ひとことで言うと、後見監督人(こうけんかんとくにん)は、家庭裁判所が選び、後見人の仕事を見張る人です(民法849条・851条)。後見監督人がいるとき、後見人が本人に代わって不動産を売るなどの大事な行為をするには、後見監督人の同意がいります(864条)。本人の住む家を売るなどの処分は、それとは別に家庭裁判所の許可がいります(859条の3)。
この記事では、成年後見人が本人の財産を扱う場面を中心に、①同意がいる行為といらない行為、②居住用不動産の許可、③利益相反のときの代表、を行為ごとに表にします。成年被後見人など制限行為能力者が自分でした行為の取消しは制限行為能力者の記事、親権の制限は親権の停止・喪失の記事に任せます。後見監督人の報酬や報告書の書き方は扱いません。条文は、令和8年4月1日時点の民法を e-Gov 法令検索で確かめています。
身近な例で考えると
登場人物は次の4人です(架空の話です)。ふみこさんは、家庭裁判所で後見開始の審判を受けています。
| 人物 | 立場 | したこと |
|---|---|---|
| ふみこさん | 成年被後見人(本人) | 自宅と、貸している土地を持つ |
| ゆうきさん | 成年後見人 | ふみこさんに代わって財産を扱う |
| しおりさん | 後見監督人 | 家庭裁判所に選任された |
| そうたさん | 買主 | ふみこさんの土地を買いたい |
- ゆうきさんは、ふみこさんが貸している土地(住まいとは関係のない土地)を、そうたさんに売りたい。
- 不動産の売却は13条1項3号の行為なので、ゆうきさんは、しおりさんの同意を得る(864条)。
- 次に、ゆうきさんは、ふみこさんが住んでいる自宅も売ることを考えた。
- 自宅の売却は、しおりさんの同意に加えて、家庭裁判所の許可がいる(859条の3)。
同意と許可は、別の手続です。後見監督人の同意は「後見人が大事な行為をするときの見張り」、家庭裁判所の許可は「本人の住まいを守るための特別の関門」です。自宅を売るなら、両方がいります。
たとえるなら、後見監督人は「お店の会計を見張る監査役」で、家庭裁判所の許可は「本店の決裁」です。ただし本物のルールでは、後見監督人は家庭裁判所が必要と認めたときに選ぶ人で、いつもいるとは限りません。いないときは、864条の同意はいりません。
条文ではこう決まっている
選任となれない人(849条・850条)
- 選任(849条):家庭裁判所は、「必要があると認めるときは」、被後見人、その親族、後見人の請求か職権で、後見監督人を選任できる。置くかどうかは家庭裁判所が決めます。
- 欠格(850条):「後見人の配偶者、直系血族及び兄弟姉妹は、後見監督人となることができない。」見張る人が、見張られる人の身内では意味がないからです。
後見監督人の職務(851条・863条)
- 後見人の事務を監督する(1号)。後見人に報告や財産の目録の提出を求め、財産の状況を調べられる(863条1項)。
- 後見人が欠けたときに、遅滞なく後任の選任を家庭裁判所に請求する(2号)。
- 急迫の事情があるときに、必要な処分をする(3号)。
- 後見人(またはその代表する者)と被後見人の利益が相反する行為について、被後見人を代表する(4号)。
後見監督人の同意(864条・865条)
- 同意がいる行為(864条本文):後見人が、被後見人に代わって営業か13条1項各号の行為をするとき(未成年被後見人がこれをすることに同意するときも)、後見監督人があるときは、その同意を得る。
- 除かれる行為(864条ただし書):13条1項1号のうち「元本の領収」は、同意がいらない。同じ1号の「元本の利用」(貸し付けるなど)は除かれていません。
- 違反したとき(865条1項):同意なしにした行為(または与えた同意)は、「被後見人又は後見人が取り消すことができる」。相手方の催告(20条)が準用されます。
13条1項各号は、保佐人の同意がいる行為の一覧です。たとえば、借財・保証(2号)、不動産その他重要な財産の権利の得喪を目的とする行為(3号)、相続の承認・放棄・遺産分割(6号)、新築・改築・増築・大修繕(8号)、602条の期間を超える賃貸借(9号)があります。
居住用不動産の処分(859条の3)
成年後見人は、成年被後見人に代わって、「その居住の用に供する建物又はその敷地について、売却、賃貸、賃貸借の解除又は抵当権の設定その他これらに準ずる処分」をするには、家庭裁判所の許可を得なければなりません。後見監督人がいるかどうかに関係なくかかる、成年後見人の規定です。
利益相反(860条・826条)
860条本文は、親の利益相反の826条を後見人に準用します。後見人と本人の利益がぶつかる行為では、家庭裁判所に特別代理人の選任を請求するのが原則です。ただし、「後見監督人がある場合は、この限りでない」(ただし書)。そのときは、後見監督人が本人を代表します(851条4号)。
行為ごとに、だれの同意・許可がいるか
後見監督人のしおりさんがいる場面で、成年後見人のゆうきさんが本人に代わってする行為を並べました。
| 行為 | 後見監督人の同意 | 家庭裁判所の許可 |
|---|---|---|
| 貸している土地の売却 | いる(13条1項3号) | いらない |
| 本人が住む自宅の売却 | いる | いる(859条の3) |
| 自宅への抵当権の設定 | いる | いる |
| 貸したお金の返済を受ける(元本の領収) | いらない(864条ただし書) | いらない |
| 後見人と本人の利益相反行為 | —(後見監督人が代表) | 特別代理人はいらない(860条ただし書) |
例1:自宅の売却(当てはまる例)
ゆうきさんがふみこさんの自宅を売るには、しおりさんの同意(864条・13条1項3号)と、家庭裁判所の許可(859条の3)の両方がいります。同意があるから許可はいらない、許可があるから同意はいらない、のどちらでもありません。
例2:本人が借りて住む部屋(ひっかけやすい例)
859条の3は「その居住の用に供する建物」と書いていて、本人の持ち物に限っていません。本人が借りて住んでいる部屋でも、ゆうきさんが本人に代わってその賃貸借を解除するには、家庭裁判所の許可がいります。家庭裁判所の申立ての案内でも、許可の対象の一つとして「賃貸借契約の解除(本人が借主の場合)」が挙げられています(大阪家庭裁判所「居住用不動産処分許可の申立てについて」)。「自分の家ではないから関係ない」と考えると誤ります。
例3:元本の領収(当てはまらない例)
ふみこさんが人に貸していたお金の返済を、ゆうきさんが受け取るのは「元本の領収」です。864条ただし書で除かれているので、しおりさんの同意はいりません。保佐では、被保佐人が元本を領収するのに保佐人の同意がいる(13条1項1号)ので、そこと比べると意外に見える点です。
例4:ゆうきさんが本人の土地を買う(利益相反の例)
ゆうきさん自身が、ふみこさんの土地を買うとします。売る側の代理人と買う側が同じ人になり、本人の利益とぶつかります。後見監督人がいなければ、特別代理人の選任を家庭裁判所に請求します(860条本文・826条1項)。しおりさんがいるので、特別代理人はいらず、しおりさんがふみこさんを代表します(860条ただし書・851条4号)。
似ているルールとの違い
| しくみ | だれが | 何をするか |
|---|---|---|
| 後見監督人の同意(864条) | 後見監督人 | 13条1項の行為などに同意 |
| 居住用不動産の許可(859条の3) | 家庭裁判所 | 自宅の売却・賃貸・解除・抵当権などを許可 |
| 特別代理人(826条・860条) | 家庭裁判所が選ぶ人 | 利益相反の行為で本人を代理 |
| 保佐人の同意(13条) | 保佐人 | 被保佐人が自分でする行為に同意 |
保佐監督人・補助監督人も、家庭裁判所が必要と認めるときに選任でき、後見監督人の欠格(850条)や職務(851条)などの規定が準用されます(876条の3第2項・876条の8第2項)。本人の判断する力が十分なうちに結んでおく任意後見契約では、家庭裁判所が任意後見監督人を選任した時から契約の効力が生じます(任意後見契約に関する法律2条1号)。
本人がだまして行為能力者と信じさせたとき(詐術)に取り消せなくなる話は詐術の記事、取り消せる行為を追認したとみなされる場合は法定追認の記事で扱っています。865条2項は、こうした121条〜126条の規定の適用を妨げないとしています。
試験ではここをまちがえやすい
当サイトが数えた宅建試験の全40回(不動産適正取引推進機構が公開している昭和63年度〜令和7年度の問題、2,000問)では、制限行為能力者が主な論点の問題は14問、直近10回(令和7年度〜平成30年度。令和2・3年度は10月・12月の2回ずつ)では4問でした。ほかの論点が主な問題の中に、副の論点として含むものも4問あります。後見監督人だけの問数は数えていません(分け方は当サイトの判断で、公式の分類ではありません。数え方は宅建の出題論点ランキング)。取り違えやすい形は次のとおりです。
- 同意と許可の入れ替え:居住用不動産の処分は家庭裁判所の許可(859条の3)。後見監督人の同意で代わりにはなりません。
- 居住用を「本人の持ち物」に限る形:条文は「居住の用に供する建物又はその敷地」で、賃貸借の解除も入っています。
- 元本の領収にも同意がいるとする形:864条ただし書で除かれています。元本の「利用」は除かれていません。
- 利益相反で特別代理人がいるとする形:後見監督人がいれば特別代理人はいらず、後見監督人が代表します(860条ただし書)。
- 後見人の身内を後見監督人にできるとする形:配偶者・直系血族・兄弟姉妹はなれません(850条)。
○✕でたしかめよう
問1(このサイトのオリジナル問題)
成年被後見人ふみこさんには、成年後見人ゆうきさんと後見監督人しおりさんがいる。ゆうきさんが、ふみこさんに代わって、ふみこさんが人に貸していたお金の返済を受け取るには、しおりさんの同意はいらない。
答え:○ 分かれ目は、864条ただし書の「元本の領収」です。864条本文は、後見人が13条1項各号の行為をするときに後見監督人の同意を求めていますが、ただし書は「同項第一号に掲げる元本の領収については、この限りでない」としています。13条1項1号は、被保佐人が元本を領収するのに保佐人の同意がいる号なので、後見でも同意がいると考えると✕に見えます。保佐人の同意(13条1項1号)と取り違えないようにします。
問2(このサイトのオリジナル問題)
成年後見人ゆうきさんが、成年被後見人ふみこさんの土地を自分で買い受けようとしている。ふみこさんには後見監督人しおりさんがいる。この場合でも、ゆうきさんは、家庭裁判所に特別代理人の選任を請求しなければならない。
答え:✕ 分かれ目は、後見監督人がいるかどうかです。860条本文は826条(特別代理人の選任の請求)を後見人に準用しますが、ただし書で「後見監督人がある場合は、この限りでない」としています。正しくは、特別代理人はいらず、後見監督人のしおりさんがふみこさんを代表します(851条4号)。親と子の利益相反(826条)には後見監督人にあたる人がいないので特別代理人を請求します。その規律と取り違えた文です。
問3(このサイトのオリジナル問題)
成年被後見人ふみこさんは、アパートの一室を借りて住んでいる。成年後見人ゆうきさんが、ふみこさんに代わってこの部屋の賃貸借契約を解除するには、家庭裁判所の許可を得なければならない。
答え:○ 分かれ目は、859条の3の「居住の用に供する建物」が本人の持ち物に限られるかです。859条の3は、成年後見人が成年被後見人に代わって、その居住の用に供する建物またはその敷地について「売却、賃貸、賃貸借の解除又は抵当権の設定その他これらに準ずる処分」をするには家庭裁判所の許可を得るとしています。本人の家ではなく借りている部屋なので、許可はいらないと考えると✕に見えます。許可の対象を本人所有の不動産の売却だけと考える取り違えに注意します。
この分野の○✕は、宅建の5分○✕ドリルの「権利関係」で続けて解けます。
まとめ
- 後見監督人は、家庭裁判所が必要と認めるときに選任する(849条)。後見人の配偶者・直系血族・兄弟姉妹はなれない(850条)。
- 後見監督人がいるとき、後見人が営業や13条1項各号の行為をするには同意がいる。元本の領収は除く(864条)。違反した行為は被後見人か後見人が取り消せる(865条)。
- 成年被後見人の居住用の建物・敷地の売却・賃貸・賃貸借の解除・抵当権の設定などは、家庭裁判所の許可(859条の3)。同意とは別に要る。
- 利益相反は、後見監督人がいれば特別代理人はいらず、後見監督人が本人を代表する(860条ただし書・851条4号)。
参考にした公式の情報(2026年10月確認)
条文は、e-Gov法令検索(API。基準日2026-04-01)で令和8年4月1日時点の民法と任意後見契約に関する法律を確かめました。居住用不動産の処分の許可の対象は、裁判所の案内でも確かめました。
- e-Gov法令検索「民法」(13条、826条、849条、850条、851条、859条の3、860条、863条、864条、865条、876条の3、876条の8)
- e-Gov法令検索「任意後見契約に関する法律」(2条)
- 裁判所「成年被後見人(被保佐人、被補助人)の居住用不動産の処分についての許可」
- 大阪家庭裁判所「居住用不動産処分許可の申立てについて」(PDF)(本人が借主の場合の賃貸借契約の解除)
このサイトで次に読むなら、制限行為能力者の記事です。成年被後見人・被保佐人・被補助人が自分でした契約をどこまで取り消せるかを、後見人・保佐人・補助人の権限とあわせて整理しています。
働く人の法律試験ノート