ひとことで言うと、取り消せる契約について、追認できるようになった後に、代金を払う・支払を求めるなど決まった6つのことをすると、「追認した」と言っていなくても追認したものとみなされ、もう取り消せなくなるルールです(民法125条)。これを法定追認(ほうていついにん)といいます。ただし、「取り消すかもしれない」と異議をとどめてした場合は別です。
この記事では、①いつから法定追認になるか(124条)、②6つの事由、③異議をとどめた場合、④無権代理の追認(113条)との違い、を扱います。無効と取消しの違い全体は無効と取消しの記事、未成年者など4つの類型は制限行為能力者の記事に任せます。条文は令和8年4月1日時点の民法を e-Gov 法令検索で確かめています。
身近な例で考えると
2つの場面で考えます。登場人物は、17歳のりくさんと母のともこさん(親権者)、パソコンを売った大学生のしょうたさん。もう一つの場面は、土地を売ったまいこさんと、土地を買ったこうへいさんです。
場面1:未成年者の売買
- りくさん(17歳)は、ともこさんの同意なしに、しょうたさんから中古のパソコンを10万円で買う契約をした。5万円を払い、残り5万円は後で払う約束。
- 同意がないので、りくさんもともこさんも、この契約を取り消せる(5条2項・120条1項)。
- りくさんは18歳になり、未成年のときの契約は取り消せると知った。
- そのあと、りくさんは、このパソコンを友人に売った。「取り消すかもしれない」と言ってはいない。
- 取り消せる行為で手に入れた権利を人に譲ったので、追認したものとみなされる(125条5号)。りくさんはもう取り消せない。
場面2:だまされてした売買
- まいこさんは、こうへいさんから「近くにごみ処理場ができて地価が下がる」とうそを言われ、土地を安く売る契約をした(96条1項で取り消せる)。
- 代金の半分を受け取り、残りは引渡しのときに受け取る約束になった。
- 後で、まいこさんはうそだったと気づき、取り消せることも知った。
- まいこさんが、異議をとどめずに「残りの代金を払ってください」と請求すれば、追認したものとみなされる(125条2号)。
- 「取り消すかどうか考えている。この請求で契約を認めるわけではない」と伝えてから請求したなら、異議をとどめたので法定追認にならない(125条ただし書)。
法定追認は、取り消せる人が「この契約を続けるつもり」と受け取れることをしたのに、後から取り消して相手を困らせるのを防ぐ仕組みです。たとえるなら、試着した服の値札を自分で切ったら、もう返品はしない意思があると扱われるようなものです。ただし本物のルールでは、どんな行動でもよいのではなく、125条の6つに当たる事実だけで、しかも「追認できる時以後」のものに限られます。
条文ではこう決まっている
追認できる時期(124条)
- 124条1項:取り消せる行為の追認は、「取消しの原因となっていた状況が消滅し、かつ、取消権を有することを知った後にしなければ、その効力を生じない。」未成年者なら18歳になった後、詐欺ならだまされたと気づいた後で、しかも取り消せると知った後です。
- 124条2項1号:法定代理人・保佐人・補助人が追認するときは、状況が消えるのを待たなくてよい。
- 124条2項2号:制限行為能力者(成年被後見人を除く)が、法定代理人・保佐人・補助人の同意を得て追認するときも、待たなくてよい。
法定追認(125条)
125条の柱書は、「追認をすることができる時以後に、取り消すことができる行為について次に掲げる事実があったときは、追認をしたものとみなす。ただし、異議をとどめたときは、この限りでない。」です。6つの事実を、上の2つの場面に当てはめると次のようになります。
| 号 | 事実 | 例(未成年者の場面) | 例(詐欺の場面) |
|---|---|---|---|
| 1号 | 全部又は一部の履行 | 18歳のりくさんが残り5万円を払う | まいこさんが土地を引き渡す |
| 2号 | 履行の請求 | りくさんが付属品を渡すよう求める | まいこさんが残りの代金を求める |
| 3号 | 更改 | 残りの代金の債務を、別の内容の債務に入れかえる契約をする | 残りの代金の債権を、別の内容の債権に入れかえる契約をする |
| 4号 | 担保の供与 | りくさんが残りの代金のために保証人を立てる | ― |
| 5号 | 取得した権利の全部又は一部の譲渡 | りくさんがパソコンを友人に売る | まいこさんが代金を受け取る権利を人に譲る |
| 6号 | 強制執行 | ― | まいこさんが残りの代金について強制執行をする |
更改(こうかい)は、今の債務に代えて、給付の内容を大きく変えた新しい債務などを生じさせる契約で、元の債務は消えます(513条)。表の「―」は、その場面の例を挙げていないだけで、条文が除いているわけではありません。
124条1項の「取消権を有することを知った後」が、法定追認の「追認をすることができる時」にもそのまま要るのかは、125条の文言だけでは決まりません。この記事の例と問題は、どれも取り消せると知った後の行為にそろえています。
追認したものとみなされた後(122条・126条)
- 122条:120条の人が追認したときは、「以後、取り消すことができない。」法定追認も同じ扱いです。
- 126条:取消権は、追認をすることができる時から5年、行為の時から20年で消えます。法定追認がなくても、この期間が過ぎれば取り消せません。
当てはまる例・当てはまらない例
- 当てはまる(親の請求):りくさんが17歳のうちに、ともこさんが、取り消せると知りながら、異議をとどめずに、しょうたさんへ付属品を渡すよう求めた。法定代理人は状況が消えるのを待たずに追認できるので(124条2項1号)、法定追認になります。
- 当てはまらない(17歳の本人の支払い):りくさんが17歳のうちに、一人で残り5万円を払った。未成年のままで、同意もないので、まだ追認できる時ではありません。法定追認にならず、取り消せます。
- 当てはまらない(気づく前の請求):まいこさんが、うそに気づく前に残りの代金を請求した。取消しの原因の状況(だまされている状態)がまだ消えていないので、法定追認にはなりません。
- ひっかけやすい(異議をとどめた請求):まいこさんが、うそに気づき、取り消せると知った後でも、「この請求で認めるわけではない」と異議をとどめて請求したなら、追認したものとはみなされません(125条ただし書)。
- ひっかけやすい(同意を得た被保佐人):被保佐人が保佐人の同意なしにした売買について、本人が保佐人の同意を得て追認するときは、保佐開始の審判が取り消される前でもできます(124条2項2号)。同意を得て異議をとどめずに代金を請求すれば、法定追認の場面です。
似ているルールとの違い
「追認」という言葉は、無権代理(代理権のない人がした契約)にも出てきます。中身は別の制度です。
| 比べる点 | 取り消せる行為の追認 | 無権代理の追認 |
|---|---|---|
| 元の行為 | 有効。取り消すまでは効力がある | 本人が追認しなければ本人に効力なし(113条1項) |
| 追認する人 | 120条の取消権者 | 本人 |
| 追認の効果 | 以後取り消せない(122条) | 別段の意思表示がなければ、契約の時にさかのぼって効力(116条) |
| みなす規定 | 125条の6つの事実で追認とみなす | 125条のように事実を並べた規定はない |
無権代理の追認は、相手方に対してしなければ相手方に対抗できません(113条2項)。取り消せる行為の追認も、相手方が確定していれば相手方への意思表示でします(123条)。代理の全体は代理の記事にあります。
また、取り消せる人が自分から追認しなくても、相手方の催告に答えないと追認とみなされる場合があります(20条1項・2項)。これは相手方の行動で結果が決まる制度で、取消権者の行動で決まる125条とは向きが逆です。相手方が取れる手段は制限行為能力者の詐術の記事で表にしています。
試験ではここをまちがえやすい
当サイトが数えた宅建試験の全40回(不動産適正取引推進機構が公開している昭和63年度〜令和7年度の問題、2,000問)では、制限行為能力者が主な論点の問題は14問、直近10回(令和7年度〜平成30年度。令和2・3年度は10月・12月の2回ずつ)では4問でした。法律行為・無効・取消しが主な論点の問題は、全40回で1問(直近10回でも1問)です。法定追認だけの問数は数えていません(分け方は当サイトの判断で、公式の分類ではありません)。取り違えやすい形は次のとおりです。
- 時期の限定を外す形:法定追認は「追認をすることができる時以後」の事実だけ。未成年のうちの本人の支払い、だまされていると気づく前の請求は当たりません。
- 法定代理人の例外を落とす形:法定代理人・保佐人・補助人は、本人の状況が消える前でも追認できます(124条2項1号)。「本人が成年になるまでは法定追認にならない」とは言えません。
- ただし書を消す形:異議をとどめれば、6つの事実があっても追認とはみなされません。
- 6つにない行動を入れる形:125条は6つの事実を並べた規定です。それ以外の行動を「法定追認」とする形に気をつけます。
- 無権代理の追認と混ぜる形:無権代理の追認は本人がし、契約の時にさかのぼります(116条)。取り消せる行為の追認とは、する人も効果も違います。
○✕でたしかめよう
問1(このサイトのオリジナル問題)
まいこさんは、こうへいさんにだまされて土地を売った。うそに気づき、取り消せると知った後、「取り消すかどうか考えている。この請求で認めるわけではない」と伝えて残りの代金を請求した。この場合、まいこさんは、なお売買を取り消すことができる。
答え:○ 分かれ目は、異議をとどめたかです。追認をすることができる時以後に履行の請求をすると追認したものとみなされますが、異議をとどめたときは別です(民法125条2号・ただし書)。まいこさんは異議をとどめて請求したので、法定追認にならず、取り消せます。「追認できる時以後に請求したから法定追認」とだけ考えると✕にしてしまいます。なお、異議をとどめても、取消権は追認できる時から5年たつと時効で消えます(126条)。
問2(このサイトのオリジナル問題)
17歳のりくさんが母の同意なくパソコンを買う契約をした。母は、取り消せると知りながら、異議をとどめずに売主へ付属品を渡すよう請求した。この場合でも、りくさんが18歳になるまでは、追認したものとはみなされない。
答え:✕ 分かれ目は、法定代理人の行為の時期です。法定追認は「追認をすることができる時以後」の事実で生じ(民法125条)、法定代理人が追認するときは、取消しの原因の状況が消えた後である必要がありません(124条2項1号)。正しくは、取り消せると知っている母の異議をとどめない請求で、追認したものとみなされます。状況が消えるのを待つのは、制限行為能力者本人が一人で追認する場合(124条1項)で、それと取り違えた形です。
問3(このサイトのオリジナル問題)
被保佐人のひでおさんは、保佐人の同意なしに自分の土地を売った。保佐開始の審判が取り消される前に、ひでおさんが保佐人の同意を得て、取り消せると知りながら異議をとどめずに買主へ代金を請求したときは、追認したものとみなされる。
答え:○ 分かれ目は、審判が取り消される前でも追認できる場合があるかです。成年被後見人以外の制限行為能力者は、保佐人などの同意を得て追認するときは、取消しの原因の状況が消える前でも追認できます(民法124条2項2号)。追認できる時以後の履行の請求なので、異議をとどめていなければ追認したものとみなされます(125条2号)。「被保佐人のままでは追認できない」と考えると✕にしてしまいます。成年被後見人はこの例外から除かれていて、同意を得ても、審判が取り消される前には追認できません。
この分野の○✕は、宅建の5分○✕ドリルの「権利関係」で続けて解けます。
まとめ
- 追認できる時以後に、履行・履行の請求・更改・担保の供与・取得した権利の譲渡・強制執行があれば、追認したものとみなす(125条)。
- 追認できる時:状況が消え、取消権を知った後(124条1項)。法定代理人などや、同意を得た本人(成年被後見人を除く)は、状況が消える前でもよい(同条2項)。
- 異議をとどめたときは、法定追認にならない(125条ただし書)。
- 追認すると以後取り消せない(122条)。取消権は5年・20年でも消える(126条)。
- 無権代理の追認(113条・116条)は、本人がし、契約の時にさかのぼる別の制度。
このサイトで次に読むなら、制限行為能力者の詐術の記事です。取り消せる人の側の法定追認とは反対に、相手方の側から取消しを止める方法(催告・詐術)を、表で並べて確かめられます。
参考にした公式の情報(2026年10月確認)
条文は、e-Gov 法令検索(法令API)で令和8年4月1日時点の民法を確かめました。宅建試験の出題の根拠となる法令は、試験を実施する年度の4月1日現在施行されているものです(不動産適正取引推進機構)。
- e-Gov法令検索「民法」(5条、20条、96条、113条、116条、120条〜126条、513条)
- 不動産適正取引推進機構「宅建試験の問題及び正解番号表」(出題数を数えた元の問題)
働く人の法律試験ノート