履行遅滞はいつから始まるか:確定期限・不確定期限・期限の定めなしと、遅れている間に起きたこと

ひとことで言うと、履行遅滞(りこうちたい=約束の時期を過ぎても履行しないこと)がいつから始まるかは、期限の決め方で3つに分かれます(民法412条)。決まった日がある債務は、その日が来た時から遅滞になり、相手からの請求は要りません。期限を決めなかった債務は、請求を受けた時からです。

この記事では、①412条の3つの場合、②不法行為と安全配慮義務の損害賠償の債務がいつ遅滞になるかの判例、③遅れている間に履行できなくなったとき、④遅滞と解除のつながり、を扱います。損害賠償・解除の要件の全体は債務不履行と解除の記事にあります。条文は、令和8年4月1日時点の民法を e-Gov 法令検索で確かめています。

身近な例で考えると

登場人物は、中古の一戸建てを売るこうへいさんと、それを買うなつみさんです。売る人=こうへいさん、買う人=なつみさんです。

  1. 3月1日:二人は売買契約を結び、家の引渡しは4月10日と決めた。
  2. 4月10日:こうへいさんは引越しが終わらず、家を引き渡さなかった。
  3. なつみさんは、まだ何も言っていない。それでも、こうへいさんは4月10日が来た時から遅滞の責任を負う。
  4. 4月15日:なつみさんは「4月25日までに引き渡してください」と催告(さいこく=期間を決めて履行を求めること)した。
  5. 4月25日を過ぎても引渡しがない。なつみさんは契約を解除できる(541条)。

ここで大事なのは、3番目です。「請求されるまでは遅れていない」と考えたくなりますが、日付で決めた期限なら、その日が来ただけで遅滞が始まります。

期限は、いつかは来ることが確かでも、いつ来るかは分からない出来事で決めることもあります。たとえば「次に雨が降った日に払う」のような決め方で、これを不確定期限(ふかくていきげん)といいます。この場合は、期限が来たあとに請求を受けた時と、期限が来たことを知った時の、早いほうから遅滞になります。来るかどうか自体が分からない出来事(転勤が決まったら、など)は期限ではなく条件で、扱いが別です(停止条件の記事)。期限の決め方ごとに、消滅時効をいつから数えるかは消滅時効の起算点の一覧で扱っています。

たとえるなら、決まった日の約束は目覚まし時計で、鳴った時点で遅刻が決まります。期限を決めない約束は、呼ばれて初めて遅刻になる待ち合わせです。ただし本物のルールでは、不確定期限は「呼ばれた時」と「自分で気づいた時」の早いほう、という中間の形になります。

条文ではこう決まっている

いつから遅滞になるか(412条)

期限の決め方例遅滞が始まる時
確定期限(1項)4月10日に引き渡す期限が到来した時。請求は要らない
不確定期限(2項)次に雨が降った日に払う期限の到来後に請求を受けた時と、到来を知った時の早いほう
期限の定めなし(3項)引渡しの時期を決めていない履行の請求を受けた時

2項の原文は「その期限の到来した後に履行の請求を受けた時又はその期限の到来したことを知った時のいずれか早い時」です。令和2年4月施行の改正の前は「到来したことを知った時」だけでした。改正前の教材で覚えた人は、「請求を受けた時」が加わったことを確かめておきます。

遅滞になると何が起きるか

  • 損害賠償(415条1項):遅れによる損害の賠償を請求できる。ただし、債務者の責めに帰することができない事由(債務者のせいとは言えない理由)による遅れなら請求できない。
  • お金の支払の遅れ(419条):損害の額は、遅滞の責任を負った最初の時点の法定利率で決まる。約束の利率のほうが高ければ、そちら。利率の決まり方は法定利率の記事で扱っています。
  • 催告による解除(541条):相当の期間を定めて催告し、その期間内に履行がなければ解除できる。期間が過ぎた時点の不履行が軽微なときはできない。
  • 遅れている間に履行できなくなったとき(413条の2第1項):遅滞の責任を負っている間に、当事者双方の責めに帰することができない事由で履行が不能になったときは、その不能は債務者の責めに帰すべき事由によるものとみなす。どんな場合が「不能」に当たるかと、代償請求権は履行不能の記事で扱っています。

期限を決めていない債務で、扱いが分かれるもの

期限を決めていない債務でも、別の条や判例で412条3項と違う扱いになるものと、3項どおりとされたものがあります。

債務遅滞が始まる時根拠
返す時期を決めなかった消費貸借の返還相当の期間を定めて催告し、その期間が過ぎた時591条1項
不法行為による損害賠償損害の発生と同時(催告は要らない)最高裁 昭和37年9月4日判決
安全配慮義務の違反による債務不履行の損害賠償履行の請求を受けた時最高裁 昭和55年12月18日判決

最高裁判所第三小法廷昭和37年9月4日判決は、「不法行為に基づく損害賠償債務は、なんらの催告を要することなく、損害の発生と同時に遅滞に陥る」としました。一方、最高裁判所第一小法廷昭和55年12月18日判決は、安全配慮義務(判決の要旨の言葉では「安全保証義務」)の違反を理由とする債務不履行の損害賠償債務は、期限の定めのない債務で、債権者から履行の請求を受けた時に遅滞になる、としました。同じ「けがの賠償」でも、不法行為で請求するか、債務不履行で請求するかで、遅滞の始まりが変わります。

当てはまる例・当てはまらない例

  • 当てはまる(確定期限):上の例で、4月10日が来た時から、こうへいさんは遅滞の責任を負います。なつみさんが期限を忘れていても変わりません。
  • 当てはまる(不確定期限で、先に知った):不確定期限が5月1日に来て、こうへいさんはその日に知った。なつみさんの請求が5月20日だったとしても、遅滞は早いほうの5月1日からです。
  • 当てはまらない(まだ期限が来ていない):なつみさんが4月5日に「早く引き渡して」と求めても、こうへいさんは遅滞になりません。期限は4月10日だからです。
  • 当てはまらない(受け取ってもらえない):こうへいさんが4月10日にかぎを用意して引き渡そうとしたのに、なつみさんが受け取らなかった。こうへいさんは弁済の提供(べんさいのていきょう)をした時から、履行しないことによる責任を免れます(492条)。この場面は弁済の提供と受領遅滞の記事で扱っています。
  • ひっかけやすい(遅れている間の火事):こうへいさんが引渡しを遅らせている間に、隣の家からのもらい火で家が焼けた。こうへいさんのせいではない火事ですが、遅滞中の不能なので、こうへいさんのせいで不能になったとみなされます(413条の2第1項)。なつみさんは損害賠償を請求できます。

似ているルールとの違い

「約束どおりにいかない」場面は、だれの側に事情があるかで3つに分かれます。

場面中身主な条文
履行遅滞債務者が、履行できるのに時期を過ぎても履行しない412条・415条・541条
履行不能取引上の社会通念から見て、履行ができない412条の2・415条・542条
受領遅滞債務者は提供したのに、債権者が受け取らない413条・413条の2第2項

遅滞なら、まず催告をしてから解除するのが原則です(541条)。不能なら、催告をせずに直ちに解除できます(542条1項1号)。遅滞でも、決まった日に履行しないと契約の目的を達せない場合(定期行為)は、その時期が過ぎれば催告なしで解除できます(542条1項4号)。

売買のように両方が債務を負う契約では、相手が代金を用意していないのに引渡しだけを求められる、という場面もあります。こちらは同時履行の抗弁権(533条)の話で、同時履行の抗弁権の記事で扱っています。

試験ではここをまちがえやすい

当サイトが数えた宅建試験の全40回(不動産適正取引推進機構が公開している昭和63年度〜令和7年度の問題、2,000問)では、債務不履行・解除が主な論点の問題は19問、直近10回(令和7年度〜平成30年度。令和2・3年度は10月・12月の2回ずつ)では4問でした。ほかの論点が主な問題の中に、副の論点として含むものも5問あります。履行遅滞の始まりだけの問数は数えていません(分け方は当サイトの判断で、公式の分類ではありません。数え方は宅建の出題論点ランキング)。取り違えやすい形は次のとおりです。

  • 確定期限と期限の定めなしの入れ替え:日付で決めた期限は、到来した時から(412条1項)。「請求を受けた時から」は、期限を決めなかったとき(3項)です。
  • 不確定期限を「知った時」だけにする形:今の2項は「請求を受けた時」と「知った時」の早いほう。知らなくても、期限が来たあとに請求を受ければ遅滞になります。
  • 不法行為と債務不履行の賠償の入れ替え:不法行為は損害の発生と同時(昭和37年判決)。安全配慮義務の違反による債務不履行は、請求を受けた時(昭和55年判決)。
  • 遅滞中の不能を「債務者に責任なし」とする形:遅滞の間に双方の責任でない理由で不能になっても、債務者のせいとみなされます(413条の2第1項)。受領遅滞の間なら、反対に債権者のせいとみなされます(同条2項)。
  • 遅滞なら直ちに解除できるとする形:遅滞による解除は、原則として相当の期間を定めた催告が先です(541条)。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題)
なつみさんは、こうへいさんから中古住宅を買い、引渡しは4月10日と約束した。こうへいさんが引き渡さないまま4月10日が過ぎた場合、こうへいさんが遅滞の責任を負うのは、なつみさんから引渡しの請求を受けた時からである。

答え:✕ 分かれ目は、期限が日付で決まっているかです。確定期限があるときは、債務者は期限が到来した時から遅滞の責任を負い、請求は要りません(民法412条1項)。正しくは、4月10日が来た時から遅滞の責任を負います。「請求を受けた時から」は、期限を定めなかった債務のルール(412条3項)です。

問2(このサイトのオリジナル問題)
こうへいさんは、自分の引越しが終わらないため、4月10日に引き渡す約束の家をなつみさんに引き渡さずにいた。4月20日、隣の家からのもらい火でその家が焼けた。火事はこうへいさんのせいではないが、なつみさんは、こうへいさんに履行に代わる損害賠償を請求できる。

答え:○ 分かれ目は、家が焼けたのが遅滞の間かどうかです。債務者が遅滞の責任を負っている間に、当事者双方の責めに帰することができない事由で履行が不能になったときは、その不能は債務者の責めに帰すべき事由によるものとみなされます(民法413条の2第1項)。そのため、415条1項ただし書で免れることはできず、履行に代わる損害賠償を請求できます(415条2項1号)。火事がこうへいさんのせいではないので責任はないと考えると✕にしてしまいます。反対に、提供したのに買主が受け取らない受領遅滞の間なら、不能は債権者のせいとみなされます(413条の2第2項)。

問3(このサイトのオリジナル問題)
なつみさんは、勤め先の会社が安全への配慮を怠った工場で作業中にけがをし、会社に債務不履行を理由とする損害賠償を求める。この損害賠償の債務は、けがをした時から遅滞になる。

答え:✕ 分かれ目は、債務不履行と不法行為のどちらで請求しているかです。最高裁判所第一小法廷昭和55年12月18日判決は、安全配慮義務の違反を理由とする債務不履行に基づく損害賠償債務は期限の定めのない債務であり、債権者から履行の請求を受けた時に遅滞になるとしました。正しくは、なつみさんが会社に請求した時から遅滞になります。けがの時から遅滞になるのは、不法行為として請求する場合です(昭和37年9月4日判決)。

この分野の○✕は、宅建の5分○✕ドリルの「権利関係」で続けて解けます。

まとめ

  • 確定期限は到来した時から、請求は要らない(412条1項)。
  • 不確定期限は、到来後に請求を受けた時と到来を知った時の早いほう(2項)。期限の定めなしは請求を受けた時(3項)。
  • 不法行為の賠償は損害の発生と同時に遅滞、安全配慮義務違反の債務不履行の賠償は請求を受けた時に遅滞(判例)。
  • 遅滞中に双方の責任でない理由で不能になったら、債務者のせいとみなす(413条の2第1項)。
  • 遅滞による解除は、原則として相当の期間を定めた催告のあと(541条)。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)

条文は、e-Gov法令検索で令和8年4月1日時点の民法を確かめました。判例は、裁判所ウェブサイトで裁判年月日・法廷・事件番号・判示事項・裁判要旨を確かめました。

このサイトで次に読むなら、弁済の提供と受領遅滞の記事です。債務者が提供したのに債権者が受け取らないとき、遅滞の責任がどちらに移るかを確かめられます。

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