ひとことで言うと、物権(ぶっけん=物を直接支配する権利)には4つの原則があります。①1つの物には同じ内容の物権は1つ(一物一権主義)、②物権は法律で決めたものしか作れない(物権法定主義、民法175条)、③物権が動いたことは登記や引渡しで外に示す(公示の原則、177条・178条)、④外の形を信じた人を守る(公信の原則)のは動産だけ(192条)です。不動産の登記を信じて買っても、原則として守られません。
この記事では、4つの原則を「原則・条文・例外・つながる論点」の表にし、事例で当てはめます。物権と債権の違いそのものは物権と債権の違いの記事、二重譲渡と登記の「第三者」は不動産の二重譲渡と登記の記事に任せます。条文は、令和8年4月1日時点の法令を e-Gov 法令検索で確かめています。
身近な例で考えると
登場人物は次の4人です(架空の話です)。
| 人物 | 立場 | したこと |
|---|---|---|
| けいこさん | 土地の持ち主 | 何もしていない |
| だいきさん | 無関係の人 | 書類を偽造して、土地を自分の名義に登記した |
| みつきさん | 買った人 | 登記を見て、だいきさんから土地を買った |
| りくさん | 自転車を買った人 | 借り物の自転車を、持ち主と信じて買った |
- だいきさんは、けいこさんの知らないうちに書類を偽造し、けいこさんの土地をだいきさん名義に登記した。
- みつきさんは、登記を見て、だいきさんを持ち主だと信じ、落ち度もなく土地を買った。
- 別の日、りくさんは、友だちから借りているだけの自転車を、持ち主だと名乗る人から、落ち度なく買って受け取った。
みつきさんは、土地の所有権を取得できません。不動産の登記には、信じた人を守る力(公信力)がないからです。持ち主のけいこさんは何も関わっていないので、けいこさんの土地のままです。一方、りくさんは、自転車の所有権を取得できます。動産には、即時取得(192条)の規定があるからです。
たとえるなら、登記は「この土地の持ち主はだれか、を示す看板」です。看板がないと人に主張できない(公示の原則)けれど、看板が書きかえられていても、本当の持ち主の権利は消えません(公信力がない)。ただし本物のルールでは、持ち主がうその登記を自分で作ったり、知りながら放置したりしたときは、信じた人が守られることがあります(94条2項の類推)。
条文ではこう決まっている
一物一権主義(条文の言葉ではない)
一物一権主義は、条文に書かれた言葉ではなく、物権のしくみから説明される考え方です。中身は2つです。①1つの物の上に、同じ内容の物権(たとえば所有権)は1つしか成り立たない。②物権の対象は1つの独立した物で、物の一部や、物の集まりには原則として成り立たない。物権は物を直接支配する権利なので、どこまでがその物かがはっきりしている必要があるからです。
物権法定主義(175条)
「物権は、この法律その他の法律に定めるもののほか、創設することができない。」民法には、占有権・所有権・地上権・永小作権・地役権・入会権・留置権・先取特権・質権・抵当権が置かれています。「その他の法律」にも物権があります。だれにでも主張できる強い権利なので、種類と中身を法律で決めておき、取引する人が見通せるようにしています。
意思主義と公示の原則(176条〜178条)
- 176条:「物権の設定及び移転は、当事者の意思表示のみによって、その効力を生ずる。」登記や引渡しは、物権が移るための条件ではありません。
- 177条:不動産の物権の得喪・変更は、登記をしなければ「第三者に対抗することができない」。
- 178条:動産の物権の譲渡は、引渡しがなければ「第三者に対抗することができない」。
公示(こうじ)の原則とは、物権が動いたことを登記や引渡しで外から見えるようにし、見えるようにしていないと第三者に主張できない、という考え方です。条文は「第三者に」と書いているので、売主と買主の間では、登記がなくても買主は所有者です。
公信の原則(192条)
公信(こうしん)の原則とは、権利があるように見える外の形を信じて取引した人を、本当は権利がなくても守る、という考え方です。動産では、192条が「取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する」と定めています。不動産の登記について、これに当たる規定は民法にありません。これが「登記に公信力がない」という意味です。
4つの原則を1枚で見ると
| 原則 | 条文 | 例外・補い | つながる論点 |
|---|---|---|---|
| 一物一権主義 | なし(考え方) | 区分所有、登記した立木、集合動産の譲渡担保 | マンション、譲渡担保 |
| 物権法定主義 | 175条 | 法律にない担保(譲渡担保)を判例が認めてきた | 物権と債権 |
| 公示の原則 | 177条・178条 | 当事者の間では登記・引渡しは不要(176条) | 二重譲渡、第三者の範囲 |
| 公信の原則 | 動産は192条 | 不動産はなし。94条2項の類推で補う | 即時取得、虚偽表示 |
当てはまる例・当てはまらない例
例1:マンションの一室(一物一権主義の例外)
マンションは1棟の建物ですが、各部屋は別々に所有できます。区分所有法1条は、一棟の建物に「構造上区分された数個の部分で独立して住居、店舗、事務所又は倉庫その他建物としての用途に供することができるもの」があるときは、各部分をそれぞれ所有権の目的にできるとしています。建物の一部に所有権を認める、法律による例外です。
例2:登記した立木(一物一権主義の例外)
土地に生えている木は、土地の定着物として土地と一緒に扱うのが原則です(86条1項)。ただし、立木ニ関スル法律(立木法)で所有権保存の登記を受けた樹木の集団(立木)は、不動産とみなされ(2条1項)、土地と分離して譲渡したり、抵当権の目的にしたりできます(同条2項)。土地の所有権の処分の効力は、立木には及びません(同条3項)。
例3:倉庫の在庫(物の集まりの例外)
最高裁判所第一小法廷昭和54年2月15日判決(昭和53年(オ)第925号)は、中身が入れ替わる動産の集まり(集合動産)でも、種類・所在場所・量的範囲を指定するなどの方法で目的物の範囲が特定される場合には、一個の集合物として譲渡担保の目的になりうるとしました。この事件では、倉庫に預けた乾燥ネギのうち28トンを担保にしたものの、どの28トンかが特定されていないとされています。集合動産の対抗要件などは譲渡担保の記事で扱っています。
例4:偽造された登記(公信力がない例)
冒頭のみつきさんは、登記を信じ、落ち度もありませんでした。それでも、だいきさんは無権利者で、登記に公信力はないので、みつきさんは所有権を取得しません。けいこさんは何も関わっていないので、94条2項の類推で守られる場面でもありません。
例5:持ち主が知りながら放置した(公信力を補う例)
最高裁判所第三小法廷昭和45年9月22日判決(昭和43年(オ)第91号)は、所有者が、知らないうちにされた他人名義の不実の登記を知りながら長い間そのままにし、その間に、その名義のまま自分の借入れの担保の登記までしていた事案です。判決は、94条2項を類推適用し、所有者は、その後に買い受けた善意の第三者に、所有権が移っていないことを主張できないとしました。信じた人が守られるのは、持ち主の側に、うその登記を作った・知りながら放置したなどの事情がある型です。型ごとの判例は、最後に案内する94条2項の類推適用の記事で扱っています。
似ているルールとの違い
公示の原則と公信の原則は、名前が似ていますが、守る人が違います。
| 比べる点 | 公示の原則 | 公信の原則 |
|---|---|---|
| 答える問い | 登記・引渡しがないと主張できるか | 外の形を信じた人が権利を得るか |
| 不動産 | 177条(登記) | 規定なし(登記に公信力なし) |
| 動産 | 178条(引渡し) | 192条(即時取得) |
| 前提 | 本当に権利を得た人どうしの優劣 | 相手が無権利者 |
二重譲渡は公示の原則の場面です。売主は一度は本当の持ち主だったので、先に登記した買主が優先します。偽造の登記は、相手がはじめから無権利者なので、公信の原則の場面です。不動産では、登記を先に備えても無権利者からは権利を得られません。即時取得の要件は即時取得の記事で扱っています。
試験ではここをまちがえやすい
当サイトが数えた宅建試験の全40回(不動産適正取引推進機構が公開している昭和63年度〜令和7年度の問題、2,000問)では、物権変動・対抗要件が主な論点の問題は21問、直近10回(令和7年度〜平成30年度。令和2・3年度は10月・12月の2回ずつ)では5問でした。ほかの論点が主な問題の中に、副の論点として含むものも3問あります。4つの原則そのものの問数は数えていません(分け方は当サイトの判断で、公式の分類ではありません。数え方は宅建の出題論点ランキング)。原則の名前より、事例の中での使い方で迷う形が中心です。
- 登記を信じた人は守られるとする形:不動産の登記に公信力はありません。守られるのは、94条2項の類推が働く型(持ち主の側の事情がある)に限られます。
- 即時取得を不動産に広げる形:192条は動産の規定です。
- 登記がないと当事者の間でも所有者になれないとする形:物権は意思表示だけで移ります(176条)。登記は「第三者」に対抗するためのもの(177条)。
- 土地を売れば立木もついてくるとする形:登記した立木には、土地の所有権の処分の効力が及びません(立木法2条3項)。
- 物の集まりは担保にできないとする形:範囲が特定されれば、集合動産も一個の集合物として譲渡担保の目的になりうる(昭和54年判決)。
○✕でたしかめよう
問1(このサイトのオリジナル問題)
だいきさんは、けいこさんの知らないうちに書類を偽造して、けいこさん所有の土地をだいきさん名義に登記した。みつきさんは、この登記を信じ、過失なくだいきさんから土地を買って登記をした。この場合、みつきさんは土地の所有権を取得する。
答え:✕ 分かれ目は、不動産の登記に公信力があるかです。動産なら即時取得(192条)で善意・無過失の買主が権利を得ますが、不動産の登記を信じた人を守る規定は民法にありません。正しくは、だいきさんは無権利者なので、みつきさんは所有権を取得せず、けいこさんが所有者のままです。けいこさんは登記に何も関わっていないので、94条2項の類推で守られる型(持ち主が不実の登記を作った・放置したなど)にも当たりません。動産の即時取得の考え方を不動産に当てはめた取り違えです。
問2(このサイトのオリジナル問題)
ゆうじさんは、自分の山林に生えている樹木の集団について、立木ニ関スル法律による所有権保存の登記をした。その後、ゆうじさんが山林の土地だけをりょうさんに売った場合、この登記した立木の所有権はりょうさんに移らない。
答え:○ 分かれ目は、登記した立木が土地と別の不動産として扱われるかです。立木法2条は、立木を不動産とみなし(1項)、土地と分離して譲渡できるとし(2項)、「土地所有権又ハ地上権ノ処分ノ効力ハ立木ニ及ハス」としています(3項)。木は土地の定着物で土地と一緒に動く(民法86条1項)と考えると✕に見えます。土地の一部として扱う原則と、登記した立木という例外を取り違えないようにします。
問3(このサイトのオリジナル問題)
けいこさんは、自分の土地をはるとさんに売る契約をし、代金を受け取ったが、所有権移転登記はまだけいこさん名義のままである。はるとさんは、登記を備えるまでは、けいこさんに対しても、自分が土地の所有者であると主張することができない。
答え:✕ 分かれ目は、登記がいる相手がだれかです。176条により、物権の移転は当事者の意思表示だけで効力が生じます。177条が登記を求めるのは「第三者に対抗する」場面です。正しくは、売主のけいこさんは当事者なので、はるとさんは登記がなくても、けいこさんに所有権を主張できます。二重譲渡の買主どうしのように、第三者との間で登記が決め手になる場面と取り違えた文です。
この分野の○✕は、宅建の5分○✕ドリルの「権利関係」で続けて解けます。
まとめ
- 一物一権主義は条文の言葉ではない考え方。区分所有(区分所有法1条)、登記した立木(立木法2条)、範囲が特定された集合動産(昭和54年判決)が例外になる。
- 物権は、民法その他の法律に定めるもののほか創設できない(175条)。
- 物権は意思表示だけで移る(176条)。登記・引渡しは第三者に対抗するため(177条・178条)。
- 物権の公信の原則が民法の条文になっているのは、動産の即時取得(192条)だけ。不動産の登記に公信力はなく、94条2項の類推で補う型がある。
参考にした公式の情報(2026年10月確認)
条文は、e-Gov法令検索(API。基準日2026-04-01)で令和8年4月1日時点の法令を確かめました。判例は、裁判所ウェブサイトで裁判年月日・法廷・事件番号・判示事項・裁判要旨を確かめました。
- e-Gov法令検索「民法」(86条、175条、176条、177条、178条、192条)
- e-Gov法令検索「建物の区分所有等に関する法律」(1条)
- e-Gov法令検索「立木ニ関スル法律」(1条、2条)
- 裁判所「最高裁判所第一小法廷 昭和54年2月15日判決(昭和53年(オ)第925号)」(構成部分の変動する集合動産と譲渡担保の目的)
- 裁判所「最高裁判所第三小法廷 昭和45年9月22日判決(昭和43年(オ)第91号)」(不実の登記の存続と94条2項の類推適用)
このサイトで次に読むなら、94条2項の類推適用の記事です。登記に公信力がない穴を、判例がどの型で埋めているかを、4つの型に分けて読めます。
働く人の法律試験ノート