行政書士試験の基礎法学は、法令等の最初に出る小さな科目です。法律全体に共通する基本の知識を問います。令和3年度の問題で当サイトが数えると2問で(公式の内訳ではありません)、令和7年度の配点では8点です。範囲の決まりがない科目なので、全部は追いません。①法令用語、②法の分類、③法の解釈、④裁判制度、⑤期間の数え方の5つに絞ります。
このうち法令用語・裁判制度・期間の数え方は、条文に書いてあります。だから、覚えた分が点になります。この記事では、それぞれを実際の条文と身近な例で説明します。どこで勉強を止めるかの基準も示します。
基礎法学は何問で、どこまでやればよいか
行政書士試験研究センター(以下「センター」)の試験概要では、法令等の科目は「憲法、行政法、民法、商法及び基礎法学」とされています。ただ、基礎法学の中身や問題数は示されていません。当サイトが令和3年度の問題冊子の並びを数えると、法令等の最初の2問が基礎法学の枠でした。なお、問題1は著作権の関係で、公開されているPDFに載っていません。そのため、前後の並びから基礎法学の枠として数えています。
8点は、300点満点の3%に足りません。一方で、出る可能性のある範囲は、法学の入門書1冊分もあります。時間の少ない社会人にとって大事なのは、ここで2問とも取ることではありません。かけた時間を、他の科目から奪いすぎないことです。当サイトでは、次の基準で深追いを止めることをすすめます。
- 条文で答えが決まるもの(法令用語、裁判所の種類と審級、期間の計算)は、この記事の範囲まで正確に覚える。
- 考え方の説明(法の分類、解釈の種類)は、用語の意味を一言で言えるところまで。学者の名前や学説の歴史は追わない。
- 過去の問題で見たことのない話題(法の歴史・外国の法・法の哲学など)が出たら、その場で消去法で解く問題と割り切る。
科目全体の中での重さは科目と配点の記事で確かめられます。
法令用語は条文の例で覚える
法令用語(法律の文章で決まった意味で使われる言葉)は、基礎法学の中でいちばん点にしやすいところです。しかも、行政法・民法の条文を正確に読む力にも、そのままつながります。代表的なものを、e-Gov法令検索で確かめた条文の例で並べます。
| 用語 | 使い分け | 条文の例 |
|---|---|---|
| 及び/並びに | 小さいつなぎが「及び」、大きいつなぎが「並びに」 | 憲法第7条第5号 |
| 又は/若しくは | 大きい選択が「又は」、小さい選択が「若しくは」 | 憲法第38条第2項 |
| 推定する | 反対の証明があれば覆る | 民法第772条第1項 |
| みなす | 反対の証明をしても覆らない | 民法第886条第1項 |
| 以上/超える | 「以上」はその数を含む、「超える」は含まない | 憲法第56条第1項、裁判所法第33条第1項第1号 |
| 善意/悪意 | ある事情を知らない/知っている | 民法第94条第2項 |
「及び」と「並びに」
どちらも「と」の意味で、ものを並べる言葉です。並べるものが1段階なら、「及び」だけを使います。裁判所法第2条第1項の「高等裁判所、地方裁判所、家庭裁判所及び簡易裁判所」がその形です。並べるものに大小2段階があるときは、使い分けます。小さいまとまりの中を「及び」でつなぎ、大きいまとまり同士を「並びに」でつなぎます。
身近な例でいうと、こうなります。「パン及び牛乳並びにノート及び鉛筆」は、〔パンと牛乳〕という食べ物の組と、〔ノートと鉛筆〕という文房具の組を並べた形です。(このサイトの説明用の例)
憲法第7条第5号は「国務大臣及び法律の定めるその他の官吏の任免並びに全権委任状及び大使及び公使の信任状を認証すること」です。官吏(かんり)は国の役人、任免(にんめん)は役職につけたりやめさせたりすることです。「並びに」で切ると、2つのまとまりに分かれます。〔国務大臣及び…官吏の任免〕と、〔全権委任状及び…信任状〕です。「並びに」はいちばん外側の区切り、と覚えると読み違えません。
「又は」と「若しくは」
どちらも「か」の意味で、どれかを選ぶ言葉です。選ぶものが1段階なら、「又は」だけです。2段階あるときは、大きい選択を「又は」、その中の小さい選択を「若しくは(もしくは)」にします。及び・並びにとは、大小の向きが逆になる点に注意してください。
憲法第38条第2項は「強制、拷問若しくは脅迫による自白又は不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白は、これを証拠とすることができない」です。抑留(よくりゅう)・拘禁(こうきん)は、どちらも身柄をとどめておくことです。「又は」で切ると、2つに分かれます。〔強制・拷問(ごうもん)・脅迫による自白〕と、〔不当に長く抑留・拘禁された後の自白〕です。それぞれの中が「若しくは」でつながっています。
「推定する」と「みなす」
民法第772条第1項は「妻が婚姻中に懐胎した子は、当該婚姻における夫の子と推定する」としています。懐胎(かいたい)は妊娠のことです。「推定する」は「ひとまずそう考える」という意味です。だから、反対の事実が証明されれば覆ります(嫡出(ちゃくしゅつ)の推定を否定する手続きが、民法に用意されています)。
民法第886条第1項は「胎児は、相続については、既に生まれたものとみなす」です。「みなす」は、事実と違っていても、法律上はそう扱うという意味です。反対の証明をしても覆りません。たとえば、ひろしさんが亡くなったとき、妻のおなかに赤ちゃんがいたとします。相続については、この赤ちゃんはもう生まれたものとして扱われます。ただし同条第2項で、胎児が死体で生まれたときは第1項を適用しないとされています。「みなす」を「推定する」に入れ替えた選択肢は、基礎法学でも民法でも出しやすい形です。
「以上・以下」と「超える・未満」
「以上」「以下」は、基準の数を含みます。「超える」「未満」は、含みません。憲法第56条第1項の「総議員の三分の一以上の出席」は、ちょうど3分の1でも足ります。裁判所法第33条第1項第1号の「訴訟の目的の価額が百四十万円を超えない請求」は、140万円ちょうどの請求を含みます(簡易裁判所の第一審の範囲です)。
たとえば、あおいさんが貸したお金140万円の返済を求めて裁判をするなら、簡易裁判所の第一審の範囲に入ります。141万円なら、「超えない」に当てはまらないので範囲から外れます。また「以内」も基準を含む言い方で、憲法第69条の「十日以内」がその例です。
「善意」と「悪意」
法律の「善意」は、ある事情を知らないことです。「悪意」は、知っていることです。性格の善し悪しとは関係ありません。民法第94条第2項は、通謀虚偽表示(つうぼうきょぎひょうじ。相手と示し合わせた嘘の意思表示。たとえば、うその売買)の無効を「善意の第三者に対抗することができない」としています。対抗できないとは、その人に向かって言い張れない、ということです。ここでの善意は、嘘だと知らなかった第三者という意味です。
たとえば、けんたさんが友人のりょうさんと示し合わせて、本当は売っていない土地を「売った」ことにしたとします。その後、りょうさんがその土地を、事情を知らないみさきさんに売りました。この場合、けんたさんはみさきさんに「あの売買は嘘だったから無効だ」と言い張れません。
法の分類は「何と何が対になるか」で覚える
法の分類は、対になる2つを一組で覚えます。条文で裏づけられるものは、条文と一緒に押さえます。
| 対 | 意味 | 条文との結びつき |
|---|---|---|
| 成文法/不文法 | 文章になった法/慣習法・判例など | 慣習の効力:法の適用に関する通則法第3条 |
| 一般法/特別法 | 広く適用される法/特定の場面の法 | 商法第1条第2項(商法→商慣習→民法) |
| 強行規定/任意規定 | 当事者の合意で変えられない/変えられる | 民法第91条 |
| 実体法/手続法 | 権利義務の中身/その実現の手続 | 民法と民事訴訟法など |
| 公法/私法 | 国と私人などの関係/私人同士の関係 | 憲法・行政法と民法・商法など |
法の適用に関する通則法第3条は、慣習(世の中で昔から続いているやり方)の効き目を定めています。公の秩序または善良の風俗(世の中の常識や道徳)に反しない慣習は、次のどちらかに限り「法律と同一の効力を有する」とされます。法令で認められたものか、法令に決まりがないことに関するものです。
商法第1条第2項は、商売の取引についての順番を定めています。まず商法に定めがあれば商法、なければ商慣習(商売の世界の慣習)に従い、それもなければ民法による、という順番です。特別法(商法)が一般法(民法)より先に使われる、という考え方が条文の形で表れている例です。
民法第91条は、当事者が「法令中の公の秩序に関しない規定と異なる意思を表示したときは、その意思に従う」としています。裏から読むと、公の秩序に関する規定(強行規定)は、当事者が合意しても変えられない、ということです。
法の解釈の種類は、自作の規則で区別する
解釈とは、法律の言葉の意味を決めることです。解釈の種類は、言葉の説明だけでは区別しにくいものです。そこで、一つの規則にあてはめて比べます。ここでは「公園に車を乗り入れてはならない」という自作の規則を使います(このサイトのオリジナルの例)。
- 文理解釈:言葉のふつうの意味どおりに読む。「車」は自動車を指す、と読む。
- 拡張解釈:言葉の意味を広げる。規則の目的が安全なら、「車」にオートバイも含める。
- 縮小解釈:言葉の意味をせばめる。救急車は「車」に含めない。
- 類推解釈:直接の定めがない似た場面に、同じ扱いをあてはめる。馬で乗り入れる場合にも、この規則のねらいをあてはめる。
- 反対解釈:定めがない場面は、反対の扱いになると読む。「車」と書いてあるので、歩いて入ることは禁じられていない。
- もちろん解釈:定めがない場面のほうが、もっと強く当てはまると読む。もし規則が「自転車を乗り入れてはならない」だったなら、より危険な自動車はもちろん禁止と読む。
拡張解釈と類推解釈には、違いがあります。拡張解釈は「言葉の意味の範囲の中で広げる」ことです。類推解釈は「言葉の意味の外にある場面にまで及ぼす」ことです。刑罰を定める法律では、被告人(罪を問われている人)に不利な類推解釈は許されない、と説明されます。罪刑法定主義(犯罪と刑罰は前もって法律で決めておくという原則)があるからです。拡張と類推の入れ替えは、選択肢で作りやすい誤りの形です。
裁判所の種類と審級は裁判所法で確かめる
裁判所は、最高裁判所と下級裁判所に分かれます。裁判所法第2条第1項で、下級裁判所は高等裁判所・地方裁判所・家庭裁判所・簡易裁判所の4種類です。審級(しんきゅう)とは、判決に不満なとき、上の裁判所でもう一度裁判を受けられる仕組みのことです。表の言葉を先に説明します。
- 第一審:最初の裁判。
- 控訴(こうそ):第一審の判決に不満なとき、上の裁判所に申し立てること。
- 上告(じょうこく):控訴審(第二審)の判決などに不満なとき、さらに上の裁判所に申し立てること。
- 抗告(こうこく):判決ではなく、裁判所の「決定」「命令」に不満なときの申し立て。
| 裁判所 | 主な役割 | 裁判所法 |
|---|---|---|
| 最高裁判所 | 上告、訴訟法で特に定める抗告 | 第7条 |
| 高等裁判所 | 控訴、抗告、一部の上告 | 第16条 |
| 地方裁判所 | 多くの第一審、簡裁判決(刑事を除く)への控訴 | 第24条 |
| 家庭裁判所 | 家事審判・調停、人事訴訟の第一審、少年保護事件 | 第31条の3 |
| 簡易裁判所 | 140万円を超えない請求などの第一審 | 第33条 |
取り違えやすいのは、次の4点です。
- 上告先は最高裁とは限らない。第16条第3号で、刑事を除き、次の上告は高等裁判所が扱います。地方裁判所の第二審判決と、簡易裁判所の判決に対する上告です。つまり簡裁から始まった民事事件は、控訴が地裁、上告が高裁になります。
- 違憲の判断は小法廷ではできない。第10条で、小法廷では裁判ができない場合が決まっています。法律などが憲法に合わないと認めるときや、前に最高裁がした裁判と違う解釈をするときなどです。大法廷は、全員の裁判官でつくります(第9条第2項)。最高裁判所判事は14人で(第5条第3項)、長官と合わせて15人です。小法廷は3人以上です。
- 一人で裁くか、合議(何人かで話し合って決めること)か。簡易裁判所は一人の裁判官です(第35条)。高等裁判所は原則3人の合議体です(第18条)。地方裁判所は原則一人で、法律で決められた事件は3人の合議体です(第26条)。
- 上の裁判所の判断が、下の裁判所をしばる範囲。第4条は、上級審の裁判所の判断は「その事件について」下級審を拘束するとしています。ほかの事件までしばるとは書いていません。
たとえば、あおいさんが簡易裁判所で140万円の返済を求める裁判をして、負けたとします。不満なら地方裁判所に控訴し、そこでも負けたら高等裁判所に上告します。最高裁ではない点が、ひっかけになりやすいところです。
大法廷・違憲審査の話は、憲法の司法の章とつながっています。判例の読み方とあわせて、憲法の勉強法の記事でも触れています。
期間の数え方は民法第138条〜第143条で決まる
期間の計算は、民法第138条〜第143条に従います(第138条)。ただし、法令や裁判所の命令、契約などに特別の定めがあれば、そちらが先です。条文の要点は次のとおりです。
- 時間で決めた期間は、その瞬間から数える(第139条)。
- 日・週・月・年で決めた期間は、最初の日を数えない。ただし、午前零時から始まるときは最初の日を数える(第140条)。
- 期間は、最後の日が終わったときに満了する(第141条)。
- 最後の日が日曜・祝日などの休日にあたるときは、翌日に満了する。ただし、その日に取引をしない慣習がある場合に限る(第142条)。
- 週・月・年で決めた期間は、カレンダーどおりに数える。最初から数えないときは、最後の週・月・年の「起算日に応当する日の前日」に満了する。起算日(数え始めの日)と同じ日付の、前の日ということです。月・年で決めた期間で、最後の月に同じ日付がないときは、その月の末日に満了する(第143条)。
自作の例であてはめてみます(このサイトのオリジナル問題)。
- 10月9日の午後3時に「今日から1か月」と期間を定めた。満了はいつか。→ 最初の日は数えないので、起算日は10月10日です。同じ日付は11月10日で、その前の日の11月9日の終わりに満了します。
- 平年の1月30日の昼に「今日から1か月」と定めた。→ 起算日は1月31日です。2月31日はないので、2月の末日(2月28日)の終わりに満了します。
- 10月9日の午前零時から「10日間」と定めた。→ 午前零時から始まるので、最初の日も数えます。10月18日の終わりに満了します。
時効そのもの(何年で完成するか、更新・完成猶予など)は民法の範囲です。民法の勉強の中で扱います。数字は期間・数字の一覧の記事でまとめて確認すると、基礎法学と重ねて覚えられます。
自作の問題で確かめる
この記事の範囲から作った問題です(このサイトのオリジナル問題)。
- 「みなす」と定められた事実は、反対の事実を証明すれば覆すことができる。→ 誤り。覆せるのは「推定する」の場合です。
- 簡易裁判所が第一審の民事事件では、上告審は常に最高裁判所である。→ 誤り。裁判所法第16条第3号により、簡裁の判決に対する上告は高等裁判所が扱います。
- 「AとB」の組と「CとD」の組をまとめて並べるとき、つなぐ語の正しい組み合わせは「A及びB並びにC及びD」である。→ 正しい。小さいつなぎが「及び」、大きいつなぎが「並びに」です。
いつ、どれくらいの時間をかけるか
基礎法学は、行政法・民法の1周目が終わり、条文を読むことに慣れてから入れると、短い時間で済みます。ただし法令用語と期間の計算は、ほかの科目の条文を読むときに毎回使います。だから、むしろ最初に一度読んでおくと得をします。裁判制度と法の分類・解釈は、商法・会社法と同じ「最後に回す科目」です。試験の数か月前にまとめて確認すれば足ります(商法・会社法の扱い方の記事も同じ考え方です)。
過去の問題は、センターのサイトで公開されている年度のものを使えます(使い方は過去問の記事)。ただし、公開されている令和2年度〜令和7年度のPDFでは、どの年度も問題1が著作権の関係で載っていません(令和3年度の並びでは基礎法学の枠でした)。足りない分は、条文から自分で正誤の問題を作ると練習になります。この記事の自作問題のような形です。
次に読むなら、憲法の勉強法の記事がおすすめです。同じカテゴリーで、点の大きい科目です。統治の条文の「以上」「以内」「総議員か出席議員か」など、この記事の法令用語がそのまま使えます。
参考にした公式の情報(2026年10月確認)
- 行政書士試験研究センター「試験概要」
- 同「令和7年度 合否判定基準」(PDF)
- 同「過去の試験問題と正解」
- e-Gov法令検索「裁判所法」(第2条、第4条、第5条、第7条、第9条、第10条、第16条、第18条、第24条、第26条、第31条の3、第33条、第35条)
- e-Gov法令検索「民法」(第91条、第94条、第138条〜第143条、第772条、第886条。令和8年4月1日時点の版で確認)
- e-Gov法令検索「日本国憲法」(第7条、第38条、第56条、第69条)
- e-Gov法令検索「商法」(第1条)
- e-Gov法令検索「法の適用に関する通則法」(第3条)
働く人の法律試験ノート