制の対象の集団を限定し、21条1項・31条に違反しないとした。
- 税関検査事件:限定解釈が許されるのは、対象が明確に区別され、一般国民が規定から基準を読み取れるとき。
参考にした公式の情報(2026年10月確認)
条文は、令和8年4月1日時点で施行されている内容を、e-Gov法令検索(法令API)で確かめました。判例は、裁判所ウェブサイトで裁判年月日・法廷・事件番号・判示事項・裁判要旨を確かめ、引用した理由の言葉と判例変更の言葉は判決全文で確かめました。
- e-Gov法令検索「日本国憲法」(21条1項、28条、31条、81条)
- e-Gov法令検索「地方公務員法」(37条1項、61条4号)
- 裁判所「最高裁判所大法廷 昭和41年10月26日判決(昭和39年(あ)第296号)」(郵便法違反教唆)
- 裁判所「最高裁判所大法廷 昭和44年4月2日判決(昭和41年(あ)第401号)」(地方公務員法違反)
- 裁判所「最高裁判所第三小法廷 平成19年9月18日判決(平成17年(あ)第1819号)」(広島市暴走族追放条例違反被告事件)
- 裁判所「最高裁判所大法廷 昭和51年5月21日判決(昭和44年(あ)第1275号)」(地方公務員法違反、道路交通法違反)
- 裁判所「最高裁判所大法廷 昭和52年5月4日判決(昭和44年(あ)第2571号)」(郵便法違反幇助、建造物侵入、公務執行妨害)
- 裁判所「最高裁判所大法廷 昭和59年12月12日判決(昭和57年(行ツ)第156号)」(輸入禁制品該当通知処分等取消)
- 裁判所「最高裁判所大法廷 昭和48年4月25日判決(昭和43年(あ)第2780号)」(国家公務員法違反)
このサイトで次に読むなら、公務員の人権の判例の記事です。広島市の事件の判決が引いた猿払事件の「規制目的の正当性・手段の合理性・利益の均衡」の判断を、堀越事件との違いとあわせて確かめられます。
働く人の法律試験ノート